赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~

鏡田りりか

第81話  VS魔王 ラザール

 僕の相手はミリアム。赤い髪の悪魔メイドだね。一緒に戦うのはジェラルドさん。なんで剣士同士になっちゃったかな。まあ、仕方ないか。
 ミリアムとは戦ってないんだよね。力の感じも、攻撃方法も分からない。ちょっと最初に測ってみないと駄目だね。


「ジェラルドさん、ミリアムは……」
「あの、赤髪のメイドだよね、分かってる」
「はい。覚えていたんですね」
「昨日の事さ、流石に忘れないよ」


 そう言って笑う。こういう表情、とてもかっこいい。ミルヴィナが惚れたわけだ。って、そんなのどうでもいい!
 ミリアムは僕達に気付いてふわりと微笑む。男の人を虜にする為の笑顔って感じがする。まあ、僕には関係ないけど。ジェラルドさんだって、ミルヴィナがいるし。


「私の相手は、あなた方ですね」
「そうだよ」
「では、始めましょうか」


 ミリアムは赤い髪を揺らして楽しそうに浮かび上がった。ずるいよね、飛ぶとか。いや、そんなこと言ってても仕方ないんだけどさ。攻撃が届かないじゃん。
 仕方なく、僕は剣に魔力を纏わせる。まずはミリアムの魔法を弾く事に専念しようと思う。


 ミリアムが魔法を撃つ。どんな魔法かと言うと、なんか、蝙蝠みたいのがたくさん飛んできた。予想外。
 まあ、斬ることになるのは一緒だったか。剣を構え、蝙蝠を一匹ずつ斬っていく。斬った後は、血ではなく、赤い魔力が溢れた。やっぱり、生き物じゃなくて、魔力で作られてるんだね。
 隣を見ると、ジェラルドさんもせっせと蝙蝠を斬っていた。なんか、魔王の専属メイドと戦っているというのに、随分地味だ。


「あら、蝙蝠、全部斬られちゃいましたか。じゃあ、次は」


 黒猫だ。一瞬斬るのを戸惑ったが、結局魔力で作られたぬいぐるみの様な物なので生き物じゃない。これまたせっせと斬っていく。地味だ。
 なんか、もっと派手な戦いをイメージしてた。まあ、戦いなんてこんなもんか。
 にしても、これ続けてたら埒が明かないな。仕方ない、攻撃に転じよう。


 とはいっても、剣が届かないからなぁ。魔法はそんなに得意ってわけじゃない。まあ、仕方ないか。
 その場で思い切り剣を振る。と、剣の先から魔法が飛び出した。尖った刃物みたいな魔法だ。
 ミリアムはそれを見ると、特に表情を変える事も無く、避けようとした。が。魔法の意外な動きにより、ミリアムは驚いたように動きを止める。
 魔法は、強い光を放ちながら大きくなり、円形になってミリアムを包み込んでいたのだ。動きを止めたのは、逃げ場がないから。


 ミリアムはそっと口角を上げ、右手を大きく振る。と、僕の魔法は消えて行った。何だ? 一体何を使った……?
 とにかく、ミリアムの手から強い光が出て、僕の魔法を溶かすように消してしまった事だけは分かった。生半可な魔法は効かないらしい。まあ、そりゃそうか。
 だったら、考えないとな。攻撃が届かないんじゃ、どうしようもないんだけどさ。


 ミリアムは次の魔法に移っていた。今後はぬいぐるみじゃなくて人形だ。妖精みたいなそれらは、小さな弾丸の様な魔法を撃ってくる。弾丸、と言っても垢だったら青だったり黄色だったり、色とりどりなのだけれど。
 それらはよけたり剣で弾いたりする。当たったらどうなるか分かったもんじゃないからね。
 人形達は一斉に消えた。次の魔法に移るらしい。


 今度は別の人形が出てきた。光線ともっと大きな、弾丸と言うより爆弾みたいな魔法。赤一色だ。
 これは全部避ける事にする。地面を蹴って方向転換。魔法を避けていく。数が多いからちょっと危ないけど、これ位なら大丈夫かな。
 と、ジェラルドさんが僕を見ていた。すれ違う時、こう囁く。


「援護するから、攻撃して」


 援護って、どういう事だろう? そう思っていると、ジェラルドさんはいつの間にか剣ではなく杖を持っていた。まさか、ミルヴィナに仕込まれてた?
 ジェラルドさんが杖で素早く四角形を描くと、絨毯の様な物が出来上がった。空飛ぶ絨毯らしい。あ、これで攻撃しろって? そういう事か。
 躊躇せず、それに飛び乗った。と、思ったより揺れて、危うく落ちかけた。けど、すぐに慣れ、動かし方も分かってくる。体重移動で動かせるみたいだ。


 後ろから魔法が飛んできた。ミルヴィナやミネルヴァに良く似てる魔法。違う所は、飛んでくるのがボールの形をした炎や水なことだ。二人の魔法は明確に『何』とは分からない様なものだから。
 二人の魔法を避けつつミリアムに近づく。と言っても、ジェラルドさんの魔法はミリアムの魔法を撃ち落とす為のもので、二人の魔法の総数はさっきよりもずっと少ない。だから、避けやすい。
 一撃、ミリアムに仕掛ける。が、彼女はするりと避ける。バランスを崩した僕は絨毯から落ちた。
 けど、絨毯は僕を受け止めてくれる。なんかこいつ、凄い良い奴だな。こんなの欲しい。


 ミリアムは魔法を撃ちながら、僕に声を掛けてくる。


「ねぇ、ラザール。貴方、魔王の事、何処まで知っているの?」
「は? 魔王? 城で聞いた事くらいかな」
「へぇ? 以外にあまり知らないのね」


 馬鹿にしてるの? その為だけに、僕に話しかけてきたって言うの? 意味が分からない。
 ミリアムは、相変わらず余裕のある笑みを浮かべて僕を見る。なにがしたいのか分からないけれど、そんな事で僕を惑わす事が出来るとでも?


「じゃあ、リーナの事は?」
「リーナちゃん?」
「貴方のところへ来る前、彼女が何をしていたのか、どういう暮らしをしていたのか、親はどうしたのか」
「……。分から、ない」
「あら。貴方、それで、あの子の事、全部知った気になっていたりして」
「は?」


 そういえば、リーナちゃんの過去、全く知らない。どうして森に居たの? 何処から逃げてきたの? どうして逃げてきたの? どんな暮らしをしていたの? 親はどうして居ないの?
 何も、知らなかった。でも、こんなこと知らなくても、良いじゃん。大事なのは、過去じゃない、未来でしょ? アンジェラを見てると、よく分かる。
 でも、ああ、言われたら。気になるし、何も知らないんだって実感させられる。


「教えて差し上げましょうか?」
「……なに、言ってんの」
「魔王から聞いてるの。リーナの事、全部。聞きたい?」
「他人の口から聞いていい事じゃない」
「そうねぇ。真面目なのね」


 本当に、ただ話がしたかっただけらしい。でも、僕の頭の中は乱された。リーナちゃんが、ミアちゃんの事、何も知らないって言った様に。僕は、リーナちゃんの事、何も知らなかったんだな。
 でも、それでもいい。人は、一つくらい秘密を持っていた方が美しい。話したくない事、無理に話す必要はない。もし、聞いて欲しいって時に、話してくれれば、それで……。


「あらぁ? 剣の手が、止まっていますよ?」
「っ! う、煩い!」
「あはぁ、言葉と体が噛み合ってないわよ。ほんと、ちょっとからかっただけなのに」
「お前……」
「あら、レディにお前なんて言っちゃ駄目よ。ふふ。私は貴方を殺す。その為なら何でもやるのよ」
「正々堂々戦う気はないの」
「ええ。上手く乗ってくれて助かったわ、ありがとう」


 悪いけど、僕は今、非常にイライラしてる。怒りで思考なんて全部吹き飛ばして。頭の中は、いつも以上に綺麗になった。
 ミリアムは最初から、僕の行動を止める為に話しかけた。それに気づけず、ミリアムの話を聞いてしまった僕自信への怒りが大半。ミリアムには悪いけれど、敵の力を高める事になったみたいだよ。
 剣を握る手に力を込める。ミリアムは少し驚いたように目を大きくする。


「貴方、瞳が、赤く……」
「悪いけど、今すぐ仕留めるよ」
「ま、なんで……」
「理由なんて聞いてどうするの?」


「紅剣奥義、霊獣の剣」


 力強く剣を振る。後ろにグリフィンが現れ、目を光らせる。
 ミリアムに逃げ場はない。だって、最初に使った、あの魔法が、ミリアムをがっちりととらえている。


(さあ)


 グリフィンは宙を走り、ミリアムに襲い掛かる。赤い血が舞う。
 悲鳴を上げる暇すらなく。グリフィンは消え去り、ミリアムはあとかたもなく消え去った。
 絨毯に命令を出して、地面に降りる。その場に座りこむと、ジェラルドさんが駆け寄ってきた。


「大丈夫?」
「はい。さて、リーナちゃんのところに行かないと。ジェラルドさん」
「あ、ああ。行ってらっしゃい。無理はしないでね」
「分かってます。……ちょっとだけ疲れただけで、全然大丈夫ですから」


 疲れなんかどうでもいい。今は、リーナちゃんのところに行かないと。
 ミリアムの話を聞いたせいで、今すぐ会いたくて。だから。
 すぐに向かうから。待っててね、リーナちゃん。

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