剣神勇者は女の子と魔王を倒します
第7話 メリッサと媚薬
次の日。
「おはよう、ユリエルくん」
「ああ、おはよう」
『おはよう、ユリエル』
「おはよう、お兄ちゃん」
誰も、何も言わなかった。ただ、いつものように、挨拶をしただけだった。きっと、あの後、みんなで話し合ったんだろう。何か言われるんじゃないかと思っていたけれど、助かった。
「今日の朝ご飯はなぁに?」
「ユーナ、オムレツ運んで」
「えぇ・・・。訊かなきゃよかったよぉ」
「もう、そんなこと言わないの。ユリエル、紅茶入れてくれる?」
「ああ、分かった」
やっぱり、いつもと変わらない。俺はそっと息をはいた。姉さんが、俺の様子をじっと眺めていた事に、俺は気が付いていた。けれど、気付いていない振りをしていた。
「そうだ、ユリエル。剣の稽古はどうする?」
「・・・。そうですね。今日、良いですか?」
「そのつもりだ。準備をしておけ」
「はい」
俺がそう返事をすると、姉さんはびくっと肩を揺らした。この前の事を思い出したのだろう。
姉さんは暫く迷った様にきょろきょろしていたけれど、覚悟を決めたように父さんを見つめた。
「お父さん。私なんかが言えることじゃないって分かってる。でも・・・。今日は、木刀、使ってくれない?」
「いいだろう」
「・・・。あれ?」
え・・・。こんなにあっさり許可が出るとは思っていなかった。
「俺も分かっていたんだ。やり過ぎだろうと。というのも、あの時は、ユリエルの心を折る為、少しずつダメージを与えていって、ギブアップするまでやるつもりだったんだ。が、ユリエルは諦めなかった。俺が思っていたよりも、ずっと、ユリエルは強かった。俺は、こんな方法をとった事を後悔した」
父さんはそっと俯いた。認めて貰えたってことで、良いんだろうか。少し嬉しかった。
ただな・・・。木刀、多分ダメだと思う。だって、斬れないから手加減しないで撃ってくると思わないか? はっ、まさか・・・。
後悔って・・・。『手加減して』か?! もっと本気でぶちのめしてやればよかったって?! 止めてくれ!
「さて、やるか」
「うぅ・・・。お願いします」
「どうしたんだ?」
「いや・・・。手加減、してくれないですよね」
「はっ、どうだかな」
向こうに座る姉さんが「アレっ?!」といった表情をする。今気が付いたか。まあ、おそらく今日も病院送りだろうな。うん。最悪だ!
「まずは、そうだな。俺は一切攻撃しないから、俺に攻撃を当ててみろ」
「・・・。え?」
「避けないとは言っていないぞ。当然、俺も剣を持っているんだ、弾きはするぞ」
「・・・。分かりましたッ!」
俺は剣を下段で構える。それを見て、父さんは嬉しそうな顔をした。当然だ。これは、父さんの得意とした構えなのだから。
普通、下段を使う人はまずいない。剣を振り降ろす前に振り上げなくてはいけないからだ。ただし。剣神は振り上げるその勢いも利用する。剣神の名は、力全てを余す事無く使えるものにのみ渡される、だな。よし、行くか!
・・・っ! ぜんっぜん当たらん! 攻撃って、こんなに当たらないんだっけ?! 瞬間移動でもされているかのように違う位置に立っている。信じられない。
けれど、目で見た以上、信じなくてはいけない。瞬間移動などしていない。行動を読まれているのだ。だって、(わざと?)すっごくゆっくり移動してる!
「嘘だろ?! 全く当たらない!」
「ふっ、まだまだだな。読まれることを読んで行動、だ」
「?!」
「ほら、早くしないと、何時になってもスタートラインに立てないぞ?」
読まれることを読む? 読まれることを前提に動く? つまり・・・。
「っ、随分重いな・・・」
「なるほど・・・。俺の行動を呼んだ父さんが何処に動くか。それを想定して動く」
「まあ、初心者相手には役に立たない。が、もし、まだ魔王を倒そうと思っているなら・・・。俺レベルの奴なんざゴロゴロ居るからな」
「・・・。父さん。其処まで考えてくれていたのですね」
父さんの左肩に一撃。父さんは肩を押さえて俺を見た。
「痛いな・・・。随分強い攻撃を撃てるようになったんだな」
「そうですかね。さて、次は?」
「まあ、そのスキルが使えるなら、そこそこ俺とやりあえる。やってみるか?」
「もちろん」
俺たちは木刀をしっかりと構える。開始の合図は無い。全ては・・・。
互いの動きが止まった時!
さっきの逆か。つまり、普通避けないであろう方向に避ける。
「そう言う事だ。すぐに習得できたな。凄いじゃないか」
「でも、それを教えたという事は」
つまり。それだけじゃ通用しないと教えたいんだろ! 父さんが何を考えているかは分からない。が、動く前の一瞬を見・・・
「うわぁッ!」
「遅いぞ。まだ、戦い慣れていない、と言ったところか」
「な、何を・・・」
「剣士との戦いに慣れていないだろ。もしくは、リリィが居ないと戦えない」
「!」
「図星だな。今までは、リリィに助けられていた。居なかったら、お前はどうなるんだ?」
攻撃の一撃が重い。さっき、俺の攻撃を褒めていたのが何だったんだ、ってくらいだ。ふざけるな。あれは「お前にしては」だったっていうのかっ?! 馬鹿にするなっ! 俺はもう子供じゃない!
「ッ、そうだ、それで良い。行くぞ」
「父さんを・・・。越えて見せる」
「ああ、越えてみろ」
さっきまでとは、何かが違う。思い切り地面を蹴り、俺は父さんに向かって走り出した。
「残念だったな。まだまだだ」
「う・・・」
「だが、今のはよかったと思うぞ。・・・。ふっ、もう少し殺気を抑えような」
「っ! あぁ・・・」
「まあ、最初はそれで良い。よく頑張ったと思う」
父さんは俺の手を引いて立たせた。彼方此方が痛いせいで、まともに立っていられない。ふらふらしていると、父さんは困ったように笑った。
「悪い、やり過ぎたようだな。とりあえず、中に入ろう」
「お父さん、私、怖かった。その、ユリエルくんが・・・」
「そうだろうな。だが、ユリエルの中に眠っている全てを呼び醒ますには足りていない。多分、もっとあると思う」
「うーん・・・。なんでそうなったんだ?」
「俺を本気で倒したいと思ったんだろう? そのために、わざと挑発したんだからな」
「そうだったんですか?!」
そうだったのか・・・。そんな事、考えもしなかった。と、ユーナによる治療が終わった。
「はい。痛いところまだある?」
「いや、特には。凄いな、回復魔法」
「えへへ・・・。私、ベルトワーズに生まれればよかったのに」
まあ、剣のルーズヴェルトに魔法のベルトワーズ。とはいえ、そんなうまくいくはずがない。エレナは魔法が苦手らしいし。俺とエディナだけだろ。明確なのは。長男長女だけか? まあ良いか。
「でも、お兄ちゃんも召喚魔法使うじゃん。凄いよねぇ・・・」
「あ? そうか? 他の魔法使えないが」
「いや・・・。その内使われそうな気がする。きっと、お兄ちゃんに魔法でも負けちゃうんだ、あ~あ」
ユーナは不貞腐れたようにプイッとそっぽを向いた。俺があわあわしていると、ユーナは「嘘だよ!」と飛びついて来た。
わぁッ! と俺が悲鳴を上げると、ユーナは楽しそうにキャッキャと笑った。
「みんな! お昼ご飯で来たわよ!」
「あ、今行くよー!」
俺は森の中を歩く。少し色々あって遅くなってしまったな。もっと早く来ようと思っていたのに。
でも、夕焼けの森もまた綺麗なのだ。暫くゆっくりして、考えを纏めて、帰る前に、夕焼けを眺めてから帰ろう。時間は大丈夫なはずだ。
無意識のうちに、あの大木の前に来ていた。この森の中で、一番思い出深い場所。一番好きな場所。勝手に足が向いてしまう。それほどまでに、メリッサとの思い出が俺にとって大切だったと言えるだろう。
大木に触れると、向こうから恥ずかしそうに出てきた人影。これは・・・。
「メリッサ・・・」
「あ、ユリエル」
「もしかして・・・。ずっと、待ってたのか?」
「いつ来ても良いようにね」
「悪い、すぐこれなくて・・・。これ、飲むか?」
「うん、ありがとう」
俺がジュースを渡すと、メリッサはそっと受け取って飲み始めた。すると、メリッサは俺にボトルを押しつけた。
「ん、なんだ?」
「えっと、その・・・。飲んで。そしたら、私に、渡して」
つまり。間接キスがしたいと。俺は少し迷ったが、少し飲んでメリッサに渡した。メリッサはペロッと舐めると、一口飲んだ。顔を真っ赤にして俺を抱きしめた。
「うわあっ、思ってたより恥ずかしいね!」
「・・・。なんだそりゃ」
「ねぇ」
そっと俺に寄り掛かり、上目遣いで声をかける。
「はいぃ? メリッサ、どうしたんだ?」
「馬鹿。分かるでしょ?」
俺はメリッサをお姫様抱っこした。メリッサは慌てたように「わ、わっ」と声を出す。
その状態のままで、俺はメリッサに顔を近づけた。メリッサは真っ赤な顔で目を閉じる。
「なぁんて、するわけないだろ!」
「きゃあっ!」
「ふふ、まだダメだろ?」
「そ、そうだね・・・」
ドキドキさせないで、と言いたげなメリッサ。凄く可愛い。思わず抱きしめた。
「ちょ、もぅ・・・。代価を頂きますよ!」
「おわっ!」
「柔らかい」
メリッサが俺の唇を優しくはむはむと噛んだ。一度口を離し、メリッサはニヤッとしてキスをした。
「あぁ・・・。男の人でも、こんなに柔らかいの? それとも、ユリエルだから?」
「さ、さあ・・・。知ってたら問題ありだろ」
「確かに。ん、でもごめんね。急にびっくりしたでしょ?」
「ああ。でも、そんなに・・・。嫌じゃ、無い」
メリッサは笑いながら、そっと胸に手を当てる。そのまま、下へ持っていく。
「もうちょっと大きくなったら・・・。お願い」
「・・・。その時になってみないと、分からない」
「そか。うん、そうだね」
俺たちは少し年相応を思える程度触れあった後、それぞれの家へと帰る。だんだん暗くなっているからな。あ、夕焼け見忘れた。
会うのが遅かったから・・・。少し残念だ。が、これ以上遅くなると、家族が心配するだろうし、帰る以外の選択肢は存在しない。
「あ、ユリエル、お帰り」
「ただいま」
「あれ、どうかしたの?」
「?」
「出掛ける前より、楽しそうっていうか・・・。ふふ」
えっ?! そ、そうか・・・? 姉さん、いつも俺の事を良く見てるんだよな。ドキッとする。
これ・・・。メリッサと頻繁に会ってたらばれるんじゃ・・・。すごく不安だ。迂闊には会えないな。
「ん? お兄ちゃん、女の子の香水の香りする?」
「えっ?! そうか?」
「甘いけど、なんか、魅惑的な・・・。雰囲気的には、黒魔族?」
うわっ! なんてこった! 家の人たち鋭すぎる! 怖いな・・・。
香水の匂いなんて、するか? ああ、でも、そうかも・・・。無意識に酔ってた?
まさか・・・。魔力が入っている? 媚薬みたいな・・・。あ。
「あのとき・・・」
「ねえ、お兄ちゃん、一体何して来たの?」
「そうか・・・」
「聞いてない」
あのとき・・・。きっと、グロスだ。あの口づけのあと、凄く、メリッサが愛おしく思えて、数回のキスと、少しだけ体を触ってしまったが、ってそれはどうでもよくて!
媚薬のせいってことは、メリッサの意思。じゃあ、やって欲しかった? となると・・・。そうか、メリッサは・・・。
俺の事が、大好きなんだ
余計混乱してしまう。だって、あのせいで・・・。
メリッサの事が、どうしようもないくらい大好きになってしまったのだから。
「おはよう、ユリエルくん」
「ああ、おはよう」
『おはよう、ユリエル』
「おはよう、お兄ちゃん」
誰も、何も言わなかった。ただ、いつものように、挨拶をしただけだった。きっと、あの後、みんなで話し合ったんだろう。何か言われるんじゃないかと思っていたけれど、助かった。
「今日の朝ご飯はなぁに?」
「ユーナ、オムレツ運んで」
「えぇ・・・。訊かなきゃよかったよぉ」
「もう、そんなこと言わないの。ユリエル、紅茶入れてくれる?」
「ああ、分かった」
やっぱり、いつもと変わらない。俺はそっと息をはいた。姉さんが、俺の様子をじっと眺めていた事に、俺は気が付いていた。けれど、気付いていない振りをしていた。
「そうだ、ユリエル。剣の稽古はどうする?」
「・・・。そうですね。今日、良いですか?」
「そのつもりだ。準備をしておけ」
「はい」
俺がそう返事をすると、姉さんはびくっと肩を揺らした。この前の事を思い出したのだろう。
姉さんは暫く迷った様にきょろきょろしていたけれど、覚悟を決めたように父さんを見つめた。
「お父さん。私なんかが言えることじゃないって分かってる。でも・・・。今日は、木刀、使ってくれない?」
「いいだろう」
「・・・。あれ?」
え・・・。こんなにあっさり許可が出るとは思っていなかった。
「俺も分かっていたんだ。やり過ぎだろうと。というのも、あの時は、ユリエルの心を折る為、少しずつダメージを与えていって、ギブアップするまでやるつもりだったんだ。が、ユリエルは諦めなかった。俺が思っていたよりも、ずっと、ユリエルは強かった。俺は、こんな方法をとった事を後悔した」
父さんはそっと俯いた。認めて貰えたってことで、良いんだろうか。少し嬉しかった。
ただな・・・。木刀、多分ダメだと思う。だって、斬れないから手加減しないで撃ってくると思わないか? はっ、まさか・・・。
後悔って・・・。『手加減して』か?! もっと本気でぶちのめしてやればよかったって?! 止めてくれ!
「さて、やるか」
「うぅ・・・。お願いします」
「どうしたんだ?」
「いや・・・。手加減、してくれないですよね」
「はっ、どうだかな」
向こうに座る姉さんが「アレっ?!」といった表情をする。今気が付いたか。まあ、おそらく今日も病院送りだろうな。うん。最悪だ!
「まずは、そうだな。俺は一切攻撃しないから、俺に攻撃を当ててみろ」
「・・・。え?」
「避けないとは言っていないぞ。当然、俺も剣を持っているんだ、弾きはするぞ」
「・・・。分かりましたッ!」
俺は剣を下段で構える。それを見て、父さんは嬉しそうな顔をした。当然だ。これは、父さんの得意とした構えなのだから。
普通、下段を使う人はまずいない。剣を振り降ろす前に振り上げなくてはいけないからだ。ただし。剣神は振り上げるその勢いも利用する。剣神の名は、力全てを余す事無く使えるものにのみ渡される、だな。よし、行くか!
・・・っ! ぜんっぜん当たらん! 攻撃って、こんなに当たらないんだっけ?! 瞬間移動でもされているかのように違う位置に立っている。信じられない。
けれど、目で見た以上、信じなくてはいけない。瞬間移動などしていない。行動を読まれているのだ。だって、(わざと?)すっごくゆっくり移動してる!
「嘘だろ?! 全く当たらない!」
「ふっ、まだまだだな。読まれることを読んで行動、だ」
「?!」
「ほら、早くしないと、何時になってもスタートラインに立てないぞ?」
読まれることを読む? 読まれることを前提に動く? つまり・・・。
「っ、随分重いな・・・」
「なるほど・・・。俺の行動を呼んだ父さんが何処に動くか。それを想定して動く」
「まあ、初心者相手には役に立たない。が、もし、まだ魔王を倒そうと思っているなら・・・。俺レベルの奴なんざゴロゴロ居るからな」
「・・・。父さん。其処まで考えてくれていたのですね」
父さんの左肩に一撃。父さんは肩を押さえて俺を見た。
「痛いな・・・。随分強い攻撃を撃てるようになったんだな」
「そうですかね。さて、次は?」
「まあ、そのスキルが使えるなら、そこそこ俺とやりあえる。やってみるか?」
「もちろん」
俺たちは木刀をしっかりと構える。開始の合図は無い。全ては・・・。
互いの動きが止まった時!
さっきの逆か。つまり、普通避けないであろう方向に避ける。
「そう言う事だ。すぐに習得できたな。凄いじゃないか」
「でも、それを教えたという事は」
つまり。それだけじゃ通用しないと教えたいんだろ! 父さんが何を考えているかは分からない。が、動く前の一瞬を見・・・
「うわぁッ!」
「遅いぞ。まだ、戦い慣れていない、と言ったところか」
「な、何を・・・」
「剣士との戦いに慣れていないだろ。もしくは、リリィが居ないと戦えない」
「!」
「図星だな。今までは、リリィに助けられていた。居なかったら、お前はどうなるんだ?」
攻撃の一撃が重い。さっき、俺の攻撃を褒めていたのが何だったんだ、ってくらいだ。ふざけるな。あれは「お前にしては」だったっていうのかっ?! 馬鹿にするなっ! 俺はもう子供じゃない!
「ッ、そうだ、それで良い。行くぞ」
「父さんを・・・。越えて見せる」
「ああ、越えてみろ」
さっきまでとは、何かが違う。思い切り地面を蹴り、俺は父さんに向かって走り出した。
「残念だったな。まだまだだ」
「う・・・」
「だが、今のはよかったと思うぞ。・・・。ふっ、もう少し殺気を抑えような」
「っ! あぁ・・・」
「まあ、最初はそれで良い。よく頑張ったと思う」
父さんは俺の手を引いて立たせた。彼方此方が痛いせいで、まともに立っていられない。ふらふらしていると、父さんは困ったように笑った。
「悪い、やり過ぎたようだな。とりあえず、中に入ろう」
「お父さん、私、怖かった。その、ユリエルくんが・・・」
「そうだろうな。だが、ユリエルの中に眠っている全てを呼び醒ますには足りていない。多分、もっとあると思う」
「うーん・・・。なんでそうなったんだ?」
「俺を本気で倒したいと思ったんだろう? そのために、わざと挑発したんだからな」
「そうだったんですか?!」
そうだったのか・・・。そんな事、考えもしなかった。と、ユーナによる治療が終わった。
「はい。痛いところまだある?」
「いや、特には。凄いな、回復魔法」
「えへへ・・・。私、ベルトワーズに生まれればよかったのに」
まあ、剣のルーズヴェルトに魔法のベルトワーズ。とはいえ、そんなうまくいくはずがない。エレナは魔法が苦手らしいし。俺とエディナだけだろ。明確なのは。長男長女だけか? まあ良いか。
「でも、お兄ちゃんも召喚魔法使うじゃん。凄いよねぇ・・・」
「あ? そうか? 他の魔法使えないが」
「いや・・・。その内使われそうな気がする。きっと、お兄ちゃんに魔法でも負けちゃうんだ、あ~あ」
ユーナは不貞腐れたようにプイッとそっぽを向いた。俺があわあわしていると、ユーナは「嘘だよ!」と飛びついて来た。
わぁッ! と俺が悲鳴を上げると、ユーナは楽しそうにキャッキャと笑った。
「みんな! お昼ご飯で来たわよ!」
「あ、今行くよー!」
俺は森の中を歩く。少し色々あって遅くなってしまったな。もっと早く来ようと思っていたのに。
でも、夕焼けの森もまた綺麗なのだ。暫くゆっくりして、考えを纏めて、帰る前に、夕焼けを眺めてから帰ろう。時間は大丈夫なはずだ。
無意識のうちに、あの大木の前に来ていた。この森の中で、一番思い出深い場所。一番好きな場所。勝手に足が向いてしまう。それほどまでに、メリッサとの思い出が俺にとって大切だったと言えるだろう。
大木に触れると、向こうから恥ずかしそうに出てきた人影。これは・・・。
「メリッサ・・・」
「あ、ユリエル」
「もしかして・・・。ずっと、待ってたのか?」
「いつ来ても良いようにね」
「悪い、すぐこれなくて・・・。これ、飲むか?」
「うん、ありがとう」
俺がジュースを渡すと、メリッサはそっと受け取って飲み始めた。すると、メリッサは俺にボトルを押しつけた。
「ん、なんだ?」
「えっと、その・・・。飲んで。そしたら、私に、渡して」
つまり。間接キスがしたいと。俺は少し迷ったが、少し飲んでメリッサに渡した。メリッサはペロッと舐めると、一口飲んだ。顔を真っ赤にして俺を抱きしめた。
「うわあっ、思ってたより恥ずかしいね!」
「・・・。なんだそりゃ」
「ねぇ」
そっと俺に寄り掛かり、上目遣いで声をかける。
「はいぃ? メリッサ、どうしたんだ?」
「馬鹿。分かるでしょ?」
俺はメリッサをお姫様抱っこした。メリッサは慌てたように「わ、わっ」と声を出す。
その状態のままで、俺はメリッサに顔を近づけた。メリッサは真っ赤な顔で目を閉じる。
「なぁんて、するわけないだろ!」
「きゃあっ!」
「ふふ、まだダメだろ?」
「そ、そうだね・・・」
ドキドキさせないで、と言いたげなメリッサ。凄く可愛い。思わず抱きしめた。
「ちょ、もぅ・・・。代価を頂きますよ!」
「おわっ!」
「柔らかい」
メリッサが俺の唇を優しくはむはむと噛んだ。一度口を離し、メリッサはニヤッとしてキスをした。
「あぁ・・・。男の人でも、こんなに柔らかいの? それとも、ユリエルだから?」
「さ、さあ・・・。知ってたら問題ありだろ」
「確かに。ん、でもごめんね。急にびっくりしたでしょ?」
「ああ。でも、そんなに・・・。嫌じゃ、無い」
メリッサは笑いながら、そっと胸に手を当てる。そのまま、下へ持っていく。
「もうちょっと大きくなったら・・・。お願い」
「・・・。その時になってみないと、分からない」
「そか。うん、そうだね」
俺たちは少し年相応を思える程度触れあった後、それぞれの家へと帰る。だんだん暗くなっているからな。あ、夕焼け見忘れた。
会うのが遅かったから・・・。少し残念だ。が、これ以上遅くなると、家族が心配するだろうし、帰る以外の選択肢は存在しない。
「あ、ユリエル、お帰り」
「ただいま」
「あれ、どうかしたの?」
「?」
「出掛ける前より、楽しそうっていうか・・・。ふふ」
えっ?! そ、そうか・・・? 姉さん、いつも俺の事を良く見てるんだよな。ドキッとする。
これ・・・。メリッサと頻繁に会ってたらばれるんじゃ・・・。すごく不安だ。迂闊には会えないな。
「ん? お兄ちゃん、女の子の香水の香りする?」
「えっ?! そうか?」
「甘いけど、なんか、魅惑的な・・・。雰囲気的には、黒魔族?」
うわっ! なんてこった! 家の人たち鋭すぎる! 怖いな・・・。
香水の匂いなんて、するか? ああ、でも、そうかも・・・。無意識に酔ってた?
まさか・・・。魔力が入っている? 媚薬みたいな・・・。あ。
「あのとき・・・」
「ねえ、お兄ちゃん、一体何して来たの?」
「そうか・・・」
「聞いてない」
あのとき・・・。きっと、グロスだ。あの口づけのあと、凄く、メリッサが愛おしく思えて、数回のキスと、少しだけ体を触ってしまったが、ってそれはどうでもよくて!
媚薬のせいってことは、メリッサの意思。じゃあ、やって欲しかった? となると・・・。そうか、メリッサは・・・。
俺の事が、大好きなんだ
余計混乱してしまう。だって、あのせいで・・・。
メリッサの事が、どうしようもないくらい大好きになってしまったのだから。
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