赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~

鏡田りりか

第78話  VS魔王 ベル

 ええと、あたしの相手は、レイチェルだよね。あの、ゴスロリの子。前に戦ったジュリエットに何となく似てる気がしちゃってね。あたしの相手はゴスロリが多いなぁ。
 隣にはシルヴェストル。あたしの弟。良く知ってる人と一緒だと、戦いやすくて良いや。ちょっと視線を動かすと、不覚にも目があった。


「何? ベルちゃん」
「いやぁ? それより、間違えて私撃ったりしないでよ!」
「大丈夫だよ。で、そのレイチェルって、あの子?」
「そうだよ」


 その前に、後ろからあの子が来てるから、待ってあげよう。あの魔力。狼の子、エクでしょ? ほら、エクレールとか言ったっけ。リーナちゃんの使い魔。一緒に戦ってくれるらしい。みんな、戦い好きだもんね。
 ポケットからナイフを二本取り出す。両手に一本ずつ持って構える。まあ、素手でもいんだけど、結構強い相手だし、一応武器があったほうがいいよね。因みに、このナイフは魔王城から盗んできた。盗賊シーフじゃなくて暗殺者アサシンだけど、ま、その辺りはどうでもいい。


「貴女が、私の相手? ……見た事、ない子。私、レイチェル」
「ああ、僕はベルの弟シルヴェストルです」
「弟。あんま、似てない」
「そうかな?」


 普通に話しつつも、シルヴェストルは銃を構える。あたしは銃に詳しくないから細かくは分からないけれど、よく使ってる奴だね。
 レイチェルが杖を構えたのを見てから、あたしは行動を開始する。まずは小手調べ。いつもの様に死角に入ってから魔力を消し、動いてみる。うん、目で追われてる。見えてるんだ。ってことは、正々堂々と戦うしかないね。


 あ、せっかくだからこのまま魔力を消して戦おう。このほうが攻撃の軌道が分かり辛いんだよね。なかなか全ての魔力を消す、って難しいから出来ない人が多いけど、あたしは出来るんだもん。出来る事は全部使わないとね。
 ナイフをくるくると回す。ナイフを定位置に戻し、キュッと握りしめてレイチェルに……向かおうとしたんだけど、レイチェルは軽く地面を蹴り、宙に浮かびあがった。
 これじゃ倒せないじゃん。攻撃当たんないもん。後ろを見ると、シルヴェストルが軽く頷いた。任せたよ?


 レイチェルは魔法を放ってくる。なんか、小さな球状の魔法なんだけど、ぐるぐる回りながら飛んでくる。しかも沢山。どうすんの、これ。
 まあ、避けるしかないよね。でも、後ろにはシルヴェストルが居る。仕方ないから、弾こう!
 ナイフに魔力を纏わせる。両手で構え、魔法を待つ。近くに魔法が来たら、開始! ナイフを振り回す。
 ただ振り回しているように見えて、実はちゃんと考えて振ってるよ。シルヴェストルのところに届きそうな魔法を見極めて弾いてる。それ以外は逃がしたって構わないし。


 と、唐突にエクが動き出した。適当に走っているように見えるけれど、なにをやっているんだろう? エクの後ろには、黄色いつぼみが出来ていく。
 あたし達のもとに帰って来たエクは、顔に掛かった髪を払い、ぼそっと呟く。


「黄色い花、開花」


 黄色のつぼみが花開く。と、花に向かって雷が落ちてくる。レイチェルが避けた先に、避けた先に、と落ちていく。なるほど、意外に考えて作ってたんだね。でも、全部避けられちゃった。やっぱ、簡単には当たらないね。


 銃声が響く。シルヴェストルの撃った弾丸は、レイチェルには当たらない。レイチェルの周りには沢山の魔法が舞っているから、それに打ち消されてしまうのだ。ってことは、あの魔法を何とかすればいいんだね?


「待って、ベルちゃん、なにしようとしてるの?」
「良いから良いから」
「ちょ、ちょっと! ああもう、こうなったら聞かないんだよなぁ」


 シルヴェストルは「はぁ」、と溜息を吐く。あたしは気付いていない振りをして走りだした。もう、心配してるのか知らないけどさぁ、あたしだってそんなに弱くないし、ちょっとくらい無茶したからって死ぬ事も無い。其処までしなくても良いんじゃない?
 さて。あたしは手早くバリア魔法で階段を作り、一気に駆け上がる。レイチェルは気付いているけれど、撃ってくる魔法は全部弾いてるから、今のところ問題はない。
 そもそも、魔法は魔力感知で何処にあるのか分かるし、見なくても弾けるんだよね。と言う訳で、レイチェルに近づく。


「ベルちゃん、危ない!」


 はっとして振り返る。けれど、なにも無い。え?
 気が付いたのは、数秒あと。階段が、崩れてる。
 仕方ない。まあ、あたしは鍛えまくったから、これくらいの距離から落ちても大丈夫。あ、でも、一応クッションを作っておこう。落ちる直前に、水魔法を放つ。


「だ、大丈夫?!」
「なに言ってんの、これくらい平気に決まってるでしょ」
「平気なわけないでしょ、普通! もう、心配させないでよ」
「ったく、過保護だなぁ。ああもう、また昇らなきゃか、めんどくさい」
「ええ?! もう止めてよ!」


 仕方ないなぁ。でも、じゃあどうすっかな。攻撃方法考え直さなきゃ。うーん、一番手っ取り早いのは……。
 ちらっとシルヴェストルを見たら、彼は不思議そうに首を傾げた。


「うーん……。なんか変わった弾ないの?」
「え? えーっと、あ」
「え、なに?!」
「でもこれ、ベルちゃんに掛かってるよ?」


 おいおい、嘘でしょ? マジでやるのか。仕方ない、あたしの素晴らしい運動神経をよく見なさい!
 と言うのはとりあえず後で。今は何とかレイチェルの魔法を防いで、一発でもダメージを与える事が先。じゃないと、絶対避けられるからね。
 別の色、大きさの魔法がぐるぐる飛んでくる。これも弾いていく。なんか、さっきより重いな。量も多いし。
 金属音を響かせながら弾いていく。後ろからは銃声。違う弾にしたらしい。もっと威力のある奴。ただ、その代わりにシルヴェストルへの負担が大きくなるんだけど。


 っていうか、今更だけど、瞬間移動で空中に出れば良いんじゃない?! やってみよう!


「ちょ、ベルちゃん! なに馬鹿なことしようとしてるの!」
「行けるかもよ! やってみる!」


 魔力を集めて、集めて。よし、瞬間移動!
 因みに、必殺技を使わないで瞬間移動をやろうとすると、魔力を集めるのに時間が掛かり過ぎて全く瞬間じゃなくなる。意味がない。から、あんまりやらないんだよね。
 上手くレイチェルの隣に出た。けど、ナイフは綺麗に避けられた! でしょうね!
 ううん、良いと思ったんだけどな。さっきと同じく水魔法でクッションを作って落ちる。落ちるとはいえ、足からついてるわけだから、着地と言ったほうが正しいかもしれないけどね。


 綺麗に着地してからまたシルヴェストルの近くに。魔法を弾く。弾きながら魔力を集めて、もう一回! もし、少しでも隙が作れたら。シルヴェストルが攻撃を当てられたら。確実に私達の勝ちが近付く。だから、諦めない!


「どうして、其処まで」
「ルージュの為に、あたしは、あたしに出来る事を全力でやる」
「何故」
「大切だからだよ、みんなが!」
「大、切……」


 レイチェルはそっと俯いた。でも、私のナイフは確実に避ける。
 なんか、遊ばれてるみたいで嫌だ。もっと、もっと。あたしが強くなれば良いのに! あたしが!
 さっきより、ずっと速く魔力が集まった。レイチェルはあたしに気付かなかった。レイチェルの魔力が乱れる。隙が、出来た!


 銃声。しっかりとあたしの耳に届いた。落ちながら下を見ると、シルヴェストルが笑みを浮かべていた。上を見る。レイチェルが肩を押さえていた。
 瞬間移動でシルヴェストルの隣に行く。ニコッと笑うと、行くよ、と囁いた。任せな!


「暗殺秘魔・魔力ノ衣!」


 シルヴェストルの動きに合わせ、瞬間移動を発動させる。シルヴェストルの撃った弾は、銃口から出ると、すぐに形を変えた。魔法弾だ。
 飛行機の様な形になったところで、私はその上に飛び乗る。凄く速い。流石銃弾だ。此処までの速度、瞬間移動を除き、あたしがどんなに頑張っても出せない。
 レイチェルが瞳を大きくする。其処に、魔法弾に乗ったまま突っ込む。直前で、あたしは弾に付いたレバーを動かしてから、瞬間移動で其処から逃げる。
 何のレバーかと言うと、弾を爆発させるレバー。誰かが乗らなくちゃいけないから、この魔法弾の扱いはなかなか難しいのだ。
 レイチェルは爆発に巻き込まれる。でも、バリア魔法を張っていたらしく、致命傷にはならない。なら。まだ、必殺技の効果は続いている。
 レイチェルの背後に移動、ナイフを突き立てる。


「ベルちゃん!」
「あたしは大丈夫だよー、ちょっと其処退いて」


 地面に降り立つ。ふぅ、ちょっと疲れたな。でもまあ、楽しかった!


「さて、じゃ、リーナちゃんのところに行きますか!」
「え、あ?」
「先に家帰ってな。あたし、まだやる事残ってるし」
「……うん!」


 リーナちゃん、魔王とどんな戦いをしてるかな?
 あたしもちゃんと、魔王にダメージ与えなくっちゃね!

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