赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~

鏡田りりか

第14話  霧の森

 あれから、みんなでカフェに寄る事になった。ユリアの顔合わせってことになってる。けどまあ、丁度お昼の時間だったのもある。
 ユリアの魔服姿は初めて。白いブラウスに、牡丹色のタイトスカート。上から真っ白のフード付きマントを羽織ってる。うん、可愛い。
 で……。ユリアがちらちら私を見てるから、なんだろう、って思ったら。


「リ、リーナの魔服姿、かぁわいいっ!」
「わっ?!」
「ほうら、ミレの選んだ魔服、良いでしょ~」


 ユリアに捕まった。
 まあ、これくらいは許してあげよう。頭撫でても良いよ。ラザールお兄様と違う、女の子の手。結構気持ち良い。頭撫でられるの、嫌いじゃない。


「お待たせしました」


 ウエイトレスさんの持ってきた者を飲みながら、パーティの打ち合わせをしていく。
 ユリアは結構いつでも出れるタイプらしい。毎週でも平気みたい。となると、やっぱり今まで通り、何か予定(たとえば、私達のテスト前、例えば、アンジェラさんの仕事)なんかがなければ、毎週日曜日が活動日になるかな。
 ユリアはパーティ組んだ事ないらしくって、とっても楽しそうに話を聞いていた。


「分かった、日曜日ね? なら、リリィの活動指示は土曜日に全部終わらせておくわ」
「うん、それが良いと思う」
「ってなると、ユリアちゃん、結構忙しいね」
「ん、でも、まあ、これも悪くないです」


 ……、敬語?


「あれ、言ってなかったっけ? ミレ、高等科一年だよ?」
「え、ええええ?!」
「あ、知らなかったんだ」


 え、え、二つも上だったの?! 知らなかった……。
 うう、全然そんな風に思ってなかった……。これ、結構失礼だったんじゃ……。


「同じパーティなんだから、年のこと気にしないで活動しようよ」
「そうだよ。リーナちゃんも気にしないで」


 ならいいんだけど……。
 あと、ユリア、いい加減離して。流石にそろそろ話してくれないと、これじゃあ飲み物飲むのも大変なんだからね?






「よし、じゃ、再開しようか」
「私の参加していいのよね?」
「もちろん」


 シュメーグ狩りとゴブリン狩りはもう終了する事にして、ギルドで報酬を貰ってから別の依頼を受けたんだ。
 ユリアが入ったから、ちょっと強いところに行く事になった。私が入って、あんまり強いところはいかなくなってた。でも、人数が増えたから。多分大丈夫。
 ミレがユリアに話しかける。


「ユリアちゃんはどんな風に戦うんだっけ?」
「あ、ミレさん、ユリアで良いです。ええと、魔法が多いです。基本、何でも使えます」
「分かった。じゃ、後方支援お願い」
「それから、出来ればリーナちゃんに気を配ってほしい」
「分かったわ」


 ラザールお兄様……。それは過保護……。
 私、そんなに弱くないよ? でも、まあ、いいけど。
 気に掛けてくれるのは、嫌じゃない。放置されるより、よっぽどいいもん……。


「で、何処に行くんだっけ?」
「霧の森です。魔物の数はあまり多くありませんが、生息する魔物は、結構強いです」
「其処に居る兎の羽毛五匹分が依頼内容だね」
「え、それって大変じゃない? 強くないけど、結構すばしこいのよね」
魔術師メイジの腕の見せ所でしょ?」
「そうねぇ。分かったわ」






 霧の森は、その名の通り、濃霧の立ち込める森。その上道が複雑で、迷って帰れなくなる人も居たりする。
 でも、ラザールお兄様にとっては馴染み深いらしい。迷う事はないって言ってた。


「じゃ、行くよ。此処に来たら、相当な数戦う事が予想される。油断はしないで」
「魔力も、出来るだけ節約して下さい」
「分かってるわよ。任せなさい」


 ユリアは不敵な笑みを浮かべると、人差し指をくるくるとまわして小さなステッキを取り出した。桃色の柄に、真っ赤な宝石が付いたものだ。
 ユリアの笑みは美しいんだけど、ちょっと婀娜っぽい印象を受ける。つまりは結構大人っぽい笑みなんだよね。片手で口元を軽く隠すのも相まって。半分くらい隠れてないけど。


「じゃあ行くよ。リーナちゃん、はぐれない様に近くに居てね?」
「はい!」
「子供みたい……。可愛い」


 ユリア……。そんなこと言わないの。


 森は結構不気味だ。その上霧があるから視界は悪いし、これ、一人迷子になったら、私、本当にパニックになるかも。
 気を付けながら歩いていると、一番前を歩くミレが足を止める。


「猫。全部で五匹。私だけじゃ対処しきれない可能性があるね」
「じゃ、僕が行くよ。アンジェラ、後ろに注意してて」
「了解です」


 私の後ろを歩くユリアが手を握ってくる。だから! そんなことしなくても私は迷子にならないよ……。子供じゃないんだから。
 あ、でも、分かんない。戦闘の邪魔にならない様に避けてるうちに一人だった、なんてことにならないとは限らない。実際、この前一回あった。すぐ見つけて貰えたからよかったけど。


「! 後ろから魔物の気配が……」
「くっ、タイミング悪いわね。何が来てる?」
「狼系だと思われます」


 ユリアが真面目な表情で後ろを向く。私の手は繋いだまま。
 もう片方の手で握るステッキを正面に向け、隣のアンジェラさんに問う。


「アンジェラ、魔法は何使えるの?」
「回復系が主です」
「じゃ、私が対処するわ。リーナを見てて」


 ユリアが手を離す。なんか、寂しいなんて思っちゃった。
 アンジェラさんが守るよう私を抱きしめる。それでも、一応、魔力はいつでも動かせるようにしてあるんだから、本当に咄嗟の対応が出来るって良いなぁ……。


 さて。ユリアが何かを唱えると、三十センチメートルくらいのステッキはどんどん伸びていく。最終的には、一メートル弱くらいの大きさになる。
 それを横向きに両手で握り、足を開くと、楽しそうな表情で呪文を唱えていく。
 ステッキの柄の真ん中あたりから、風が巻き起こる。少し赤い色をしたそれは、次第に大きくなり、ユリアの合図で前に進みだした。


「ふふっ、もう大丈夫よ。リーナ、こっちに来て」


 結構、高等魔法だった。それを、あの短時間で準備し、軽々と放っちゃうんだから、ほんと、ユリアって何者なんだろ。
 向こうの魔物も終わったみたい。ラザールお兄様とミレが此方に歩いてくるのが見えた。


「大丈夫だった? 魔物の気配がしたけど」
「えぇ。問題なかったわ」
「そっか、なら良かった」


 ラザールお兄様とユリアの会話を聞きつつ、ちょっとだけ疎外感を感じていた。私だけ、みんなと違う。みんな、凄く強い。なのに……。
 一人じゃ何も出来ないの。使い魔に頼らないといけない。そういうのが、気になってしまう。気にしちゃ駄目って、分かってるのに。どんどん自己嫌悪に、陥るから。


「リーナ? どうかしたの?」
「ううん……」
「そう。じゃ、行きましょ」










「ミレ!」
「任せて!」


 ミレの攻撃は、美しい。二本の剣を自在に操る姿は、まるで舞を踊っているかのよう。
 右手の剣の切っ先は左上に向け、胸の前へ、左手の剣の切っ先は右下に向け、お腹の前へ持ってきている。体勢を低くして走り、攻撃する時は、体ごと起こし、両手をパッと広げるように。
 あと、結構な高さ飛躍する。それが、舞を踊ってるように見えるっていうか。


「きゃっ、ラザール、頼んでいい?!」
「分かった、ユリア、其処退いててっ!」


 ラザールお兄様の持つ剣は、片手剣くらいの大きさしかない。けど、両手で持ってる。なんて剣かな?
 ラザールお兄様が魔力を流してるから、ただの何処にでもある剣なんだけど、赤く光ってる。宝石みたいに見える。
 攻撃する時も、ちょっと派手に赤い魔力が舞う。それが、結構綺麗。


 で、私はと言うと、一人、黙々とネージュに命令を出していた。
 ネージュの攻撃は力強い。だっておっきいんだもん。一発が重いよね。
 だけど、軽やかに動けるのが強み。そう考えると、結構いいんだね、虎って。


「っていうか、なんでこんなに魔物に囲まれてるんだ?!」
「分かんないよ。魔物の巣にでも突っ込んじゃったとか?」
「とにかく、今は此処を切り抜ける事に専念しましょう!」
「ああもう、魔力持たないわよ! 早く何とかしないと!」


 どういう事だ、なんでこんなに魔物だらけなの? 流石に厳しいんだけど。
 霧で視界も悪いから、あとどれくらい魔物がいるのかも分かんないし……。どうすればいいの?


「一つ、方法があります!」


 ティアが叫ぶ。みんながそれに反応し、ティアの方をちらっと見る。でも、戦闘中だから、そんなに目を離している訳にはいかないんだけどね。
 ティアは緊張したような表情で口を開く。


「霧を、晴らします」
「えっ?!」
「そんな、無茶な!」
「出来ます、私を信じて!」


 ティアはまた叫ぶ。でも……。本当に?
 この森の霧は、常に出てる強力なものだから、生半可な魔法は効かない。ティア、一体、どんな魔法を使うつもり?


「霧が晴れたら、魔物の量が分かるはず。ユリア様、魔物を全て殺せるくらいの、大きな規模の魔法をお願いします」
「え? でも、それ、私も上手く制御できないわよ」
「ミア……。頼んでいいですか?」
「任せて」
「そうしたら……。逃げますよ、全力で!」


 ティアは小さく息を吐く。


「失敗したら……。私が全て引きつけます故、やはり、逃げて下さい」
「え?! ティア?!」
「私が言い出したことなので……。ごめんなさい、リーナ様。最後は、何があっても責任を取ります」


 大丈夫、かな。もし失敗したら、ティアは、全部責任を問って此処で死ぬつもりでいる。でも、それは、私、嫌だよ。居なくなっちゃ嫌。私の周りの人は、もう、誰も失いたくないよ。


「ちょっと高度な魔法を使います。時間が掛かりますから、少々お待ちを」


 ティアが目を閉じると、ミアが黙ってバリア魔法でティアを覆う。何も言ってないけど、やっぱり、無防備になる事は間違いないだろうから。
 ティアの詠唱が終わるまで、何が何でも生き延びないといけない。ユリアは魔法を使う為に、攻撃できないから、私と一緒にミアのバリアに入る。


「うぅ……。みんな、大丈夫かしら?」
「何とかなる」
「……。そう、ね」


 今は、ティアを信じるしかない。みんなを、信じるしかない……。


「ユリア様! ミア!」
「! 結構少ないじゃない! なら!」
「ユリアさま、ミアがみんなを守るから、こっちは気にしないで良いよ!」
「ええ! 行くわよ」


 霧は、晴れた。


 魔物の数が明らかになり、ユリアが詠唱を開始する。
 ティアはだいぶ疲れた表情をしているから、上手く逃げられないかもしれない。
 でも、それは、私も一緒。どうしよう。


「リーナちゃん、僕の方に来て」
「ティアちゃんはミレが連れてくよ!」
「! ありがとう、ございます!」


 ユリアの炎魔法により、全ての魔物が焼かれていく。
 それに合わせ、私達は、此処まで来た道を走りだすのだった。

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