赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~
第60話 戦争 アンジェラ
こんな風に風を切って走る。魔術師をやってた時には考えられない。私は、これが心地よくて、剣士をやっていた。みんなの御蔭で、また、剣士をやる事が出来て……。感謝しきれない。
長い髪はポニーテールに纏める。軽鎧を纏い、剣を持つと、なんだか少し安心する。剣を持っているときは、一番私らしいと感じる時。
前以上に力は付いた。本当は、あれだけやっていなかったのだし、もう振れないんじゃないかと思っていたのだけれど、そんな事はなく。寧ろその時以上なのだから、年齢は関係ないのだな、と思った。
とはいえ、私もまだ若い方なのか。恐ろしく長い時間を過ごす白魔族と一緒にいると、私だけ早く年をとる様な感じがして困る。特に、ミネルヴァ達といると、余計に。全く変わらないんだから。
どちらかといえば、斬るより刺す方が得意だ。好きな剣はレイピア。まあ、違う剣でも使えるけれど。特に最近は、斬るのも得意になってきた。レイピアは細くて、大型の、皮の厚い魔物には向かないから、普段あまり使わないのだ。そんなこんなで、今は、ブロードソードの方が好きだったりする。
という訳で。今回は愛用しているブロードソードを持って来ている。
思わず零れた笑みに、少し驚く。戦いが楽しいなんて。まだ思えたのね。若い子たち、ユリアとかは、分かるけれど、この年になって、まだ戦いを楽しめるなんて、意外に余裕あるのかしら?
前からの剣を受け止め、弾き、後ろを振り向き薙ぎ払う。かつて、散々行って来た『対人』は、体に染み付いている。まあ、流石に殺し合いはやったことなかったけれど。練習だったら、散々やった。動き方、覚えているわ。
ああ、鎧が邪魔。ちょっと重く感じる。これだったら、メイド服にしてくればよかった。あの方が、動きやすくて何倍も良い。一撃も受けられない、という危機感も、結構好き。
「アンジェラ!」
その声に、私は思わず動きを止めそうになった。其処で、戦闘の途中なのを持い出して後ろに下がる。この声は……。
「ミネルヴァ?」
「! アンジェラ、助けてぇ!」
「い、今行くわ!」
敵を薙ぎ払い、道を開け、声のする方へ。ミネルヴァも来ていたのね……。知らなかった。ミネルヴァは白魔術も黒魔術も使える。だから、魔術師としては相当有能。此処に来ていても、不思議じゃなかった。
ミネルヴァを、見つけた。斬られたのか、太股を押さえて蹲っている。周りには強力なバリア魔法。私の姿を見て、安堵したようだった。上手く操って私だけをバリア魔法の中に入れてくれる。
「どうしたの、大丈夫?」
「うん。でも、ちょっと痛くて……。治癒魔法、お願いできる?」
「? ミネルヴァがやればいいんじゃないの?」
「集中できない」
「なるほど。分かったわ」
あまり魔法は得意じゃないけど……。こういう時、やっぱり、魔法をやっていて良かったと思う。
少し痛みが引いたらしいミネルヴァは、小さく息を吐いてから何回か治癒魔法を掛けた。やっぱり、足りなかったのね。私、こんな傷を治す様な強い治癒魔法は使えないの。
「平気?」
「うん。ちょっとパニックになっちゃってたの。アンジェラ来てくれてよかった」
「そりゃあ、ミネルヴァが呼ぶんだもの、行くわよ」
「そっか、ありがとう」
「ええ。じゃ、やりましょ?」
「うん!」
ミネルヴァは笑って魔力を準備。シュルシュルという音が聞こえてくる。その音を聞きながら、私は静かに剣を構え、前を見据える。大丈夫、背後はミネルヴァに任せるわ。
体が軽く感じるのは、おそらく、久しぶりの協力戦、しかも、その相手がミネルヴァだから。心の底から楽しんでいるってことね。ミネルヴァの事、好きなのよ。
なんて考えていたら。鋭利な殺意を感じ、パッと振り返る。考えるより先に、体が動いた。御蔭で。
「っ!」
切れたのは、ポニーテールの毛先だけだった。
パラパラと茶色の髪が舞うのを見ながら、私は剣を構え直す。今の、一体誰の? 魔力の感じだと、結構強そうだった。
地面に足が付いたのを確認すると、もう一度大きく飛躍。ミネルヴァの隣まで移動した。赤縁眼鏡の奥、瞳がキラキラと輝いているように見える。楽しんでる、のかな。
「いい? 結構強い人がいるみたいだから、私、本気で行くわ。援護、頼むわよ?」
「分かった。でも、一つ。……無理はしないで」
「! 分かった、守るわ」
強い衝撃。ミネルヴァの周りの魔力が増えている。ミネルヴァが霞んで見えるほどに。ちょっとだけ笑うと、「行って」と口を動かす。
後ろから飛んでくる魔法は綺麗だ。様々な色のポールの様な魔法が飛んでくる。それは、途中で弾けると、中からもっと小さなボールの様なものが飛び出し、散る。それも、よく見てみれば星だとか、ハートだとか、はたまた蝶だとか、そういった形をしたものなのだ。とにかく綺麗。戦場が、幻想的な雰囲気になる。では一体、どんな魔法なのか? どうも、拳銃の弾の様なものらしい。当たると赤い血が飛び出していた。
小さいから、避けるのは結構大変らしい。その代わりに威力も小さいのだけれど。ただ、散る前の、大きなボールの方にぶつかると、爆弾みたいな感じで、大爆発。間違いなく命はない。
凄いところを一つ。私には当たらないの。まず、向かってすら来ない。本当に凄いと思う。この量の魔法を、ミネルヴァは、自在に操ってるってことだから。
「凄いじゃない!」
「アンジェラも、腕上げたね!」
「もちろん、いつまでも一緒って訳ないでしょ?」
ニヤッと笑って走る。剣を振ると、赤い血が舞う。この感覚、実は結構好きだったり。楽しい。そう思う。
さっきの人が、分かった。さっきで魔力は把握済みだったから、同じ魔力を持つ人を探すだけだったし、簡単に見つかった。私を見ると、剣を構えて此方に向かって来た。やる気ね?
と、向こうから飛んでくる魔法が変わった。今度は光線の様な物が、右から左へ動いていく。当たった人が……溶けていく? それに加えて、さっきの小さいほうのボールの様なものも飛んでくる。青いボールだ。
こんな魔法が使えたのね……。知らなかった。ミネルヴァの戦いを見たのは、実は、これが初めて。人伝に印象を聞いた事はあったけれど、実際見るのは初めて。とても、綺麗。
そして、また変わる。今度後ろから飛んで来たのは……。大きな紫の蝶。これも当たっちゃいけないらしい。一緒に飛んでくる何かの花びらも鋭利な刃物ようになっているようだ。
私は剣を振る。金属のぶつかりあう音が響く。ミネルヴァの魔法とは対象的、なんて地味な攻撃法。でも、これが一番、私らしい。こうやって、強い敵と剣を交える事が出来るって、とても興奮する。
(?!)
ミネルヴァ、歌ってる? 歌詞は分からない。知らない言葉だから。でも、なんだろう、とても、心地よくなるような、そんな歌。口ずさむ、程度なんだろう。でも、何故か、それが私の力を引き出してくれているような、そんな気がする。今なら、いけるわ!
隙を見極めて……!
「一撃必殺・閨怨ノ斬!」
私の必殺技。閨怨ノ斬。この技によって、剣は赤黒い魔力を纏う。それは、剣よりもずっと先まであるから、剣を延長する形になる。だから、軽く振るだけで攻撃できる。魔力によって追加でダメージも与えられる。
「う、あっ!」
最後まで、気を抜かない。攻撃をさせるものか。細心の注意を払って、最後の一撃を入れる。
その時、丁度、ミネルヴァの魔法が止んだ。驚いて振り返ると、ミネルヴァも驚いた顔をしていた。
「丁度、だったね」
「そう、ね。凄く、綺麗だったわ」
「アンジェラも、動き、とてもよかった」
「ありがとう」
「こちらこそ」
ふぅ、と小さく息を吐く。リーナ様のように、無尽蔵の魔力と体力を持っている訳じゃない。必殺技を使えば、とても疲れる。大体、どうしてあのこはあんなに必殺技が使えるの? 相当消費するから、私は一日一回が限度だし、それも、その前に激しい戦いをいていない時くらいしか使えない。これが、若さの差なのかしらね?
ミネルヴァに目を向けると、少し心配そうにしていた。
「……、どうしたの?」
「疲れた? 顔色が良くない」
「え、そう? まあ、確かに疲れたわね」
「そ、そっか。じゃあ、今日はもう戻ろ?」
「そう、ね、あまり無理をしても仕方ないし、ね?」
「! うん!」
私、約束は破らないのよ。
長い髪はポニーテールに纏める。軽鎧を纏い、剣を持つと、なんだか少し安心する。剣を持っているときは、一番私らしいと感じる時。
前以上に力は付いた。本当は、あれだけやっていなかったのだし、もう振れないんじゃないかと思っていたのだけれど、そんな事はなく。寧ろその時以上なのだから、年齢は関係ないのだな、と思った。
とはいえ、私もまだ若い方なのか。恐ろしく長い時間を過ごす白魔族と一緒にいると、私だけ早く年をとる様な感じがして困る。特に、ミネルヴァ達といると、余計に。全く変わらないんだから。
どちらかといえば、斬るより刺す方が得意だ。好きな剣はレイピア。まあ、違う剣でも使えるけれど。特に最近は、斬るのも得意になってきた。レイピアは細くて、大型の、皮の厚い魔物には向かないから、普段あまり使わないのだ。そんなこんなで、今は、ブロードソードの方が好きだったりする。
という訳で。今回は愛用しているブロードソードを持って来ている。
思わず零れた笑みに、少し驚く。戦いが楽しいなんて。まだ思えたのね。若い子たち、ユリアとかは、分かるけれど、この年になって、まだ戦いを楽しめるなんて、意外に余裕あるのかしら?
前からの剣を受け止め、弾き、後ろを振り向き薙ぎ払う。かつて、散々行って来た『対人』は、体に染み付いている。まあ、流石に殺し合いはやったことなかったけれど。練習だったら、散々やった。動き方、覚えているわ。
ああ、鎧が邪魔。ちょっと重く感じる。これだったら、メイド服にしてくればよかった。あの方が、動きやすくて何倍も良い。一撃も受けられない、という危機感も、結構好き。
「アンジェラ!」
その声に、私は思わず動きを止めそうになった。其処で、戦闘の途中なのを持い出して後ろに下がる。この声は……。
「ミネルヴァ?」
「! アンジェラ、助けてぇ!」
「い、今行くわ!」
敵を薙ぎ払い、道を開け、声のする方へ。ミネルヴァも来ていたのね……。知らなかった。ミネルヴァは白魔術も黒魔術も使える。だから、魔術師としては相当有能。此処に来ていても、不思議じゃなかった。
ミネルヴァを、見つけた。斬られたのか、太股を押さえて蹲っている。周りには強力なバリア魔法。私の姿を見て、安堵したようだった。上手く操って私だけをバリア魔法の中に入れてくれる。
「どうしたの、大丈夫?」
「うん。でも、ちょっと痛くて……。治癒魔法、お願いできる?」
「? ミネルヴァがやればいいんじゃないの?」
「集中できない」
「なるほど。分かったわ」
あまり魔法は得意じゃないけど……。こういう時、やっぱり、魔法をやっていて良かったと思う。
少し痛みが引いたらしいミネルヴァは、小さく息を吐いてから何回か治癒魔法を掛けた。やっぱり、足りなかったのね。私、こんな傷を治す様な強い治癒魔法は使えないの。
「平気?」
「うん。ちょっとパニックになっちゃってたの。アンジェラ来てくれてよかった」
「そりゃあ、ミネルヴァが呼ぶんだもの、行くわよ」
「そっか、ありがとう」
「ええ。じゃ、やりましょ?」
「うん!」
ミネルヴァは笑って魔力を準備。シュルシュルという音が聞こえてくる。その音を聞きながら、私は静かに剣を構え、前を見据える。大丈夫、背後はミネルヴァに任せるわ。
体が軽く感じるのは、おそらく、久しぶりの協力戦、しかも、その相手がミネルヴァだから。心の底から楽しんでいるってことね。ミネルヴァの事、好きなのよ。
なんて考えていたら。鋭利な殺意を感じ、パッと振り返る。考えるより先に、体が動いた。御蔭で。
「っ!」
切れたのは、ポニーテールの毛先だけだった。
パラパラと茶色の髪が舞うのを見ながら、私は剣を構え直す。今の、一体誰の? 魔力の感じだと、結構強そうだった。
地面に足が付いたのを確認すると、もう一度大きく飛躍。ミネルヴァの隣まで移動した。赤縁眼鏡の奥、瞳がキラキラと輝いているように見える。楽しんでる、のかな。
「いい? 結構強い人がいるみたいだから、私、本気で行くわ。援護、頼むわよ?」
「分かった。でも、一つ。……無理はしないで」
「! 分かった、守るわ」
強い衝撃。ミネルヴァの周りの魔力が増えている。ミネルヴァが霞んで見えるほどに。ちょっとだけ笑うと、「行って」と口を動かす。
後ろから飛んでくる魔法は綺麗だ。様々な色のポールの様な魔法が飛んでくる。それは、途中で弾けると、中からもっと小さなボールの様なものが飛び出し、散る。それも、よく見てみれば星だとか、ハートだとか、はたまた蝶だとか、そういった形をしたものなのだ。とにかく綺麗。戦場が、幻想的な雰囲気になる。では一体、どんな魔法なのか? どうも、拳銃の弾の様なものらしい。当たると赤い血が飛び出していた。
小さいから、避けるのは結構大変らしい。その代わりに威力も小さいのだけれど。ただ、散る前の、大きなボールの方にぶつかると、爆弾みたいな感じで、大爆発。間違いなく命はない。
凄いところを一つ。私には当たらないの。まず、向かってすら来ない。本当に凄いと思う。この量の魔法を、ミネルヴァは、自在に操ってるってことだから。
「凄いじゃない!」
「アンジェラも、腕上げたね!」
「もちろん、いつまでも一緒って訳ないでしょ?」
ニヤッと笑って走る。剣を振ると、赤い血が舞う。この感覚、実は結構好きだったり。楽しい。そう思う。
さっきの人が、分かった。さっきで魔力は把握済みだったから、同じ魔力を持つ人を探すだけだったし、簡単に見つかった。私を見ると、剣を構えて此方に向かって来た。やる気ね?
と、向こうから飛んでくる魔法が変わった。今度は光線の様な物が、右から左へ動いていく。当たった人が……溶けていく? それに加えて、さっきの小さいほうのボールの様なものも飛んでくる。青いボールだ。
こんな魔法が使えたのね……。知らなかった。ミネルヴァの戦いを見たのは、実は、これが初めて。人伝に印象を聞いた事はあったけれど、実際見るのは初めて。とても、綺麗。
そして、また変わる。今度後ろから飛んで来たのは……。大きな紫の蝶。これも当たっちゃいけないらしい。一緒に飛んでくる何かの花びらも鋭利な刃物ようになっているようだ。
私は剣を振る。金属のぶつかりあう音が響く。ミネルヴァの魔法とは対象的、なんて地味な攻撃法。でも、これが一番、私らしい。こうやって、強い敵と剣を交える事が出来るって、とても興奮する。
(?!)
ミネルヴァ、歌ってる? 歌詞は分からない。知らない言葉だから。でも、なんだろう、とても、心地よくなるような、そんな歌。口ずさむ、程度なんだろう。でも、何故か、それが私の力を引き出してくれているような、そんな気がする。今なら、いけるわ!
隙を見極めて……!
「一撃必殺・閨怨ノ斬!」
私の必殺技。閨怨ノ斬。この技によって、剣は赤黒い魔力を纏う。それは、剣よりもずっと先まであるから、剣を延長する形になる。だから、軽く振るだけで攻撃できる。魔力によって追加でダメージも与えられる。
「う、あっ!」
最後まで、気を抜かない。攻撃をさせるものか。細心の注意を払って、最後の一撃を入れる。
その時、丁度、ミネルヴァの魔法が止んだ。驚いて振り返ると、ミネルヴァも驚いた顔をしていた。
「丁度、だったね」
「そう、ね。凄く、綺麗だったわ」
「アンジェラも、動き、とてもよかった」
「ありがとう」
「こちらこそ」
ふぅ、と小さく息を吐く。リーナ様のように、無尽蔵の魔力と体力を持っている訳じゃない。必殺技を使えば、とても疲れる。大体、どうしてあのこはあんなに必殺技が使えるの? 相当消費するから、私は一日一回が限度だし、それも、その前に激しい戦いをいていない時くらいしか使えない。これが、若さの差なのかしらね?
ミネルヴァに目を向けると、少し心配そうにしていた。
「……、どうしたの?」
「疲れた? 顔色が良くない」
「え、そう? まあ、確かに疲れたわね」
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