赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~

鏡田りりか

第59話  赤い召喚魔術師

 ノーラの寝顔は可愛かった。


 朝、私の方がノーラより先に起きた。ベッドから降り、ある程度身だしなみを整えて戻って来たけれど、まだ寝てた。それもそのはず、私が早く起き過ぎたんだもん。
 そんなわけで、なんとなくノーラを見つめてたんだけど、凄く可愛くて。頭撫でたら起きちゃって、ついでに結構怒られた。本気じゃないの分かってるから、笑える。そんな私を見て、ノーラも釣られて笑った。






 私の必殺技、といっても、他の人とは違う。なぜなら、覚醒してないから。でも、一応必殺技という言葉を使わせて貰おう。これは、使い魔と一緒に使う魔法になってる。まあ、最近独立して来てる気がしないでもないけれど。私居ないでも勝手に魔力使って必殺技使っちゃうんだもん、笑い話じゃ済まない。凄く疲れるんだからね。
 ノーラとの戦いは初めてだったけれど、結構上手く行った。使い魔たちはノーラの魔法に馴染むの結構早かったし、ノーラも私の使い魔たちに馴染むの早かった。要らない心配だったみたいで良かった。帰して欲しい、っていう気が全くない訳じゃないけど。


(でも、ちょっとまずいかもしれない)


 ノーラの表情が変わってきた。もしかしたら、もう結構疲れてるのかも。呪術って普通の戦いには向かないから、今は普通の魔法使ってるけど、普段呪術に慣れてるノーラには、ちょっと大変かもしれない。普段使わない魔法使うのって、案外疲れるものなんだ。
 あと、やっぱりというか、昨日の疲れが残ってるみたい。本人達は気付いてないかもしれないけれど、ちょっとした動きが違う。何処かで危なくなるかもしれない。早く切り上げた方がいいかも……。
 そう思った時。吐息のような、小さな、本当に小さな悲鳴が上がる。レアの体が宙を浮いてる。何があった……?!


(レアっ?!)


 地面について何度か跳ねた。その度に声が漏れる。本当だったら聞きとれない様なものだけれど、使い魔と主人は、本当に、とても密接に繋がっているらしい。聞こえてしまう。
 とても向こうまで飛ばされてしまった。ふらふらと立ちあがるレアは、確実に右手を庇ってる。あれじゃ、カタナが持てない。その上、至るところが、地面で擦って、血だらけ。見ていてとても痛々しい。でも、魔界に帰ってくれない。拒否された。こんな事、滅多にない。そう、こういう時でもなければ、命令を断るなんて……。こういう時こそ、従って欲しいのに。
 ミアが隙を見て回復魔法を掛けようとしたけど、遠すぎる。スッと顔を歪めたの、見てた。
 レアはよろけながらも私達の傍まで戻って来ようとする。近くに行ってあげたいのに、敵に邪魔されて思うように動けない。
 こんな状態だから。レアは、全部の攻撃を避けきれなかった。一本の矢が肩を貫く。


(もう、止めてよ……ッ! ねえ、戻って、って、言ってるでしょ! ねえ、レア! 聞こえてるんでしょ?!)
「ご、ゅ……さ……」
(ねえ、もう良いって! レアが死んじゃったら、私、私……。ねえ、お願い、命令を聞いて! レア!)
「ごめ……な、さ……」
(お願いだからッ!)


 私の使い魔たちはみんな逃げも隠れもしない性格だ。もう駄目だ、と思ったら自ら死に向かうような、そんな性格。確かに、魔界に逃げ帰る様な事が出来なければ、絶対に助からない様なシチュエーションの時だけだ。今戦っている敵である『人』と同じ立場で戦おうとしてるのだろう。とても立派なのかもしれないけれど、主人としては、ううん、私としては逃げて欲しい。死んで欲しくない。どんな怪我を負っていても、それが、一生残る様なもので、たとえ、もう戦いに参加できなかったとしても、それでも。生きていて欲しいのに。なんで、どうして気付いてくれないの?
 ううん……。気付いてるのに、気付いていない振りしてるんだね。気付かないなんてはず、ないんだから。でも、ティアの時、思ったの。もう誰も、死なせはしないって。だから。


(リア……。お願い)
「……。うん、分かった」
「リ、リーナ、一体、何を……?」


 レアが逃げる気がないなら。私が、危険を取り去ってあげる。ポケットに手を入れ、ペンダントを布から取り出す。


「お前ら……。絶対許さない」


 リアの手を握る。何度も練習した、必殺技。大丈夫、失敗はしない。


「ルージュマジック『全員死刑』」


 言葉に魔力を乗せる。怒りの魔力を。殺意の魔力を。全員、受け取れ。
 リアに合わせ、魔力を解放! あとは任せたよ、リア!


「『修羅の妄執・斬首ノ刑』」


 死刑宣告は、静かに。冷たく。言葉と同時に、魔法を放つ。無数の赤い魔力が飛び出すと、兵士達に襲い掛かる。
 斬首ノ刑。そのままだ。鋭利な刃物と化した赤い魔力は、自動的に首を狙うように設定してある。だから。斬首なの。私を怒らせた、罪。重いよ?


 ……嗚呼、人って、なんて脆いんだろう? 糸の切れた操り人形のように、地面に転がる無数の体。ほんと、弱すぎるよ。


「ご、ご主人……様……?」
「レア……。こんなの私らしくないね。ごめん」
「な、なんでご主人様が謝るんですか! 戦争とは、こういうものなのです!」
「そうだね……。でも、違うんだよ」


 こういう戦い方は、私のものじゃない。なんでこんな事をしちゃったんだろうって、後悔しても、もう遅い。今のこの状況。悪いことした訳じゃないのも、事実だし。
 でも、じゃあ、なんで、って思う。どうして、こんなに嫌な気分なの? 分からない。


「リーナ」
「ノーラ? ……なぁに?」
「目、赤い」
「……、え?」


 その声に驚いて顔を上げると、ノーラは小さく笑う。


「前に見た、ユリア達と、一緒。瞳が、赤くなってる」
「え……、ほ、んと?」
「ご主人様、先ほど、覚醒したんですよ」
「そ、そう……」


 まさか、覚醒して、こんなに嬉しくないなんて……。いや、喜ぼう。そうじゃないと、みんなに不安がられるし。
 こんな魔法……。私が使って、良いのかな。どうしちゃったんだろう。とにかく、自分のものじゃない気がするの。なんで……?






「え! リーナちゃん、覚醒したの?! おめでとう」
「ありがとうございます! 本当に、よかったです」


 口では、そう言っておく。覚醒出来ないって、ずっと不安だったの、みんな知ってるから。でも、内心複雑。素直に喜べない。そんなはずじゃ、なかったのに。
 とにかく、早く一人になりたいと思った。みんなに合わせているの、嫌だから。嘘つくのって、辛いし。それに、また魔力使い過ぎて……。疲れた。


「じゃ、一回休憩。あとでお祝いしよっか」
「はい!」






(はぁ……)


 どうしてこうなった? 思ってたのとだいぶ違う。これが、赤魔族ロートなの? 違う、赤魔族ロートは、聖なる魔族。こんな、虐殺みたいな魔法使うはずない。そう、思ってた。そっか、だからか。こんなにも意外に感じてるのは。
 私は赤魔族ロートだから。そう思ってるから、違うって思ったんだ。私は……。私だ。
 ううん、違う、そんなこと言いたいわけじゃない。私、人を助ける為に戦ってるつもりだった。だから、虐殺は嫌だったの。だから、私じゃない、って。でも、よく考えてみれば、私の使い魔は虐殺してた。自分の手を汚してはいないけれど、やってる事は間違いない。


(そっか……)


 これが、本当の私だ。


 認めざるをえない。


(ミア……)
「ん、なぁに?」


 ミアはいつもの様ににこりと笑って現れた。私がちょっと顔を上げると、ひょいと私の前に座って首を傾げる。


「どうしたの?」
(ミア……)


 ミアは、私の心が読める。なのに。気付かない振りをしてくれて。よく考えてみれば、ああ、いっつもそうだった。優しすぎる。でも、私は、それが好きで。いつも甘えてる。それに、放っておいて欲しいときは、放っておいてくれる。その感じが、好きなの。
 確かに、相談相手は、ユリアとか、ミルヴィナとか、いっぱいいる。でも、本当の私を一番見せてるのは、ミアだ。それを、黙って受け止めてくれて、一緒に悲しんでくれて。でも、近づきすぎないでくれる。
 幼い子を装ってるから良いのかもしれない。少しあとにはケロッと忘れてる振りしてくれるけど、違和感がない。助かる時、沢山あった。
 ……ユリアなんかに相談すると、偶に、何日か私見る度に泣きそうな顔したり、そんなとき、あったから。それ、辛いの。


(ミア……。私、どうしていいのか、分からない)
「必殺技の事? うん、聞くよ」
(ううん、違う)
「え? あ……。そっか。うん」
(本当の、『私』の事)


 今日も、聞いて。私の愚痴。






「ご主人さまって、なき虫だよね」
(違うよ……。そんなことないもん)
「あは、そっか、じゃあ、そういう事で。あれ、めずらしく泣いてるね?」
(そ、それもヤダ……)
「でしょ? すなおにみとめてね?」


 ミアは私に飛びついて来た。軽いから、私でも受け止められる。頭を撫でると、小さく笑う。いつも通り。こんなやり取り、何度繰り返したかな。だから、安心するのかも。
 ミアは聞き上手。私の言いたい事を、上手く訊き出してくれる。言いたい事が分かってるからかもしれない。でも、レアだとこうも行かない。レアは、分かっちゃうの。私の心読んで喋ってるんだろうなって。意外に不器用だから。ミアだと、言いたい事は喋れるし、誰にも言わないし、引き摺らない。だからいいの。


(んー、すっきりしたかも。ありがとう、ミア)
「ううん。ミアの事だからすぐわすれちゃうけどねー」
(ふふ、そっか)


 そういう嘘がさらっと出るんだから。もう、本当にミアって凄い。悩み相談の為だけに生まれたんじゃないの? なんてね。
 ミアだけは、なにがあっても、絶対に、失いたくない。いつも、思ってるの。
 そう、ミアだけは……。

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