赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~

鏡田りりか

第34話  赤い魔法剣士

 Ла персонне де дéмон ыуе ноус не соммес пас Wейß ет Счwарз.


 Лес генс ноус аппеллент "Рот".


 昨日の夜持ち帰ったノートの様々なページを見比べて、何とか解読しようとしている。けれど、何と書いてあるのか全く分からない。もっと時間を掛け、ゆっくり解読する必要があるみたい。
 なにせ、これは両親が残したもの。一度、両親が森に行くのをこっそりつけてみた事があって、その時に知ったもの。もしかしたら、あの時、ついて来ていた事を、気付いてたのかもしれない……。
 ともかく、重要な事が書いてあるはずなんだ。今、知りたい事が、全て分かるかもしれない。
 お母さんとお父さん、一体、私に何を隠してたんだろ。凄く気になる。でも、このノートが解読できない限り、何も分かんない。頑張らないと。


「それが、例の?」
(全然読めない)
「ですか」


 私は小さく溜息を吐いた。これさえ読めば、知りたかった事が全て分かると思っていたのに。
 そう簡単にはいかないか、と私はノートを閉じた。もしかしたら異国語かもしれない。図書室で辞典を借りてこようと思ったのだ。






(……。違う)


 どの国の言葉でもない。もしかしたら鏡文字かも、と思ったけど、それも違う。文字の向きはそのまま、読む順番だけ逆にしてみても、うーん……。違うみたいだ。縦向きに読んでみる? 違う。これだけで一時間もかかった。とにかく、異国語じゃない事は分かった。
 となると、別の言葉。例えば、呪文だったり……。


(! それか!)


 呪文は、古代文字が使われている。もしかして、と思ったけど……、どうも違うみたい。同じ単語が見つからないから。
 ただ、文字の形は一緒。少し、この線で解読を始めてみようか……。






 昼食の後、少しして。勢いよく扉が空き、ラザールお兄様が飛び込んできた。


「リーナちゃん!」
「はい」
「いくよ、戦いだ」
「え」


 私は急いで準備をして、ラザールお兄様に付いていく。馬車に乗り込むと、既にパーティのみんなは揃っていた。
 うっかりしていた。何時戦いがあるか分からない様な立場だったんだ。ゆっくりノートの解読なんてしてる場合じゃない。


「敵の数は多くないけれど、どうも手練れ揃いみたいだ。気を付けて」


 馬車に暫く乗り。魔物が多く生息する森に近い草原の辺りで降ろされた。敵は、此処をまっすぐ進んだ場所で休んでいるところらしい。
 確かに、此処をずっと進めば海に行く。ただ、本当にずっと向こうだが。


「いい? 襲撃するから」
「準備を整えて、ですね」
「うん。行くよ」


 森に沿って、出来るだけ気付かれない様に進んでいく。敵軍の拠点が見えた時。私は使い魔を召喚し、ユリアが大きな魔法を放った。
 大爆発。その様子に、ユリアが楽しそうに笑う。ほんと、戦い好きだよね。ニィ、と言う笑みを浮かべて周りに魔力を集めていく。
 パニックになっているところへ、アンジェラさん、ミレが向かう。けれど。ラザールお兄様は躊躇するような表情を見せた。きっと、対人が駄目なのだ。
 目の前で、血みどろの、惨い殺され方をしたリアナ。人の血が苦手になっていても、仕方がない。
 その証拠に。アンジェラとミレによって舞い上がる鮮血を見て、ラザールお兄様はしゃがみこんでしまった。


「……っ! よし!」


 剣を振る少し前、やっぱり、辛そうな表情をしたけれど、それでも。
 赤い華が散ってゆく。
 その時、ラザールお兄様の瞳から涙が零れた。風に乗り、雨のように舞う。それでも、剣を振る手を止めない。何かに取り憑かれたかのようだ。
 いつもより、ずっと早く、ずっと強く。ラザールお兄様は剣を振り続ける。


「ラザールお兄様……」
「リーナ様?」
「辛いよね……」
「え?」


 エティの言葉は、聞こえているようで聞こえていなくて……。
 人の血は、ラザールお兄様にとって、リアナの亡骸を思い出すもの。辛いはずだ。なのに、剣を止めない。強い。本当に、強いと思う。
 その時、気が付いた。ラザールお兄様の瞳が、赤く染まっている。鮮やかな、血のような赤。あの時のアンジェラさんに近い。


(そ、っか)


 ラザールお兄様は、ちゃんと、過去から逃げずに、乗り越える事が出来たんだね。もう、大丈夫。
 キュッと唇を結び、使い魔たちに命令を出す。


 この戦い、絶対に勝つ!


 二本の剣を上手く扱い、舞うように戦うミレに目を向ける。風向きをどの方向に向ければ一番動きやすい……?
 片手剣を自在に操り、自身を鮮血で染め上げて行くアンジェラさんに目を向ける。何処にバリア魔法を張ったら、一番助かる……?
 涙目で両手剣を振り、魔法も使うラザールお兄様に目を向ける。どのタイミングでバリア魔法を張れば邪魔にならない……?


 そのような事を、しっかりと確認して命令を出す。
(風向きを北東)
「分かりました」
(アンジェラの右斜め後ろにバリア)
「了解!」


 ユリアの魔法も視野に入れる。爆発の煙が味方の視界を奪わないように。魔法が素早く敵に到達する様に。敵に命中する様に!
 それから、ネージュも放出中だ。大きな体のネージュにとって、ちっぽけな人間はただの獲物にすぎない。


「リーナ? 魔力、大丈夫なの?」
「全然平気」
「随分魔力量多いのね……」


 ミアとティアを一週間召喚したままでも平気だったくらいだ。戦っているとはいえ、問題はない。
 ただ、少し甘く見過ぎていたようだ。


「ネージュっ!」


 大きな体が宙を舞う。流石というか、何とか体勢を立て直したネージュ。でも、傷は深い。
 すぐにエティが治癒魔術を施したけれど、少し休ませた方が良いかもしれない。人間と魔物では、治癒魔術の効きが少し違う。
 良く見てみれば、周りのみんなも苦戦中のよう。『無能な人間族ニヒツ』相手だ、と、油断があったのかもしれない。
 一人を蹴り飛ばしたベルさんが叫ぶ。


「駄目だ、一度引き上げた方が良いよ!」


 その声で、アンジェラさんとミレは戻ってきた。けど、ラザールお兄様が敵に邪魔をされて戻って来れない。
 一人で敵に囲まれてしまって、苦戦なんてものじゃない。何とかしたいけれど、何とか出来ない。
 どうしていつも……。力のなさを嘆いてばかりだ。


(私にも力が欲しい。誰かっ!)


 いつかのように、視界が真っ赤になる。そして。


(! いける!)


 私は一か八か、魔力を動かした。魔法が発動する感覚が空中を駆け巡る。
 と、同時に、強い風が吹き荒れる。鋭利な刃物のような風は、敵の体を斬り裂いていく。魔法により、戦場は瞬く間に赤く染まっていく。


「うわあああっ!」
「ラザールくん!」


 ベルさんが、飛ばされてきたラザールお兄様を抱きとめた。
 視界が元に戻った私は、その場に膝をつく。急激に魔力が減った事による、体の変化。それによって、前回は体力を使い過ぎ、気絶した。だけど、今回は、荒い息をしながらも、意識を手放すまでではなかった。鍛えた甲斐がある。


「リーナちゃん、今の……」
「上手く、いった」
「な、何が起きたの?」


 ベルさんが驚いた様に問う。しかし、私もよく分かっていない。
 なんと答えて良いのか戸惑っているうちに、ラザールお兄様が小さく呟く。その呟きにアンジェラさんが反応する。


「赤いね……」
「赤……。そういえば、さっき、ラザール様の瞳、赤かったですよ」
「え、そうなの?」


 一体、この現象はなんなのだろう……。せめて、あのノートが、解読できればいいのだけれど……。 

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