赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~
第13話 ユリアとリリィ
「ああ、ユリアと友達になったんだ。道理で仲良さそうだったわけだ」
土曜日。休日だ。アフタヌーンティーの準備を待ちながら、ラザールお兄様と話す。
と言っても、私は筆談なんだけど。
ペンダントがあると言っても、魔力の消費量が尋常じゃない。出来るだけミアとティアを召喚してあげたいの。だから、魔力は節約しようと思って。
<ユリア、とってもいい子です>
「そう、なんだ?」
<一緒に居て、楽しいです>
「そっか、なら良かった。でも、よく許してあげたね?」
それは……。
ユリアは優しい子だって、分かってたから。
あの時だって、私に、傷一つ付けなかった。捕まえておきたいなら、動けない様にしたってよかった。でも、縛りもしないし、怪我もさせない。出来るだけ優しく扱ってくれた、んだよね?
あと、私と友達になりたいって言ってきたのは、ユリアの方だった。
好きな人と友達になるのは、多分、辛い事。だって、一緒に居るんだよ? なのに、何もできない。そんな辛い事、ないもん。
例えば、一緒に居たら、もしかしたら、っていうのを期待してるのかもしれないけど、それでも。辛いのは、分かってるもん。それなのに、わざと、一緒に居る道を選んだ。
そういう、結構真面目なところ、好き。
あぁ、友達として、だけど。
私が本当に好きなのは……。
最後に、これは個人的な事なんだけどね。
友達作るのは、難しいの。私、人と喋るの、苦手だから。
でも、一人でいるのは嫌。孤立してるのって、怖い。
そういう時、友達になろう、っていわれたら……。ね。
「まあいいけど。で、明日は冒険行くけど、良い?」
<はい>
「分かった。じゃあ、いつも通り」
その時、侍女達の準備が終わった。頭を下げて戻っていく。それに気付いた私は、ミアとティアを召喚する。アフタヌーンティーは、一緒に楽しむって決めてるから。
ラザールお兄様は軽く侍女達に労いの言葉を掛けると、紅茶を一口啜る。
「……、ん?」
「どうか、されました?」
「これ……」
私は一口紅茶を啜る。あぁ、なるほど、ハーブの味がする。ハーブティーと紅茶を混ぜてるんだろう。爽やかで美味しい。
私にとっては美味しくとも、ラザールお兄様は甘いもの好きだから、ちょっと口に合わないのかも。ミントベースでちょっとひんやり。目が覚める味。
お菓子も食べてみると、あ、全部ハーブ入ってるね。ラザールお兄様の機嫌がどんどん悪くなっていく。
「ルエラ、居る?」
「あっ、はいぃ?」
ラザールお兄様の声に、何処からかルエラが現れる。
「これ、嫌がらせ?」
「えぇ? はいぃ、当然ですよぉ」
「え?!」
ラザールお兄様が驚いたような表情をすると、ルエラは小さく笑った。
「侍女長がぁ、リーナ様を守れなかった罰って言ってましたけどぉ」
「くっ……。アンジェラめ……」
「リーナ様はどうです?」
「美味しい」
「良かったです」
これから先、ラザールお兄様への罰はこれになりそう……。
「おはよう、リーナちゃん!」
「あっ、ミレさん、おはようございます」
「ミレで良いよ~。声可愛いね」
「あ、ありがとう、ございます」
ミレさ……、ミレとは、学校が始まってから初めて会ったんだった。でも、頭撫でるのはどうかなぁ。黒いワンピースのアンジェラさん、久しぶりに見たし。メイド服も良いけど、こっちも良い。
「じゃあ行こうか。シュメーグにする? ゴブリンにする?」
「両方!」
「そうですね。それが良いと思います。ずっとシュメーグやってても飽きますし、ゴブリン狩りは何気に疲れますし」
シュメーグは、大きな蝶の魔物。鱗紛を魔服の戦力に使うから、その為に狩りを行う。採取した鱗紛をギルドに持って行って、重さによって報酬が貰える。
だから、出来るだけ羽を崩さないで倒さないといけない。
でも、なかなか難しい。戦闘能力は皆無だけど、危険回避能力が高い。すぐに逃げてしまう。
と言う事で、長い間やってると結構飽きる。
ゴブリン狩りは、私の膝の高さくらいの人型の魔物『ゴブリン』を倒す。
と言うのも、とっても弱いゴブリンだけど、増えすぎると群れになって農村を襲ってくる事があるとか。
だから、ゴブリンを退治して報酬が貰える。
ギルドカードは魔法のカード。倒した魔物が記録されるらしい。その、倒した数で報酬が決まる。
まあ、弱いから安いんだけど。その分倒さなきゃね。
赤、青、緑、紫。小瓶の中に、キラキラとした鱗紛が溜まっていく。
光を浴び、輝きながら飛んでいるシュメーグも、鱗紛のなくなった羽は透明で、なんとも地味な物になってしまう。
でも、魔物の死には、馴れてきた。そんなシュメーグを見ても大丈夫。
「あ~っ、飽きた~!」
つまんなそうにミレが叫ぶ。アンジェラさんが苦笑いしながら言う。
「そうですね……。では、ゴブリン狩りに行きましょうか」
「うん!」
「じゃ、向こうに着いたら解散しても良い?」
「別行動の方が、倒しやすいですし」
「あんまり危なくないしね。良いんじゃん」
と言う事で、ゴブリンが多く生息する森まで行き、其処で解散した。
私は短剣を握り、森の中を歩く。一人じゃ倒せないくらい大きなゴブリンの群れと遭遇したら、ネージュでも呼べば大丈夫。小さな群れだったら、一人でも倒せる。
黙々とゴブリンを倒し、ちょっと奥まで来すぎちゃったみたい。
……。此処、何処?
(うわああっ! 迷子とか、信じらんない! あ、でも、こっちの方から来たし、こっちに進めば……)
と、その時、人の気配を感じ、私は魔力を準備する。
何故なら、その人から、殺気が放たれているから。
盗賊か、凶族か。どちらにせよ、ネージュにとって、大抵の人間はおもちゃにすぎない。普通の凶族なんかであれば、簡単に返り討ちに出来る。心配はいらない。
ただ、手誰だった場合。ちょっと危ないから、ネージュに乗って逃げるのが一番良いかな。
そんな風に、頭に策を思い描きながら、私はその人たちを待った。
現れたのは、私と同い年くらいの少女五、六人。うん、あんまり強くないね。
ふぅ、と息を吐いて。私は魔力を動かし始める。
「おい、あんた! 命が惜しければ……」
「ネージュッ!」
光を離しつつ、大きな虎が現れる。少女達は青い顔で後退り。
ネージュみたいな大きな魔物は、この辺りじゃ見ない。こんなところを拠点にしてる凶族は、きっと、こんな大きな魔物を見た事ないでしょ?
少女の内の一人が、懐からベルを取り出して鳴らす。少し変わった音が鳴る。仲間が、来るかもしれない。
「あ、あんた、一体何者だい?」
「別に……。ただの、召喚魔術師」
「ちょ、どうしたの?! 音鳴らして……」
向こうから現れたのは……。え?!
信じられなくて、一瞬、目を疑った。でも、間違いない。
ああ、そっか。そういう事なんだね。
「リ、リーナ?!」
「ユリア……」
これ、ユリアの凶族、『リリィ』だ。
「ごめんね、ごめんね! あんた達、リーナに謝って」
「すみません、ユリア様の友達とは知らず……」
「えっ、良いよ、そんな。私もみんなに怪我をさせる所だったし」
「で、でも、それは正当防衛でしょ? こっちから襲ったんだもん……」
ユリアはしゅんとして言葉を並べる。そんなことしなくても、私、怒ってないんだけどな。
ちょっとびっくりしたけど、こんなのはよくある話だし、別に、殺されかけたら流石に嫌だけど、そうじゃなければまあ、問題はない。
「二人で話したい。みんなは持ち場に戻って」
「はい」
少女達は走って戻っていく。その姿は、あまり裕福そうには見えない。やっぱり、ユリアって……。
「あの子たち、孤児なんだよね」
「……うん」
「行く宛がなくて、困ってる子を、纏めて、編成して、ああやって、物取りさせてる。元々、一人でやろうとしてたんだよ。それは流石に、無謀だなって」
「うん」
「戦利品は、みんなで分け合わせる。そうやって、何とか生活させてる。でも、本当は悪いんだよね。分かってるよ。でも、あの子たちは、ああでもしないと、生きてけないんだよ……」
分かってるよ、ユリアが優しい子だって。そんなに悲しそうな顔をしないで。
この国には、決まりがないから。誰かが取り締まっている訳でもないから、こうやって生活している人は多い。人殺しも、相手が貴族だったら別だけど、そうでもなければ何かあるわけでもない。
こんな世の中だから、仕方ないよ。だから、ねえ。泣かないで。泣いてる顔は、見たくないよ。折角一緒に居るんだもん、笑ってよ。
でも……。一人だったら、こんな風に、他人の事を思う事も、出来ない。こんなの、久しぶりなのかも……。
「あのグループ、新しい子が入ったばかりで、なかなか上手く出来ないの。自信、なくさないと良いんだけど……」
「え! じゃあ、私……」
「あっ、リーナは悪くないよ! 何にも知らないんだもん、ね?」
「う、うん」
「仕方ないよ、こんな世界じゃ。あの子たちも、いつまで生きられるか、分かんないし」
それはそう。ああいう事をしていて、うっかり、ラザールお兄様くらい強い人に仕掛けちゃったら、皆殺しにされるかもしれない。だからこそ、出来るだけ長く、生きさせてあげたいんだろう。
よく分かるよ。だから、ユリア。私は、ユリアが悪いなんて、思わない。
「リーナちゃん!」
「ラザールお兄様」
「と、あれ? ユリア?」
「っ! 私、帰……」
「待って!」
走りだそうとしたユリアを、ラザールお兄様が呼びとめる。足を止め、振り返る。
ラザールお兄様は、怒ってるわけじゃなさそう。一体、どうしたの?
「さっき、『リリィ』にあった」
「え……」
「全部、吐かせちゃった、ごめんね? ユリアの事、好きだって言ってた」
「え……?」
「ユリア、本当は優しいんだね……?」
「ち、違……」
「僕達のパーティに入ってよ」
「え?」
ユリアは驚いたように目を見開いた。本当に、唐突だったからだろう。
ラザールお兄様はニッと笑うと、此方に近づいてきた。
「僕の事嫌ってたみたいだけど、リーナと一緒なら良いでしょ?」
「リ、リーナと、一緒」
「ね? おいでよ」
ユリアの瞳から、涙が零れる。
「馬鹿、馬鹿……。なんでこんな私の事、誘うのよ! もう、断れないじゃないのっ!」
素直じゃないけど、そんなところも、結構可愛いユリアです。
土曜日。休日だ。アフタヌーンティーの準備を待ちながら、ラザールお兄様と話す。
と言っても、私は筆談なんだけど。
ペンダントがあると言っても、魔力の消費量が尋常じゃない。出来るだけミアとティアを召喚してあげたいの。だから、魔力は節約しようと思って。
<ユリア、とってもいい子です>
「そう、なんだ?」
<一緒に居て、楽しいです>
「そっか、なら良かった。でも、よく許してあげたね?」
それは……。
ユリアは優しい子だって、分かってたから。
あの時だって、私に、傷一つ付けなかった。捕まえておきたいなら、動けない様にしたってよかった。でも、縛りもしないし、怪我もさせない。出来るだけ優しく扱ってくれた、んだよね?
あと、私と友達になりたいって言ってきたのは、ユリアの方だった。
好きな人と友達になるのは、多分、辛い事。だって、一緒に居るんだよ? なのに、何もできない。そんな辛い事、ないもん。
例えば、一緒に居たら、もしかしたら、っていうのを期待してるのかもしれないけど、それでも。辛いのは、分かってるもん。それなのに、わざと、一緒に居る道を選んだ。
そういう、結構真面目なところ、好き。
あぁ、友達として、だけど。
私が本当に好きなのは……。
最後に、これは個人的な事なんだけどね。
友達作るのは、難しいの。私、人と喋るの、苦手だから。
でも、一人でいるのは嫌。孤立してるのって、怖い。
そういう時、友達になろう、っていわれたら……。ね。
「まあいいけど。で、明日は冒険行くけど、良い?」
<はい>
「分かった。じゃあ、いつも通り」
その時、侍女達の準備が終わった。頭を下げて戻っていく。それに気付いた私は、ミアとティアを召喚する。アフタヌーンティーは、一緒に楽しむって決めてるから。
ラザールお兄様は軽く侍女達に労いの言葉を掛けると、紅茶を一口啜る。
「……、ん?」
「どうか、されました?」
「これ……」
私は一口紅茶を啜る。あぁ、なるほど、ハーブの味がする。ハーブティーと紅茶を混ぜてるんだろう。爽やかで美味しい。
私にとっては美味しくとも、ラザールお兄様は甘いもの好きだから、ちょっと口に合わないのかも。ミントベースでちょっとひんやり。目が覚める味。
お菓子も食べてみると、あ、全部ハーブ入ってるね。ラザールお兄様の機嫌がどんどん悪くなっていく。
「ルエラ、居る?」
「あっ、はいぃ?」
ラザールお兄様の声に、何処からかルエラが現れる。
「これ、嫌がらせ?」
「えぇ? はいぃ、当然ですよぉ」
「え?!」
ラザールお兄様が驚いたような表情をすると、ルエラは小さく笑った。
「侍女長がぁ、リーナ様を守れなかった罰って言ってましたけどぉ」
「くっ……。アンジェラめ……」
「リーナ様はどうです?」
「美味しい」
「良かったです」
これから先、ラザールお兄様への罰はこれになりそう……。
「おはよう、リーナちゃん!」
「あっ、ミレさん、おはようございます」
「ミレで良いよ~。声可愛いね」
「あ、ありがとう、ございます」
ミレさ……、ミレとは、学校が始まってから初めて会ったんだった。でも、頭撫でるのはどうかなぁ。黒いワンピースのアンジェラさん、久しぶりに見たし。メイド服も良いけど、こっちも良い。
「じゃあ行こうか。シュメーグにする? ゴブリンにする?」
「両方!」
「そうですね。それが良いと思います。ずっとシュメーグやってても飽きますし、ゴブリン狩りは何気に疲れますし」
シュメーグは、大きな蝶の魔物。鱗紛を魔服の戦力に使うから、その為に狩りを行う。採取した鱗紛をギルドに持って行って、重さによって報酬が貰える。
だから、出来るだけ羽を崩さないで倒さないといけない。
でも、なかなか難しい。戦闘能力は皆無だけど、危険回避能力が高い。すぐに逃げてしまう。
と言う事で、長い間やってると結構飽きる。
ゴブリン狩りは、私の膝の高さくらいの人型の魔物『ゴブリン』を倒す。
と言うのも、とっても弱いゴブリンだけど、増えすぎると群れになって農村を襲ってくる事があるとか。
だから、ゴブリンを退治して報酬が貰える。
ギルドカードは魔法のカード。倒した魔物が記録されるらしい。その、倒した数で報酬が決まる。
まあ、弱いから安いんだけど。その分倒さなきゃね。
赤、青、緑、紫。小瓶の中に、キラキラとした鱗紛が溜まっていく。
光を浴び、輝きながら飛んでいるシュメーグも、鱗紛のなくなった羽は透明で、なんとも地味な物になってしまう。
でも、魔物の死には、馴れてきた。そんなシュメーグを見ても大丈夫。
「あ~っ、飽きた~!」
つまんなそうにミレが叫ぶ。アンジェラさんが苦笑いしながら言う。
「そうですね……。では、ゴブリン狩りに行きましょうか」
「うん!」
「じゃ、向こうに着いたら解散しても良い?」
「別行動の方が、倒しやすいですし」
「あんまり危なくないしね。良いんじゃん」
と言う事で、ゴブリンが多く生息する森まで行き、其処で解散した。
私は短剣を握り、森の中を歩く。一人じゃ倒せないくらい大きなゴブリンの群れと遭遇したら、ネージュでも呼べば大丈夫。小さな群れだったら、一人でも倒せる。
黙々とゴブリンを倒し、ちょっと奥まで来すぎちゃったみたい。
……。此処、何処?
(うわああっ! 迷子とか、信じらんない! あ、でも、こっちの方から来たし、こっちに進めば……)
と、その時、人の気配を感じ、私は魔力を準備する。
何故なら、その人から、殺気が放たれているから。
盗賊か、凶族か。どちらにせよ、ネージュにとって、大抵の人間はおもちゃにすぎない。普通の凶族なんかであれば、簡単に返り討ちに出来る。心配はいらない。
ただ、手誰だった場合。ちょっと危ないから、ネージュに乗って逃げるのが一番良いかな。
そんな風に、頭に策を思い描きながら、私はその人たちを待った。
現れたのは、私と同い年くらいの少女五、六人。うん、あんまり強くないね。
ふぅ、と息を吐いて。私は魔力を動かし始める。
「おい、あんた! 命が惜しければ……」
「ネージュッ!」
光を離しつつ、大きな虎が現れる。少女達は青い顔で後退り。
ネージュみたいな大きな魔物は、この辺りじゃ見ない。こんなところを拠点にしてる凶族は、きっと、こんな大きな魔物を見た事ないでしょ?
少女の内の一人が、懐からベルを取り出して鳴らす。少し変わった音が鳴る。仲間が、来るかもしれない。
「あ、あんた、一体何者だい?」
「別に……。ただの、召喚魔術師」
「ちょ、どうしたの?! 音鳴らして……」
向こうから現れたのは……。え?!
信じられなくて、一瞬、目を疑った。でも、間違いない。
ああ、そっか。そういう事なんだね。
「リ、リーナ?!」
「ユリア……」
これ、ユリアの凶族、『リリィ』だ。
「ごめんね、ごめんね! あんた達、リーナに謝って」
「すみません、ユリア様の友達とは知らず……」
「えっ、良いよ、そんな。私もみんなに怪我をさせる所だったし」
「で、でも、それは正当防衛でしょ? こっちから襲ったんだもん……」
ユリアはしゅんとして言葉を並べる。そんなことしなくても、私、怒ってないんだけどな。
ちょっとびっくりしたけど、こんなのはよくある話だし、別に、殺されかけたら流石に嫌だけど、そうじゃなければまあ、問題はない。
「二人で話したい。みんなは持ち場に戻って」
「はい」
少女達は走って戻っていく。その姿は、あまり裕福そうには見えない。やっぱり、ユリアって……。
「あの子たち、孤児なんだよね」
「……うん」
「行く宛がなくて、困ってる子を、纏めて、編成して、ああやって、物取りさせてる。元々、一人でやろうとしてたんだよ。それは流石に、無謀だなって」
「うん」
「戦利品は、みんなで分け合わせる。そうやって、何とか生活させてる。でも、本当は悪いんだよね。分かってるよ。でも、あの子たちは、ああでもしないと、生きてけないんだよ……」
分かってるよ、ユリアが優しい子だって。そんなに悲しそうな顔をしないで。
この国には、決まりがないから。誰かが取り締まっている訳でもないから、こうやって生活している人は多い。人殺しも、相手が貴族だったら別だけど、そうでもなければ何かあるわけでもない。
こんな世の中だから、仕方ないよ。だから、ねえ。泣かないで。泣いてる顔は、見たくないよ。折角一緒に居るんだもん、笑ってよ。
でも……。一人だったら、こんな風に、他人の事を思う事も、出来ない。こんなの、久しぶりなのかも……。
「あのグループ、新しい子が入ったばかりで、なかなか上手く出来ないの。自信、なくさないと良いんだけど……」
「え! じゃあ、私……」
「あっ、リーナは悪くないよ! 何にも知らないんだもん、ね?」
「う、うん」
「仕方ないよ、こんな世界じゃ。あの子たちも、いつまで生きられるか、分かんないし」
それはそう。ああいう事をしていて、うっかり、ラザールお兄様くらい強い人に仕掛けちゃったら、皆殺しにされるかもしれない。だからこそ、出来るだけ長く、生きさせてあげたいんだろう。
よく分かるよ。だから、ユリア。私は、ユリアが悪いなんて、思わない。
「リーナちゃん!」
「ラザールお兄様」
「と、あれ? ユリア?」
「っ! 私、帰……」
「待って!」
走りだそうとしたユリアを、ラザールお兄様が呼びとめる。足を止め、振り返る。
ラザールお兄様は、怒ってるわけじゃなさそう。一体、どうしたの?
「さっき、『リリィ』にあった」
「え……」
「全部、吐かせちゃった、ごめんね? ユリアの事、好きだって言ってた」
「え……?」
「ユリア、本当は優しいんだね……?」
「ち、違……」
「僕達のパーティに入ってよ」
「え?」
ユリアは驚いたように目を見開いた。本当に、唐突だったからだろう。
ラザールお兄様はニッと笑うと、此方に近づいてきた。
「僕の事嫌ってたみたいだけど、リーナと一緒なら良いでしょ?」
「リ、リーナと、一緒」
「ね? おいでよ」
ユリアの瞳から、涙が零れる。
「馬鹿、馬鹿……。なんでこんな私の事、誘うのよ! もう、断れないじゃないのっ!」
素直じゃないけど、そんなところも、結構可愛いユリアです。
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