剣神勇者は女の子と魔王を倒します

鏡田りりか

第1話  アルファズール武術学院

 本当に夢の様だ。だが、夢ではないことは分かっている。
 まさか、本当に俺が、アルファズール魔術学院の最上クラスに合格できるなんて・・・!


 15歳で成人のこの世界では、義務教育の6年間を受けた後は、学校に行かない人がほとんどだ。お金も相当かかるし、行くメリットが無いと思う人が多数だからな。
 お金を稼ぐ手段は、幾らでもある。わざわざ学校に行き、武術を極めて冒険者になる必要なんて一切ないのだ。大体、学校に行かなくても冒険者になれる。
 が。俺は違う。大きな夢があるのもあるし、それに・・・。父さんの影響でもあるだろう。


 アルファズール魔術学院は、この大陸で唯一の上級学校だ。小学校は沢山あるが、その上の学校というと、此処にしかない。
 『最上クラス』、『上クラス』、『中クラス』、『下クラス』と分かれていて、普通はSクラス、Aクラス、Bクラス、Nクラスと呼ぶ。
 中でも、Sクラスは学年で四人しか入る事が出来ない。武器が一番上手い人、魔法が一番上手い人、頭が一番良い人、特殊な事が出来る人がそれぞれ一人ずつ選ばれる。
 その中の武器が一番上手い人、に俺は選ばれたのだ。


「ユリエル! やったね!」
「エディナもな!」


 茶髪のツインテールを揺らしながら走ってきたのは、俺の幼馴染エディナ・ベルトワーズ。ちなみに、俺の名前はユリエル・ルーズヴェルト。
 エディナは魔法が一番上手い人、として最上クラスに。エディナは嬉しそうに澄んだ緑色の目を細めた。


「よかったぁ・・・。ユリエルが合格できて」
「ああ。エディナのおかげだよ、ありがとな」
「な、なにぃ・・・。もう! ユリエルが頑張ったからでしょ!」


 Nクラスでも、そこそこの学力が無いと入れない。元々頭の悪かった俺は、エディナと一緒に必死に勉強して、何とか合格ラインまで学力を上げたのだった。
 相当な学力が必要。此処も、学校に行く人が少ない理由だろう。


「ユリエル。出発しよう」
「ああ、そうだな」


 この大陸『アルファズール』には三つの国がある。その中で、一番小さく、一番栄えているパクスという国に、この学校はある。俺とエディナが住んでいるところもパクスなのだが、少し遠いから、寮生活をする事になる。
 という事で、家のポストに届いたこの合格状を受け取り、すぐに俺たちは出発する。少しでも向こうに長い間居て、向こうの生活に馴れるためだ。向こうには、学校が始まるまでの数週間のうち、何時着いても平気という事になっている。


 さて。俺たちは家族に挨拶をし、駅に向かおうとしたところで、エディナが真面目な顔をして俺を呼びとめた。
 いま行こう、という時にする話って、なんだろうな。俺はエディナの目を見る。


「あのね。わ、私、もう一人、Sクラスに合格した人、知ってるんだ」
「? 何故?」
「あ、あの・・・。え、エレナ!」


 エディナがそう言うと、一人の女の子が出てきた。エディナに似た色の茶色い髪はショートカット。瞳の色も、エディナそっくり。
 うん、知っている。彼女は、エディナの双子の妹、エレナだ。


「この子も、受かったの。あの、ほら、知ってるでしょ? この子のアレ・・・」
「悪いが、エレナについてはあまり・・・」
「そ、そうだっけ?」
「わ、私、ホムンクルス作りが得意なんです」


 ホムンクルス・・・。ああ、人造人間か。確かに、そりゃ特殊だな。
 って、なんで教えてくれなかったんだよ! そんな面白そうなこと・・・。
 ホムンクルスは、人造人間、つまり造られた人。色々な作り方があるそうだが、実際に作れる人は滅多にいないらしい。


「私、本当に夢みたい・・・。よろしくお願いします、ユリエルさん」
「ああ。よろしくな、エレナ」
「これで、もう何にも心配する事はないや」


 エレナの事を、俺はよく知らない。病気がちで、あまり学校でも見なかったし、人と話すのも得意ではないらしく、エディナの家に行ってもあまり会った記憶が無い。
 そう思いつつ、エレナをちらと見てみる。エレナの隣には、一人の黒髪の女の子が居た。おそらく、俺たちと同じくらいの年齢だろう。


「あ、彼女は梓桜あずさ。エレナのホムンクルスだよ」
「へぇ・・・」
「ホムンクルス、すぐ死んでしまう子が多いんですけれど、この子は最高傑作。とても健康なんです」
「よろしくお願いします、ユリエル様」


 右目が赤で、左目が緑。確か、ホムンクルスはみんなオッドアイになるんだったはずだ。
 彼女は一歩前に出て、恭しくお辞儀をすると、またエレナの少しだけ後ろ、という位置に戻った。


「さて、じゃ、行きますか」
「うん。ほら、ユリエル」
「あ、ああ。行くか」




「は、初めまして。シミオン・アディントンです」
「Sクラスの人、ですよね? エディナです、よろしくお願いします。この子は私の双子の妹エレナ」
「俺はユリエル・ルーズヴェルト。よろしくお願いします」
「敬語を使わなくても良いですよ、特に、ユリエルさん。なんだかおかしな感じがしますから」
「あ・・・。じゃ、じゃあ」


 ミルクティーの様に薄い茶色の髪の、男の人、だよな。茶色の眼鏡を掛けていて、目の色は紫色。一瞬女の子かと思った。声も高い。もうちょっと髪が長かったら、女の子だと思い込んだことだろう。っていうか、今スカートでも履かれたらマジで分からない。


「えっと、皆さんは知り合いなんですよね」
「そうだよ」
「じゃあ、僕だけ・・・。仲良くして下さい」
「もちろんですよ、シミオンさん」


 話しやすそうな人で良かった。エレナでさえ、普通に話しているんだからな。
 ちなみに、俺たち四人は同室だ。普通だったら、男女が同じ部屋というのはないだろう。が、流石にSクラスに入る様な人に、変な事をする人はいないだろうという事で、教え合いがしやすいように四人同室になったと聞いている。まあ、そんな事をすれば即退学だ。


「お茶飲みますか?」
「あ、じゃあ」
「その間に、荷物整理をして置いて下さいね」


 俺は大して荷物も無いんだけどな。洋服と筆記用具、あとは洗面用具。あぁ、それから、真新しいスマホもあったな。
 手ごたえのあった入試が終わった時に買って貰ったこのスマホは最新版。今は機械の普及しているし、スマホが欲しいと言うと、あっさり許可が下りた。
 合格したら(というか、合格しただろうという前提なのだが)そのまま寮に行く予定だから、すぐに買って貰った。きっと、寮生活で、連絡の手段という事で許可が下りたんだろうな。


 そんな事を考えつつ、荷物の整理が終わった頃に、シミオンは紅茶を持ってきた。俺は立ちあがってテーブルの近くに行く。
 本当に四人用とは思えないほど大きな部屋だ。キッチンもあるしな。ベッドが四つあっても全く狭くない。テーブルは真ん中に大きいものが一つ。収納はベッドの下と、クローゼットがあるようだ。
 部屋を見渡していると、梓桜の声が聞こえてきた。


「エレナお嬢様。荷物の整理が終わりました」
「うん、ありがとう。もぅ、エディナ。整理整頓位一人で出来るようにしようよ」
「違うって! 荷物が多いの。魔術書も沢山あるし・・・」
「はいはい。分かってるって。ありがとね、梓桜ちゃん」


 どうやら、エレナとエディナでエディナの荷物を整理し、エレナの荷物は梓桜がやったようだ。
 で、荷物の整理が終わったから、みんなでテーブルに集まって紅茶を飲む。


「エディナさんは、どんな魔法が得意なんですか?」
「えっと・・・。何でも出来るけど、そうだなぁ。しいて言うなら、水かな」
「水ですか。僕は魔族なので、少しは魔法が使えますが、僕は闇を使う事が多いですかね」
「黒魔族は闇属性が得意だもんね」


 ええと、魔法には属性がある。火、水、氷、草、土、石、風、電気、光、治癒、闇、死、空間の十三。で、それぞれ初級、中級、上級だ。ただし、種族によってはこれ以外の魔法を使う人もいる。これはあくまで『基本の魔法』。種族に関係が無いものだ。ただし、得意不得意はある。


 シミオンは魔族だって言ったな。俺とエディナ、エレナは人間だ。種族も色々あるが、人間、獣人、黒魔族、白魔族、巨人、小人だったか。
 人間は普通の人種と呼ばれている。魔法はエディナの様な例外を除き、基本的には苦手だ。ただ、他の人種より賢いらしい。
 獣人は獣と人間のMIXだ。動物の耳や尻尾があったりする。力は強いが、あまり頭はよくないらしい。動物によって多少変化するな。
 黒魔族。魔法が得意な種族だ。単に『魔族』と呼ぶ場合は黒魔族を指す。稀に紫魔族という事もある。目の色が紫色だからだ。紫色の目をしている人は魔族という事になる。喧嘩が好きで、刺す様な鋭いオーラを持っている。
 白魔族は、黒魔族とは違って柔らかい印象の魔族だ。当然魔法が得意。長い耳が特徴で、非常に長命。此方の魔族は優しく、光や治癒などの魔法が得意だ。此方を『魔族』と呼ぶことはまずない。
 巨人はその名の通り、大きな人。鬼もこの中に含まれる。力は強いが、やっぱりあまり頭が良くないことが多い。
 小人はどうやら二種類いるらしいが、それは小人以外の人種には区別がつかない。一種類目は土、石魔法が得意で、無口な職人タイプ。二種類目は土、草魔法が得意で、陽気らしい。同種に対しては。
 まあ、だから普通は魔法では入るのが白か黒魔族で、頭の方では入るのが人間の事が多いんだけどな。こんな年もあるわけだ。


「ユリエルさんは?」
「剣士だ。この中だと、唯一の接近戦タイプか?」
「ですね。剣士ってかっこいいですよね」
「そうか? それはシミオンの周りにいた剣士がかっこよかったんじゃないか?」
「そんなことありませんよ」


 シミオンは紫色の目を細めた。女の子みたいだよな、本当に。全然黒魔族っぽくない。でも、紫色の目が証拠。魔族であることに間違いはない。エディナは人間だが魔法が得意だし、一般的には、というのは例外もあるのだ。


「それにしても、みなさん来るの早かったですね」
「そんなこと言ったって、シミオンはもう居ただろ」
「まあそうなんですが。ほら、僕は魔法で此処まで来ましたから。相当急いだんじゃないですか?」
「うん。こっちの生活に慣れておこうと思って」
「そうですか。僕も、この広い部屋に一人は寂しいな、と思っていたところでしたから、よかったです」


 そりゃそうだよな。幾らなんでも広すぎる。此処に一人は、寂しいし、なんだか怖いよな。
 話していると、急に綺麗な音でチャイムが鳴った。オルゴールの様な音色だ。


「確か、食事の合図だったはずです。食堂に行きましょう」
「うん。エレナ、梓桜はどうするの?」
「一緒に行こう。先生には、あらかじめ言ってあるから大丈夫なはずだよ」
「そうか。よし、いくか」




 三学年合同の寮の為広い、この食堂には、あまり人が居なかった。それもそうだ。二、三年生は家に帰っているだろうし、こんなに早く来る人が他にそう多くいるはずもない。とはいえ、全くいないわけではないが。


「あら、Sクラスの人はみんな揃ってるのね? 私、一年のSクラスの担任、アンジェリカ・マクネスよ」
「あ! よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね」


 桃色の長い髪に、桃色の目。変わった色だな、と思っていると、アンジェリカ先生は俺を見て少し微笑んだ。理由は分からなかった。でも、何となく、桃色の髪に見覚えがある気がした。
 先生の話を聞く限り、今此処にいるのは俺たちを除いて二、三年生らしい。やっぱりな。
 夕食を受け取り、席に着く。さっきまで話していたから、大して話題が無い。


「シミオンさんは、兄弟何人ですか?」
 アンジェリカ先生が訊く。
「えっと、四人です。兄が一人と、姉が一人、妹も居ます」
「へぇ」
「ユリエルさんは?」
「ん、俺? 姉が一人に妹が一人だ」


 あまり、考えたくない話題だ。俺が視線を落とすと、みんなはそれ以上聞いてこなかった。


「シミオンの兄妹って、どんな人なの?」
「そうですね。姉はとても強いですよ。が、如何せんやる気が見られません。妹は凄く可愛いんです。学校でも年中ラブレターを貰ってきます。全部破り捨ててますが。兄は・・・。女好きで、あんまりいい人じゃないです」


 シミオンは苦笑い。随分特徴のある人たちの様だな。強いのにやる気のない姉と、凄く可愛い妹と、女好きの兄か。俺だったら嫌だな。普通で良いと思う。というか、普通が良い。
 俺は姉さんの事を考えて溜息を吐く。と、アンジェリカ先生が笑いながら言った。


「大変なことは考えないで、楽しい事を考えましょう。折角此処まで来たんですから」
「・・・。はい」


 そうだ。折角Sクラスに入れたんだ。今は、少しそのことは置いておこう。

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