赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~

鏡田りりか

第26話  赤い女剣士

「やあっ!」


 美しく舞うミアを見て、思わず見とれてしまった私は、アリスに袖を引っ張られて我に返った。
 だって、仕方ないでしょ。ほんと綺麗なんだもん。舞うように、軽やかに。それでいて力強い斬撃。赤い鮮血も寧ろ美しい。


「リーナ様……。御怪我をなさっておりますから、もう少しだけ、お下がりください」
「あっ、ごめんね、アリス」


 アリスと一緒にもう少し下がる。メイド服姿のアリスは本当に愛らしい。ツインテールにさせようと思ったら嫌がられちゃったど、まあ仕方ない。って違う違う。そうじゃなくて、そんな可愛いアリスに、こんな表情させちゃ駄目だよね。
 獣人族べスティエ王国から帰って来て、また魔物狩りを始めた。のだけれど、久しぶりだったせいか、木の根元に躓いて足を捻った。
 それがさっきの事で、流石にみんなに下がれと言われた。魔物に襲われてみんなが戦っているといのに、一人だけこうやっているのは随分悲しい。
 ああいや、一人じゃない、こうやってアリスが傍にいてくれるし。小さい体で一生懸命、私に尽くそうとしてくれる可愛い侍女メイドが此処にいる。
 でも……。怪我してなくても、私はほぼ戦力外。どうせ変わんない、かな。なんて、そんな風に思ったら、ちょっと悲しくなっちゃって。


「大丈夫ですか? 痛みます?」
「ん、大丈夫だよ。ちょっとだけだから」
「そうですか……? 私も、早くみなさんみたいに戦えるようになりたいです」


 皆さんって、私入ってないよね?
 アリスはまだ白魔族ヴァイス王国になれるのが指優先だから、戦闘なんて以ての外。まずは言葉を、生活様式を学ばせないと。でも、どうしても見てみたいって言うから、ついてくるのは許したけど。だって、うるうるの瞳で、上目遣いに「おねがします」なんて言われたら……。断れるわけない。
 でもまあ、いつまでも甘やかす事は出来ない。春休みが明けたら、学校に通わせてみようと言う話になってるから、それまでにはなんとか白魔族ヴァイス語をある程度理解できるようにしないと。いつまでもペンダントとイヤリングってわけにはいかない。


 ラザールお兄様の、赤い光を纏う大きな剣が振り降ろされ、魔物は全部倒されたみたい。
 魔法剣士と言うと、細身の剣を使う人が多いんだけど、ラザールお兄様は、敢えて、大きな剣を選んだ。
 それは、もし、また、アンジェラさんが剣をもう一度持つ気になった時。パーティ内で武器が被らないようにする為なんだと思う。アンジェラさん、片手剣と両手剣の間くらいの大きさの剣使ってたらしいから。
 ラザールお兄様は、心から、アンジェラさんが剣士として戦う事を望んでる。アンジェラさんも、それが分かってる。だけど、心の傷は、深すぎる。


 と、軽やかに此処まで走って来たミレは、私の足を見て眉を顰める。


「腫れてる……。ねえ、それ、本当に大丈夫?」
「一応、応急処置をして帰りましょうか」
「え……!」
「その方がいいわ。リーナ、戻りましょ?」
「でっ、でも、せっかく来たし、あんまり痛くない、気にしないで」


 私が笑うと、みんなは心配したような表情のままだったけれど、頷いてくれた。
 ――このまま私のせいで、みんなを帰らせたくはない。
 みんな、私の性格はよく知ってるから、こういう時、無理に帰ろうとはせず、頷いてくれる。
 けどね……。ラザールお兄様が私をお姫様抱っこしてるんだけど。これじゃ、迷惑になってない? でも、ちょっと嬉しいような。大人しくこのまま抱っこされてよう。


「痛い……?」
「大丈夫です」
「無理しちゃ、駄目だよ」


 ぴょこぴょこと跳ねるようについて来るアリスの耳もちょっと垂れてる。そんなに心配しないで良いのに。
 と、先頭を歩いていたミレが急に足を止める。


「あ」
「? ミレ?」


 運悪く、巨大な魔物の群れと遭遇。しかも、もう気づかれてる。そんな魔物を見て、此方の空気も変わる。
 私とアリスは茂みの中に逃げ込み、他のみんなはそれぞれ戦闘態勢に。


 ラザールお兄様が背中に刺した剣を引き抜き、少しだけ足を開いてしっかりと構える。剣身は燃えるような赤に変わる。ラザールお兄様が魔力を流したからだ。
 風がクリーム色の髪を揺らすと、ラザールお兄様の瞳が魔物の群れを捕らえる。


 ミレは両方の腰に刺さった剣を引き抜いて、右の切っ先を左上に、左の切っ先を右下に向ける。よく切れる鋭く尖れた剣は、太陽の光を浴びるとゾクッとするほどよく光る。
 キュッと唇を結び、そっと体勢を低くする。


 ユリアは攻撃タイプの魔術師メイジだ。杖の先に集まった魔力は、バチバチと音を立てている。ユリアのイメージカラーの桃色。その杖は、ユリアの為だけに作られた特注品。最大限まで、魔力を引き出す。
 基本戦闘が好きだから、口元には笑みが浮かんでいる。


 アンジェラは回復役の事が多いので、ステッキを構えて魔法の準備をしている。ただ、このような状況では攻撃を行う事も多い。全体を見ながら、バランスを考えて魔法を打つから、まだ、準備をするだけ。


 ラザールお兄様とミレが一瞬だけ視線を交わすと、ほぼ同時に走り出す。
 ラザールお兄様が剣を振ると、魔力の波動がぶつかり合うバチバチという音とともに、魔物が吹き飛ばされていく。刃によって、魔物が斬られ、周りの魔力によって、近くに居た魔物が吹き飛ばされる。
 ミレは体勢を低くしたまま、良くタイミングを見極め、右手、左手、と順番に素早く開く。パッ、パッ、と鮮血が舞い、道を赤く染め上げる。
 二人を巻き込まないよう、遠くから爆発音が聞こえてくる。その後、ユリアはパッと駆け出した。杖の先に魔力を集め、魔物を殴ると、魔力によって魔物は命を落とす。
 連携の様なものはあまり見られないとはいえ、テンポの速い鮮やかな戦いは、思わず見惚れてしまう。


「いつ見ても、凄いです」
「うん。素敵」
「私もああなりたいです。でも、きっと、無理でしょうけど」
「私も」


 召喚魔術師サマナーじゃ、ああはなれないだろうけど、でも、憧れである事は間違いない。
 そんな話をしていると、ある事に気が付いた二人は、アンジェラさんに思い切り叫んだ。


「「後ろッ!」」
「え?」


 同じ、いや、もうちょっと小さいとはいえ、結構な規模の魔物の群れが後ろから向かって来ている。
 ラザールお兄様とミレとユリアは、正面の敵で手一杯。私が使い魔を全員召喚したとしても、魔法しか使わないアンジェラさんとだけじゃ、到底食い止められない。


 この状態じゃ、到底勝機はない。そう思った時。アンジェラさんが、キュッと唇を結んで、腰に手を掛けた。ゆっくりと引き抜かれたその剣は待っていましたとばかりに輝き始める。
 アンジェラさんの瞳が、青から紫に、そうして、真っ赤に染まる。迷いの色はない。冷静に、スッと足を開き、しっかりと構えを作って、魔物の群れを見る。


「心配するな、リーナ……。此方は私に任せて」
(アンジェラさん……ッ!)


 今までのアンジェラさんとは思えないほどの身体能力。こんな物を、隠していたなんて
 地面を蹴ると、大きく飛躍。魔物の群れの中へ飛び込んでいく。着地地点に居た魔物は赤い血ともにその命を散らす。そのままの流れで、近くに居た魔物を全て薙ぎ払う。構えを作りのし、一呼吸置いてから、また魔物に向かっていく。素早い剣捌き。しかも、的確に急所を狙っている。一撃で、魔物を倒していく。


 向こうの魔物を倒し終えた三人が、アンジェラさんを見て足を止める。本当は援護に入ろうと思ったんだろうけれど、そんな隙すらも無い。
 赤い血を浴びたアンジェラさん。でも、悪魔のようとかではなく、寧ろ、美しく感じる。
 最後の魔物を真っ二つにし、長く息を吐いたアンジェラさんは、白い布を取り出すと、血を拭きとり、剣を鞘の中に。瞳の色が、元に戻る。


 そのとき、アンジェラさんの体がぐらりと揺れる。慌てたように、ラザールお兄様が駆けよる。


「アンジェラっ!」
「ご、ごめんなさい、久しぶりで、ちょっと……。疲れちゃった」


 くすりと笑う。怯えたりとか、そう言った様子は見られない。あの時とは、決定的に、違う。
 ラザールお兄様が、アンジェラさんの顔に着いた血を拭きとりながら、躊躇いがちに訊いてみる。


「ねえ……。もう、いいの、かな?」
「はい。私、もう、大丈夫です。自信もついたし、楽しかった」
「じゃあ……っ! もう、剣、使えるんだね!」
「あの、多分、前と同じようには、無理だと思います。これだけ触って居なくて、元に戻すには、時間が掛かると思います。それでも、よければ」
「良いに決まってるじゃん! ずっと、待ってたんだよ? アンジェラが、剣使えるようになるの。良かった」


 二人の目から、涙が零れる。でも、二人とも、嬉しそうに、笑ってて。
 あぁ、こっちの方が良い。アンジェラさんは、剣が良く似合う。だって、魔法は……。何となく、好きじゃないんだろうなって、いつも、思ってた。






 今、此処に。赤い瞳の女剣士が誕生した。

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