赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~
第12話 ユリア・ローズ
ああ、そっか、そういう事なんだ。
多分だけど、ユリアさん、ラザールお兄様の事が好きなんだね。
ラザールお兄様はそれに気付いてないみたい。でも、だからこそ、知らず知らずのうちに傷つけてるのかも。
それと、凄く心配そうに注意をしてきた事。きっと、ラザールお兄様の近くに居た誰から、ユリアさんに何かされたんだろう。
だったら、私も危ないのかな。
でも、離れるつもりはないよ。
ラザールお兄様は、私のもの。
「リーナちゃん」
「?」
「今日、学年委員会やる事になっちゃったから、図書室で待ってて貰ってもいい?」
学年委員と言うのは、学級委員が集まって編制されたものらしい。
AとBのクラスからは、学級委員にプラスで何名か入ってるらしい。
まあ、それはともかく、ラザールお兄様と一緒の馬車で帰るから、先には帰れない。図書室に案内して貰って私は此処で待っている事になった。
ラザールお兄様が行ってしまってから、私は図書室の扉を開ける。
図書室は、とにかく大きかった。それでも、家の書斎の方が大きいと思うんだ。どんだけおっきいんだ、あれ。
まあともかく。これだけあって、しかも新しい本が多いから、読む物は沢山ありそう。棚を見て、本を持って机に座る。
あんまり静かだな、と思ったら、びっくり。私と司書さん以外の人がいない。まあ、その分結構自由に出来るけど。
(ラザールお兄様……)
やっぱり、忙しいのかな。結構私についていてくれたけど、無理してたのかもしれない。
頼ってたから、かな。守ってあげないといけない弱い子に見えてた?
駄目、これじゃ駄目。私の事は、私がやるの。
でも、ラザールお兄様の顔を見ると、安心するの。だから、私、どうしても頼っちゃうの。
なんで? こんなはずじゃ、なかったのに。
本に集中なんて出来ない。ぱたんと閉じて、溜息を吐く。でも、勉強しても、それもきっと集中できないよね。どうしよっかな……。
色々考えて、なんか疲れちゃった……。なんか、凄く、眠、い……。
(そろそろ、効いたかしら?)
彼女はそっと笑みを作る。
これで、あの子は私のもの……。
(迎えに行ってあげようかしら? ああ、でも、もう少し眠らせた方が良いわね……)
「ラザール、ラザールっ!」
「おぅわっ!」
「全く、さっきから話、聞いてるの?」
「ご、ごめんなさい……」
気が付くと、目の前に女性がいた。銀と金の中間みたいな色の髪をしている。
彼女はアーサー。二年学年委員長。背が高くてかっこいい感じ。うっかりすると、僕より背が高……、いや、余裕で高いんじゃない?
「で、一体どうしたの? 珍しいじゃない」
「いや……。リーナちゃん一人にしたのがちょっと心配でね。なんか嫌な感じがする」
「ちょっと……。ラザールの勘はよく当たるんだから……。そんな怖い事ないわよ」
はぁ、と溜息を吐くと、アーサーは辺りを見回す。
長いポニーテールが揺れる。キラキラと何かが舞う。
すると、其処に居たみんなの目から感情が消える。
「ねえ、どう思う?」
「リアナさんの時、絶対そうだったし……」
「ちょっと怖い」
「だ、そうよ。行ってあげなさい」
「ありがとう、アーサー!」
鞄を掴み、扉を開ける。
図書室は一階。此処は四階で、しかも棟が違う。
階段を二段飛ばしで駆け降りる。ユリアと同じ事になってたらどうしよう。僕の手には負えないかもしれない。
もし、どうしても駄目だったら、アーサーに任せるしかないけど……。来てくれるかな。
(ん……)
いつのまにか寝ちゃってたらしい。昨日は長く起きてたわけじゃないのに……。
くっと伸びをすると、入口の方に人の気配。
横目で確認してみると……。よく、知っている人。
「リーナちゃん」
「ユリア、さん」
鮮やかな桃色の髪。間違いなく、ユリアさん。
ニコッと笑うと、私のところまで来た。
「え、っと……」
「ちょっとね、お話したい事があるんだけど、来てくれる?」
ラザールお兄様からの忠告、忘れてたわけじゃない。でも。
ユリアさんが悪い人だとは、思えないし……。
(良かった、リーナちゃんが素直な子で)
後ろについてくる少女をちらっと見て小さく笑う。
にしても、本当に楽勝だ。こんなに簡単だと……。ちょっと恐ろしくなってくるね?
ま、問題はないと思う。リアナの方がよっぽど警戒心高くて大変だったわ……。
(もうちょっとで、手に入るわね)
「っ?! いない……?」
図書室を開けてみると、その場にリーナちゃんがいる様子はなかった。
だって、鞄だけが見えるんだもん……。これはちょっと異質。普通、自分のいる近くに鞄置いておくでしょ?
「司書さん、リーナちゃんって……」
「? あの、クリーム色の髪した子でしょう? さっき、ユリアさんに連れていかれましたけど」
「遅かったかっ!」
僕は踵を返し、走り出す。
ユリアが良く行くのは、何処?
確証はないけれど、多分……。
「リーナちゃん、無事で居て……!」
図書室からずっと離れ、体育館裏に連れてこられた。足が痛い。
ユリアさんは片足を軽く地面から離すと、その場でくるっと半回転して此方を見る。
その口元が、楽しそうな三日月を描いていたから。私は慌てて逃げようとしたけれど、ユリアさんの魔法に阻まれた。
「こらこら、逃げないの。ねえ、こっちを向いて?」
大人しく従っておく。ユリアさんは小さく手招きする。これにも従う。
少しだけ距離を置いて立ち止まると、ユリアさんは小さく溜息を吐く。
「あぁ、やっぱり可愛い」
「……っ、え?」
「リアナよりも可愛い。あ~、いいわねぇ」
「え、ええ……?」
ちょっと待って、これ、どういう事?
ユリアさんは素早く私に近づき、手を取る。あまりに速くて、何も出来なかった。
凄く力が強い。全く外せそうにない。ど、どうすれば……?
「私……。可愛い女の子が好きなの」
「え?」
「でも、良いなって思う子に限って! ラザールに近い子なのよ、信じられない!」
「え?」
「あの人、女の子の事溺愛するから、奪えないの! だから、私がラザールに近づこうと思ったのに、出来なくて」
待って待って、私の思い違い?!これってまさか……。
私、襲われる?
「でも、やっと捕まえられた……。もう逃がさない」
(ど、どうすれば……?!)
「私の色に染めてあげる……」
赤く染まったユリアの頬。これは、本気だね、冗談言ってるとかじゃなくて……。
引き剥がしたいけど、出来ない。どんな強い力で……。あ、違う、私が弱いからかも。
ともかく、これは本当にまずい。ああ、ラザールお兄様に従って、近づかなければよかった!
「リーナちゃんはどんなのが好み?」
「え……?」
「リアナは御転婆だったけど、リーナは違うわよね。だったら、優しい方が良いのかしら?」
ユリアさんは私を離さない。引き摺る様な形で奥まで連れていかれる。
そのまま地面に押し倒される。抵抗しようとしたけれど、全部抑えられてしまう。
ユリアさんは私の髪を弄ぶ。
「さ……。楽しい遊びをしましょ?」
「ちょっと待ったぁ!」
この声は、もしかして! ラザールお兄様、助けに来て、くれたんだ。
ユリアは私に「動かないで」と囁いた。静かだったけれど、強い殺気が感じられた。動けない。
「なんで、此処が?」
「だって、リアナの時も、此処が一番多かったじゃないか」
「本当に、邪魔なのよね……。リーナは私の物にするの」
「そういう訳にはいかないな」
ラザールお兄様とユリアの戦いが始まった。
二人とも、武器は持っていない。魔法と自分の持ってる力だけが頼り。
でも、ラザールお兄様、メインは魔法じゃないから……。圧倒的に不利だよ。
ユリアは美しいと思えるような魔法を放つ。真っ赤な炎。キラキラ光る水。
それらを、地面だけでなく壁も使って跳んだり、体勢を変えたりで避けていく。
二人の殺気がぶつかり合う。殺気は、苦手。何よりも……。
ラザールお兄様の方が上手みたい。ユリアに接近、その手を掴む。
「くっ」
「お仕置き、必要だよね」
「何を……。離して!」
その時、後ろから声が聞こえてきた。金髪の女性が立っている。
「ラザール。もう良いわ、後は任せなさい!」
「! アーサー。ありがと、任せる!」
それから、呪文を唱える声が聞こえてくる。
ユリアは辛そうにその場に座りこむ。一体、何の魔法なの……?
「魔力を、奪ってる……? や、止めてよ」
「御馳走さん。さ、ユリア? 前回、次はないって言ったわよね?」
「ひっ」
「どうする?」
金髪の女性はユリアを抱き上げると、都のまま何処かへと連れて行った。
魔法で縛ったみたいで、何の抵抗もしないユリアさんは、泣きそうに見えた。
「リーナちゃん、大丈夫?!」
「何にもされて、ない、ですよ?」
「でも……。ユリア、いっつも僕を殺そうとしてくるけど、あれって何なんだろ?」
「し、知らない方が良い事もあります」
「え? あ、そう……」
まさか、ユリアが女の子好きだから、だなんて、言えるわけないよね……。
ラザールお兄様は私に怪我がない事を確認すると、スムーズな動作で私を抱き上げた。
「え、で、でも」
「いいから。怖い思い、させちゃったかな。ごめんね」
「そ、そんなこと……」
何か、勘違いしてるかも知れないけど……。
でも、これ、嬉しいから、黙っておこうかな。
次の日。
「あ、あの、リーナちゃん」
「っ! は、はい……?」
ユリアさんが話しかけてきたものだから、思わず身構えてしまった。
彼女は慌てたような表情をする。警戒は解かないで、それでも、ユリアさんの話を聞く事にする。
「あの、昨日はごめん。急に、怖かったわよね」
「……」
「それと、こんなで良ければ、なんだけど……。友達になってくれたら、嬉しい」
「……、え?」
「や、やっぱり嫌よね! ごめんな……」
「待って!」
違う、そういう事じゃない。ユリアさん、友達って、友達だよね。え、いいの、かな? 友達で、我慢でき……、それは違う?
まあともかく。私だって、友達は欲しい。一人は嫌だから。でも、私は友達を作るのは難しそう。何かきっかけでもないと、ね。それだったら、ぴったりかもしれない。
昨日はちょっとびっくりしたけど、でもまあ、怪我は一つも負わなかった。
それに、根本的に、優しい人なんだよね……。
「良い、ですよ。友達」
「え……!」
「そんなに驚きます……?」
「あ、う、うん、そうね!」
「じゃあ、お友達、で」
「うん……。ありがとう」
ユリアさんが、泣きそうだったから……。私、やっぱりこの人、良い人なんだろうな、って思った。
多分だけど、ユリアさん、ラザールお兄様の事が好きなんだね。
ラザールお兄様はそれに気付いてないみたい。でも、だからこそ、知らず知らずのうちに傷つけてるのかも。
それと、凄く心配そうに注意をしてきた事。きっと、ラザールお兄様の近くに居た誰から、ユリアさんに何かされたんだろう。
だったら、私も危ないのかな。
でも、離れるつもりはないよ。
ラザールお兄様は、私のもの。
「リーナちゃん」
「?」
「今日、学年委員会やる事になっちゃったから、図書室で待ってて貰ってもいい?」
学年委員と言うのは、学級委員が集まって編制されたものらしい。
AとBのクラスからは、学級委員にプラスで何名か入ってるらしい。
まあ、それはともかく、ラザールお兄様と一緒の馬車で帰るから、先には帰れない。図書室に案内して貰って私は此処で待っている事になった。
ラザールお兄様が行ってしまってから、私は図書室の扉を開ける。
図書室は、とにかく大きかった。それでも、家の書斎の方が大きいと思うんだ。どんだけおっきいんだ、あれ。
まあともかく。これだけあって、しかも新しい本が多いから、読む物は沢山ありそう。棚を見て、本を持って机に座る。
あんまり静かだな、と思ったら、びっくり。私と司書さん以外の人がいない。まあ、その分結構自由に出来るけど。
(ラザールお兄様……)
やっぱり、忙しいのかな。結構私についていてくれたけど、無理してたのかもしれない。
頼ってたから、かな。守ってあげないといけない弱い子に見えてた?
駄目、これじゃ駄目。私の事は、私がやるの。
でも、ラザールお兄様の顔を見ると、安心するの。だから、私、どうしても頼っちゃうの。
なんで? こんなはずじゃ、なかったのに。
本に集中なんて出来ない。ぱたんと閉じて、溜息を吐く。でも、勉強しても、それもきっと集中できないよね。どうしよっかな……。
色々考えて、なんか疲れちゃった……。なんか、凄く、眠、い……。
(そろそろ、効いたかしら?)
彼女はそっと笑みを作る。
これで、あの子は私のもの……。
(迎えに行ってあげようかしら? ああ、でも、もう少し眠らせた方が良いわね……)
「ラザール、ラザールっ!」
「おぅわっ!」
「全く、さっきから話、聞いてるの?」
「ご、ごめんなさい……」
気が付くと、目の前に女性がいた。銀と金の中間みたいな色の髪をしている。
彼女はアーサー。二年学年委員長。背が高くてかっこいい感じ。うっかりすると、僕より背が高……、いや、余裕で高いんじゃない?
「で、一体どうしたの? 珍しいじゃない」
「いや……。リーナちゃん一人にしたのがちょっと心配でね。なんか嫌な感じがする」
「ちょっと……。ラザールの勘はよく当たるんだから……。そんな怖い事ないわよ」
はぁ、と溜息を吐くと、アーサーは辺りを見回す。
長いポニーテールが揺れる。キラキラと何かが舞う。
すると、其処に居たみんなの目から感情が消える。
「ねえ、どう思う?」
「リアナさんの時、絶対そうだったし……」
「ちょっと怖い」
「だ、そうよ。行ってあげなさい」
「ありがとう、アーサー!」
鞄を掴み、扉を開ける。
図書室は一階。此処は四階で、しかも棟が違う。
階段を二段飛ばしで駆け降りる。ユリアと同じ事になってたらどうしよう。僕の手には負えないかもしれない。
もし、どうしても駄目だったら、アーサーに任せるしかないけど……。来てくれるかな。
(ん……)
いつのまにか寝ちゃってたらしい。昨日は長く起きてたわけじゃないのに……。
くっと伸びをすると、入口の方に人の気配。
横目で確認してみると……。よく、知っている人。
「リーナちゃん」
「ユリア、さん」
鮮やかな桃色の髪。間違いなく、ユリアさん。
ニコッと笑うと、私のところまで来た。
「え、っと……」
「ちょっとね、お話したい事があるんだけど、来てくれる?」
ラザールお兄様からの忠告、忘れてたわけじゃない。でも。
ユリアさんが悪い人だとは、思えないし……。
(良かった、リーナちゃんが素直な子で)
後ろについてくる少女をちらっと見て小さく笑う。
にしても、本当に楽勝だ。こんなに簡単だと……。ちょっと恐ろしくなってくるね?
ま、問題はないと思う。リアナの方がよっぽど警戒心高くて大変だったわ……。
(もうちょっとで、手に入るわね)
「っ?! いない……?」
図書室を開けてみると、その場にリーナちゃんがいる様子はなかった。
だって、鞄だけが見えるんだもん……。これはちょっと異質。普通、自分のいる近くに鞄置いておくでしょ?
「司書さん、リーナちゃんって……」
「? あの、クリーム色の髪した子でしょう? さっき、ユリアさんに連れていかれましたけど」
「遅かったかっ!」
僕は踵を返し、走り出す。
ユリアが良く行くのは、何処?
確証はないけれど、多分……。
「リーナちゃん、無事で居て……!」
図書室からずっと離れ、体育館裏に連れてこられた。足が痛い。
ユリアさんは片足を軽く地面から離すと、その場でくるっと半回転して此方を見る。
その口元が、楽しそうな三日月を描いていたから。私は慌てて逃げようとしたけれど、ユリアさんの魔法に阻まれた。
「こらこら、逃げないの。ねえ、こっちを向いて?」
大人しく従っておく。ユリアさんは小さく手招きする。これにも従う。
少しだけ距離を置いて立ち止まると、ユリアさんは小さく溜息を吐く。
「あぁ、やっぱり可愛い」
「……っ、え?」
「リアナよりも可愛い。あ~、いいわねぇ」
「え、ええ……?」
ちょっと待って、これ、どういう事?
ユリアさんは素早く私に近づき、手を取る。あまりに速くて、何も出来なかった。
凄く力が強い。全く外せそうにない。ど、どうすれば……?
「私……。可愛い女の子が好きなの」
「え?」
「でも、良いなって思う子に限って! ラザールに近い子なのよ、信じられない!」
「え?」
「あの人、女の子の事溺愛するから、奪えないの! だから、私がラザールに近づこうと思ったのに、出来なくて」
待って待って、私の思い違い?!これってまさか……。
私、襲われる?
「でも、やっと捕まえられた……。もう逃がさない」
(ど、どうすれば……?!)
「私の色に染めてあげる……」
赤く染まったユリアの頬。これは、本気だね、冗談言ってるとかじゃなくて……。
引き剥がしたいけど、出来ない。どんな強い力で……。あ、違う、私が弱いからかも。
ともかく、これは本当にまずい。ああ、ラザールお兄様に従って、近づかなければよかった!
「リーナちゃんはどんなのが好み?」
「え……?」
「リアナは御転婆だったけど、リーナは違うわよね。だったら、優しい方が良いのかしら?」
ユリアさんは私を離さない。引き摺る様な形で奥まで連れていかれる。
そのまま地面に押し倒される。抵抗しようとしたけれど、全部抑えられてしまう。
ユリアさんは私の髪を弄ぶ。
「さ……。楽しい遊びをしましょ?」
「ちょっと待ったぁ!」
この声は、もしかして! ラザールお兄様、助けに来て、くれたんだ。
ユリアは私に「動かないで」と囁いた。静かだったけれど、強い殺気が感じられた。動けない。
「なんで、此処が?」
「だって、リアナの時も、此処が一番多かったじゃないか」
「本当に、邪魔なのよね……。リーナは私の物にするの」
「そういう訳にはいかないな」
ラザールお兄様とユリアの戦いが始まった。
二人とも、武器は持っていない。魔法と自分の持ってる力だけが頼り。
でも、ラザールお兄様、メインは魔法じゃないから……。圧倒的に不利だよ。
ユリアは美しいと思えるような魔法を放つ。真っ赤な炎。キラキラ光る水。
それらを、地面だけでなく壁も使って跳んだり、体勢を変えたりで避けていく。
二人の殺気がぶつかり合う。殺気は、苦手。何よりも……。
ラザールお兄様の方が上手みたい。ユリアに接近、その手を掴む。
「くっ」
「お仕置き、必要だよね」
「何を……。離して!」
その時、後ろから声が聞こえてきた。金髪の女性が立っている。
「ラザール。もう良いわ、後は任せなさい!」
「! アーサー。ありがと、任せる!」
それから、呪文を唱える声が聞こえてくる。
ユリアは辛そうにその場に座りこむ。一体、何の魔法なの……?
「魔力を、奪ってる……? や、止めてよ」
「御馳走さん。さ、ユリア? 前回、次はないって言ったわよね?」
「ひっ」
「どうする?」
金髪の女性はユリアを抱き上げると、都のまま何処かへと連れて行った。
魔法で縛ったみたいで、何の抵抗もしないユリアさんは、泣きそうに見えた。
「リーナちゃん、大丈夫?!」
「何にもされて、ない、ですよ?」
「でも……。ユリア、いっつも僕を殺そうとしてくるけど、あれって何なんだろ?」
「し、知らない方が良い事もあります」
「え? あ、そう……」
まさか、ユリアが女の子好きだから、だなんて、言えるわけないよね……。
ラザールお兄様は私に怪我がない事を確認すると、スムーズな動作で私を抱き上げた。
「え、で、でも」
「いいから。怖い思い、させちゃったかな。ごめんね」
「そ、そんなこと……」
何か、勘違いしてるかも知れないけど……。
でも、これ、嬉しいから、黙っておこうかな。
次の日。
「あ、あの、リーナちゃん」
「っ! は、はい……?」
ユリアさんが話しかけてきたものだから、思わず身構えてしまった。
彼女は慌てたような表情をする。警戒は解かないで、それでも、ユリアさんの話を聞く事にする。
「あの、昨日はごめん。急に、怖かったわよね」
「……」
「それと、こんなで良ければ、なんだけど……。友達になってくれたら、嬉しい」
「……、え?」
「や、やっぱり嫌よね! ごめんな……」
「待って!」
違う、そういう事じゃない。ユリアさん、友達って、友達だよね。え、いいの、かな? 友達で、我慢でき……、それは違う?
まあともかく。私だって、友達は欲しい。一人は嫌だから。でも、私は友達を作るのは難しそう。何かきっかけでもないと、ね。それだったら、ぴったりかもしれない。
昨日はちょっとびっくりしたけど、でもまあ、怪我は一つも負わなかった。
それに、根本的に、優しい人なんだよね……。
「良い、ですよ。友達」
「え……!」
「そんなに驚きます……?」
「あ、う、うん、そうね!」
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