赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~
第74話 魔王城攻略6
「え……。リアナ……?」
ラザールお兄様の言葉に、みんなは驚いたように声を溢す。魔王はニヤリと口元を歪めると、右手で赤い扇を持ち、口元を隠す。
「ルージュのみなさん、いらっしゃい。私が魔王よ」
「ち、が……、ちょっと、待ってよ! ねえ、これ、どういうことなの?!」
ごめんなさい、ラザールお兄様。何度も挑戦した。でも、私の口からは、言えなかったの。だけど、やっぱり、言うべきだったね、ごめんなさい……。
玉座に座るのは、私と同じ、クリーム色の髪をした女の子。私との違いは、真っ赤なドレスを纏っている事と、瞳が赤い事くらい。私と魔王は、髪の色も、顔も、そして、魔力もよく似ている。
ラザールお兄様は私を見て説明を求める様な顔をする。でも……。やっぱり私からは、言えないよ。
「ラザール、貴方、久しぶりね……。随分大きくなっちゃって。一瞬誰かと思ったわ」
「ねえ、リアナ、どういう、こと?」
「私、リアナじゃないもの……。リアナなんて、もともと存在しないわ」
「あ、あのさ、嘘だよね、これ全部、嘘だよね?!」
「さぁ? どれの事を仰っているのやら」
そう、魔王っていうのは、リアナだったの。リアナは、二つの人格を持って生まれた。本当のリアナの人格と、魔王の人格を持って。掟通り、殺さなくちゃいけない存在だったのに、此処まで育ってしまった、存在してはいけないはずの人物。
彼女はある程度大きくなり力を持つと、リアナの人格を殺し、新たな体を作り出し、遠い魔王城まで戻ってきた。そして、此処で力を溜め、戦闘の準備をしていた。
ラザールお兄様が目撃したあれは、リアナの人格を殺していたの。相手は、魔王の手下。魔王の人格に呼ばれ、手伝いをしていたのだ。リアナを殺し、新たな体を作り、魔王城まで帰る、手伝いを。
魔王はその事を今、淡々と告げた。ラザールお兄様は「嘘だ」と呟きながら私を見る。ごめんなさい、否定、出来ないよ。全部、本当の事だから。
「なんで、なんで、リアナは、その事を、隠してたの……? 教えてくれたら、もっと何か、出来たかもしれないのに!」
「馬鹿ね……。巻き込みたく、なかったのよ」
「っ! リアナ……」
言ってから、魔王は驚いたように少し瞳を大きくした。でも、それも一瞬の事で。笑みを浮かべると、ミリアムにそっと視線を送る。
その視線を受け止めると、ミリアムは何かの呪文を唱え始める。詠唱が進んでいくと、部屋に、沢山の光が集まってくるのが分かった。一体、何の呪文?
光の中で、影が動いた。中に、誰かいる? 光が消えた時、その正体が露わになると、私達は更に驚いた。そんなはず……。
だって、其処に居たのは、此処に来るまでに倒した女の子たちだったから。
「まぁ、こんなところですか?」
「ええ。ミリアム、上手いわね。みんな、大丈夫だった?」
「もちろん」
仕組みなんて考えてる場合じゃない。この全員を倒さなくちゃいけないし、それ以前に、ラザールお兄様を何とかしないと。どうしたら……。
何となく顔を上げると、魔王と視線があった。彼女はそっと目を細め、ラザールお兄様に視線を送る。先に、なんとかしてって? ど、どうしよう……。
しゃがみこんでしまったラザールお兄様に近づく。下向いてるから、顔が見えない。目線を合わせようと、私もしゃがんで、声を掛ける。
「ラ、ラザール、お兄様」
「リーナちゃん、なんで教えてくれなかったんだよ……!」
「ごめんな、さい、ごめんなさい……!」
ラザールお兄様、泣いてたから。胸がずきりと痛んだ。その痛みに気付いた途端……。涙が零れてしまって。でも、私が泣いちゃ駄目だ。ラザールお兄様を元気づけられるのは、私だけ。
きつく目を瞑って、開く。まだ視界が霞むけど、大丈夫。もう泣かない。
「ごめんなさい、ラザールお兄様の事、大好きです。だから、言えなかった」
「……?」
「リアナの事、大切にしてたらしいから。魔王だなんて知ったら、おかしくなっちゃうんじゃないか、って。そう思ったら、怖くなって、どうしても、言いだせなくなっちゃった……」
「リーナちゃん……」
「でも、結局こうなるなら、やっぱり、先に言えば良かった」
「そ、そんな事!」
勢いよく立ちあがるラザールお兄様。私も立ち上がると、ギュッと抱きしめられた。落ちつく香り。ラザールお兄様の香り。
「ごめんね、責めるつもりじゃ、なかった。……いや、さっきのは、責めるつもりで、言った」
「……はい」
「リーナちゃん、僕の事、考えてくれたのにね、ごめん」
その瞳は、笑っていた。なんで、笑えるの。ラザールお兄様は、本当に、強い。私は、本当の事を知った時、一晩中泣き明かしたというのに。何故、ラザールお兄様は、こんなにもすぐ、笑えるの? ……無理してるんじゃないと良いんだけど。
私を離したラザールお兄様の目は、決意で満ち溢れていた。必ず、魔王を倒すと。
私はラザールお兄様の手を握る。かつて、ユリアがやってくれた時みたいに。私の思い、届いてるかな。
「ふふ……。あぁ、忘れていたわ。みんな、自己紹介をしてあげて」
「御意」
まず最初に、一番最初にじゃんけんをした猫獣人の女の子が、私達の前に来て一礼をする。
「私、ベリンダです! 魔王城の門番を務めてきました~」
ベリンダはニヤッと笑うと、スカートの端を摘んでお辞儀をする。終わると、すぐに魔王の近くに飛んで行った。それを見て、魔王が目を細める。なるほど、可愛がられてるっていうのは本当だったんだね。
「オリヴィアと申します。家事全般を担当しているメイドです」
短いスカートをはいた、あの、銃を使ってたメイド。髪は赤みがかった銀髪だった。家事全般って、ミリアムは何やってるんだろうね?
「ええとぉ、キャサリンです。魔王の服選びとか化粧なんかを担当してます」
髪に沢山飾りをつけた女の子。パッとお辞儀をすると、スカートを翻しながら後ろへ下がって行った。こういう場は苦手なんだろう。魔王に「大丈夫よ」なんて言われてた。
「レイチェル。書庫を、管理してる」
ゴスロリの女の子だ。長い前髪の下の、真っ白な肌が、ほんの少し赤く染まっている。人見知り? 書庫の管理、か。確かに、静かに読書、とか似合いそうだね。
「えと、グロリアです。庭師なんですけれど、まあ、他にも色々やってます」
ピンクのリボンが可愛い銀髪の女の子。庭師って、剣使うの? 使わないよね? もしかして、庭が広すぎると剣を使うようになるの? 違うよね。
「それから、わたくし、ミリアムです。魔王の専属メイドです」
専属メイド、ああ、そういう……。いや、アンジェラさんは家事も侍女長も私の専属侍女までこなそうとしてた。今はアリスだけど。やろうと思えば全部できない? それとも、魔王がいつも我が儘言ってるとか?
「それから、私が魔王。レティスよ。一番最初に、私が貰った名前。それがレティスなの。宜しく」
魔王はすっと立ち上がると、長いドレスの裾を持ち、優雅に一礼した。フランセット女王様を思い出させる。
「さて、全て終わったし、戦いましょうか。折角数を合わせたのだし」
「え……?」
「あら、気付いていなかったの? 私も含めて、七人。合わせておいたのよ」
あ、ほんとだ……。そう、だったんだ。やっぱり、変に真面目だ。元々とても賢く正しい人だったらしいし、そういうところ、残ってるのかな。
「一つ、良い?」
「あら、リーナ、何かしら?」
「この城……、壊して良い?」
「あら……。どうぞ?」
じゃあ、さっさと壊してみんなで戦おう。多分、下にはノーラ、ミルヴィナ・ミネルヴァ姉妹、ジェラルドさん、ドロシーさん、シルヴェストルくん達がいるはず。合流すれば、なんとか……。正直、みんな強いから、私達だけで勝てるか怪しいんだ。
(エリュシオン。今日は、エリュじゃなくて、エリュシオンで来て)
「了解にゃ!」
やっぱり、お城の解体には炎が一番!
「みんな、気をつけてね!」
叫びながら、心の中でもう一人呼ぶ。
(アルシエル、お願い!)
「はい!」
お城が燃える。ボロボロと崩れていく中、私達はアルシエルのキラキラと光る体に飛び込んだ。
ラザールお兄様の言葉に、みんなは驚いたように声を溢す。魔王はニヤリと口元を歪めると、右手で赤い扇を持ち、口元を隠す。
「ルージュのみなさん、いらっしゃい。私が魔王よ」
「ち、が……、ちょっと、待ってよ! ねえ、これ、どういうことなの?!」
ごめんなさい、ラザールお兄様。何度も挑戦した。でも、私の口からは、言えなかったの。だけど、やっぱり、言うべきだったね、ごめんなさい……。
玉座に座るのは、私と同じ、クリーム色の髪をした女の子。私との違いは、真っ赤なドレスを纏っている事と、瞳が赤い事くらい。私と魔王は、髪の色も、顔も、そして、魔力もよく似ている。
ラザールお兄様は私を見て説明を求める様な顔をする。でも……。やっぱり私からは、言えないよ。
「ラザール、貴方、久しぶりね……。随分大きくなっちゃって。一瞬誰かと思ったわ」
「ねえ、リアナ、どういう、こと?」
「私、リアナじゃないもの……。リアナなんて、もともと存在しないわ」
「あ、あのさ、嘘だよね、これ全部、嘘だよね?!」
「さぁ? どれの事を仰っているのやら」
そう、魔王っていうのは、リアナだったの。リアナは、二つの人格を持って生まれた。本当のリアナの人格と、魔王の人格を持って。掟通り、殺さなくちゃいけない存在だったのに、此処まで育ってしまった、存在してはいけないはずの人物。
彼女はある程度大きくなり力を持つと、リアナの人格を殺し、新たな体を作り出し、遠い魔王城まで戻ってきた。そして、此処で力を溜め、戦闘の準備をしていた。
ラザールお兄様が目撃したあれは、リアナの人格を殺していたの。相手は、魔王の手下。魔王の人格に呼ばれ、手伝いをしていたのだ。リアナを殺し、新たな体を作り、魔王城まで帰る、手伝いを。
魔王はその事を今、淡々と告げた。ラザールお兄様は「嘘だ」と呟きながら私を見る。ごめんなさい、否定、出来ないよ。全部、本当の事だから。
「なんで、なんで、リアナは、その事を、隠してたの……? 教えてくれたら、もっと何か、出来たかもしれないのに!」
「馬鹿ね……。巻き込みたく、なかったのよ」
「っ! リアナ……」
言ってから、魔王は驚いたように少し瞳を大きくした。でも、それも一瞬の事で。笑みを浮かべると、ミリアムにそっと視線を送る。
その視線を受け止めると、ミリアムは何かの呪文を唱え始める。詠唱が進んでいくと、部屋に、沢山の光が集まってくるのが分かった。一体、何の呪文?
光の中で、影が動いた。中に、誰かいる? 光が消えた時、その正体が露わになると、私達は更に驚いた。そんなはず……。
だって、其処に居たのは、此処に来るまでに倒した女の子たちだったから。
「まぁ、こんなところですか?」
「ええ。ミリアム、上手いわね。みんな、大丈夫だった?」
「もちろん」
仕組みなんて考えてる場合じゃない。この全員を倒さなくちゃいけないし、それ以前に、ラザールお兄様を何とかしないと。どうしたら……。
何となく顔を上げると、魔王と視線があった。彼女はそっと目を細め、ラザールお兄様に視線を送る。先に、なんとかしてって? ど、どうしよう……。
しゃがみこんでしまったラザールお兄様に近づく。下向いてるから、顔が見えない。目線を合わせようと、私もしゃがんで、声を掛ける。
「ラ、ラザール、お兄様」
「リーナちゃん、なんで教えてくれなかったんだよ……!」
「ごめんな、さい、ごめんなさい……!」
ラザールお兄様、泣いてたから。胸がずきりと痛んだ。その痛みに気付いた途端……。涙が零れてしまって。でも、私が泣いちゃ駄目だ。ラザールお兄様を元気づけられるのは、私だけ。
きつく目を瞑って、開く。まだ視界が霞むけど、大丈夫。もう泣かない。
「ごめんなさい、ラザールお兄様の事、大好きです。だから、言えなかった」
「……?」
「リアナの事、大切にしてたらしいから。魔王だなんて知ったら、おかしくなっちゃうんじゃないか、って。そう思ったら、怖くなって、どうしても、言いだせなくなっちゃった……」
「リーナちゃん……」
「でも、結局こうなるなら、やっぱり、先に言えば良かった」
「そ、そんな事!」
勢いよく立ちあがるラザールお兄様。私も立ち上がると、ギュッと抱きしめられた。落ちつく香り。ラザールお兄様の香り。
「ごめんね、責めるつもりじゃ、なかった。……いや、さっきのは、責めるつもりで、言った」
「……はい」
「リーナちゃん、僕の事、考えてくれたのにね、ごめん」
その瞳は、笑っていた。なんで、笑えるの。ラザールお兄様は、本当に、強い。私は、本当の事を知った時、一晩中泣き明かしたというのに。何故、ラザールお兄様は、こんなにもすぐ、笑えるの? ……無理してるんじゃないと良いんだけど。
私を離したラザールお兄様の目は、決意で満ち溢れていた。必ず、魔王を倒すと。
私はラザールお兄様の手を握る。かつて、ユリアがやってくれた時みたいに。私の思い、届いてるかな。
「ふふ……。あぁ、忘れていたわ。みんな、自己紹介をしてあげて」
「御意」
まず最初に、一番最初にじゃんけんをした猫獣人の女の子が、私達の前に来て一礼をする。
「私、ベリンダです! 魔王城の門番を務めてきました~」
ベリンダはニヤッと笑うと、スカートの端を摘んでお辞儀をする。終わると、すぐに魔王の近くに飛んで行った。それを見て、魔王が目を細める。なるほど、可愛がられてるっていうのは本当だったんだね。
「オリヴィアと申します。家事全般を担当しているメイドです」
短いスカートをはいた、あの、銃を使ってたメイド。髪は赤みがかった銀髪だった。家事全般って、ミリアムは何やってるんだろうね?
「ええとぉ、キャサリンです。魔王の服選びとか化粧なんかを担当してます」
髪に沢山飾りをつけた女の子。パッとお辞儀をすると、スカートを翻しながら後ろへ下がって行った。こういう場は苦手なんだろう。魔王に「大丈夫よ」なんて言われてた。
「レイチェル。書庫を、管理してる」
ゴスロリの女の子だ。長い前髪の下の、真っ白な肌が、ほんの少し赤く染まっている。人見知り? 書庫の管理、か。確かに、静かに読書、とか似合いそうだね。
「えと、グロリアです。庭師なんですけれど、まあ、他にも色々やってます」
ピンクのリボンが可愛い銀髪の女の子。庭師って、剣使うの? 使わないよね? もしかして、庭が広すぎると剣を使うようになるの? 違うよね。
「それから、わたくし、ミリアムです。魔王の専属メイドです」
専属メイド、ああ、そういう……。いや、アンジェラさんは家事も侍女長も私の専属侍女までこなそうとしてた。今はアリスだけど。やろうと思えば全部できない? それとも、魔王がいつも我が儘言ってるとか?
「それから、私が魔王。レティスよ。一番最初に、私が貰った名前。それがレティスなの。宜しく」
魔王はすっと立ち上がると、長いドレスの裾を持ち、優雅に一礼した。フランセット女王様を思い出させる。
「さて、全て終わったし、戦いましょうか。折角数を合わせたのだし」
「え……?」
「あら、気付いていなかったの? 私も含めて、七人。合わせておいたのよ」
あ、ほんとだ……。そう、だったんだ。やっぱり、変に真面目だ。元々とても賢く正しい人だったらしいし、そういうところ、残ってるのかな。
「一つ、良い?」
「あら、リーナ、何かしら?」
「この城……、壊して良い?」
「あら……。どうぞ?」
じゃあ、さっさと壊してみんなで戦おう。多分、下にはノーラ、ミルヴィナ・ミネルヴァ姉妹、ジェラルドさん、ドロシーさん、シルヴェストルくん達がいるはず。合流すれば、なんとか……。正直、みんな強いから、私達だけで勝てるか怪しいんだ。
(エリュシオン。今日は、エリュじゃなくて、エリュシオンで来て)
「了解にゃ!」
やっぱり、お城の解体には炎が一番!
「みんな、気をつけてね!」
叫びながら、心の中でもう一人呼ぶ。
(アルシエル、お願い!)
「はい!」
お城が燃える。ボロボロと崩れていく中、私達はアルシエルのキラキラと光る体に飛び込んだ。
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