赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~

鏡田りりか

第70話  魔王城攻略2

 彼女の開けた扉を通る。次の部屋は、またまた暗く、赤っぽい。重々しい音とともに扉が閉まる。部屋の大きさは、あんまり広くない。ただ、薄暗くてよく見えない。誰かいるみたいなんだけど……。
 パッと赤い電気が付く。良く見える、というほどではないけれど、その状況が分かってくる。


「おや、御譲様のお客さんですか?」
「え? あ……」


 くるりと振り返ったのはメイド服を着た女性。ミリアムと違って、スカートは短い。ついでに髪も短い。瞳の色は、やっぱり赤。髪は白っぽい。けど、赤い明かりのせいで、はっきりは分からない。
 彼女はそっと微笑むと、私達に銃を向けた。


「御譲様に、言われていましてね。お客様は、楽しませてくれ、と」
「っ!」
「ですから、本気でお相手して差し上げましょう。楽しんで下さい!」


 銃声が鳴り響く。けど、弾は誰にもあたることなく壁に刺さった。当然、私達が当たるはずない。誰にも怪我が無い事を確認すると、私達は戦闘態勢に入る。


(ミア、レア)
「「了解!」」


 くるくると回りながら、少女達は舞い降りる。
 これで全員揃った。私達は誰からともなく頷く。そこで。攻撃を開始する。


 まず最初、ミレとアンジェラさん。同時にメイドに襲い掛かる。
 ミレは下から。体勢を低くし、両手をクロスさせる。アンジェラさんは上から。剣を両手でしっかりと握り、大きく跳び上がる。
 ミレは剣を上に、アンジェラさんは下に。同時に剣を振る。が、それは空を切るだけ。そんなの、予想してたけど。


 飛んでくる弾はミレが弾く。鼻歌を歌いながら、素早くバリア魔法を発動させていく。
 ベルさんがメイドの後ろに姿を現す。手には、小さなナイフ。メイドはそれをするりと変わり、ベルさんに向けて銃を打つ。が、その前にベルさんは居なくなっていた。
 ユリアとラザールお兄様が同時に魔法の詠唱に入る。ユリアの魔法は鋭い氷柱つららが飛ぶもの。ラザールお兄様の魔法は、剣に赤い魔力を纏わせる魔法。
 剣を構えたラザールお兄様がメイドに向かう。大きな剣をものともせず、素早く振る。メイドは素早く銃を腿に付けたホルダーに仕舞い、バック転で避けた。身のこなしが軽い。


 次にメイドが銃を構えた時。さっきまでは1丁だったのに、今度は両手になっていて、二倍の弾が飛んでくる。銃って結構反動が来るのに、片手であんな簡単に打つなんて。


「手伝います」
「ありがとう、レアお姉ちゃん」


 レアはにこりと笑うと、カタナで弾を弾き始めた。やばい、ついてけない。
 ミレとアンジェラさん、ラザールお兄様はまだ剣を振っているけれど、全て軽くかわされている。けど。避けに専念し過ぎた。攻撃の手が止まってる。


「! えっへへー、いくよ!」


 手の空いたミアが楽しそうに笑う。呪文の詠唱を始めた。これ、もしかして……。


「ラザールさま、おねがーい!」


 バリア魔法だけど、味方は通り抜けられて、敵が通り抜けられないバリア魔法。閉じ込めちゃった。
 其処に、ラザールお兄様が剣を構えて走る。メイドは通れないけれど、ラザールお兄様は、通れるの。だから。


「きゃあっ!」


 鮮血が辺りに散る。カシャン、と。冷たく音が響く。メイドの銃が、地面に落ちた音。
 ラザールお兄様は、黙って剣の血を拭きとる。血の付いた剣を鞘に戻すと、メイドの近くにしゃがむ。


「ごめんね。でも、先、行かせて貰うよ」


 そう言った途端、音を立てて扉が開く。私達は顔を見合わせてから、扉の方へ足を進めた。






「あら、早かったわね。まだ昼食の時間じゃないのに」
「ミリアム」
「ええ、名前、覚えてくれて嬉しいわ」


 次の部屋は、普通に明るかった。さっきまで暗い所に居たから、目が眩む。
 で、目が慣れてから見てみれば、大きなテーブルがあり、ミリアムがせっせと配膳をしているのだった。意味が分からない。


「だから、魔王様はあなたたちを『招いた』の。食事くらい出すわ」
「へぇ……。この調子だと、魔王のところに着くまでの時間も決まっていそうね」
「まあね。さ、食事の準備が整うまで、悪いけど、ちょっと待っていてくれる?」


 そうして、私達は椅子に座って食事の準備が整うのをじっと待っている事になった。まさか、魔王城で食事が出るなんて。想像した事も無い。
 訳も分からず座っていると、案外出されたのは普通の食事だった。


「……、毒物の類は、なさそうです」
「あら、信用してくれてなかったの? まあ、そりゃそうか」


 レアが鑑定すると、ミリアムはにこりと微笑んだ顔を崩さずにそういう。レアの機嫌は少し悪い。
 なんでかな、と考えてみる。ミリアムの、この、のらりくらりとした感じが、苦手、か、イライラしてるか。後者かな。
 はっきりしてる方が分かりやすくて良いんだろう。こういう感じ、いかにも嫌いそうだし、面倒に思ってそう。


「ん、普通に美味しい」
「あ、ほんとだ」


 ミレの言葉に、みんなも食べ始めた。確かに美味しい。ミリアムはにこっという笑顔を崩さずに「ありがとうございます」と言った。レアがますます嫌そうな顔をする。な、なんだろう?
 食べ終わっても、ミリアムは部屋から出してくれなかった。時間が決まっているらしい。


「ん。時間になりました。では、行ってらっしゃいませ」


 ミリアムは恭しく頭を下げた。動きが綺麗だな。洗礼されてる。魔王の専属メイドに相応しいのって、こういう子なんだな。
 まあ、レアも普段の動きはとても綺麗だ。指先まで気を抜いていないというか、育ちが良さそうな感じがする。とても誇らしい。まあ、普段は、ね。


 扉の先は、階段だった。紫と赤の、半透明の板で出来た螺旋階段。下が見えてちょっと怖い。
 コツ、コツ、という音が響く。割とすぐに次の階に着いた。
 扉をあけ、部屋に入ると、其処はやっぱり暗かった。青っぽいライトが付いてる。
 床はさっきの階段のように、紫と赤のプレートが敷き詰められてる。壁は青い。さっきまでとはまた、随分と雰囲気が違うな。


「あ、いらっしゃーい」
「っ!」
「よーこそ、御譲の城へ」


 茶髪の女の子。瞳は想像通り、赤。ブレザー制服みたいな恰好をしてる。
 髪は頭の高い位置でポニーテール。派手な飾りが沢山付いてる。爪にはマニキュア。私とは、正反対。


「御譲に本気で殺れって言われてるし、殺す気で良いんだよね?」
「う、うん」
「じゃ、いくよー!」


 何処からか大きな杖を取り出し、ニヤッと笑う。今度は、魔法使いか。まあ、問題はないだろうけど。
 さっきと同じように戦い始める。この子の方がさっきのメイドより弱いかも。何度も剣が掠ってるし、魔法の威力が結構低い。総合的に見て、さっきのメイドの方が強そうなの。じゃ、なんでこの順番なんだろ? なんか、引っ掛かるな。
 まあ、取り敢えずは良い。まずはこの子を倒すことに専念する。レアが私の思考に気を取られて戦いに集中できてない。だから、これはいったん置いておく。
 だんだん、彼女は涙目になってきた。攻撃は当たらないのに、制服は赤く染まっていく。ちょっと可哀想だな。まあ、だからって殺さないと、私達が死ぬことになるんだけど。


「う、うう……、こうなったら、みんな殺してやるぅ!」
「え?」


 急に、彼女の魔力が変わる。真っ黒な魔力が、部屋中を覆い尽くす。な、何が起こった?
 彼女は口元を歪め、眼を大きく見開いて私たちを見ている。あまりの急変ぶりに、私達は何も言えない。ただ、黙って様子を見ていた。
 杖を大きく上に向ける。彼女の体が宙に浮く。杖を両手で持ち直すと、胸の前に持ってくる。横向きの杖の真ん中から、シュルシュルと魔力の波動が生まれる。何か、強い魔法が、来る。


(ミア、頼むよ)
「分かってる」


 放たれた魔法は、沢山の大きく、黒いボール状の魔法だった。ミアがキュッと唇を結ぶ。キィン、という耳鳴りの様な音がし、ミアの瞳の色が赤く染まる。


「完全防魔!」


 魔法は、赤い魔力で全て打ち消された。彼女は眼を見開いて驚いたような顔をする。ミアはすっと口角を上げると、レアにパチッとウインクをする。
 軽く頷いたレアは、カタナを引き抜き、人間では絶対に出来ない様な高さまで飛びあがる。天井すれすれ。


「ごめんなさいね!」


 レアがカタナを振ると。熱い液が溢れだし、レアを真っ赤に染め上げた。

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