剣神勇者は女の子と魔王を倒します
第3話 使い魔リリィ
「リリィ! 聞こえているか?! 召喚だ!」
「はい、御主人様っ!」
『えっ?!』
俺は素早く右手を水平に上げる。と、掌の前に黄色い光が集まっていく。
パァンと弾けた時。お、おい! あまりの強さに目を開けられない。エディナ達に見せる為に、わざと大袈裟にやってるだろ。
「リリィ、参りました! 丁度暇してたから、嬉しいよ!」
「ああ。でも、今のは大袈裟すぎる」
「えぇ・・・。久しぶりの召還で嬉しかったんだもん。で、戦えば良いんだよね。任せて」
光る金髪に、青い目。背中からは黒い蝙蝠の羽。耳は少し尖っていて、口には小さな牙。超ミニスカのメイド服を着た幼児体型の彼女は、俺の使い魔、リリィだ。
「な、なんなの、その子・・・。ユリエル・・・」
「隠していて悪かったな。リリィ、行くぞ」
「はい」
リリィは嬉しそうに笑った。俺はシュラリと剣を抜く。まだ新調したばかりの綺麗な剣。使ったことはあるが。だからこそ、使いやすいのだから。
軽い細身の剣。これが、一番使いやすい。父さんに教えて貰っていたのが、そういう剣の使い方だったからだろう。
「くっ・・・。落雷っ!」
「リリィ」
「大丈夫! 無効化!」
「魔法が・・・、消えたっ?!」
シミオンって、弱そうだよな。そう思いながら、俺は背後をとる。うん、絶対弱い。やっぱり、頭が良いだけなんだろう。俺は首を落とそうとして、向こうでエディナが魔法を使おうとしている事に気が付いた。
「リリィ! エディナだ!」
「! それっ! ほら、大丈夫」
エディナに気を取られて、シミオンに攻撃が入れられなかった。俺は少し跳び、全員の行動が見える位置に移動する。
・・・あれ、梓桜が居ないっ!
「鏖殺魔法其之壱 紅蓮烈火」
「おう・・・?! ぐれ・・・っ?!」
梓桜の右目が燃え上がる炎の様にギラリと光る。ゾクリとした。
まさかな・・・。梓桜の撃った魔法は、予想外だった。一瞬にして辺りが炎に包まれる。
ただし、それも、リリィにとっては何でもなかったようだ。自分と俺の周りの炎のみを打ち消す。梓桜が目を見開いて立っていた。
「そんな・・・。そんなの、あり得ない・・・」
「梓桜ちゃん! 大丈夫?!」
「はい、エレナお嬢様」
「もう一個、いけるね?」
「もちろんです」
梓桜はすでに息が上がっていたけれど、それでも平気だと答えた。きっと、無理をしているだろう。
「リリィ。次、行くぞ」
「わかった」
エディナとシミオンは、さっきの魔法が届かないであろう位置で攻防を繰り広げていた。俺の獲物はこの二人ってわけだ。二対二で丁度良いな。
「はぁ、はぁ・・・、鏖殺魔法其之肆 毒蔓纏鐃」
「・・・? うおっ?!」
今度は左目がギラッと光る。それと同時に、地面から大量の蔓が生え出す。うごうご蠢き、俺の方に向かってくる。蔓には沢山の棘がある。毒があるだろうことは魔法の名前から予想できる。今動くのはおそらく危険だ。が、敢えて今行こう!
「リリィ、頼んだぞ」
「うん。行こう!」
俺はそういうなり駆け出した。リリィが蔓を消していく。飽く迄魔法で出来た蔓。リリィの魔法で打ち消せる。道は開けた。流石に疲れた様子の梓桜に一気に向かう。
「えっ?! 速いっ!」
「悪いな、エレナっ!」
「梓桜ちゃん!」
アンジェリカ先生が梓桜にも魔法を掛けるのを、俺はきちんと見ていた。俺のバスタードソードが梓桜の体を貫く。と思った途端に、梓桜は青い光になって消えた。少しすると、同じところに現れた。こんな感じになるんだな。
「すみません、エレナお嬢様」
「大丈夫だよ。ユリエルさん並みの人はそうそういないから。自信を持って」
「・・・、はい」
俺は、武器を失ったエレナの体に剣を刺す。全く抵抗しなかった。
と、向こうも決着がついたようだな。エディナがニヤリと笑って俺を見ていた。
俺はそっとエディナに近づいて行く。エディナもそっと俺に近づいてくる。
・・・? 接近したら不利になるはずなのに、エディナは俺の剣が届くか届かないかという位置まで来た。
「ど、どうして・・・?」
「久しぶりにユリエルの剣を受けてみたい気分なの。・・・と言いたいところだけれど、魔力があまり残っていないの。さっさととどめをさして頂戴」
「・・・。わかった」
意外にシミオンも強かったらしい。
俺はそっと剣を天に向け、一気に振り降ろした。最後に見たエディナの顔が、微笑んでいたのがどうも不気味だった。
俺はポケットから布を取り出し、すっとひと拭きで血の掃除。鞘に仕舞った。
「見事ですね、本当に。リリィちゃん、お疲れ様です」
「・・・? え?」
「ああ、俺の担任、アンジェリカ先生だ」
「え、御主人様? 分からな・・・」
「リリィちゃん」
「・・・。はい」
? 一体なんだろう。リリィは何か言いたそうに俺を見ていたが、はぁと小さく溜息を吐くと、いつものように俺の腕に抱きついた。例の事を忘れていたと気が付く。
「・・・。あ。偉いな、リリィ。助かったぞ」
「うん!」
そうそう、リリィが俺についている理由。一つは、戦うのが好きだからだ。悪魔らしい思考だと思う。戦うのが大好きで、ギャンブラー。死んでしまうかもしれない戦いこそ、燃える。
そして、二つ目。単に、俺の事が好きだからだ。俺に褒められたい。俺と一緒に居たい。だからこそ、リリィは魔法の練習を頑張っている。召喚するたびに強くなっている。・・・梓桜の魔法を打ち消したときは、流石に驚いたが。
「随分鍛えたな」
「うん・・・。御主人様の為に、頑張ったよ」
「そうか。ありがとうな」
俺はリリィの頭をくしゃっと撫でる。リリィはうっとりした様子で俺を見た。可愛いな。悪魔は美形が多いらしいが、その中でもリリィは相当なんじゃないだろうか? 顔はトップアイドル以上だ。相当可愛い。ニコッと笑った表情は、何でも許してしまいそうなほどだ。おっと、これじゃいけないな。
「あのさ。ユリエル、詳しく説明してよ。一体、どういうことなの? 召喚魔法なんて・・・」
「アンジェリカ先生」
「ええ、もとからそのつもりです。教室へ行きましょう」
「俺は、六歳の時に、召喚魔法を使えるようになった。何かあったわけじゃないが、ふと頭に呪文が浮かんで。それで、召喚魔法が使えるようになっていた」
いや、嘘だ。何もなかったわけじゃない。黒髪少女、あの、魔族の少女と会えなくなってすぐのことだった。とはいえ、ふと頭に浮かんだというのは間違いではない。
「暫くやっていたら、だいぶ上達して、そろそろ強い悪魔を召喚したい、と思っていたんだ。そうしたら、リリィを運良く見つけてな。それからおつきになって貰っている」
「よろしくお願いします」
召喚魔法。魔法の中でも、特に難易度の高い魔法だ。
召喚魔法には主に二種類ある。一つ目は、今だけ召喚する、というものだ。その戦いが終わったら、もしくは一日だけ主従関係になるもの。もうひとつは、俺とリリィの様に、主人が良いと言うまで永遠の主従関係になるもの。
俺は普通の魔法の才能は一切ないが、召喚魔法だけは上手い。リリィには俺の援護役として魔法を使って貰っている。
「なんで教えてくれなかったの?」
「私が言わないでって、言ったから。何となく、怖かった。沢山の人が、私の存在を知ることが」
「・・・」
「使い魔には色々弱点があるから、あんまり、知られたくなかった。ごめんなさい」
「ううん、いいよ。私こそごめんね、リリィ」
エディナが微笑むと、リリィもほっとしたように笑う。何となく微笑ましい光景を眺めていると、シミオンに小突かれた。
「気をつけて下さいよ。使い魔の取り扱いには」
「? なんで?」
「まだ、詳しく分かっていないことが多いんですが・・・。ま、まあ、後々わかりますよ」
「じゃあ、リリィちゃんはみなさんと一緒に勉強するので良いんですね?」
「はい」
だんだん分かってきた。このクラスが人数の割に広い理由が。寮の部屋が広い理由が。こうやって、だんだん増えていくんだな。エレナもまだホムンクルスを作るんだろうし。もっと増えるな。
「さて、次の時間はどうしましょう」
「錬金がやってみたい、御主人様」
「皆さん、良いですか?」
「私は問題ないよ」
「私も」
「僕も平気です」
「なんか悪いな」
また図鑑が配られる。植物図鑑と・・・、って、二冊? あ、これは図鑑じゃなくてレシピだな。錬金のレシピブックだ。
錬金はやったことが無いな。難しそうでなかなか手が出なかった。
「錬金の授業の時は、錬金室に行きます。次の時間に遅れないように来て下さい」
『はい』
錬金室には、沢山の魔道具があった。壺、鍋、釜・・・。エレナが顔を輝かせる。
「これだけあれば・・・!」
「ホムンクルスを作る設備の整った部屋もあります。あとで見に行きますか?」
「?! い、行きたいですっ!」
ああ、錬金はエレナの得意分野だな。何か分からなかったらエレナに訊こう。
なんて思いつつも、俺たちは椅子に座って黒板(&アンジェリカ先生)を見る。
「まず、錬金術というのは、二つ以上のものを組み合わせて道具を作るものです。難しいものもありますが、当然、そんなに難しくないものもありますので、心配しないで良いですよ。
・・・。あと、この部屋は放課後や休日、先生に言ってくれれば貸し出しますから、何か作りたいときは此処に来て下さいね」
なるほど・・・。覚えておこう。
さて。まずは先生の準備した薬草で簡単な薬を作るらしい。必要な物は錬金鍋。レシピと植物辞典を見ながら作ってみてください、と言われた。俺たちは頷いてそれぞれの作業に取り掛かる。
草を刻んで、木の実を摩って、変な色だな、と思いつつもヘラで混ぜていく。これで合ってるのか?
「ユリエルさん・・・。先生は不思議でたまりません。此処まで簡単な薬を作るのに、何故こんなものが出来るんですか?」
「わ、わかりません・・・。多分、才能が無いんだと思います」
どう見てもおかしかったよな。やっぱり違ったのか。
出来あがったのは、多分毒だろう。もう火から下ろしたっていうのにボコボコ言ってるし。何で薬になる草を使って毒が出来るんだろうな。エディナが笑いを堪えるのに必死、といった様子だ。
「・・・。先生が見ていますから、もう一度やり直しましょう。間違っていたら言いますからね」
「はい、お願いします」
ダメだった。出来ない。また変な薬(その二)が出来た。さっきは緑の草を使ったから当然緑。今後は同じ草を使ったっていうのに紫色をしている。何処からどう見ても毒。毒以外の何物でもないだろう。
「もう先生の手には負えないですよ・・・。作り方、何一つ間違っていないんですから・・・。もはやこういう才能なんじゃないかと思ってきました」
「じゃあ、毒作ったら薬出来ますかね?」
「そういう問題じゃないと思いますが・・・」
それよりもこの毒どうしよう。マジでいらない。必要性が無い。何に毒なんか使えば良いんだよ。
せめてどんな効果なんだか分かれば良いんだが。どうしたらいいだろう。
「じゃあ、とりあえず先生が預かっておきましょう。調べてみて、何かに使えそうなら、返しますから」
「あ、じゃあ、お願いします」
「もうやる気が無くなりました。みんなでホムンクルス製造室を見に行きましょう」
「わあああっ! 凄いっ!」
「へぇ・・・。こんな感じなんだな」
沢山並んだ試験管。変わった色の液が入ったビーカー。なんだかよく分からない装置まである。
そして、部屋の奥にずらっと並んだカプセル。人間が一人入る大きさだ。
「私も、生まれた時はあのような場所にいたと思います」
「そうだよ。すぐにお友達を作ってあげる。上達したから、壊れない子が出来ると思うよ」
「ありがとうございます」
・・・きっと、俺は触らない方が良いな。またさっきの錬金みたいになりそうだ。
「はい、御主人様っ!」
『えっ?!』
俺は素早く右手を水平に上げる。と、掌の前に黄色い光が集まっていく。
パァンと弾けた時。お、おい! あまりの強さに目を開けられない。エディナ達に見せる為に、わざと大袈裟にやってるだろ。
「リリィ、参りました! 丁度暇してたから、嬉しいよ!」
「ああ。でも、今のは大袈裟すぎる」
「えぇ・・・。久しぶりの召還で嬉しかったんだもん。で、戦えば良いんだよね。任せて」
光る金髪に、青い目。背中からは黒い蝙蝠の羽。耳は少し尖っていて、口には小さな牙。超ミニスカのメイド服を着た幼児体型の彼女は、俺の使い魔、リリィだ。
「な、なんなの、その子・・・。ユリエル・・・」
「隠していて悪かったな。リリィ、行くぞ」
「はい」
リリィは嬉しそうに笑った。俺はシュラリと剣を抜く。まだ新調したばかりの綺麗な剣。使ったことはあるが。だからこそ、使いやすいのだから。
軽い細身の剣。これが、一番使いやすい。父さんに教えて貰っていたのが、そういう剣の使い方だったからだろう。
「くっ・・・。落雷っ!」
「リリィ」
「大丈夫! 無効化!」
「魔法が・・・、消えたっ?!」
シミオンって、弱そうだよな。そう思いながら、俺は背後をとる。うん、絶対弱い。やっぱり、頭が良いだけなんだろう。俺は首を落とそうとして、向こうでエディナが魔法を使おうとしている事に気が付いた。
「リリィ! エディナだ!」
「! それっ! ほら、大丈夫」
エディナに気を取られて、シミオンに攻撃が入れられなかった。俺は少し跳び、全員の行動が見える位置に移動する。
・・・あれ、梓桜が居ないっ!
「鏖殺魔法其之壱 紅蓮烈火」
「おう・・・?! ぐれ・・・っ?!」
梓桜の右目が燃え上がる炎の様にギラリと光る。ゾクリとした。
まさかな・・・。梓桜の撃った魔法は、予想外だった。一瞬にして辺りが炎に包まれる。
ただし、それも、リリィにとっては何でもなかったようだ。自分と俺の周りの炎のみを打ち消す。梓桜が目を見開いて立っていた。
「そんな・・・。そんなの、あり得ない・・・」
「梓桜ちゃん! 大丈夫?!」
「はい、エレナお嬢様」
「もう一個、いけるね?」
「もちろんです」
梓桜はすでに息が上がっていたけれど、それでも平気だと答えた。きっと、無理をしているだろう。
「リリィ。次、行くぞ」
「わかった」
エディナとシミオンは、さっきの魔法が届かないであろう位置で攻防を繰り広げていた。俺の獲物はこの二人ってわけだ。二対二で丁度良いな。
「はぁ、はぁ・・・、鏖殺魔法其之肆 毒蔓纏鐃」
「・・・? うおっ?!」
今度は左目がギラッと光る。それと同時に、地面から大量の蔓が生え出す。うごうご蠢き、俺の方に向かってくる。蔓には沢山の棘がある。毒があるだろうことは魔法の名前から予想できる。今動くのはおそらく危険だ。が、敢えて今行こう!
「リリィ、頼んだぞ」
「うん。行こう!」
俺はそういうなり駆け出した。リリィが蔓を消していく。飽く迄魔法で出来た蔓。リリィの魔法で打ち消せる。道は開けた。流石に疲れた様子の梓桜に一気に向かう。
「えっ?! 速いっ!」
「悪いな、エレナっ!」
「梓桜ちゃん!」
アンジェリカ先生が梓桜にも魔法を掛けるのを、俺はきちんと見ていた。俺のバスタードソードが梓桜の体を貫く。と思った途端に、梓桜は青い光になって消えた。少しすると、同じところに現れた。こんな感じになるんだな。
「すみません、エレナお嬢様」
「大丈夫だよ。ユリエルさん並みの人はそうそういないから。自信を持って」
「・・・、はい」
俺は、武器を失ったエレナの体に剣を刺す。全く抵抗しなかった。
と、向こうも決着がついたようだな。エディナがニヤリと笑って俺を見ていた。
俺はそっとエディナに近づいて行く。エディナもそっと俺に近づいてくる。
・・・? 接近したら不利になるはずなのに、エディナは俺の剣が届くか届かないかという位置まで来た。
「ど、どうして・・・?」
「久しぶりにユリエルの剣を受けてみたい気分なの。・・・と言いたいところだけれど、魔力があまり残っていないの。さっさととどめをさして頂戴」
「・・・。わかった」
意外にシミオンも強かったらしい。
俺はそっと剣を天に向け、一気に振り降ろした。最後に見たエディナの顔が、微笑んでいたのがどうも不気味だった。
俺はポケットから布を取り出し、すっとひと拭きで血の掃除。鞘に仕舞った。
「見事ですね、本当に。リリィちゃん、お疲れ様です」
「・・・? え?」
「ああ、俺の担任、アンジェリカ先生だ」
「え、御主人様? 分からな・・・」
「リリィちゃん」
「・・・。はい」
? 一体なんだろう。リリィは何か言いたそうに俺を見ていたが、はぁと小さく溜息を吐くと、いつものように俺の腕に抱きついた。例の事を忘れていたと気が付く。
「・・・。あ。偉いな、リリィ。助かったぞ」
「うん!」
そうそう、リリィが俺についている理由。一つは、戦うのが好きだからだ。悪魔らしい思考だと思う。戦うのが大好きで、ギャンブラー。死んでしまうかもしれない戦いこそ、燃える。
そして、二つ目。単に、俺の事が好きだからだ。俺に褒められたい。俺と一緒に居たい。だからこそ、リリィは魔法の練習を頑張っている。召喚するたびに強くなっている。・・・梓桜の魔法を打ち消したときは、流石に驚いたが。
「随分鍛えたな」
「うん・・・。御主人様の為に、頑張ったよ」
「そうか。ありがとうな」
俺はリリィの頭をくしゃっと撫でる。リリィはうっとりした様子で俺を見た。可愛いな。悪魔は美形が多いらしいが、その中でもリリィは相当なんじゃないだろうか? 顔はトップアイドル以上だ。相当可愛い。ニコッと笑った表情は、何でも許してしまいそうなほどだ。おっと、これじゃいけないな。
「あのさ。ユリエル、詳しく説明してよ。一体、どういうことなの? 召喚魔法なんて・・・」
「アンジェリカ先生」
「ええ、もとからそのつもりです。教室へ行きましょう」
「俺は、六歳の時に、召喚魔法を使えるようになった。何かあったわけじゃないが、ふと頭に呪文が浮かんで。それで、召喚魔法が使えるようになっていた」
いや、嘘だ。何もなかったわけじゃない。黒髪少女、あの、魔族の少女と会えなくなってすぐのことだった。とはいえ、ふと頭に浮かんだというのは間違いではない。
「暫くやっていたら、だいぶ上達して、そろそろ強い悪魔を召喚したい、と思っていたんだ。そうしたら、リリィを運良く見つけてな。それからおつきになって貰っている」
「よろしくお願いします」
召喚魔法。魔法の中でも、特に難易度の高い魔法だ。
召喚魔法には主に二種類ある。一つ目は、今だけ召喚する、というものだ。その戦いが終わったら、もしくは一日だけ主従関係になるもの。もうひとつは、俺とリリィの様に、主人が良いと言うまで永遠の主従関係になるもの。
俺は普通の魔法の才能は一切ないが、召喚魔法だけは上手い。リリィには俺の援護役として魔法を使って貰っている。
「なんで教えてくれなかったの?」
「私が言わないでって、言ったから。何となく、怖かった。沢山の人が、私の存在を知ることが」
「・・・」
「使い魔には色々弱点があるから、あんまり、知られたくなかった。ごめんなさい」
「ううん、いいよ。私こそごめんね、リリィ」
エディナが微笑むと、リリィもほっとしたように笑う。何となく微笑ましい光景を眺めていると、シミオンに小突かれた。
「気をつけて下さいよ。使い魔の取り扱いには」
「? なんで?」
「まだ、詳しく分かっていないことが多いんですが・・・。ま、まあ、後々わかりますよ」
「じゃあ、リリィちゃんはみなさんと一緒に勉強するので良いんですね?」
「はい」
だんだん分かってきた。このクラスが人数の割に広い理由が。寮の部屋が広い理由が。こうやって、だんだん増えていくんだな。エレナもまだホムンクルスを作るんだろうし。もっと増えるな。
「さて、次の時間はどうしましょう」
「錬金がやってみたい、御主人様」
「皆さん、良いですか?」
「私は問題ないよ」
「私も」
「僕も平気です」
「なんか悪いな」
また図鑑が配られる。植物図鑑と・・・、って、二冊? あ、これは図鑑じゃなくてレシピだな。錬金のレシピブックだ。
錬金はやったことが無いな。難しそうでなかなか手が出なかった。
「錬金の授業の時は、錬金室に行きます。次の時間に遅れないように来て下さい」
『はい』
錬金室には、沢山の魔道具があった。壺、鍋、釜・・・。エレナが顔を輝かせる。
「これだけあれば・・・!」
「ホムンクルスを作る設備の整った部屋もあります。あとで見に行きますか?」
「?! い、行きたいですっ!」
ああ、錬金はエレナの得意分野だな。何か分からなかったらエレナに訊こう。
なんて思いつつも、俺たちは椅子に座って黒板(&アンジェリカ先生)を見る。
「まず、錬金術というのは、二つ以上のものを組み合わせて道具を作るものです。難しいものもありますが、当然、そんなに難しくないものもありますので、心配しないで良いですよ。
・・・。あと、この部屋は放課後や休日、先生に言ってくれれば貸し出しますから、何か作りたいときは此処に来て下さいね」
なるほど・・・。覚えておこう。
さて。まずは先生の準備した薬草で簡単な薬を作るらしい。必要な物は錬金鍋。レシピと植物辞典を見ながら作ってみてください、と言われた。俺たちは頷いてそれぞれの作業に取り掛かる。
草を刻んで、木の実を摩って、変な色だな、と思いつつもヘラで混ぜていく。これで合ってるのか?
「ユリエルさん・・・。先生は不思議でたまりません。此処まで簡単な薬を作るのに、何故こんなものが出来るんですか?」
「わ、わかりません・・・。多分、才能が無いんだと思います」
どう見てもおかしかったよな。やっぱり違ったのか。
出来あがったのは、多分毒だろう。もう火から下ろしたっていうのにボコボコ言ってるし。何で薬になる草を使って毒が出来るんだろうな。エディナが笑いを堪えるのに必死、といった様子だ。
「・・・。先生が見ていますから、もう一度やり直しましょう。間違っていたら言いますからね」
「はい、お願いします」
ダメだった。出来ない。また変な薬(その二)が出来た。さっきは緑の草を使ったから当然緑。今後は同じ草を使ったっていうのに紫色をしている。何処からどう見ても毒。毒以外の何物でもないだろう。
「もう先生の手には負えないですよ・・・。作り方、何一つ間違っていないんですから・・・。もはやこういう才能なんじゃないかと思ってきました」
「じゃあ、毒作ったら薬出来ますかね?」
「そういう問題じゃないと思いますが・・・」
それよりもこの毒どうしよう。マジでいらない。必要性が無い。何に毒なんか使えば良いんだよ。
せめてどんな効果なんだか分かれば良いんだが。どうしたらいいだろう。
「じゃあ、とりあえず先生が預かっておきましょう。調べてみて、何かに使えそうなら、返しますから」
「あ、じゃあ、お願いします」
「もうやる気が無くなりました。みんなでホムンクルス製造室を見に行きましょう」
「わあああっ! 凄いっ!」
「へぇ・・・。こんな感じなんだな」
沢山並んだ試験管。変わった色の液が入ったビーカー。なんだかよく分からない装置まである。
そして、部屋の奥にずらっと並んだカプセル。人間が一人入る大きさだ。
「私も、生まれた時はあのような場所にいたと思います」
「そうだよ。すぐにお友達を作ってあげる。上達したから、壊れない子が出来ると思うよ」
「ありがとうございます」
・・・きっと、俺は触らない方が良いな。またさっきの錬金みたいになりそうだ。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
55
-
-
969
-
-
549
-
-
310
-
-
841
-
-
314
-
-
238
-
-
52
-
-
1512
コメント