赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~

鏡田りりか

第83話  VS魔王 最終

 私の名前を呼んだのは、エティだった。戦いが終わったらしい。
 と、ユルティが小さく笑って魔王の周りを一周ぐるっと回る。走った後に、透明な壁が出来る。一体、何をするつもり? ユルティは私のもとに来ると、そっと耳元で囁く。


「仕留めますわよ、準備を」
「! 分かった」


 魔王は叫びながら壁を叩いている。けれど、全く壊れそうにない。隣を見れば、ミアが制御をしていた。なるほど、そういう事。このバリアを作ったのはミアで、さっきユルティが走ったのは場所を分かりやすくする為だったのか。ユルティがちゃんとまるく走れば、透明な壁を綺麗に作れる。
 私は魔力を準備し、レアの手を握る。


「いくよ」
「了解です」


「「朱色の武術・鎖鎌!」」


 繋いだ手を上に上げる。後ろに大きなあかい鎖鎌が出来た。でも、まだ。
 エティが私の後ろに立つ。その瞬間、エティの瞳が真っ赤に変わる。そして。


「はい、いきます!」


「死霊魔術・応用! 魔術ノ強化!」


 エティの死霊魔術を応用したもの。他の人の魔法を強化する。
 其処で、向こうからミレがやって来た。茶色のポニーテールを揺らし、エティの右隣へ。瞳を紅くして、叫ぶ。


「ミレもやるよ!」


「双剣秘術・紅華ノ舞!」


 鎖鎌の隣に、真っ赤な大きな剣が二本並ぶ。
 と、エティの左隣に不意に誰かが現れた。ベルさんだ! 瞳を紅くして微笑む。


「なにこれ? あたしも参加する!」


「暗殺秘術・魔力ノ鎧!」


 剣の隣に、大きな赤い、棘の沢山付いた鎧が現れる。
 次に振り返った時。ミレの隣にはアンジェラさん。ニヤリと笑みを浮かべ、瞳を赤くした。


「私も、行きますね」


「一撃必殺・閨怨ノ撃!」


 鎧の隣に、赤い剣が現れる。周りが炎の様な物に覆われている。
 ベルの隣にやって来たのは、私の大好きな彼女。桃色の髪を一撫でし、紫の瞳を紅くして微笑む。


「リーナの為、頑張っちゃおう!」


「赤薔薇王魔・戒ノ業火!」


 全ての武器を包むように真っ赤な炎が現れる。
 最後の人は……。私の隣に、来てくれた。ラザールお兄様は、ぱちりとウインクを打った。


「リーナちゃん、絶対勝つよ!」


「紅剣奥義・霊獣ノ魔剣!」


 全部の武器の後ろに、グリフィンの影が現れる。
 じゃあ、最後、行くよ、リア!


「ルージュマジック、全員死刑!」


「真紅の怨恨・火責めノ刑!」


 全員揃った! 私はしっかりと前を見つめ、魔法を放とうとする。と。
 ――頭の中に、言葉が浮かんでくる。
 気が付けば、全員同時に、叫んでいた。


「ルージュマジック・共同魔法・魔王封印!」


 透明だったバリアが、赤く紅く染まっていく。中にいる魔王は、観念したように瞳を閉じた。
 宙に浮いてた大きな武器たちが移動し、バリア魔法を取り囲み、ぐるぐると回っている。まるで、待ってくれているかのように。


(そうか!)


 待っていて、くれてるんだ。私の中にある、心残り。これに、気付いたか。
 だったら、私は。最後、大きな声で叫ぶ。


「ねえ、魔王、レティス、いや、リアナ……違う」


「お姉ちゃん!」


 魔王、いや、お姉ちゃんは、大きく目を見開いた。私が笑み浮かべると、向こうも悲しげに笑みを浮かべる。扇は無くなっていたから、片手で。そっと、口元を覆う。


「なぁに、リーナ。いつから知ってたの?」
「結構、前だよ。お姉ちゃん、ありがとう。お姉ちゃんの御蔭で、私、仲間が、こんなに出来た!」
「馬鹿ね。私の御蔭なんかじゃない、リーナの実力よ。だから、誇りを持って生きなさい」


 そう。魔王の正体はリアナ。その、リアナの正体は、私のお姉ちゃんなの。
 私とお姉ちゃんは双子。一緒に生まれた。でも、魔王の人格を持っていたから、殺さなくちゃいけない。だけど、両親はそれが出来なかった。其処で、神の血を引く家に預け、押さえる事を考えた。
 色々な家にかけあったけれど、誰も引き取ってくれなかった。そんなとき、唯一いいと言ってくれたのが、グリフィン家。ちょうど子供が生まれたばかりだったから、双子と言う事にしておいた。容姿も、とても似ていた。何もかも、丁度良かった。
 だから実は、リアナとラザールお兄様は双子なんかじゃない。私を見た時、ラザールお兄様はリアナに似ている、と言った。当然だ。私とリアナが、双子なんだから。


 それと。私が村で苛められていたのには、訳があった。実は、あれ、私を勇者として覚醒させる為の『トラウマ』を作る為だったのだ。
 両親は、魔王を復活させてしまった償いとして、殺された。大きな罪だから、当然。村人はみんな、私のことを騙す為に罵詈雑言を浴びせたけれど、家に帰って泣いていたらしい。とても、優しく、みんなに好かれていた人だったから。
 アレクシアも、私を村から逃げ出させる為にあんなことを言った。わざとだった。あの後、散々泣いたらしい。
 こうして、私と言う勇者が出来上がった。


 私はみんなに聞こえるようにそう語る。ラザールお兄様は驚いていたけれど、やがて、一筋の涙を流して、「そっか」と呟いた。リアナの事。黙っていて、ごめんなさい。


「お姉ちゃん、さようなら」
「ええ。リーナ、しっかり生きて」


 バリア魔法越しに、手を合わせる。二人で笑いあってから。私はバリア魔法を離れる。
 とたんに、全ての魔法がお姉ちゃんに襲い掛かる。鎖鎌が、双剣が、鎧が、剣が、霊獣が、そして、リアの真っ赤な炎が。お姉ちゃんを包み、攻撃していく。
 悲鳴が上がる事は、なかった。お姉ちゃんは、私達の為に。静かに、その命を散らした。


「リーナ、ちゃん」
「これで……、終わった、ん、ですね」
「! そう、だよ。これで、みんな、終わったんだ。僕達は、世界を救ったんだ」


 私達はぎゅっと抱き締め合う。すぐに離して正面を見る。いつの間にか、炎は無くなっていて、其処には何もなかった。お城すらも、無くなっていた。
 私達は円くなって、魔王を倒した事を喜び合った。これで、全部、お終い。勇者としての役割を、果たしたの。
 あと、ずっと気になってた事。私は、キュッとペンダントを握り締めた。多分、私は、もう……。


「ね、ねえ」
「ん、なあに、リーナちゃん」


 やっぱり。私はペンダントを首から外すと、一度強く握り、遠くの方に投げ捨てた。


「な……。い、一体どうしたの?!」
「ラザールお兄様」
「え……」


 実は。私、もう、喋れてた。いつからだかは、わからない。気付いた時には、もう。きっと、恐怖がみんな無くなっちゃったからだろう。
 もう、泣きそうな顔して。私の知ってるラザールお兄様は、強いんだから。泣かないでよ?


「もう……。ほら、帰ろう! みんなが私たちを待ってるよ!」
「うん!」


 私達はパッと駆け出した。これで、みんな終わったの。その、はずだった。でも。


 全部終わったら。やるって決めてた事が、あるの。それが終わったら、本当に、最後、かな?


 上手く行くか、ちょっと不安。だから。実は私、凄くドキドキしてる……。

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