剣神勇者は女の子と魔王を倒します

鏡田りりか

第2話  授業

「さて、みんなの担任、アンジェリカです。Sクラスは、担任の先生が全科目教えることになってるからね。よろしく」


 入学式が終わり、ついに学校生活が始まる。とはいえ、もう三週間以上みんなと一緒にいるから、対して変化が無いな。あまり「入学した!」という感じが無い。
 まあいいか。とにかく勉強頑張らないとな。目標の為に。


 俺たちは他の生徒と違う。まず、担任の先生が全教科教えること。次に、他の生徒より進んだ学習を行う事。最後に、時間割が無く、生徒がやりたい授業を決められるということだ。これは相当大きいと思う。一年間に何を何時間やる、という決まりがあるから、その範囲内でなら、自由に決められるのだ。


「さて、まず、何がやりたいですか?」


 アンジェリカ先生の問いに、俺たちはさっき配られた紙を見る。それに、何を何時間やればいいのかが書かれている。
 教科は言語、数学、生物まもの、地理、歴史、魔法、魔法原理、錬金、ダンジョン対策、実習だ。


「・・・言語?」
「ああ、普通なところから行きますか。じゃあ、そうしましょう。いいですね」
『はい』


 シミオンの呟きに反応したアンジェリカ先生が言語の教科書を配り始める。普通に考えて、此処で「いいえ」とか言えないよな。
 教科書を開くと、ああ・・・。アルファベットが並んでいる。国語ではなく言語だからな。小学校とは違う。


「この教科では、様々な種族の言葉について勉強します。今こうやってみなさんが話しているのは『共通語』です。ですが・・・。そうですね、シミオンさん。黒魔族語、話せますか?」
「旧ではなくて、今のですよね?」
「はい。そうです」
「じゃあ・・・。Guten morgen. Mein Name ist Simeon Addinton」
「・・・へ?」
「シミオンさんは今、『おはよう。僕の名前はシミオン・アディントンです』って言ったんですよ」


 へぇ・・・。全然何言ってんだか分らなかったけど。最後の名前だけだぞ、分かったの。
 黒魔族語か・・・。確か、人間の使う言葉はもとから共通語だったはずだ。じゃあ、普通に考えたら俺たちはこういう学校にでも来ないと共通語しか喋れないな。


「ええと、この教科は、まずは魔動語を学習します。魔動語って、分かりますよね?」
 確か、魔法を動かす言語で魔動語。魔法を使う時に使う言葉だな。


「そうですね。まずは魔動語についての、こんなお話をしましょう。
 昔々。魔法を使えるのは白魔族と黒魔族だけだった時代の事。人間たちは、魔法に憧れていました。何でも自在に操る魔法使いたちが、とても格好良く見えたのです。まあ、その魔族の中でも、魔法が使えない人ももちろんいましたけれど。
 そう言う訳で、人間は、どうしたら魔法が使えるだろうと研究を重ねました。上手くいかないのですがね。
 ある日、ある人が『そうだ。魔族の言葉を使えば、魔法が使えるかもしれない!』と思い立ちました。まわりの人たちは「そんなわけない、試すだけ無駄だ」と言いましたが、諦めそうになかったので放っておきました。
 そんなわけで、黒魔族の友人の力を借りて試してみたところ、なんと、魔法が使えたのです。やはり、全員が使えるわけではないですが。そこで、黒魔族語の名前を魔動語とし、新しい言語を生み出し、それを黒魔族語としました」


 へぇ。ってことは、魔動語は旧黒魔族語ってわけか。知らなかったな。
 でも、確かに『なんで魔法を動かす言語なのに、魔法に関係ないものまであるんだろう』とは思っていたが。
「分かりましたね? 魔動語を先に習得する理由ですが、相手の唱えている呪文でどんな魔法が繰り出されるのか予測する為です。魔法学にもつながります。なので、まずは魔動語の辞書を準備しましたから、これを使って覚えていきましょう」


 開いただけで面倒だ。アルファベットは読みなれないせいか、とても疲れるんだ。
 大体、アルファベッドを見ても発音が分からない。これには片仮名で読み仮名が振ってあるが。


「この言語は文法は大雑把にしか教えません。まずこの言語で喋る事ってありませんからね。あ、知りたければ聞いて下さい」
「なるほど」
「ただ、文字と発音が重なる位までやりますからね、覚悟して下さい」




「さて、魔物ですね。ええと、この教科ではこの大陸に住んでいる魔物について学習していきます。まあ、やってみれば分かると思いますので、早速授業に入りましょう」
 魔物か・・・。辞典の様な教科書を見ると、またまたやる気が失せる。っていうか、魔物辞典じゃん、これ。おお、そうやってみると、写真も多いし、読みやすいかも。


「まず、魔物のランク。覚えていますか?」
『ええと・・・』
「強いほうから順にS、A、B、C、D、E、Fです」
「はい、シミオンさん正解です」


 小学校の魔物だと、主要の魔物しか教えて貰わないし、テストすらない教科だった。此処だと細かくやるんだな。
 まあ、畑作やら商業やらをやるのに、離れた村の魔物なんて知らなくて良いんだろうけれど。


「まず、最弱の魔物って言われているのは、ミュース科です。ネズミの様な魔物ですね。これは比較的何処にもいます。体長は三十センチくらいでしょう。皆さんも見たことはありませんか? 絶対見てると思いますが」


 そりゃあ当然ある。何処にでもいるしな。意外にすばしこくて仕留めるのが大変だったりするが、強くはない。一発当たれば仕留められるからな。小学生の時、学校全体でミュース狩りに出かけた事があるが、倒せない人は一人もいなかったはずだ。


「ミュースにも種類がありまして。エポドスミュース属、プロスボレーミュース属、メガロミュース属、マギミュース属、セラペヴォミュース属など。まず、ミュースのページを開いて下さいね」


 俺は目次を見る。どうやら最初のページの様だ。ペラペラとページを捲る。
 カラフルだな・・・。魔物って、カラフルな奴が多い。目立つんだけど、良いのか?


「まず、エポドスミュース。攻撃型です。攻撃パターンが多いんですね。引っ掻く、噛みつく、体当たり、など。
 プロスボレーミュースは、突撃型です。頭に角が生えています。ただ、ワンパターンですから倒しやすいんです。
 メガロミュースは大きいんです。体長は七十センチくらいになります。主に盾役として動きます。少し強いですが、動くのは遅いですし、攻撃も弱いです。
 マギミュースは魔法使いです。攻撃力は高くありませんし、そんなに大量の魔力を持っているわけでもないようですから、特に問題はありません。
 セラペヴォミュースは、治癒役です。傷ついた仲間を回復させます。が、威力は弱いですね。
 ミュース科は群れで行動します。役割を分担しつつ攻撃してくるのです」


 そう言えば、ミュース狩りのときも、群れには近づくな、と言われた気がする。塵も積もれば山となる、ってな。弱くても、役割を分担して、群れでおしかけられたら危ないかもしれない。


「で、そのそれぞれの属の中に、種があります。例えば、火属性のエポドスミュースは『ピュールエポドスミュール』と言います。ピュールが火という意味になります。
 そのほか、水はヒュドール、氷はクリュスタロッス、草はポアー、土はゲー、石はぺトラー、風はアネモス、電気はイレクトリズモスです。属性は色を見れば分かりますからね」


 アンジェリカ先生は言いながら、黒板に片仮名で書いて行く。そして最後、赤で囲む。この感じ・・・。テストに出るな。黒板の内容をノートにきちっと書いておく。


「色は、分かりますね? 火は赤、水は青、氷は水色、草は緑、土は茶色、石は灰色、風は黄緑、電気は橙色。一応言うと、光は黄色、治癒は桃色、闇は黒ですね。死属性は赤と黒だったりしますね」


 それくらいは覚えている。幾ら俺がダメダメだからって、属性と色くらいは分かる。でなきゃ、この学校に入学なんて出来っこない。それに、戦いに必要なことはよく覚えているんだ。
 このややこしい名前は、卒業してしまえば火の攻撃鼠ピュールエポドスミュールって呼べるだろうし、それまでだな。




「あぁ・・・。疲れたな」
「そぉ? 言語、生物、数学、魔法。そんなに大変な教科あった?」
「ある。大ありだ。勉強は苦手なんだよ・・・」
「よくそんなで入学できましたね」
「相当頑張ったからな」


 学食を食べながら話す。俺たち四人は一緒に行動している。一緒に暮らしているから、自然と、な。
 エレナが梓桜の顔をちらと見る。そうだそうだ、四人ではないな、五人だな。エレナの心を読んだかのような行動に少し驚きつつも訂正。


「次の時間はどうする?」
「そろそろ実習やりたいかな」
「エディナがそう言うなら、私は問題ないですよ」
「んじゃ、そうするか」
「はい」




 この学校って制服ないから(あるけど誰も着ていない、の間違いか)、着替える必要はない。が、まあ、一応着替えはいるよな。
「はい、集合。あ、先に言っておくと、四人の為にこのグラウンドあるから、何時でも実習できますからね。その辺は気にしないで良いですよ」
 えぇ・・・?! この学校の敷地面積ってどれだけあるんだ? 俺たちは奨学金で通ってるから学費払ってないけど・・・。他のクラスの奴ってみんなお金持ちだったりするのか?


「まずは、みんながどれくらい出来るのか見ないといけませんね。先生は知っていますけれど、お互いが分からないと困りますからね。という事で、これを用意しました」
 アンジェリカ先生はそう言うと、何か呪文を唱え始めた。俺たちの体が青く光る。


「えっ?」
「一回だけ、『同じ魔法を掛けられているものからの』致命傷が完全に癒えます。簡単に言えば死にません。これで、戦ってみてください。エレナさんは梓桜ちゃんの使用を認めます」


 え・・・。エレナが梓桜使うってことは・・・。俺がアンジェリカ先生を見ると、ニコッと笑った。良いってことだろうか? そう、少し不安に思っていると、それに気がついたアンジェリカ先生は胸の前で、両手でまるを作った。よし、じゃあ、本気で行かせてもらおう。そんな俺の表情を見て、アンジェリカ先生は嬉しそうな顔をする。いや、楽しそうな顔か。


「私は此処で見てます。危なくなったらすぐに助けに入りますから、安心して下さい。誰一人死なせません。さあ、はじめて下さい!」


 アンジェリカ先生がそう言うと、エディナは舌を使ってそっと唇を湿らせた。相当強い魔法を使うつもりだろうな。これは手加減なんてしている場合ではない。一刻も早く彼女を呼びだそう。


「リリィ! 聞こえているか?! 召喚だ!」
「はい、御主人様っ!」
『えっ?!』


 アンジェリカ先生がニヤリと笑う。
「さあ、ユリエルさん。思いきり暴れて下さい」

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