赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~

鏡田りりか

第22話  戦闘の違和感

 朝食を食べ終え、この後獣人族べスティエの王都を案内してくれると言う事で準備をしていると、急に大きなサイレンの音が鳴りだした。
 あんまり大きな音だったから、びっくりして、思わずしゃがんだ。そんな私の方に、ユリアはそっと手を置く。


「大丈夫だよ……。何があったのかしら?」
《ただ今、魔物が王城に侵入しました。至急、冒険家の収集を始めて下さい》
「ふぅん? リーナ、行こう」


 ユリアは、立てかけてあるステッキを手に取る。コトリ、と言う音がする。口元が笑ってるのは……。基本、戦いが好きだからだね。
 私の手を引いて走るユリアは、迷路のような王城を迷うことなく進んで行き、ロビーまで行くと、ラザールお兄様にアンジェラさん、ミレももう集まっていた。みんな、考えてる事は一緒みたい。


「冒険家の収集なんていらないよ、僕達で何とかする」
「で、ですが……」
「僕たちが誰なのか知ってるでしょ?」


 兵が軽く頷くと同時に、ラザールお兄様は地面を蹴り、走り出す。今の状況がどうなっているのか分からないけど、もしかしたら、一刻を争う状況かもしれない。さっきから、ラザールお兄様の表情は硬いまま。多分、最悪の状況を考えてる。
 城の後ろに回り込むと、ネージュに似た虎の魔物の群れが居た。距離は……、充分。これだけあれば、巻き込む事も無いはずだし、誰か怪我する様な事になる前に倒せるはず。
 此処は王城のすぐ近く。護衛の兵くらい居て良いはずなのに、戦っている様子がない。どうして?


「全部、後で説明するから! とにかく、今は全部倒す事に集中して!」


 ラザールお兄様は、此処に来る前に新調したばかりの大きな剣を背から引き抜いた。魔力の操作によって剣身が赤い光を纏う。重すぎて片手じゃ持てないくらい。切先を地面に付けてから、左手を天に向けて大きく上げる。
 流石は魔法剣士。魔法も剣も両方を使えるんだもん、凄いよね。天から降ってくる鋭く尖った大きな石と、赤く光る剣を構えて走るラザールお兄様を交互に見る。


 と、向こうで爆発が起こる。
 隣を見てみれば、アンジェラさんが右手を上げて立っている。そして、その隣にはユリアがステッキを構えて立っている。


「流石、グリフィン家の侍女長ハウスキーパー
「いえ、ユリア様こそ、流石です。しかし、一つ訂正。グリフィン家では、侍女長メイドちょうです」
「あ、そう。なら、私も。ローズ家長女の、ユリアよ」


 あわわ、険悪ムード……。と、強い風が起こり、私はキュッと目を瞑る。その風が、ミレが隣を走り抜けた為だと気付くのに、数秒かかった。
 両手に剣を構え、体勢を低くして走り、体ごと大きく開いて、同時に多くの魔物を傷付ける。赤い鮮血が、ミレを綺麗に染め上げる。


 もちろん私も、黙っている訳にはいかない。


(ミア、ティア)
「はーい!」
「了解です、リーナ様」


 ミアがラザールお兄様やミレを援助するようにバリア魔法を出現させ、少しでも傷を負えばティアが治癒を施す。
 ユリアとアンジェラさんの魔法がキラキラと舞い、辺りからは血飛沫が上がる。


(なんだろう……)


 凄く、凄く、興奮する。


 爆発の音も。
 魔物の断末魔も。
 真っ赤な血飛沫も。
 全て、全て、興奮させる。
 行動が高鳴り、気持ちが昂る。


(おかしい……。こんなの、私じゃ、ない)


 慌てて目を閉じると、ユリアが心配そうに声を掛けてくる。


「リーナ? 気分悪くなった? 大丈夫?」
「大丈夫」
「そうかな……。もし、本当に駄目だったら、すぐ下がってね?」
「うん、ありがと」


 心配はかけられない。でも、この、理性が吹き飛びそうなほどの快感は? 我慢できるレベルじゃない。このまま居たら、おかしくなりそう。
 世界が回って見える。一体、どうなっちゃったの? どういうこと……?


(待って、これって、どれに対してなの? だって、そんなはず、私は、私は……)


 ゾクゾクと這い上がって来るような快感を必死に抑えつけ、必死に理性を保とうとする。
 ミアとティアが、さっきから心配そうに振り返る事に、もう、気付いていた。やっぱ、気づかれちゃった。
 死は、嫌いだったはず。誰よりも愛していた二人を失ってから。
 じゃあ、この気持ちは一体……? 混乱は益々進む。眩暈も酷くなっていく。


「リーナちゃん!」
「!」
「大丈夫? どうしたの?」
「! ……。大丈夫」


 いつ気付いたんだろう。魔物の攻撃を受けとめながらラザールお兄様が叫んだ。
 その声を聞いた途端。霧が晴れる様に全てが消えていった。
 何もかもが元通りになっていく。驚くほどに一瞬だった。


「……大丈夫なんだね?」
「は」
「なら良かった。すぐ終わらせるから!」


 地面を大きく蹴って魔物に斬りかかる。もう、なにも思わない。さっきまで、あんなにおかしかったのに。
 ラザールお兄様の宣言通り、すぐ魔物の退治は終了した。後に残った物は、魔物の死体と、血と、焼跡。


「うわ、酷いね、これ。うっかりしたら、裏庭まで焼け野原になっちゃうところだったよ」
「魔物の死体は……。放置しておいても仕方がありませんし、焼いてしまっても良いのですよね?」


 アンジェラさんの言葉に、驚いたように兵が声を上げる。


「待って下さい! そのままにして置いて下さい。退治、ありがとうございました。中に戻って下さい」


 追い払いたいのか、すぐ城の中に入るよう促してくる。ほぼ強制……。私は使い魔を戻して、みんなに着いていく。
 城の中に入ると、兵士達はほっとしたような顔をする。けれど、すぐ後に、剣士の二人を見て顔を青くする。返り血で真っ赤だから。私達はもう慣れたものだけど。受け取ったタオルで顔を拭いて居るけど、全部拭き切れる訳じゃない。やっぱちょっと怖いみたいで、距離を置かれてる。
 でも……。なんで、兵士が居るのに戦わなかったんだろう。そう思っていると、ラザールお兄様が説明してくれた。


 此処は『獣人』族の国。獣を大切にする文化が栄えた国。
 だから、みんな、魔物が倒せなくなっていってしまって。気づけば、魔物を倒していいのは、冒険家の証を貰った人のみという変わった国家が出来上がっていた。
 冒険家が狩りをしていて、食糧を確保する。そう言った、変わった形になっているとか。


「だからね……。兵士は対人は可能だけど、魔物は退治できないんだ」
「そうだったんだ……。だから、冒険家を収集、なんて言い出したんだ?」
「まあ、今はそれもどうかって言ってるらしいけど、改正するのはもっと時間が掛かるかな」


 向こうから誰かが走ってきたので、話を止めてそちらを向く。綺麗なドレスを纏ったライオン獣人。王女様かな? スカートの端を両手で摘んで、小走り。
 私達の近くまで来ると、作ったようなにこりと言う微笑みを浮かべて言葉を発する。


「申し訳ございません。本当に助かりました。本日は予定されてた事を全て延期にする事に決まりました故、部屋でゆっくり休んで下さいませ」


 それだけ伝えると、まだ走って行ってしまった。
 まあ、このパニックの中じゃ、ゆっくり案内する事も出来ないか。仕方ない。
 朝と言い、今日は一日中やる事がなくて暇。どんな日だ、それ……。部屋に戻るまでの間、やる事が合いか考えてみたけれど、何も浮かばなかった。
 取り敢えず、女子四人でお風呂に入る約束をして、部屋に戻り、準備をする。


 道覚えるの、苦手ってわけじゃなんだよ? でも、このお城は広すぎて……。幼い子供のようにユリアに手を引かれながら大浴場に向かう。一応は侍女メイド用らしいけど、戦ってる私達の為に準備しておいてくれたらしい。
 と、楽しげな笑い声が聞こえてくる。声の方に目を向けてみると、二人の子供が居た。男の子と女の子。随分そっくり。双子、かな?
 その時、ずっと気になっていたある事が頭の中を回り始める。今まで口に出す機会がなくって、隅の方に追いやっていた事。


 だって、誰に聞いていいか、分からなかったんだもん。


 大浴場の脱衣所で合流すると、一カ所に衣服を纏め、中へ入る。ペンダントは付けたまま。ラザールお兄様が、濡れても大丈夫だよ、って言ってたから、問題はない。ないと、みんなと会話が出来なくなっちゃうもん、必須。
 温かな湯気が心を落ちつかせる。笑いながら体を洗い、浴槽に入る。広い浴場にたった四人だけ。ほぼ貸し切りだから、みんな満足。


 うん、やっぱり訊いてみよう。このままは嫌。


「あ、あの!」
「うん? どうしたの?」


 ユリアが近付いてくる。こらこら、近すぎるって。


「いつか訊きたいって、思ってたんです」
「え?」
「でも、機会も無いし、誰に訊けばいいのかも、分からないし」
「?」


 ユリアはコテっと首を傾げる。アンジェラさんが、だいたい理解したみたいで、そっと目を閉じる。ミレは……、ユリアと一緒。
 きゅっと口を結ぶ。どう思われるか、分かんない。訊かない方が、良いのかもしれない。
 でも、知らなきゃいけない事だと思う。それに、知る資格はあるはず。
 言葉を選んでから、ゆっくりと、ペンダントに言葉を送り込む。


「ラザールお兄様の過去、教えてほしいんです」

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