赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~
第75話 VS魔王
アルシエルは私たちを受け止めると、真っ直ぐ地面に向かって降下し、土の上に下ろしてくれた。と、聞き慣れた声が聞こえてくる。
「みんな! 無事だったのね!」
「フラン! なんでこんなところに……!」
「私だけじゃないわ」
女王はにこりと笑い、後ろを指した。其処には……。
ノーラ。ミルヴィナ。ミネルヴァさん。ジェラルドさん。ドロシアさん。シルヴェストルくん。アリスまで……。
みんな、魔王と戦う為に、此処に……?
「今、どうなってるんだ?」
「王城を壊して一体引いて来た。すぐ来ると思う。戦闘準備を」
「分かった」
私の言葉に、ノーラは素早く行動をしてくれた。戦闘の準備に入る。
と、すぐに魔王たちは地面に降り立った。六人の仲間も一緒だ。やっぱり、七人と戦えば良いんだね。
「よし、行くよ!」
その掛け声で、私達は一斉に行動を開始した。まずは、このまま。前衛役、剣士たちが走り出す。
けど、やっぱり、駄目だ! 茶髪ポニーのキャサリンと、ゴスロリ少女レイチェルが宙に浮くと、同時に魔力を具現化、ボール状にしていく。とても大きい。そして、とても純度の高い魔力だ。この魔法じゃ、此処一体が吹き飛ばされちゃう!
こんなの、誰も対抗できない。だったら、早く逃げないと! 私は全員に、今まで出した事のないような大きな声で退散命令を出す。
其処で。ある人がいない事に気が付く。
(ミアっ!)
ミアは。私が気付いた時には、もう、走り出していた。手を伸ばしたけれど、ただただ宙を切るばかり。ある程度のところでとまると、強いバリア魔法を展開させる。対抗するつもり?! 絶対、無理なのに……! 逃げようよ、ねえ、ミア、止めて!
ミアはちょっとだけ此方を振り返り、小さく笑みを浮かべる。瞳には、涙が浮かんでいた。そんなの見せられたら、私……!
(ミア、受け取って!)
「え……?」
いつもペンダントに送る様にして、大量の魔力をミアに送る。逃げる気がないなら。援護すればいい!
二人が魔法を放つ。赤い色をしたその大きなボールは、ミアのバリアに向かって一直線。魔王はそっと笑みを浮かべ、扇を広げた。
バリアと魔法がぶつかった時。ミアはちょっとだけ顔を歪めた。そりゃそうだ。あんな強い魔法、普通だったら吹き飛ばされていてもおかしくない。でも、ミアは。しっかりと受け止め、押し返そうとまでしている。
駄目なら、逃げてくれれば良い。ミアだけは、何が何でも、失いたくない。ミアだけは、駄目なの。私の……。使い魔なんかじゃない、もっと。ありふれた名前じゃ表せないくらい、大切なもの。だから、もう良いのに、なんで? どうして分かってくれないの!
(ミア、お願い、もう止めて!)
「ごめんね、止めない。ご主人さまの事、愛してる」
(だから、止めて欲しいのに。なんで、分からないの)
「分かってる、だから、だめなの。甘えてばかりじゃいられない。ご主人さま、優しすぎるから」
なんで、どうして、そんなこと言うの? 甘えてくれれば良い。私の大切な子。幾らでも、甘えてくれれば良い! なのに、どうして、そんな事を? 分からない、分からない。もう、分からない。
(ミア……)
「ご主人さま、一つ、おねがい」
(うん、ミア)
「愛してるっ!」
ミアはにこっと笑って「ありがとう」と言うと、さっきまでよりずっと多い量の魔力を込める。その時、ミアの様子が一気に変わった。
緑色の瞳が紅に。茶色のツインテールが赤く、長くなる。着ている桃色の服が、真っ赤に染まる。翼が大きくなり、ミアは宙に浮く。
何が起こってるのか、分からない。私の一言が、ミアに此処まで影響を与えるものなの? とにかく……。とても、強い魔力を放っている。さっきよりも、確実にパワーアップしている。
ミアはすぅ、と小さく息を吸うと、両手を大きく広げる。すると、キャサリンとレイチェルの魔法は溶ける様に消えていく。片手を上げて地面に降り立つミアは、もう、私の知っているミアじゃない。
  魔王は少しだけ意外そうに瞳を大きくしたけれど、すぐに目を細め、ミアに近づく。
「ねえ、貴女、何者なの?」
「ミアは、ミアだよ? それ以外の何物でもないよ、まおうさま?」
「ちょっと、もしかして、私の事を知ってるなんて、言うんじゃないでしょうね?」
「あれ? 本当に分からない? このすがたを見て、まだ言う?」
ミアはにこりと笑うと、ニヤリと口元を歪め、すぐ右手で隠す。
「久しぶりだね、レティ? ミア、もう待ちくたびれちゃったよ?」
「ミ、ア……。貴女、本当に……」
どういうこと、かな? ミアって、一体何者なの……?
そういえば、あれだけ言っておいてなんだけど、私、ミアの事、何も知らない。ああ、いけない。ちゃんと聞いておくべきだった。
「リーナは、全く聞いていない様だけれど?」
「あー、言おうかと思ったんだけど、こわくって。えっとね、ご主人さま」
「ミアね。昔、まおうとたたかったんだよ」
眩暈がする。規模が大きすぎる。ミアが、魔王と戦った? 一体何千、何万年前の話をしているの? ミアは一体何歳? 子供じゃなかったの? 今まで、私と一緒にいてくれたのは、なんで? 訊かなくちゃいけない事、沢山あったのに。
「うん、ご主人さま。ミアは、運命の支配者の味方なの。隠してて、ごめんね」
「味方……?」
「そ。ご主人さまを強くする為に、あの時、御主人様の下にやって来た。今、この時の為に」
「え、そ……」
「あのフードを被った人は、私の手下。私が操ってたの。アレクシアには、ばれちゃったけどね」
ミアはゆっくりと私に近づき、抱き締める。今、気が付いた。ミアの背が、私と同じ、いや、それ以上になってる。本当の姿、隠してたんだ……? 魔王と戦う時の為に。全部、全部、隠してたんだ?
こればっかりは、仕方ないよね。だから、怒る気は全くなかった。寧ろ。
「私達、会うべくして、会ったんだね。なんか、凄く、嬉しい」
「ほんと? そう言ってくれると、ミアも嬉しい。御主人様、大好きだもん」
「そ、っか。ありがとう」
「ううん。御主人様が、ミアの事、愛してるって言ってくれたから。絶対大丈夫だって、思えた。だから、ミア、本当の姿、出せたんだよ」
キュッと抱きしめられた。なんか、新鮮だな。でも、間違いなく、ミアだ。香りが、温度が。間違いないと、教えてくれる。
手を握って、魔王を見る。非常に楽しそうな顔をし、扇をパタパタと振っていた。
「良いわ、楽しくなってきたじゃない? ふふっ、せいぜい私を楽しませなさい!」
魔王は楽しそうに両手を広げた。扇の下の顔は、戦争中のレアと同じ。悪魔みたいな、楽しそうな顔。
よし……。魔王の相手は、私達でやろう。だから。
(レア、合図を)
「畏まりました」
レアの高い指笛が響く。これが、合図。分かれて戦うという合図だ。
もしかしたら、みんな一緒に戦うより、別々の方がいいかもしれない、と考えていた私達は、魔王たちが来る前に戦う相手を割り振っておいたのだ。と言うか、誰と一緒に、誰を相手に戦いたいのか希望を取ったところ、綺麗に分かれたのだ。しかも、見事に私の予想通りの結果。みんな、考えてる事は一緒なのかな。そうだったら、嬉しい。
すぐに分かれるのかと思ったら、みんなは一度私の傍に来た。そう、みんな。ルージュのみんなと、ノーラ達。顔を見合わせて、頷く。此処からが勝負だ。
「危ない事は、しないで良いよ。まずは、生きて帰る事を優先」
「うん」
「助けは、求めて良いよ。無理だと思ったら、すぐに」
「うん」
「じゃあ……。行こう!」
「絶対勝つよ!」
その声で。私達は、ばらばらに敵に向かって行く。大丈夫、私達は強いから、負けるはずなんてない!
ミアの手をもう一度強く握ってから、離す。私達の相手は、魔王だよ!
「みんな! 無事だったのね!」
「フラン! なんでこんなところに……!」
「私だけじゃないわ」
女王はにこりと笑い、後ろを指した。其処には……。
ノーラ。ミルヴィナ。ミネルヴァさん。ジェラルドさん。ドロシアさん。シルヴェストルくん。アリスまで……。
みんな、魔王と戦う為に、此処に……?
「今、どうなってるんだ?」
「王城を壊して一体引いて来た。すぐ来ると思う。戦闘準備を」
「分かった」
私の言葉に、ノーラは素早く行動をしてくれた。戦闘の準備に入る。
と、すぐに魔王たちは地面に降り立った。六人の仲間も一緒だ。やっぱり、七人と戦えば良いんだね。
「よし、行くよ!」
その掛け声で、私達は一斉に行動を開始した。まずは、このまま。前衛役、剣士たちが走り出す。
けど、やっぱり、駄目だ! 茶髪ポニーのキャサリンと、ゴスロリ少女レイチェルが宙に浮くと、同時に魔力を具現化、ボール状にしていく。とても大きい。そして、とても純度の高い魔力だ。この魔法じゃ、此処一体が吹き飛ばされちゃう!
こんなの、誰も対抗できない。だったら、早く逃げないと! 私は全員に、今まで出した事のないような大きな声で退散命令を出す。
其処で。ある人がいない事に気が付く。
(ミアっ!)
ミアは。私が気付いた時には、もう、走り出していた。手を伸ばしたけれど、ただただ宙を切るばかり。ある程度のところでとまると、強いバリア魔法を展開させる。対抗するつもり?! 絶対、無理なのに……! 逃げようよ、ねえ、ミア、止めて!
ミアはちょっとだけ此方を振り返り、小さく笑みを浮かべる。瞳には、涙が浮かんでいた。そんなの見せられたら、私……!
(ミア、受け取って!)
「え……?」
いつもペンダントに送る様にして、大量の魔力をミアに送る。逃げる気がないなら。援護すればいい!
二人が魔法を放つ。赤い色をしたその大きなボールは、ミアのバリアに向かって一直線。魔王はそっと笑みを浮かべ、扇を広げた。
バリアと魔法がぶつかった時。ミアはちょっとだけ顔を歪めた。そりゃそうだ。あんな強い魔法、普通だったら吹き飛ばされていてもおかしくない。でも、ミアは。しっかりと受け止め、押し返そうとまでしている。
駄目なら、逃げてくれれば良い。ミアだけは、何が何でも、失いたくない。ミアだけは、駄目なの。私の……。使い魔なんかじゃない、もっと。ありふれた名前じゃ表せないくらい、大切なもの。だから、もう良いのに、なんで? どうして分かってくれないの!
(ミア、お願い、もう止めて!)
「ごめんね、止めない。ご主人さまの事、愛してる」
(だから、止めて欲しいのに。なんで、分からないの)
「分かってる、だから、だめなの。甘えてばかりじゃいられない。ご主人さま、優しすぎるから」
なんで、どうして、そんなこと言うの? 甘えてくれれば良い。私の大切な子。幾らでも、甘えてくれれば良い! なのに、どうして、そんな事を? 分からない、分からない。もう、分からない。
(ミア……)
「ご主人さま、一つ、おねがい」
(うん、ミア)
「愛してるっ!」
ミアはにこっと笑って「ありがとう」と言うと、さっきまでよりずっと多い量の魔力を込める。その時、ミアの様子が一気に変わった。
緑色の瞳が紅に。茶色のツインテールが赤く、長くなる。着ている桃色の服が、真っ赤に染まる。翼が大きくなり、ミアは宙に浮く。
何が起こってるのか、分からない。私の一言が、ミアに此処まで影響を与えるものなの? とにかく……。とても、強い魔力を放っている。さっきよりも、確実にパワーアップしている。
ミアはすぅ、と小さく息を吸うと、両手を大きく広げる。すると、キャサリンとレイチェルの魔法は溶ける様に消えていく。片手を上げて地面に降り立つミアは、もう、私の知っているミアじゃない。
  魔王は少しだけ意外そうに瞳を大きくしたけれど、すぐに目を細め、ミアに近づく。
「ねえ、貴女、何者なの?」
「ミアは、ミアだよ? それ以外の何物でもないよ、まおうさま?」
「ちょっと、もしかして、私の事を知ってるなんて、言うんじゃないでしょうね?」
「あれ? 本当に分からない? このすがたを見て、まだ言う?」
ミアはにこりと笑うと、ニヤリと口元を歪め、すぐ右手で隠す。
「久しぶりだね、レティ? ミア、もう待ちくたびれちゃったよ?」
「ミ、ア……。貴女、本当に……」
どういうこと、かな? ミアって、一体何者なの……?
そういえば、あれだけ言っておいてなんだけど、私、ミアの事、何も知らない。ああ、いけない。ちゃんと聞いておくべきだった。
「リーナは、全く聞いていない様だけれど?」
「あー、言おうかと思ったんだけど、こわくって。えっとね、ご主人さま」
「ミアね。昔、まおうとたたかったんだよ」
眩暈がする。規模が大きすぎる。ミアが、魔王と戦った? 一体何千、何万年前の話をしているの? ミアは一体何歳? 子供じゃなかったの? 今まで、私と一緒にいてくれたのは、なんで? 訊かなくちゃいけない事、沢山あったのに。
「うん、ご主人さま。ミアは、運命の支配者の味方なの。隠してて、ごめんね」
「味方……?」
「そ。ご主人さまを強くする為に、あの時、御主人様の下にやって来た。今、この時の為に」
「え、そ……」
「あのフードを被った人は、私の手下。私が操ってたの。アレクシアには、ばれちゃったけどね」
ミアはゆっくりと私に近づき、抱き締める。今、気が付いた。ミアの背が、私と同じ、いや、それ以上になってる。本当の姿、隠してたんだ……? 魔王と戦う時の為に。全部、全部、隠してたんだ?
こればっかりは、仕方ないよね。だから、怒る気は全くなかった。寧ろ。
「私達、会うべくして、会ったんだね。なんか、凄く、嬉しい」
「ほんと? そう言ってくれると、ミアも嬉しい。御主人様、大好きだもん」
「そ、っか。ありがとう」
「ううん。御主人様が、ミアの事、愛してるって言ってくれたから。絶対大丈夫だって、思えた。だから、ミア、本当の姿、出せたんだよ」
キュッと抱きしめられた。なんか、新鮮だな。でも、間違いなく、ミアだ。香りが、温度が。間違いないと、教えてくれる。
手を握って、魔王を見る。非常に楽しそうな顔をし、扇をパタパタと振っていた。
「良いわ、楽しくなってきたじゃない? ふふっ、せいぜい私を楽しませなさい!」
魔王は楽しそうに両手を広げた。扇の下の顔は、戦争中のレアと同じ。悪魔みたいな、楽しそうな顔。
よし……。魔王の相手は、私達でやろう。だから。
(レア、合図を)
「畏まりました」
レアの高い指笛が響く。これが、合図。分かれて戦うという合図だ。
もしかしたら、みんな一緒に戦うより、別々の方がいいかもしれない、と考えていた私達は、魔王たちが来る前に戦う相手を割り振っておいたのだ。と言うか、誰と一緒に、誰を相手に戦いたいのか希望を取ったところ、綺麗に分かれたのだ。しかも、見事に私の予想通りの結果。みんな、考えてる事は一緒なのかな。そうだったら、嬉しい。
すぐに分かれるのかと思ったら、みんなは一度私の傍に来た。そう、みんな。ルージュのみんなと、ノーラ達。顔を見合わせて、頷く。此処からが勝負だ。
「危ない事は、しないで良いよ。まずは、生きて帰る事を優先」
「うん」
「助けは、求めて良いよ。無理だと思ったら、すぐに」
「うん」
「じゃあ……。行こう!」
「絶対勝つよ!」
その声で。私達は、ばらばらに敵に向かって行く。大丈夫、私達は強いから、負けるはずなんてない!
ミアの手をもう一度強く握ってから、離す。私達の相手は、魔王だよ!
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