赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~

鏡田りりか

第42話  ドラゴン戦

「ドラゴンが出たぞ……ッ!」


 八月。何故か、王都までドラゴンが来てしまったらしい。良く分からないけれど、誰か冒険者を追って来てしまったのかもしれない。その冒険者が申し出てくれればよかったのに。無責任な奴、なんて言っていても仕方がないのだけれど。
 とにかく、グリフィンに出動依頼が来た。断る理由はない。


「あ、あれか。え、随分大きいな」
「ええ……。でも、大丈夫です」


 アンジェラさんはそっと息を吐くと、剣に手を掛けた。ラザールお兄様は頷くと、同じく背中に背負う剣に手を掛ける。ミレも同じく両腰に刺す剣両方に手を掛け、体勢を低くする。ベルさんも前。少しだけ足を開くと、鋭い瞳で前を見る。前衛に合わせ、他のみんなも魔力の準備。
 全員が戦闘態勢に入ったのを見て、私は使い魔を召喚する。ミア。レア。それとネージュ。
 燃えるように赤いドラゴンを見て。前衛三人が走り出した。ベルさんは、ほんの少しずらして後。


 その時、私はある事に気が付いて、叫ぶ。


「ベルさん! 後ろに下がって、目を閉じて!」
「え? あ、うん……?」


 ベルさんが地面を大きく蹴り、私のすぐ傍まで来て、目を瞑ったちょうどその時。
 ドラゴンが、火の息を吐いた。
 ミアがみんなを守る様バリアを張っていた為、怪我をしている人はいない。だけど、ベルさんは、火が苦手だから。ええと……、大丈夫だったみたい。
 でも……。ドラゴンは火の攻撃をよく使う。ベルさん、いちいち下がるわけにも行かないし、どうしよう。
 そんなことを考えていると、後ろから声が聞こえてきた。


「ごめんね、私のせい、で……」
「!」


 声が震えていたから。そっと唇を噛む。なんとかしたい。でも、どうすれば? 克服というのは、私がどうにかして出来るものじゃない。
 嗚呼、悔しい。ノートの解読が、もっと進んでいれば……。
 ベルさんは震えながら、それでも前を見て、隠してあった小さなナイフを握って走り出す。


(レア)
「はい、何でしょうか」
(軽くしてあげることって、出来ないの?)
「……。やってみます」


 レアは苦い顔をしたから……。きっと、希望は凄く小さいんだろう。
 それでも断らなかったのは。きっと、この辛さを、分かってくれたんだろう。
 眩暈がするほど、訳が分からなくなって、息が苦しくなって、それで……。


「って、ミア!」
「あっ?! うん!」


 気付いていなかったの……? 私の声に、ミアは慌ててバリアを張る。そうか、私のせい。私の考えごとに気を取られたんだ。しっかりしなきゃ。と、また。火のブレス。
 いけない、と思ったのはすぐあと。今度は、ベルさんが避ける暇がなかったから……。
 あれ、でも、大丈夫そう……?


「違う。結構無理してるよ。大丈夫かな」
(ミア……)
「あとは、彼女の意志の強さ次第。でも……。強くはなさそうですね」
(え……)
「結構脆いですね。このままでは、すぐ……」


 前を向く。駄目だ、すぐに倒せそうにはない。でも、きっと、ひいてはくれない。
 どうしよう。ベルさんが……。でも、私には、力はない、何にも出来ない。だから、いっつもいっつも、後悔するのに。なのに、どうにもできないよ……。


(あ。出来る事、ある)


 ポケットから、小さな本を取り出す。パラパラと開いて、一カ所を開く。そのページには、沢山の文字が描かれている。読めないけれど、どれが何かは、ちゃんと覚えているから大丈夫。
 召喚魔法の応用。この中に召喚し、封印しておく。本の効果として、少ない魔力で召喚していられる。けれど、時間制限があるのが難点。だからまあ、ミア達は入れられない。
 ちょっと高いけれど、どうしても欲しくて、こっそり一人で魔物狩りに出かけて、何とか買ったものだ。でも、ラザールお兄様は、気付いてたのかもしれない……。
 これを買った時、使ってみたくて、試しに、何があっても良いよう外に行き、やってみた。すると……。まさかの、超大型獣が召喚された。


「アルシエン。エリュシオン。イノシオン。ヴァランチ。エクレール」


 ページを捲りながら、一匹ずつ、名前を呼んでいく。光の跡を残しながらページから抜けて行き、パッと光を辺りに放ってから降りてくる。
 前衛の三人が驚いたように動きを止める。其処で、戦闘中だと言う事を思い出して慌てて後ろに下がる。
 ドラゴンも、動きを止めていた。みんなが、五匹に注目している。


 異世界でも、最高レベルの力を持つとされている超大型獣。まだ子供とはいえ、色々な世界から、最高レベルの子たちが現れた。
 アルシエンは、虹色の羽を持つ鳥。キラキラと光に覆われているから、とても眩しくて、全体像は、あまりよく分からない。
 エリュシオンは、真っ赤な体毛の猫。熱気を纏っていて、周りの植物が全て枯れてしまうほどだ。近づいたら、確実に火傷する。
 イノシオンは、青い体毛の馬。たてがみも濃い青。足を着いたところに水が出現する為、走った後には川が出来る。すぐに消えるのだけれど。
 ヴァランチは、水色の体毛で覆われた熊。冷気を纏っていて、周りの空気は凍り、通った後は白い結晶が残っていく。
 エクレールは、オレンジの短い体毛と、白の長い体毛に覆われた狼。体の周りはバチバチと音を立てる電気で覆われている。


 みんなみんな、私の可愛い使い魔。


「な……」
「ネージュの比じゃない……」


 ラザールお兄様とアンジェラさんが同時に声を漏らす。
 私も、初めて見た時は驚いた。でも、此処に居る事は事実だし、ちゃんと言う事を聞いてくれるし、時には甘えてくる。私の可愛い子。
 この子たちの力があれば、ドラゴンだって、すぐに倒せるはず。


「すぐに終わらせる」
「リーナ、魔力……」
「気にしないで」


 実際、魔力量は多いし、本のおかげで使用量も少ないから、負担は少ない。とにかく、早く終わらせる。
 エリュシオンは火の魔法が得意だから、それだけ注意。私はみんなに命令を出す。


「あのドラゴンを、倒して」


 一緒に攻撃をすると互いに打ち消し合ってしまうから、少しずつずらして。その辺りは、私が上手く命令を出してあげればいいだけの事。
 ただ、制限時間が短い。あまりに使用魔力量が多いから、出来るだけ減らそうとすると、どうしても制限時間が短くなってしまう。だから、頑張って体力を減らしたら、後はみんなに任せるしかない。
 インターバルは一時間必要。今出したら、この子たちは、一時間後まで使用はできない。だからまあ……。制限付きってことで、思っていた以上に使い勝手が悪いけれど、本当だったらこんな凄い子使えないし、まあ良いかな。


 綺麗な羽を大きく広げ、光の軌跡を残しながら、素早く飛んで行くアルシエン。その鋭いくちばしで、ドラゴンの肉を削ぎ落とす。
 わざと蛇行しながら走りるのはイノシオン。すぅっと静かに川が出来て行く。後ろからどんどん消えていく川を見るのは……。なんだか不思議な感じがする。攻撃を掻い潜り、ドラゴンまでたどり着くと、頭に付いた大きな角で突く。結構威力があるらしい。
 体を撓らせながら走るはエリュシオン。ベルさんに注意を出す。手が炎に包まれる。大きく飛躍、爪で傷を付ける。パッと鮮血が舞った。
 エクレールは白い長毛を風に棚引かせながら走る。バリバリ、と電気が光を放ちながら音を立てる。大きく一吠えすると、ドラゴンに雷が落ちた。
 さて、最後にヴァランチ。しゃらしゃらと小さな音を立てながら、氷の結晶が風に舞っては消えていく。吠えながら噛みつく。肉が削ぎ落とされ、ドラゴンが地響きのような悲鳴を上げる。


 今回は、最高レベルの技を使わせたから、時間が……。もうダメみたい。本を広げると、一匹ずつ中に戻っていく。もし、本を広げなかったら……。契約解消という恐ろしい結果が待っている。だから、いつもちょっと余裕を持って帰すようにしてる。
 だいぶダメージを与える事が出来た。あと少し、みんなに頑張って貰おう!


 もしこれで、時間制限がなければ、もっと使えるのだけれど……。それには、如何せん魔力を使い過ぎる。一匹が限度。そうなると、それもそれでどうか、と。この本で魔力を軽減する事で、ようやく使えるようになる。だからまあ、我儘は言っちゃいけないね。
 でも、欲は出るもので……。もうちょっと鍛えたら、制限時間を延ばして使用魔力を増やそうかな。
 本を撫でてからポケットに仕舞う。確か、魔法なんかも入れられたはずだけど……。でもほら、私が使えないから、なかなか難しいかな……。誰かに魔法を使って貰って中に入れるって、ちょっと……。


 封印系の魔法で閉じ込めて、服従系の魔法で従わせる。
 ちょっと可哀想だけれど、こうするしかないか。その内、本を使わないでも大丈夫になるのかな。


「っ! ベル様!」


 エティが叫ぶ。何事かと前を向くと……。


(?!)


 一体何があったか、ベルさんは転んでいた。
 しかも、ドラゴンの攻撃が迫っている。
 この状況で助けるのは厳しい。ミアのバリア魔法でも、あの距離だと防ぎきれない!


(危ないッ?!)

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