赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~
第27話 白魔族×夢魔
「っと、大丈夫?」
救世主は、茶色い髪の女の子だった。
今日の朝まで戻る。
学校が始まったんだけど、どうやら、冬休み中に黒魔族王国は小人族国も巨人族国も続け様に攻撃し、植民地にしたらしい。ついに黒魔族帝国になった。
と言う事で、この様子では、いつ戦争が起こってもおかしくないから、生徒急化策が行われる事になったとか。
で、早速、中等科、高等科のA、B、C、D、E、Fクラスの生徒が街の外まで出掛けて魔物狩り。実戦を行った事のない生徒も結構居たらしく、先生達の会議で、魔物と実際に戦わせた方が良いという結論になったらしい。でも、これより低いクラスの人はちょっと危険かもしれないし其処は止めておいたとか。
結構みんな固まって行動してるし、範囲も広いから、他の生徒とはあんまり出会わない。あ、私は一人で行動してる。いっつもみんなと一緒だったから、たまにはいいよね。
ネージュを召喚して、森の中へ。こっちの方は、生徒はほとんどいないみたい。ちょっと強い魔物も居るし、土地勘がないと迷子になっちゃうから。でも、私は此処、何度も来てるし、大丈夫。
って油断したのがいけなかったのか。
うっかり森の奥まで行き過ぎちゃって、明らかにネージュより強そうな魔物に出会ってしまった。
慌てて逃げ惑っていると、その女の子が助けてくれたと言う事。
本当に小さな剣を持ち、軽やかな動きでやって来た彼女は、制服の形が私と違った。
基本はとても似ている。だけど、襟が蝙蝠の羽の様な形になっていて、スカートがもっと短く、袖が姫袖になっている。線の色はオレンジ。
この学校はもともと女子校だったから、当初の学年色はピンク、オレンジ、水色だった。でも、共学になる時に、この色じゃ、ってことで、男子と女子の色が違う、という事態になっている。
と言う事で、今の色は、一年は緑とオレンジ。二年は赤とピンク。三年は青と水色だ。
この制服と、色。高等科一年、二個先輩だ。という事は、ミレと同じ年だ。
「あ、あの……」
「間違えて迷いこんじゃったのかな。私はベル。ベル・ドレイク」
「!」
ベルという名前には、聞き覚えがあった。そう、ミレが言っていた、あの……。
あの後も、何度かベルさんの話は聞いていた。どうも、二人は仲が良いらしい。
ベルさんは私の姿を上から順番に眺めると、あ、と小さく呟いた。
「もしかして、リーナちゃんかな」
「ベル、さん? あ、あの、ミレが……」
「やっぱそうだよね! あたしも、ミレからリーナちゃんの事聞いてるよ」
にっこりとほほ笑むと、手に持っていた何かを私の方に向かって投げた。驚いて振り返ると、魔物に短剣が突き刺さっている。これか。
ベルさんに案内して貰いながら森を抜ける。逃げてる間に、結構変なところまではいりこんじゃってたみたい。一人だったら、帰れなくなっていたかもしれない。
「あたし、暗殺者やってるんだ。気配を消して魔物に近づいて、グサ! ってね」
「へえ……。それで」
「怪我無くて良かった。気付くのちょっと遅かったからヒヤヒヤしちゃった」
愛想のいい笑顔を浮かべる。長い茶髪は癖っ毛らしく、少しくるくるしている。それから、茶色い淵の眼鏡を掛けている。
と、向こうからミレが駆けてきた。やっぱり、ベルさんと同じ制服。
「ベルー! リーナちゃん見なかっ……」
「あー、大丈夫。救出済み。怪我はないよ」
「よかった。ベルと一緒だったんだ」
「さっき会ってね。今度は無理しちゃいけないよ、リーナちゃん」
「はい。ありがとうございました」
「ベルは、暗殺者のスキルで学校に入ってるの」
「え?」
「親が、火事で死んじゃってね。弟も居るんだけど、両方とも、武術を極めて、奨学金で通ってる」
「じゃあ……」
「特待生。ベルは、もちろん、勉強もできるよ」
帰り道、ミレがそう言った。
一緒に帰る事は滅多にない。というか、普段は馬車だから、一緒に帰るも何もないんだけどね。
でも、今日は足が痛くなろうがなんだろうが歩いて帰りたかったので、ミレと帰ることにした。
すると、ユリアも付いて来て、それなら、とラザールお兄様も来て、なんだかんだで大人数になっている。
「あ、そういえば、なんで急に歩いて帰るなんて言いだしたの?」
「え? あ、それは……」
ふと、思い出したかのようにそういうミレ。でも、答えられない。アリスと一緒に出掛ける時の為に、町をゆっくり見たいから、だなんて言えるはずもない。
なにせ、アリスは侍女だから。普通、そんなことしちゃいけないってことくらい、分かっている。
「まあ良いけど。あ、ミレこっちだから。じゃね」
「あ、うん」
「ベルの事は、後で紹介してあげるよ」
「ありがとう」
私は、相変わらず、ミネルヴァさんに勉強を教えて貰っている。
御蔭で、学校の授業は余裕。だけど、しっかりと授業は受ける。それは、ミネルヴァさんとの約束。ミネルヴァさんと仲良くなって来たから、教えて貰うのが楽しくなっていた。
今日は、ラザールお兄様は何か用事があるとかで、ミネルヴァさんと二人きり。悪くはないけれど、ちょっと寂しい。
「そういえば……。リーナ様は、好きな人、いないんですか?」
「えっ?!」
「いや……。中学生にもなれば、好きな人の一人や二人くらい、いるでしょう?」
「ん……」
答えは決まっているけれど、口に出したら、全てが壊れてしまいそうに感じる。
だから、黙って首を横に振る。このままでいいんだから。
「でも、なんで?」
「いや……。私、もうすぐ四十なんですけれど」
四十とはいえ、白魔族の寿命は五百年くらいらしいから、ミネルヴァはまだまだ全然若い方。ただ、他の国に合わせて、成人は十八だけどね。でも、成人したから何、と言う訳でもない。
「え、そうなんだ」
「はい。なのに! 独身でこのままだなんてあり得ない! 私だっていい恋がしたい……」
少し違和感を感じる。グラマーな体つきのミネルヴァさん。顔だって相当良い。それなのに、恋人が見つからないって、そんな事って、ある? それほど外に行ってない、とか……?
もしかしたら、良過ぎるというのもあるのかもしれない。恋人が居ないようには見えない。
「私……。サキュバスの血が入っているんです」
「サキュバス……。夢魔」
「はい。御蔭で、男の人はみんな狂っちゃって、良い恋が出来ない! 軽いキスなんて無理。一足飛びで最終ステージです」
「ああ」
夢魔は異性を惑わす生き物。確かに、まともな恋愛が出来るとは思えない。
髪をくるくる人差し指で弄りながら溜息を吐く。物憂げな表情が婀娜っぽい。
でも、珍しいな。夢魔って黒魔族に近いから、あんまり白魔族と夢魔との混血って聞いた事ない。
「ラザール様は、大丈夫なんですけれどね」
「え?」
「多分、神の血が入っているからでしょう。ラザール様がいらっしゃらなければ、私は、家庭教師の夢を叶えられなかったでしょうね」
勉強が終わってから、私はミルヴィナの所へ向かった。
ミネルヴァさんとミルヴィナは姉妹だ。という事は、ミルヴィナにも夢魔の血が入っている事になる。
「誰だ……。ああ、リーナ」
「遊びに、来ちゃい、ました」
「構わない。丁度私も暇だった」
そう言って、キャスターの付いた椅子をくるりと回転させた。
一つの染みもない白衣。その下に隠れている体は、どうやら、ミネルヴァさんとは正反対のようだ。
そんな視線には気付かず、ミルヴィナはいつも通り小さな籠を取り出した。中には、何匹かの鼠が入っている。
他の人には実験用、なんて言っているけれど、なんだかんだで名前を付けて可愛がっている。良くこの鼠を触らせてもらっていたから、私はミルヴィナと仲が良い。ついでに、呼び方はミルヴィナ自身がそう呼んで欲しいと言ってこうなった。
「あの、ミルヴィナも、夢魔の血、入って」
「! ミネルヴァ、もしかして喋ったのか?」
「はい」
「そうか……。ああ、あれだ、私に彼氏が出来たから、ほら」
「ああ、なるほど」
道理で『私だって』といったわけだ。妹は彼氏が出来たというのに、自分には出来ないと嫉妬を。いや、出来ないわけじゃないけれど。まあ、大変なことになるのは目に見えているから。
きちんとした『お付き合い』が出来るような人は、もしかしたら、神の血筋を持つ王族以外いないんじゃ……。
「でも、なんか……」
「ああ、どう見てもミネルヴァとは違うな」
「うっ、ごめんなさい」
「いや、そういう訳じゃないんだ。だがまあ、ちょっと、私も癖があってな……」
「?」
「すぐ別れることになるとは思うから、まあ、今のうちに楽しんでおく事にするよ」
そう言って苦笑いする顔は、なんだか見慣れない表情だった。
救世主は、茶色い髪の女の子だった。
今日の朝まで戻る。
学校が始まったんだけど、どうやら、冬休み中に黒魔族王国は小人族国も巨人族国も続け様に攻撃し、植民地にしたらしい。ついに黒魔族帝国になった。
と言う事で、この様子では、いつ戦争が起こってもおかしくないから、生徒急化策が行われる事になったとか。
で、早速、中等科、高等科のA、B、C、D、E、Fクラスの生徒が街の外まで出掛けて魔物狩り。実戦を行った事のない生徒も結構居たらしく、先生達の会議で、魔物と実際に戦わせた方が良いという結論になったらしい。でも、これより低いクラスの人はちょっと危険かもしれないし其処は止めておいたとか。
結構みんな固まって行動してるし、範囲も広いから、他の生徒とはあんまり出会わない。あ、私は一人で行動してる。いっつもみんなと一緒だったから、たまにはいいよね。
ネージュを召喚して、森の中へ。こっちの方は、生徒はほとんどいないみたい。ちょっと強い魔物も居るし、土地勘がないと迷子になっちゃうから。でも、私は此処、何度も来てるし、大丈夫。
って油断したのがいけなかったのか。
うっかり森の奥まで行き過ぎちゃって、明らかにネージュより強そうな魔物に出会ってしまった。
慌てて逃げ惑っていると、その女の子が助けてくれたと言う事。
本当に小さな剣を持ち、軽やかな動きでやって来た彼女は、制服の形が私と違った。
基本はとても似ている。だけど、襟が蝙蝠の羽の様な形になっていて、スカートがもっと短く、袖が姫袖になっている。線の色はオレンジ。
この学校はもともと女子校だったから、当初の学年色はピンク、オレンジ、水色だった。でも、共学になる時に、この色じゃ、ってことで、男子と女子の色が違う、という事態になっている。
と言う事で、今の色は、一年は緑とオレンジ。二年は赤とピンク。三年は青と水色だ。
この制服と、色。高等科一年、二個先輩だ。という事は、ミレと同じ年だ。
「あ、あの……」
「間違えて迷いこんじゃったのかな。私はベル。ベル・ドレイク」
「!」
ベルという名前には、聞き覚えがあった。そう、ミレが言っていた、あの……。
あの後も、何度かベルさんの話は聞いていた。どうも、二人は仲が良いらしい。
ベルさんは私の姿を上から順番に眺めると、あ、と小さく呟いた。
「もしかして、リーナちゃんかな」
「ベル、さん? あ、あの、ミレが……」
「やっぱそうだよね! あたしも、ミレからリーナちゃんの事聞いてるよ」
にっこりとほほ笑むと、手に持っていた何かを私の方に向かって投げた。驚いて振り返ると、魔物に短剣が突き刺さっている。これか。
ベルさんに案内して貰いながら森を抜ける。逃げてる間に、結構変なところまではいりこんじゃってたみたい。一人だったら、帰れなくなっていたかもしれない。
「あたし、暗殺者やってるんだ。気配を消して魔物に近づいて、グサ! ってね」
「へえ……。それで」
「怪我無くて良かった。気付くのちょっと遅かったからヒヤヒヤしちゃった」
愛想のいい笑顔を浮かべる。長い茶髪は癖っ毛らしく、少しくるくるしている。それから、茶色い淵の眼鏡を掛けている。
と、向こうからミレが駆けてきた。やっぱり、ベルさんと同じ制服。
「ベルー! リーナちゃん見なかっ……」
「あー、大丈夫。救出済み。怪我はないよ」
「よかった。ベルと一緒だったんだ」
「さっき会ってね。今度は無理しちゃいけないよ、リーナちゃん」
「はい。ありがとうございました」
「ベルは、暗殺者のスキルで学校に入ってるの」
「え?」
「親が、火事で死んじゃってね。弟も居るんだけど、両方とも、武術を極めて、奨学金で通ってる」
「じゃあ……」
「特待生。ベルは、もちろん、勉強もできるよ」
帰り道、ミレがそう言った。
一緒に帰る事は滅多にない。というか、普段は馬車だから、一緒に帰るも何もないんだけどね。
でも、今日は足が痛くなろうがなんだろうが歩いて帰りたかったので、ミレと帰ることにした。
すると、ユリアも付いて来て、それなら、とラザールお兄様も来て、なんだかんだで大人数になっている。
「あ、そういえば、なんで急に歩いて帰るなんて言いだしたの?」
「え? あ、それは……」
ふと、思い出したかのようにそういうミレ。でも、答えられない。アリスと一緒に出掛ける時の為に、町をゆっくり見たいから、だなんて言えるはずもない。
なにせ、アリスは侍女だから。普通、そんなことしちゃいけないってことくらい、分かっている。
「まあ良いけど。あ、ミレこっちだから。じゃね」
「あ、うん」
「ベルの事は、後で紹介してあげるよ」
「ありがとう」
私は、相変わらず、ミネルヴァさんに勉強を教えて貰っている。
御蔭で、学校の授業は余裕。だけど、しっかりと授業は受ける。それは、ミネルヴァさんとの約束。ミネルヴァさんと仲良くなって来たから、教えて貰うのが楽しくなっていた。
今日は、ラザールお兄様は何か用事があるとかで、ミネルヴァさんと二人きり。悪くはないけれど、ちょっと寂しい。
「そういえば……。リーナ様は、好きな人、いないんですか?」
「えっ?!」
「いや……。中学生にもなれば、好きな人の一人や二人くらい、いるでしょう?」
「ん……」
答えは決まっているけれど、口に出したら、全てが壊れてしまいそうに感じる。
だから、黙って首を横に振る。このままでいいんだから。
「でも、なんで?」
「いや……。私、もうすぐ四十なんですけれど」
四十とはいえ、白魔族の寿命は五百年くらいらしいから、ミネルヴァはまだまだ全然若い方。ただ、他の国に合わせて、成人は十八だけどね。でも、成人したから何、と言う訳でもない。
「え、そうなんだ」
「はい。なのに! 独身でこのままだなんてあり得ない! 私だっていい恋がしたい……」
少し違和感を感じる。グラマーな体つきのミネルヴァさん。顔だって相当良い。それなのに、恋人が見つからないって、そんな事って、ある? それほど外に行ってない、とか……?
もしかしたら、良過ぎるというのもあるのかもしれない。恋人が居ないようには見えない。
「私……。サキュバスの血が入っているんです」
「サキュバス……。夢魔」
「はい。御蔭で、男の人はみんな狂っちゃって、良い恋が出来ない! 軽いキスなんて無理。一足飛びで最終ステージです」
「ああ」
夢魔は異性を惑わす生き物。確かに、まともな恋愛が出来るとは思えない。
髪をくるくる人差し指で弄りながら溜息を吐く。物憂げな表情が婀娜っぽい。
でも、珍しいな。夢魔って黒魔族に近いから、あんまり白魔族と夢魔との混血って聞いた事ない。
「ラザール様は、大丈夫なんですけれどね」
「え?」
「多分、神の血が入っているからでしょう。ラザール様がいらっしゃらなければ、私は、家庭教師の夢を叶えられなかったでしょうね」
勉強が終わってから、私はミルヴィナの所へ向かった。
ミネルヴァさんとミルヴィナは姉妹だ。という事は、ミルヴィナにも夢魔の血が入っている事になる。
「誰だ……。ああ、リーナ」
「遊びに、来ちゃい、ました」
「構わない。丁度私も暇だった」
そう言って、キャスターの付いた椅子をくるりと回転させた。
一つの染みもない白衣。その下に隠れている体は、どうやら、ミネルヴァさんとは正反対のようだ。
そんな視線には気付かず、ミルヴィナはいつも通り小さな籠を取り出した。中には、何匹かの鼠が入っている。
他の人には実験用、なんて言っているけれど、なんだかんだで名前を付けて可愛がっている。良くこの鼠を触らせてもらっていたから、私はミルヴィナと仲が良い。ついでに、呼び方はミルヴィナ自身がそう呼んで欲しいと言ってこうなった。
「あの、ミルヴィナも、夢魔の血、入って」
「! ミネルヴァ、もしかして喋ったのか?」
「はい」
「そうか……。ああ、あれだ、私に彼氏が出来たから、ほら」
「ああ、なるほど」
道理で『私だって』といったわけだ。妹は彼氏が出来たというのに、自分には出来ないと嫉妬を。いや、出来ないわけじゃないけれど。まあ、大変なことになるのは目に見えているから。
きちんとした『お付き合い』が出来るような人は、もしかしたら、神の血筋を持つ王族以外いないんじゃ……。
「でも、なんか……」
「ああ、どう見てもミネルヴァとは違うな」
「うっ、ごめんなさい」
「いや、そういう訳じゃないんだ。だがまあ、ちょっと、私も癖があってな……」
「?」
「すぐ別れることになるとは思うから、まあ、今のうちに楽しんでおく事にするよ」
そう言って苦笑いする顔は、なんだか見慣れない表情だった。
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