赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~
第71話 魔王城攻略3
レアがカタナの剣を拭きとり、鞘に収める。その、カチャリ、という音がした途端、正面の扉が開いた。
また階段だった。今度は全体的に黒いけど。上には綺麗なシャンデリアが吊り下げられている。此処だけみれば、綺麗なゴシック調のお城って感じがする。
「今、何時か分かる?」
「え? えっと……」
「二時半くらいだと思いますが」
ベルさんが私の耳元で囁いた。私がレアを見ると、静かな笑みを湛えたまま答えてくれた。
ベルさんの方に目を戻すと、ふぅん、と小さく呟く。
「じゃ、もう一、二戦で、夕食ってかんじか」
「あ、時間的にはそうですね」
「もう、嫌に親切だよね。なにがしたいんだか」
軽く笑みを浮かべる。まあ、その点は私の同感。此処までする必要ってある? 魔王様、何考えてるんだろう。
あ、そういえば、あの事、みんなには話してなかったや。まあ、言わない方が、良いかな。
階段、随分長かった。次の階にはやっぱり部屋があった。ゴシック調のおしゃれな部屋だ。全体的に黒で、紫色の絨毯が引かれている。天井には黒いシャンデリア。紫色の光を放っている。
部屋はさっきまでと比べるとだいぶ狭い。これ、みんなで動いたら危ないな。
其処に立っているのは……。
「いらっしゃいませ、御譲様の館へ」
ゴスロリの服を着た女の子。髪は綺麗な長い黒髪。頭には小さな帽子、服は白いフリルと黒いリボンがが沢山付いた黒っぽい服、背中にはマント、肌が見えるか見えないかくらいの長い靴下に、ヒールのある黒いパンプス。前髪は長くて、目を覆ってしまいそうな長さだ。
どう見ても、戦うような恰好じゃないよね。まあ、私も人の事言えないんだけどさ。ともかく。真っ赤な瞳で私達の事を睨んでいる彼女は、格好とは反して殺る気らしい。
「御譲様に、言われてる。此処は、通さないつもりで戦えと」
二十センチほどの小さな杖を構える。先から一瞬、強い光が放たれる。これは……。相当強い魔術師の様だ。必殺技……。はまだいいけど。でも、彼女はそろそろ使わないとかな? 此方を向いたレアに、そっと頷きを返す。レアも静かに頷いた。了解ってことだね。
(リア)
「うん、わかった」
今までは召喚していなかったリア。理由は簡単、消耗を抑える為。元々、いつもリアはあんまり召喚していない。元々実態が無かったからか、他の子よりだいぶ魔力を使うんだ。でも、攻撃力は抜群、そろそろ一緒に戦おう。
リアの手をキュッと握ると、いつも無表情のリアが、ほんの少しだけ、笑ってくれた。私が驚いている間に、リアは走って進んでいく。レアの隣に並ぶと、顔を見合わせて、頷く。
「いざ、勝負」
ゴスロリの女の子の声で、戦いは開始された。
先に動いたのは向こうだった。が、レアとリアは全く動じずその場に立ったまま。攻撃が当たる直前で、レアは一気に剣を引き抜く。が、舞ったのは真っ黒な髪だけ。女の子の髪のよう。レアの剣が避けきれなかったのだろう。でも。
(あの距離で、あの速度。それを避けた? 随分強いんだね)
「ええ。リーナ様。必殺技を使うつもりはありませんが、魔力、少し頂きます」
(いいよ、大丈夫)
ほんの少しだけ、魔力を抜き取られた。とても、控えめに。そんなに気にしないでも良いのに。結構魔力量が増えたから、もっと取って行っても問題は全くない。のに、もう、レアは……。全く、そういうところ、とても可愛い。
「リア、良いですね?」
「うん。いいよ」
レアがカタナを、リアが杖を構える。ちょっと顔を見合わせて頷くと、同時に武器に魔力を纏わせた。真っ赤な魔力。私と同じ魔力だ。
レアにとって、カタナはただの飾りで、実際攻撃するのは魔力。リアも同じく、杖は魔力を具現化する補助をする為のもので、実際は纏わせた魔力で攻撃。二人の攻撃方法は、全然違って見えるのに、とてもよく似てる。
ゴスロリの女の子も、杖に魔力を纏わせてるから、同じようなもの。これは……。誰が一番上手いのかな? 戦法が同じだと、相性が無い分細かい技能の違いで生死が決まる。レアもリアも、相当戦い慣れてて強いけど、あの子はどうなんだろう?
レアが大きく踏み込む。レアは跳ぶ、と言うより飛ぶ。それくらい高く跳べるし、空中での体勢移動が上手い。楽しそうに口元を歪めると、ゴスロリの女の子目掛けて落ちていく。
女の子が避けようと後ろに下がるけれど、其処にはリアが居た。微笑を浮かべたリアは、小さく杖を振る。杖の先から魔法が飛び出る。
「え!」
リアの魔法を素早くバリア魔法で防ぎ、リアを蹴飛ばしてレアを避ける。リアは部屋の端まで飛ばされ、壁にぶつかって止まった。すぐ立ち上がったけれど、足元がふらついている。無理しない方が……。
「大丈夫。これくらい、なんてことない」
(でも)
「平気だよ。だから、レアを」
(え?)
ガシャン、と大きな音がする。一気に明かりは消え、上から紫色のガラスが降ってくる。シャンデリアが割れたのだ。という事は。
地面に転がされたレア。服は切れ、赤く染まっている。ガラスで切ったんだろう。細かいガラスが入っていなければいいけれど……。大丈夫かな。
(ミア)
「うん。……大丈夫そう。治癒魔法、掛けるね」
(お願い)
私の隣にいたミアが治癒魔法を掛ける。リアが壁にぶつかる時やレアが落下する時、バリア魔法で衝撃を和らげていたのは、間違いない、ミアだ。それでも、あのダメージ。ミアが居なかったら、うっかりしたら、死んでいたかもしれない。
私の目でも見て分かる。レアとリア、押されてる。二対一で、しかも、二人だってとても強いのに。あの子、どれだけ強いの……? ミアは戦場から目を離さない。ときどきバリア魔法や治癒魔法を使う。でも、その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。
そう、これは、見ていて辛いものだ。一方的に攻められている二人は、蹴られたり、魔力で攻撃されたり、何度も攻撃を受けている。二人の痛みに耐えるような表情、もう、みたくない。でも、戦場から目を離すことなんて出来るはずがない。ちょっと目を離しただけで、二人が、死んでしまうような、そんな気がして。
と、そっとユリアが隣に来て、私の手を握る。私も、酷い顔、してるのかもしれない。
(ミア)
「なぁに?」
(誰か、呼んだ方が良いかな)
「ん……。そうだね。でも、誰にする?」
(ネージュ)
「うん、ネー……、え?!」
人型になれないネージュは、この狭い部屋では動き辛いだろう。分かってる。でも、他の子だと、もっと大変なことになる。魔法の規模が大きいから。となると、ネージュくらいしかいない。
現れたネージュは、その状況を見て一瞬戸惑った。けど、すぐに二人の援護に入る。状況判断が早い。
けど、やっぱり大きな体が邪魔みたい。部屋はせまいし、的は大きくなる。その上戦いに入りにくいみたいで、何度か入れず慌ててた。やっぱ駄目か。帰した方がいいかも。
「待って!」
(……、え? 今、誰の声?)
「え? 聞いた事な……、あ!」
ミアの声で、前を見る。ネージュの体がキラキラと光っている。見ていたのは、私達だけじゃなかった。ルージュもみんなも、それどころか、レアも、リアも、女の子も。みんなが、ネージュを見ていた。
光の中に、女の子のシルエットが見えた。シルエットが大きく手を広げると、パッと光が消え去った。そして、其処に残されたのは……。
「私も、戦う! だから、リーナ様、諦めないで!」
(ネ、ネージュ……?)
「そうです」
はっとするような綺麗な銀髪。小さな耳と、二股の尻尾。確かに、ネージュだ。柔かそうなワンピースを着ている。両手には爪が持たれている。青い瞳が前を見る。吸い込まれそうなほど澄んだ瞳は、走りだす一瞬前、スッと歪められた。
速い。レアよりも、ずっと。手に持つ爪を振り下ろす。女の子の杖が斬れた。その間に、レアが後ろに回り込んでいた。
「はぁ、はぁ……。ネージュ、助けてくれて、ありがとう」
「いえいえ。レアたちが危なかったものですから、私、頑張っちゃいました」
にこりと優雅に微笑む。
「それから、私の名前。ユルティにして下さい」
「ユル、ティ?」
「ええ。昔の名です。リーナ様がそう呼んでくれたら、私、もっと頑張れます」
「わかった。ユルティ」
「ありがとうございます」
ネージュ、ではなくユルティは、嬉しそうに頬を緩めると、美しい動きで礼をした。凄く、洗礼された動きだ。
ユルティは右足を軽く引くと、くるりと百八十五回転する。と、音を立てて扉が開いた。
「さぁ、行きましょう?」
ユルティはそういうと、私に向けて右手を差し出した。
また階段だった。今度は全体的に黒いけど。上には綺麗なシャンデリアが吊り下げられている。此処だけみれば、綺麗なゴシック調のお城って感じがする。
「今、何時か分かる?」
「え? えっと……」
「二時半くらいだと思いますが」
ベルさんが私の耳元で囁いた。私がレアを見ると、静かな笑みを湛えたまま答えてくれた。
ベルさんの方に目を戻すと、ふぅん、と小さく呟く。
「じゃ、もう一、二戦で、夕食ってかんじか」
「あ、時間的にはそうですね」
「もう、嫌に親切だよね。なにがしたいんだか」
軽く笑みを浮かべる。まあ、その点は私の同感。此処までする必要ってある? 魔王様、何考えてるんだろう。
あ、そういえば、あの事、みんなには話してなかったや。まあ、言わない方が、良いかな。
階段、随分長かった。次の階にはやっぱり部屋があった。ゴシック調のおしゃれな部屋だ。全体的に黒で、紫色の絨毯が引かれている。天井には黒いシャンデリア。紫色の光を放っている。
部屋はさっきまでと比べるとだいぶ狭い。これ、みんなで動いたら危ないな。
其処に立っているのは……。
「いらっしゃいませ、御譲様の館へ」
ゴスロリの服を着た女の子。髪は綺麗な長い黒髪。頭には小さな帽子、服は白いフリルと黒いリボンがが沢山付いた黒っぽい服、背中にはマント、肌が見えるか見えないかくらいの長い靴下に、ヒールのある黒いパンプス。前髪は長くて、目を覆ってしまいそうな長さだ。
どう見ても、戦うような恰好じゃないよね。まあ、私も人の事言えないんだけどさ。ともかく。真っ赤な瞳で私達の事を睨んでいる彼女は、格好とは反して殺る気らしい。
「御譲様に、言われてる。此処は、通さないつもりで戦えと」
二十センチほどの小さな杖を構える。先から一瞬、強い光が放たれる。これは……。相当強い魔術師の様だ。必殺技……。はまだいいけど。でも、彼女はそろそろ使わないとかな? 此方を向いたレアに、そっと頷きを返す。レアも静かに頷いた。了解ってことだね。
(リア)
「うん、わかった」
今までは召喚していなかったリア。理由は簡単、消耗を抑える為。元々、いつもリアはあんまり召喚していない。元々実態が無かったからか、他の子よりだいぶ魔力を使うんだ。でも、攻撃力は抜群、そろそろ一緒に戦おう。
リアの手をキュッと握ると、いつも無表情のリアが、ほんの少しだけ、笑ってくれた。私が驚いている間に、リアは走って進んでいく。レアの隣に並ぶと、顔を見合わせて、頷く。
「いざ、勝負」
ゴスロリの女の子の声で、戦いは開始された。
先に動いたのは向こうだった。が、レアとリアは全く動じずその場に立ったまま。攻撃が当たる直前で、レアは一気に剣を引き抜く。が、舞ったのは真っ黒な髪だけ。女の子の髪のよう。レアの剣が避けきれなかったのだろう。でも。
(あの距離で、あの速度。それを避けた? 随分強いんだね)
「ええ。リーナ様。必殺技を使うつもりはありませんが、魔力、少し頂きます」
(いいよ、大丈夫)
ほんの少しだけ、魔力を抜き取られた。とても、控えめに。そんなに気にしないでも良いのに。結構魔力量が増えたから、もっと取って行っても問題は全くない。のに、もう、レアは……。全く、そういうところ、とても可愛い。
「リア、良いですね?」
「うん。いいよ」
レアがカタナを、リアが杖を構える。ちょっと顔を見合わせて頷くと、同時に武器に魔力を纏わせた。真っ赤な魔力。私と同じ魔力だ。
レアにとって、カタナはただの飾りで、実際攻撃するのは魔力。リアも同じく、杖は魔力を具現化する補助をする為のもので、実際は纏わせた魔力で攻撃。二人の攻撃方法は、全然違って見えるのに、とてもよく似てる。
ゴスロリの女の子も、杖に魔力を纏わせてるから、同じようなもの。これは……。誰が一番上手いのかな? 戦法が同じだと、相性が無い分細かい技能の違いで生死が決まる。レアもリアも、相当戦い慣れてて強いけど、あの子はどうなんだろう?
レアが大きく踏み込む。レアは跳ぶ、と言うより飛ぶ。それくらい高く跳べるし、空中での体勢移動が上手い。楽しそうに口元を歪めると、ゴスロリの女の子目掛けて落ちていく。
女の子が避けようと後ろに下がるけれど、其処にはリアが居た。微笑を浮かべたリアは、小さく杖を振る。杖の先から魔法が飛び出る。
「え!」
リアの魔法を素早くバリア魔法で防ぎ、リアを蹴飛ばしてレアを避ける。リアは部屋の端まで飛ばされ、壁にぶつかって止まった。すぐ立ち上がったけれど、足元がふらついている。無理しない方が……。
「大丈夫。これくらい、なんてことない」
(でも)
「平気だよ。だから、レアを」
(え?)
ガシャン、と大きな音がする。一気に明かりは消え、上から紫色のガラスが降ってくる。シャンデリアが割れたのだ。という事は。
地面に転がされたレア。服は切れ、赤く染まっている。ガラスで切ったんだろう。細かいガラスが入っていなければいいけれど……。大丈夫かな。
(ミア)
「うん。……大丈夫そう。治癒魔法、掛けるね」
(お願い)
私の隣にいたミアが治癒魔法を掛ける。リアが壁にぶつかる時やレアが落下する時、バリア魔法で衝撃を和らげていたのは、間違いない、ミアだ。それでも、あのダメージ。ミアが居なかったら、うっかりしたら、死んでいたかもしれない。
私の目でも見て分かる。レアとリア、押されてる。二対一で、しかも、二人だってとても強いのに。あの子、どれだけ強いの……? ミアは戦場から目を離さない。ときどきバリア魔法や治癒魔法を使う。でも、その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。
そう、これは、見ていて辛いものだ。一方的に攻められている二人は、蹴られたり、魔力で攻撃されたり、何度も攻撃を受けている。二人の痛みに耐えるような表情、もう、みたくない。でも、戦場から目を離すことなんて出来るはずがない。ちょっと目を離しただけで、二人が、死んでしまうような、そんな気がして。
と、そっとユリアが隣に来て、私の手を握る。私も、酷い顔、してるのかもしれない。
(ミア)
「なぁに?」
(誰か、呼んだ方が良いかな)
「ん……。そうだね。でも、誰にする?」
(ネージュ)
「うん、ネー……、え?!」
人型になれないネージュは、この狭い部屋では動き辛いだろう。分かってる。でも、他の子だと、もっと大変なことになる。魔法の規模が大きいから。となると、ネージュくらいしかいない。
現れたネージュは、その状況を見て一瞬戸惑った。けど、すぐに二人の援護に入る。状況判断が早い。
けど、やっぱり大きな体が邪魔みたい。部屋はせまいし、的は大きくなる。その上戦いに入りにくいみたいで、何度か入れず慌ててた。やっぱ駄目か。帰した方がいいかも。
「待って!」
(……、え? 今、誰の声?)
「え? 聞いた事な……、あ!」
ミアの声で、前を見る。ネージュの体がキラキラと光っている。見ていたのは、私達だけじゃなかった。ルージュもみんなも、それどころか、レアも、リアも、女の子も。みんなが、ネージュを見ていた。
光の中に、女の子のシルエットが見えた。シルエットが大きく手を広げると、パッと光が消え去った。そして、其処に残されたのは……。
「私も、戦う! だから、リーナ様、諦めないで!」
(ネ、ネージュ……?)
「そうです」
はっとするような綺麗な銀髪。小さな耳と、二股の尻尾。確かに、ネージュだ。柔かそうなワンピースを着ている。両手には爪が持たれている。青い瞳が前を見る。吸い込まれそうなほど澄んだ瞳は、走りだす一瞬前、スッと歪められた。
速い。レアよりも、ずっと。手に持つ爪を振り下ろす。女の子の杖が斬れた。その間に、レアが後ろに回り込んでいた。
「はぁ、はぁ……。ネージュ、助けてくれて、ありがとう」
「いえいえ。レアたちが危なかったものですから、私、頑張っちゃいました」
にこりと優雅に微笑む。
「それから、私の名前。ユルティにして下さい」
「ユル、ティ?」
「ええ。昔の名です。リーナ様がそう呼んでくれたら、私、もっと頑張れます」
「わかった。ユルティ」
「ありがとうございます」
ネージュ、ではなくユルティは、嬉しそうに頬を緩めると、美しい動きで礼をした。凄く、洗礼された動きだ。
ユルティは右足を軽く引くと、くるりと百八十五回転する。と、音を立てて扉が開いた。
「さぁ、行きましょう?」
ユルティはそういうと、私に向けて右手を差し出した。
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