赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~

鏡田りりか

第50話  レアの怒り

 ミアはともかく。レアやネージュは好きなように戦わせてあげる事はあまり出来ない。強すぎるから。こういう時くらい、本気で暴れてくれて良いよ。
 命令を聞き遂げたレアの口はニタッと歪む。彼女だって悪魔だ、戦いは大好き。カタナを鞘から抜き、ふっと姿を眩ませる。さ、自由に遊んで!
 ネージュは何も喋れないけれど、それでも楽しそうに飛躍し、敵軍の中に突っ込んでいく。大量虐殺、今日は許すよ!


(黒い服の人だよ、分かってるね?)
「もちろん。任せてください、すぐに綺麗にして見せましょう!」


 刀を振り回す。適当に振り回しているように見えて、的確に急所を狙っているのだから、流石。返り血を浴びると心地よさそうに目を細め、刀身を指でなぞった。指に付いた血を舐め、小さく笑い声を溢す。
 ネージュに目を向ける。結構大きいから、一噛みで人を殺せてしまう。まあ、それは鎧を着てなければの話で。武装されちゃうと、噛むだけで、ってわけにはいかない。でも、だからこそ楽しいみたい。こんなネージュ、久しぶりだ。


「あはぁ、もっと楽しませてぇッ!」
「わっ!」


 白い鎧を着た人たちが、レアに驚いて身を引く。道が開いた。レアは素早く駆け抜け、黒の兵士達に襲い掛かる。
 これじゃあレアの一人舞台になっちゃうね。まあ、仕方ない。今まで散々我慢させて力を制限させてたんだもん、これくらい、いいでしょ。思い切り楽しんで。
 にしても、意外。レアは大人しいイメージがあったんだけど。こんなに戦い好きだったんだ。こんなところを見ると、悪魔にしか見えない。


 まわりにも目を向けてみる。あれは、アンジェラさん。剣は斬るだけのものじゃない。そう思わせる。剣の能力を最大限まで引き出すんだ。これが、剣士としてのアンジェラさんの能力。長い時間やってただけあって、動き慣れてる感じがする。
 向こうはラザールお兄様。真っ赤な光の柱が立ったから、間違いない。光と鮮血を撒き散らしながら大きな剣を振る姿は美しさを覚える。対人はまだ慣れてないけど、それでも。相手を圧倒するレベル。
 あっちはミレ。二本の剣を巧みに操り、相手の隙を突く。二本、というのが意外に厄介。というのも、一本に気を取られるともう一本の攻撃が飛んでくる。両方に注意するのって、意外に難しい。でも、それを操るミレは、ほんと凄い。
 音を立てながら大爆発が起こる。ミアが慌ててバリア魔法で制御。もう、ユリア。ミアが制御してくれるだろう、って魔法撃ったでしょ。やってくれなかったらどうするつもり。この辺一帯無くなってたよ。でも、黒い服の人しか飛んでない。ちゃんと見て撃ってるんだ?
 ベルさんは見つけようと思っても、凄い速さで動きまわってるから難しい。でも、何回か姿を見かけた。なんの武器も使わないで敵を倒してた。蹴ったり殴ったり。こっちの方が得意らしい。
 エティは救護の方に回ってるはずだからここには居ないけど、多分、頑張ってるだろう。


(っ! レア!)
「? どうされまし、た、か……。あぁ」


 もう、弱い人はほとんど倒し終えた。残ってるのは、相当の手誰。そう、この人みたいに。
 私の首元に冷たい物が当てられている。けれど、特に怯える事も無く、その男の人の目を見る。怯えたって仕方ないからね。
 それよりも。凄い事になってる。レアが……。非常にお怒りです。いつも以上に多くの魔力を待っているのは、そのせい。


「貴方……。私の主人に何をなさっているのです?」
「……」
「今すぐ離れていただきましょうか!」


 レアは素早く移動して男の人に向かってカタナを振り下ろした。


「! へぇ? 貴方なら、私の楽しませてくれそうですねぇ?」


 レアのカタナは、その人の小さな短剣に受け止められていた。ゆっくりと構え直すレア。その口元は笑っているのに……。魔力に乱れはない。殺気が全く感じられないのだ。
 さっきまで、怒りにまかせて殺気を振りまいていたレア。なのに、こうやっていざ戦う、となると、何事も無かったかのようにすべて隠してしまう。そう簡単に出来る事じゃない。
 男の人は、多分小人。背が低い。私と同じが、それ以下だ。


「名前は?」
「お前に名乗る必要はないな」
「あぁそうですか! その言葉、後悔した方が良いですよ?」


 レアの目がギラリと光る。ちょ、ちょっと、こんなにやる気のレア、初めて見たんだけど……。怖いって、思っちゃった。
 男の人は至って静かにレアを見ていた。表情の読み取れない瞳は、思わずドキリとさせられる。感情が読み取れないとか、こういうの、結構怖い。


 動き出したのは、二人とも同時だった。いや、レアの方がほんの少しだけ早かった。それは、レアが動いたのを確認してから男の人が動き出したから。でも、その間は普通に見ていたら気付かないくらいの時間しかなかった。なんで私がそんな事に気が付いたのかというと、ミアに補助魔法を掛けて貰ったからで。そうじゃなければ同時に見えてたと思う。
 二人はお互いの剣が動かなくなったのを見てから、軽く足で地面を蹴り、後ろに飛ぶ。


「へぇ? 私の動きに良く付いて来ましたね?」
「お前こそ、思っていたより、早かったな」
「褒めて頂き、光栄です!」


 レアは乱暴に吐き捨てると、構えを作って制止。少し横に向かって走り出す。男の人は一歩も動かず、レアの剣を弾く。負けじとレアが一周、男の周りを回りながら攻撃をしかけるけれど、全部、遊ばれているかのように弾かれていく。
 でも、これくらいは計算通りだったよう。笑みが一層深くなる。


「あは、あはは。良いね、こういう戦い、久しぶり。やっぱり、戦いはこうじゃなくちゃ」
「その余裕、いつまで持つか」
「いつまでも!」


 しかし、最初に血を流したのは、レアだった。頬にスゥッと一筋の線が入り、ぱっくりと割れると、血が溢れだす。


「っ! 私に血を流させるものなんて、久しぶり……。本気で行く!」


 レアの魔力が一気に変わる。今までの比じゃないくらい質の良い魔力。それがカタナを覆う。
 ラザールお兄様のとは、ちょっと違う。なんというか、レアのは、魔力自体が攻撃をしようとしてる。そうか。カタナは、飾りなんだ。本当に攻撃をするのは魔力。
 レアの魔力は、とにかく攻撃的だ。自ら襲いかかって行く。だから、動きを読む事が出来ない様だ。男の人は腕を押さえる。剣を取り落とした。
 その剣はレアの魔力に回収される。バキバキと音を立てて壊された。


「加減しても、私に傷一つ負わせられないのが普通。貴方、本当に強いですね。ですが、残念。生きて帰すわけいはいきませんので」
「ま、待て!」
「……はい?」
「お前は一体、何者なんだ?」


 レアはぴたりを足を止めると、いつもの様な優しげな笑みを浮かべる。けれど、それはどこか悲しげだった。


「レア。レアと申します。此方のリーナ様の使い魔、悪魔です」
「悪魔……。はは、道理で勝てないわけだ」
「悪魔だから強いのでは、ないのですよ……。私がどれだけ修行を重ねたか、みんな、分からないのでしょうね」


 レアの瞳が揺れる。どうしてかは、分かる。でも、動揺せずにはいられなかった。レアが泣くところなんて、見たことあるはずがない。
 そっか。悪魔だから強いって思いこまれて。どれだけ辛い思いをして強くなったのか分かろうともして貰えなくて。


「最後、お前と戦えて、よかった」
「……、え?」
「とても、強かった。俺じゃ、到達できない所だ。……小人族クラインの寿命は、剣を極めるには短過ぎるな」


 レアはまだ何か訊きたそうだったけれど、もう喋る気がないその表情を見て、剣を振る。大量の血が飛び散り、辺りを汚す。
 レアは淡々と白い布で剣の血を拭きとり、鞘に納める。その途端に、レアは地面に座り込んだ。


「ああーっ、疲れたぁ!」
「えっ?」
「この魔力出すのは、ほんといつぶりでしょう。凄く疲れたけれど、楽しかったです!」


 ニコッと笑う。汗で張りついた前髪をかき分けながら何処かを見ていたレアは、急に驚いたように目を見開く。


「え……。ご主人様、ユリア様が、危険です」
「えっ?!」


 その言葉に、私の思考は停止する。

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