赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~

鏡田りりか

第68話  好きの違い

「あ、リーナ。実は、ユリアが……」
「ユリア?! 今何処に?!」
「え? あ、ユリアの部屋……」


 帰ってくるなり、ミルヴィナにそんなこと言われたら、不安になるに決まってる。言われたとおり、ユリアの部屋に飛び込むと、其処には……。


「あら、リーナ、お帰り」
「……ん?」


 ベッドに座り、つまらなそうに髪を弄るユリアの姿が。
 私は、何か勘違いをしていたらしい。そのまま入り口に立っていると、ミルヴィナがやってきた。


「リーナ、人の話は最後まで聞けよ。ユリアはみての通り、元気だ」
「うん、そうだね」
「ちょっと過労気味だったのと、寝不足だ。なんてことない、少し休んだらこの通りだ」
「え? やだもう、リーナ、勝手に私を殺さないで?」
「…………」


 流石に怒りたくなりました。






「はぁー、気持ち良い!」
「ユリア、そんなに波立てないで、顔に掛かる」
「それはリーナがちっちゃいからでしょー」
「む……。そんなことないもん」


 何故か、気が付けば私はユリアとお風呂に入っていた。別にだから何ってわけじゃないんだけど、あまりに唐突だったから驚いた。リーナ、お風呂行こう! って。
 二人とも、お湯につかない様に髪は結ってる。真っ白で綺麗なうなじが目に入って、ちょっとだけドキッとした。ユリア、肌、真っ白だな。


「……、どしたの、そんなに見て」
「いや。ユリア、綺麗だなって」
「え、ええ、えええっ? や、やだなあ、もう、そんなこと言っても何も出ないけどぉ?」
「そういうんじゃなくて……。単純に、感想言っただけ」
「リ、リーナ?」


 ユリアが首を傾げて私に近づく。別に、何かあった訳じゃないの。ただ、そう、こんな風にユリア見るの、実は久しぶりだな、って思っただけで。みんなと入ったら、こんなにユリアの事ばかり見るってことはないし。
 そう、ユリアは素敵だ。とても、とても。容姿だけじゃない。その声も、性格も、すべて含めて。だから私も、こんなにユリアに魅せられてしまう。


「ユリア。私、ユリアの事、好きだよ」
「え? 私も好きよ?」
「だから、ごめん、一つだけ、お願い」
「ん?」
「あのね……」


「『好き』の違い、教えて」






 甘かった、思っていた以上に、甘かった。
 まさか、ファーストキスの相手がユリアなんて、思ってもいなかったけれど、後悔はしてない。
 でも、じゃあ、なんで涙が出てきちゃうんだろう。
 やっぱり、ユリアを泣かせちゃったからかな。そう、かな。やっぱり、馬鹿なことしたよね。考えが、甘かった。
 私が口を付けた時。ユリアは、驚いたように体を引いた。それを無理やり私が押さえつけた。悪いって、分かってたのに。駄目だって、分かってたのに……。
 離れた時。ユリアは、一筋の涙を流した。「なんで」と。「酷い」と。怯えた瞳で、私を見て……。
 私はそのまま逃げる様に部屋まで帰ってきた。ユリア、どうしてるかな。まだ、泣いてる……?


 でも、分かった。これは、違う。ユリアの好きは、こういうのじゃない。私は、ユリアにこういうのを求めてたわけじゃない。よく分かった。
 で? 分かったからって、だから何? 今更どうすればいいの? もう、ユリアは私の事、嫌いかもしれないっていうのに……!


「なぁ、リー……、リーナ?! ど、どうしたんだ?!」
「ミ、ミルヴィナぁぁッ!」
「な、なに、ど、どうして……? 何があったんだ?」
「ううぅ、私、私、ユ、ユリアに……!」


 泣きながら一通り話すと、ミルヴィナは随分と困った顔をした。分かってる、許して貰えると、思っちゃ駄目かもしれない。私が悪い、全部、私が悪い。分かってる。
 でも、私は、ユリアなしで生きていく自信が無い。


「ほ、他にも、方法、あったはずなのに! 私、なんで……」
「う……、ん。そう、だな……」
「ユリアに甘えてた。何でも許してくれるって。そんなはず、ないのに」


 ミルヴィナは暫く考え込んでいるようだったけれど、急に「よし!」というと、私をひょいと抱きかかえた。驚いて声も出ない私にも、ミルヴィナはお構いなし。


「ユリアに会いに行こう」
「な、なんで」
「これもう、私達だけで考えていても解決しないぞ? 本人に会って、直接話す」
「え、ええ……」


 それは、怖い。凄く、怖い。
 もしかしたら、泣いてるかも知れない。それくらい傷ついてるかも知れない。
 もしかしたら、怒ってるかも知れない。それくらい嫌だったかもしれない。
 もしかしたら、会ってすらくれないかも知れない。それぐらい私の事嫌いになったかもしれない。
 だから、怖い。考えれば考えるほど、悪い方に傾いていく……。


「おーい、ユリア! 居るか?」
「い、いるよ? どしたの?」
「入っていいか?」
「ん、うん……」


 いつの間にかユリアの部屋に着いていて。ミルヴィナは躊躇なく声を掛け、扉を開けた。
 ユリアは、私を見るなり驚いた顔をした。ミルヴィナを見て「なんで」と呟く。


「どうして、リーナを……」
「騙すようで悪い、だが、ちゃんと話を……」
「そうじゃなくて!」


 ユリアはパッと立ち上がり、泣きそうな顔で声を上げた。


「なんで、リーナをお姫様抱っこしてるのよ!」


 ……、ん?
 そういえば、そんな状況だったね。でも、ユリア、どうして? どうして泣きそうなの?


「リーナは私のものよ! 離しなさい!」
「私の、もの? 悪いが、リーナは渡せない」
「なんでよ!」


「リーナは、ユリアのものにはならない」


 冷たい声に、ユリアは一瞬たじろいだ。でも、それも一瞬で。鋭い目つきでミルヴィナを睨む。


「っ……、わっ、分かってるわ、そんなこと」
「本当に、分かってるか?」
「分かってるって言ってるじゃない! リーナが好きなのは、ラザールだから! 私のものにはならないわ!」
「っ! ユ、リ、ア……」


 言ってしまってから、ユリアはわっと泣き出した。両手で顔を覆う。


「ミルヴィナの、馬鹿。分かってるのよ、そんなこと」
「……」
「でも、仕方ないじゃない。ミルヴィナも、ジェラルドが居るんだから、分かるでしょ」
「……」
「何回も、諦めようって、して来たわ。リーナにも言って、心の整理、したつもりだった」
「……」
「駄目だわ。リーナは私から離れてくれない。私には、リーナしかいない」
「……」
「キスね、ずっと、したかったの。でも、可愛いリーナの為に、我慢してた。それなのに……。もう、我慢できなくなっちゃうわ」


 そう、だったの。ユリア、私の事、まだ、好きだったんだ……。妹みたいに思ってる、って、あれ、嘘だったんだ……。
 もう、遅い。
 ユリアに、酷いことしちゃった。無責任な事、しちゃった。あれじゃ、ユリアを馬鹿にしてるようなもの……。気持ちを踏みにじる様な事を、して。責任、取れない、だなんて。


「ご、めんな、さい…………」
「! あ、いや、リーナを責めるつもりじゃ……」
「でも、ユリアは、傷ついた」
「…………」


 黙ってしまった。言ってから後悔しても、もう遅い。分かってるけど、後悔せざるを得ない。私、余計なこと言った。
 三人で黙ると、部屋はとても静かだった。時間もゆっくりに感じられる。とても居心地が悪い。


「なあ、ユリア、リーナ」
「……何?」
「この後、どうしたいのか。ちゃんと、自分の言葉で、言い合え」


 顔を上げると、ユリアも同じ事をしていて、目が合った。どちらからともなく、頷く。


「わ、私はね、リーナ。ま、任せるわ。何が正しいのか、分からないのもある。でも。リーナの言う事に従いたいの」
「そう……。私、私、は。ユリアとは、友達で、居たい」


 しばしの沈黙のあと。ユリアは大きく息を吐いて、いつも通りの笑みを作る。


「うん。そうね。じゃ、私も、リーナとは友達。ね」
「ご、ごめん」
「謝らないで、良いんだよ? 私達、ずっと友達だったでしょ?」
「う、うん。ありがとう、ユリア」


 ユリアは私を抱き締める。いつもより、ちょっと控えめだったけれど、これが、ユリアの精一杯。よく、伝わってくる。


「リーナ、大好き」
「私も、ユリア、大好き」


 ミルヴィナと一緒に、部屋を出る。扉を閉めると、ミルヴィナが話しかけてきた。


「良く、出来たと思う」
「え?」
「下手に、思っても居ない事を言って、後で傷付けるくらいなら、本当の事を言ったほうが良いに決まってる」
「ああ、そういう、こと」
「よく頑張ったな。ほら、部屋に帰って、ゆっくり休みな」
「うん」


 ユリアには、悪い事をしてしまった。けれど、私の本当の気持ち、よく、よく分かった。
 私、ラザールお兄様が大好き。ユリアは、友達として、大好き。
 みんなは、少なくとも、ユリアは。私を必要としてくれて、私はみんなを必要としてる。
 良く考えてみれば。私達は、助け合って此処まで来た。だから、余計な事で悩まなくても。いつも通りが、一番良かったんだ。


 明日も。いつも通り、頑張ろう。

「赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く