赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~

鏡田りりか

第33話  戦闘練習

 春休みが終わっても、学校は始まらなかった。
 獣人族べスティエVS人間族ニヒツが白熱し過ぎて、いつ何が起こるか分からない状態だからだ。
 だからこそ学校に居た方が安全かもしれない、という声もあったのだけど、未来を担う子供たちの居る学校を先に潰す、という手も考えられなくはない。その為、一応休校になり、寮に住む生徒も帰省したまま、寮に残っていた場合は即帰還となった。


 そして、グリフィンは大きな任務を任される事となった。


「今日。参戦します。戦いが始まったら、向かって欲しいのです」
「!」
「命が掛かっていること……。本当はお願いしたくないのですが、どうか、どうか……」


 という事で、何時でも戦えるように準備をしなくてはいけなくなった。
 ただし、問題点として。ユリア以外は対人の経験がほぼ無い。当然、授業で練習くらいならあるけれど、本当の殺し合いはまずない。不安が残る。
 また、エティがグリフィンに入った事で、隊形の確認も必要。相手は軍。簡単には突破できない。だから、連携が必要となってくることが予想出来ると言う訳。


 アンジェラさんとミレが前衛。一番に攻撃を仕掛ける。
 ラザールお兄様が前衛兼中衛。必要に応じて前で剣士として、後ろで魔法使いとして戦う。
 中衛にはユリア。後ろから魔法で攻撃を掛ける。
 後衛に私とエティ。私は当然。エティは治癒魔術師なので、やっぱり後ろ。
 そしてベルさんなのだけど……。何処にも入り辛いので別枠にしておこうかな。
 計七人。パーティとしてはなかなかいい感じだと思う。私の使い魔も入れば、それ以上にもなる。


「くっ、意外に難しいわね……」
「どうしたらいいのか、分からない」
「もうちょっと練習が必要だね」


 ユリアと私の声にラザールお兄様が答える。
 味方が動きやすい様に動く、というのが、意外に難しい。全体の見通しというものがなかなか上手くいかない。何度も危ないところで、ベルさんが魔物を蹴り飛ばす姿を見ている。


「良く周りを見て。その前に、前衛の動きをよく観察して。こういうときは、こう動く」
「なるほどね。じゃあ、次は攻撃しないわよ? それで、みんなの動きを良く見てみる事にするけれど、平気?」
「まあ、大丈夫かな」
「分かったわ」


 こうしてみてみると、いかにミレが素早く動いているかが分かる。アンジェラさんの剣捌きも流石と言えよう。
 なるほど、何となく分かってきた。誰が、どんな時、どう動くのか。


(ミア)
「了解」


 それに上手く合わせてバリア魔法を張る。アンジェラさんが笑みを返してくれた。
 ティアはエティという治癒魔術師が来たから、治癒はあまり必要がない。その代わりに、ミアと同じようで少し違う補佐魔法を覚えた。
 例えば、少しだけ地形を変える。例えば、少しだけ風向きを変える。これでも、相当違ってきたりする。特に、ユリアの魔法の時は大きい。


「私も分かってきたわ……。こういうことね?」
「ユリア、ナイスッ!」
「ありがと」


 褒め合いながら。だいぶ上達した七人は、少し疲れたところで家に向かいだした。
 何時戦う事になるのか分からないから、適度なところで止めるようにしている。けど、今日はそうもいかないみたい。


「あ、魔物だ」
「ミレ様、行きましょう」
「オッケー!」
「援護するわ」


 その時、ユリアが撃った魔法に反応したのは、ベルさんだった。
 炎魔法が舞うと、声を漏らして目を見開いた。


「べ、べル姉?」
「あ、あ……」
「ど、どうしたのよ?」


 両手を胸に置いてその場に座り込んでしまった。
 ラザールお兄様は苦い顔をすると、任せたと言い残して魔物の方へ向かってしまう。


(もしかして、例の……)


 彼女も、例の、何か記憶を持っているのかもしれない……。
 それだったら、とにかく、ベルに敵を近づけないようにし、暫くそのままにしておくしかない。
 私はベルさんの記憶についてを知らないから、解決策が見つからない。解決策が見つからない限り……。悪いけれど、放っておくしかない。


「私、ど、どうすればいいのかしら?」
「とにかく、ベルさんに、魔物を、近づけさせない」
「わかったわ」


 ユリアはステッキを振って魔法の準備をする。私も何時でも使い魔を呼べるようにしておく。
 アンジェラさんとミレ、ラザールお兄様が全ての魔物を倒してくれたので、此方に魔物が来る事はなかった。
 おろおろとしたエティに近くに来るよう促し、ラザールお兄様の行動を見守る。


「べル姉、大丈夫? べル姉?」
「ラザー、ル……」
「大丈夫、誰も火傷していないよ? ほら」
「でも、でも……」


 ベルさんは泣きそうな顔でそう呟いた。ラザールお兄様がそっと背中に手を当てる。
 ラザールお兄様が何度か「大丈夫だから」と囁くと、こくっと頷いて立ちあがった。


「大丈夫……。ごめんね、なんか」
「気にしないでください。私達は大丈夫ですよ!」
「さ、帰ろうか」


 帰り道、私の隣にラザールお兄様が来て、ベルさんに聞こえない事を確認しながら口を開く。


「あの……。まあ、多分、リーナちゃんの想像通りなんだけどね」
「はい」
「ベル姉の親が、死んじゃってて」
「はい」
「火事だったんだ」




 その日は休日で、ベルは家に居た。両親もその日は偶々暇で、三人でリビングに居たんだ。弟も居るんだけど、彼は友達と遊びに出ていたからね。
 確か、放火だったかな。気付いた時には、もう、家中を炎が包んでいた。
 慌てて、逃げ出そうとしたけれど、火の周りが速くて……。両親は、ベル姉を外に放り出して、それで……。




「だから、炎が」
「うん、そうだと思うよ」


 それなら、エティと一緒だ。身近な人の死の記憶。それによる、心の傷。
 泣きそうな顔をしていたベルさん。エティは、あの時、どのような表情をしていた……? ともかく、ユリアには炎魔法を避けるように言わなくてはいけない。


「どうかした?」
「あっ、いえ」
「そう……。取り敢えず、少しは様子を見た方が良いみたいだ。もう、大丈夫になっていると思ってたんだけど……」


(あ……! そういえば)


 この状況を、全て、解明する事が出来るかもしれない。ちょっと無茶する事になるけれど、仕方がない。怒られてもいい。だって、それ以上の物だから。
 私はキュッと唇を結ぶと、頭の中で、これからの予定を作り始めた。






「リーナ様、本気ですか?」
(えっ?)
「だって……。いえ、止める事は許されませんね」


 キュッと唇を結ぶティア。そっか、分かるんだっけ。ごめんね。悪いけど、誰にも止めさせない。私はリュックに荷物を詰めると、それを背負った。
 外は暗い。月明かりのみが唯一の明かりとなっている。赤いを持っていっても居けれど、魔物に自分の居場所を知らせる事になっちゃうから、止めた方が良いかな。持ってくだけ持ってけばいっか。
 一度深呼吸をすると、そっと扉を開け、部屋を抜け出す。急いで、それでも音をたてないように廊下を進んでいく。音がしないよう注意をしながら門を開け、これで脱出は成功だ。


(ネージュ、おいで)


 ネージュを召喚すると、私は目的地を告げる。使い魔に、拒否権はない。すぐに私を乗せて走り出した。
 春とはいえ、夜だと、相当寒い。その上、ネージュは結構なスピードを出している。冷たい風が体を冷やす。それでも、ネージュの速さを緩めさせるような事はしなかった。急がないと、私が抜けだした音に気付かれちゃうかもしれない。
 ラザールお兄様と出会った、あの森を突っ切る。確か、此処を曲がって……。


(ここで良いよ、止まって)


 ネージュはスピードを緩めて行き、走るのを止めた。
 私は飛び降りて、持ってきたライトで辺りを照らすと、見覚えがある事を確認し、歩いていく。
 一カ所、此処だ、という場所でしゃがむと、ひんやりとする土を掘り始めた。


(冷たい)


 シャベルでも持ってくればよかった、と後悔する。これで、間違っていたら、もう本当にうんざりだ。
 何とか手で掘り進めて行き、それでも、手は感覚が無くなるほどに冷たくて、今日はもう止めようか、と思った時。土ではない、何かに触れた。


(これだ)


 土を払いながら、間違いがない事を確認する。
 少し大きめの木の箱は、埋められていたせいで、ところどころ腐食してしまっている。観察してみると、鍵が掛かっていたけれど、何とか開けようと揺すっていると、壊れて開いた。脆い。
 ふたを開けると、中には、油紙で包まれた物が幾つか入っている。その内の一つを開いてみると……。
 出てきたのは、比較的綺麗なノートだった。


(あ……)


 でも、読む事が出来ない。知らない文字。これじゃ、なんて書いてあるのか分からない。他の油紙も開けてみる。どれも、似たようなノートが出てきた。やっぱりと言うか、どのノートも読めない文字が並んでいるだけだった。
 だけど、これだけが頼りなの。もう一度油紙に包み直すと、全てリュックに入れ、空の箱を埋め直す。


(!)


 その時。ネージュの威嚇する声が聞こえた。魔物が居るみたい。注意しながら其方に向かうと、牙を赤く染めたネージュが座っていた。魔物はもう倒し終えたらしい。
 夜は魔物の時間だ。一番活性化し、強くなる。だから、少し不安だったのだけど、強くなるのはネージュも同じだったね。私は小さく笑うと、ネージュに乗り、家に向かって走らせた。

「赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く