赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~

鏡田りりか

第39話  お見合いパーティ

 戦争が終わったとはいえ、相変わらず学校は始まらない。あまりに不安定過ぎて、始められないから。
 理由は前回と同じ。白魔族ヴァイス王国中の、学校に通っている生徒が集まってしまう、襲撃されたら大変だ。いつ何処と戦争が始まるのか分からない。帰れる保証はないからね。


「ラザールーっ!」
「ふ、フラン、近い近い。ちょっと離れて、苦しい」
「ごめん。でも……」


 人間族ニヒツと契約を結び、王と王女は白魔族ヴァイスに帰ってくる『はずだった』。
 しかし、なんということだろう。条約を結ぶ時判明したのだけれど、戦争に巻き込まれて、既に亡くなっていたとか……。
 その為、フランセット女王となり、今、非常に忙しく、こうやって愚痴を溢しているわけだ。


「お母様も、お父様も、居なくなってしまった……。私、独りぼっちだ」
「フラン……」
「お願いだから、これ以上私に何も望まないで。もう私、無理……」
「頑張ったよ、フランは。大丈夫」
「でも……。今すぐ、誰かと一緒になりたい。一人は嫌だ。ねえ、ラザール……」


 私のイライラは限界だ。思い切り扉を開け放った。ずっと部屋の外から盗み聞きをしていた。どうしても気になったからだ。
 そんな私を見ても、廊下を通る侍女メイド達は、何も言わずにそっとしておいてくれた。私がラザールお兄様を愛している事は、みんな、気付いているんだろう。
 本人を除いて。
 本当に、信じられない。何で気づかないの?


「わっ?! リーナちゃん!」
「止めて! 止めて! ラザールお兄様に、手、出さ、ないで」
「ど、どうしたの? リーナちゃん?」


 女王は少しすると、納得したように小さく笑って、それから、一枚の紙を手渡す。


「私、お見合いパーティーを開く事にしたの。両親は居なくなってしまったから、取り敢えず、許嫁の事は後にしようと思って」
「はあ……」
「それで、その相談に……」
(なんだ……)


 ただの思い違いだったようだ。






「え、お見合いパーティー?」
「うん、ミネルヴァ、行ってみない?」
「で、でも、私なんかが行ったら、大変な事になるんじゃ……」
「気にしないで良いと思うけど……」


 ミネルヴァさんは少し考え込んでいたけれど、やがてこくりと頷いた。


「ええ、折角です、行かせていただいましょう」


 ミネルヴァさん一人行かせるのはあまりにも不安だったので、アンジェラさんが付いていくこととなった。ほんとは嫌だって言われたけれど、何とか頼みこんで。だって、未成年は入れないって。アンジェラさんもミネルヴァさんのこと気にしてたらしい。仕方ない、と言って引き受けてくれた
 この後も、定期的にパーティーは行い、基本、ある程度のドレスアップがされている成人なら、誰でも自由に参加できるようにするらしい。


 と言う事で当日。ミネルヴァさんは、露出が少なめな綺麗なワンピースを着て、心配そうな表情で立っていた。元々背が高いのに、ヒールがあって、余計に大きく見える。
 アンジェラさんも。此方は露出が多い。大人の女性って感じがする。この二人が一緒じゃ、余計目立つんじゃ……。本当は、ミネルヴァさんのを中和させる為だったんだけど……。


「大丈夫かしら……」
「きっと大丈夫。どうしても無理だって思ったら、アンジェラに」
「まあ、出来る限り何とか致しましょう。まさかこんなドレスを着せられるとは思ってなかったのですが」
「えっ? いやー……。ニアッテルヨ」
「ラザール様……。はぁ。分かってます。引き受けた以上、ちゃんとやらせていただけますから」










 眩しい。と言うのは、装飾の事ではない。だって、装飾はグリフィン家で慣れているから。じゃあ、何が眩しいのかって、それは参加者。やる気が眩しい。
 なにせ、私はラザール様やリーナ様、そしてこの隣にいるミネルヴァに頼みこまれて此処にいるわけで、別に相手を探している訳じゃない。
 全く……。ミネルヴァの事、放っておけるわけ、ないんだから。ずっと不安だった。この体質のせいで相手が見つからないのって、可哀想だって、思ってた。だから、出来る事なら、協力してあげたいって思ってた。これくらい、なんてことない。そう、なんてことない……。


「アンジェラさん?」
「っ、なにかしら?」
「いえ……。でも、その、私、異性の方と関わった事ないから何話していいのか……」
「ああ、そんな事、気にしないで良いのよ。私が出来るだけ機会を作るわ」
「すみません……」


 ミネルヴァの方が年が大きいし、私より前からグリフィンに居る。なのに、なんでこんな私にミネルヴァが敬語を使うと言う変わった関係なのかと言うと、私も、実はきっかけはよく分からない。いつの間にかこうなってたって感じ?
 まあ、私も今は二十五を過ぎた。年を取るのが羨ましいくらい遅い白魔族ヴァイスのミネルヴァの方が若く見えるのは間違いない。だから、あんまり違和感を抱く人は多くないみたい。でも、ミネルヴァの方が、十以上の上。
 正直に言うと、私、この感じ、本当はあまり好きじゃない。ミネルヴァは私が来たばかりの時、優しく接してくれた。私が無視しても、根気良く話しかけてくれた。だから……。私にとって、ミネルヴァは、姉みたいだったの。なのに、これじゃ……。


「アンジェラさん……?」
「いけない、ちょっとボーっとしてたわね」
「もしかして、体調悪いとか……?」
「そんな事はないわよ、安心して。ちょ、ちょっと、そんな顔しないでよ」


 ミネルヴァは本当に可愛い。けれど、なんというか、世話好きなお姉ちゃんみたいな、そんな風にミネルヴァの事を思ってる。
 本当に世話焼きで、自分の事より他人の事を第一身にしてしまうような子だ。それが、なんとも言えず可愛い。偶に甘えてくる感じも、凄く。本当に、幸せになって貰いたいと思う。
 だから、ミネルヴァには協力してあげる。いつもいつも、どんな無茶ぶりにも、出来る限り対応してきた。


 男の人たちと話している自分が、自分でないような気がしていた。奥の方では、別の事を考えていた。
 前に、ミネルヴァが、なんでこんなに優しくしてくれるの、と訊いて来た事があった。私は、別に意識してなかったから、そうかしら? なんて言ったけど……。そう。私にとって、家族みたいなものだから。


『アンジェラちゃんだよね? 私、ミネルヴァって言うの、よろしくね?』


 私を見上げたミネルヴァは、長い茶髪をポニーテールにし、真っ赤な淵の眼鏡を掛けていた。今とちっとも変っていない。
 本当に悪いと思っているけれど、あの時、私は荒んでいた。恋人に裏切られた恨みは忘れていなかったし、なにせ、グリフィン家に来たのは、殺してすぐだったから。ミネルヴァの事は、無視した。
 人と関わりたくなかった。誰が裏切る人なのかなんて、分からないから。関わらないのが一番だと、思ってた。
 だけど、どんなに避けても、避けても、ミネルヴァは私の傍に来てはあれこれ話す。聞いてないって、気付いてたはずなのに。
 いつしか、私は今のようになっていた。完璧な淑女として、侍女メイド長にも、選んでいただいた。


 でも、それは全部、ミネルヴァの御蔭だったの……。


「アンジェラさん、今日はこれくらいで……」
「そう。まあ、ちょっとずつ慣れていけばいいわよね」
「はい」


 ミネルヴァは体質のせいで館からほぼ一歩も出ない。だから、こんな風に人の多いところに行くと疲れるらしい。前に、一緒に出掛けた時にそう言ってた。だから、今日もこの辺りにしておこう。無理して嫌いになっても仕方ないから。
 会場を出ると、ミネルヴァは安心した様に表情を緩める。やっぱり、緊張してたんだ。馬車まで、ちょっと距離がある。歩き始めると、甘える猫のように私にすり寄って、私の手を両手で抱き締める。


「もう……。ミネルヴァはもう子供じゃないでしょう? それに、私の方が年下よ?」
「そんな事はどうでもいいですよ。私とアンジェラさんの仲でしょう?」
「っ……! ねえ、いつか訊こうと思ってたのだけれど」


 私が足を止めると、必然的にミネルヴァも足を止める。首を傾げ、目をちょっと丸くした。


「はい?」
「ミネルヴァ、なんで私に敬語使ってるの?」
「ふぇ……?」
「おかしいじゃない。会ったばかりの時、こんなじゃなかったでしょう? どうしてなの? 私の事、嫌いなのッ? ねえ! どうしてッ?!」
「え……」


 ミネルヴァの瞳が更に大きくなる。やってしまった。でも、もう遅い。ちょっと口籠ると、ミネルヴァは寂しそうな笑みを浮かべる。え、なん、で……?


「うーん、そう来たか。……アンジェラ、メイド長になっちゃったから、私、このままじゃ駄目なのかなぁって、思ったんだけど」
「え……?」
「えっとね、一応、私なりに、気を使ってみたの。その、なんていうんだろ、アンジェラって、立場とか大事にするでしょ? だから」
「あ……」


 ミネルヴァは恥ずかしそうに笑みを浮かべるとちょっとだけ顔を伏せる。
 そういう、ことだったんだ。ミネルヴァ、私の事考えて、それで……。口元を手で覆う。こんな風に泣かされるのは、一体いつぶりだろう。
 私は、ミネルヴァの事、何も分かっていなかった。ミネルヴァは、私の事、大好きだったんだ。


「アンジェラって、真面目だよね。みんな、本気で考えちゃうの。もうちょっと気楽に考えていいと思うよ」


 よしよし、と私の頭を撫でる。幾らミネルヴァが背が高いとは言え、白魔族ヴァイスの平均身長は低いから、人間族ニヒツの親を持つ私よりは低い。ヒールの靴で、その上背伸びして。そんな危ない中で、優しい笑みのまま。
 流石にちょっと恥ずかしい。けれど、やっぱり……。


「お姉ちゃん、みたい」
「え?」
「私にお姉ちゃんがいたら、こんな感じだったのかしら、って」
「あぁ。私、世話好きなだけだよ。それに、こんなところ見せるのはアンジェラとミルヴィナにだけ。特別だよ」


 そう言ってくれると嬉しい。自分の妹と並べてくれるなんて……。案外、ミネルヴァも私の事、妹みたいに思っていたのかもしれない。


「アンジェラの事は、大好き。私の二人目の妹だよ。だから、ね、泣かないで。もう、敬語は使わないから」
「うん。ありがとう」
「やだなぁ、ありがとうって言わなきゃいけないのは私だよ」
「え?」
「今日、付き合ってくれてありがと」


 うん、やっぱりミネルヴァは可愛い。私の大好きなお姉ちゃんだ。

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