赤い記憶~リーナが魔王を倒して彼の隣を手に入れるまで~

鏡田りりか

第6話  『部屋』

 私は部屋に戻るなり、ベッドに飛び込んだ。まさか、こんなに時間が掛かるなんて……。ちょっと疲れた。
 ミルヴィナさんが検査してくれるって事だったんだけど、私には医学家の知識は全くないから、何されてるのか全然わからなかった。
 とにかく、いろんな魔法で検査してくれたみたい。随分念入りだった。
 一応、問題はなさそうだ、ってことで、やっとついさっき解放して貰って、今に至る。
 ふぅ、吐息を吐きだすと、ミアとティアを呼んでベッドに座る。


「そうだ。ミア、リーナ様を『部屋』に連れて行った事って、ありましたっけ?」
「あっ、ないよ。連れてった方が良い?」
「行きましょうよ! 私も、ミアの『部屋』見てみたいですし」


 『部屋』って言うのが何を意味するのか。私は隅から隅まで召喚魔法の本を呼んでいたから、一応知ってる。
 この『部屋』と言うのは、異世界に住む悪魔たちが、使い魔、つまり主人が出来た時に貰える自分専用の世界。
 まあ、つまり、主人が居ない悪魔って言うのは、自分だけの世界を手に入れられないんだよね。
 だからみんな、主人が欲しくて必死で、凄く強い悪魔も多いとか。
 でも、あんまり強くなり過ぎると、術者に見合わなくなっちゃって、それはそれで召喚して貰えないらしいけど。悪魔も大変だね。


「えっ、ティアお姉ちゃんも来るの……?」


 ミアは困った様に私をちらっと見る。ティアはそれを見るなり、ニヤッと笑って言う。


「ええ。それともなんです? 他の悪魔を一人入れるだけで、リーナ様に頼らなきゃいけないんですか?」
「ぐ……。良いよ、おいで!」


 自分の『部屋』に他の生命体を入れる時、その『部屋』の持ち主は、魔力を消費する。
 そして、その生命体が悪魔の時、大量の魔力を消費する事になってる。
 で、今ミアは私によって召喚されてるので、魔力を主人から吸い取る事も可能。魔法を使う時も、主人から魔力を取る事が出来るらしい。
 と、ミアはもう、ゲートを作り終えていたらしい。
 現世界と異世界を繋ぐゲート。ここを潜れば、もう異世界。
 ミアに促された私は、目を瞑ると、静かにゲートを潜り抜けた。






 そっと目を開く。其処は、白で統一されていた。白い壁と、床に、真っ白な家具。寝具も白で、大きなフリルが付いている。カーテンなんかも、二重で、白いレースのカーテンの上に、ボリュームのある大きいカーテンが。
 え、えっと……。


(『部屋』って、こんな部屋みたいな感じなの……?)


 何処からどう見ても、それは女の子の自室に見える。
 いや、寧ろそれ以上かもしれない。姫家具、だよね? か、可愛いけどさ。
 まさかこんな感じだなんて思わないし……。びっくりだよ。


「まあ……。ミアは異世界の使い方が上手ですね……」
「えへへ! こっちも来て!」


 ミアは楽しそうに扉を開けた。その先は……。


(わあ……)


 整備された、石の道が続いている。その周りには木があるから……。イメージは、森の中? さっきの建物は、ちょっとおしゃれな外観で、小さなお城みたい。可愛い。


「凄い……。こんなに上手に作れるなんて……」
「えへ! こういう魔法は得意なんだよ?」
「私も得意なのですが……。ミアのはもっと凄いです」


 褒められて嬉しいみたい。楽しそうにスキップするミアのパンプスが、弾むようなリズムを奏でる。
 医師の道を歩くこと約五分。目的地に着いたよう。くるっと半回転したミアは、両手を広げてニコッと笑う。


「はい、此処が『駅』だよ」


 『駅』と言うのは、大量の魔法陣が集められている場所の事。
 何処に繋がっているのかって言うと、『部屋』を貰う前の悪魔が生活する場所だったり、商店街の様なところだったり、はたまた主人のところだったり、とにかく沢山ある。


「へえ……。結構な数がありますね。あら、こんなところまで持っているのですか……」
「えへへ! ご主人さまの部屋はこれだよ。早く帰んなきゃ。ちょっと大変。もう、ティアお姉ちゃんのせいだからね」
「ごめんね。今度、私の部屋に来て良いから、それで良いでしょう?」
「! やたーっ、行く!」


 私はそんな会話を微笑ましく思いつつ、指定された魔法陣に乗った


 はずだった。


「あっ?! ご主人さま、それじゃないよッ?!」
(ええっ?!)
「ミア、あれは何処に繋がっているのですか?!」
「あれは……」


 その瞬間、音は聞こえなくなり、私は何処かへと飛ばされてしまった。










(う……、あ……)


 私はそっと目を開けた。空中にでも放り出されちゃったのか、体の彼方此方が痛い。
 ゆっくりと立ちあがって、私は茫然とした。
 其処は、ただ暗いだけの空間が広がっていた。ぼんやりと見つめていて、少し目が慣れてくると、沢山の悪魔がいる事に気が付く。
 そして、うっすらと見た文字。『Prisión』には、見覚えがある。
 白魔族ヴァイスの言葉じゃないけど、本で見て、知っているアルファベットの並びだから。


(此処って……)


 此処は、悪魔の収容所だった。


 主人の居ない悪魔は、凶暴な事が多い。その中でも、此処に居る悪魔は、現世界で問題を起こし、閉じ込められている凶悪な悪魔達。
 ドキン、ドキンと早い鼓動が聞こえてくる。蹲ったまま、胸をギュッと押さえつけた。
 其処を飛ぶ悪魔が見える程度に明るいとはいえ、暗い事に変わりはない。やっぱり、怖い。
 それに……。もし見つかったら、間違いなく殺される。普通に死ぬよりも、もっと大変な事になるかも……。嫌だ、こんなところで……。
 心の中で、必死に使い魔の名前を呼ぶけれど、駄目だ。


 なんと言っているのか分からない、聞いた事のない言語。何か、喋ってる。
 恐る恐る顔を上げてみると……。私を見てる。ってことは。
 ――見つかった!
 二人の悪魔だ。口元がニタリと笑って、キラリと牙が光った。
 ――殺される!


 今すぐ、逃げなきゃ、立たなきゃ。


 それなのに、足に力が入らなくて、座ったまま、悪魔を見て震えていた。
 ゆっくり近づいてくる悪魔が、手を伸ばせば届く距離まで来た時。体の主導権が一気に戻って来たような気がした。
 床を押して立ち上がると、床を蹴り、走り出す。


 後ろなんて見てる暇はない。走っても走っても風景の変わらない暗闇の中、宛も無く足を動かす。
 悪魔の間をすり抜けて、すり抜けて。
 みんなが、私の事を振り返ってくる。嫌だ。嫌だ。


(やめて、私を、こっちを見ないでよ……ッ!)


 俯いて走る。人に見られることほど怖い事はないんだから。いや、あるだろうけれど。ともかく、いまのこの状況。気が狂いそうなほどに怖い。
 あの悪魔が、近くに居るのかも分からない。追いかけて来ているのかも分からない。
 とにかく、必死に走って。なんでこんなことをしてるの? 訳分かんないよ。


 急に誰かとぶつかって、私の体がぐらりと揺れる。弱い足では、耐える事が出来なかった
 そのまま地面まで、抵抗する事も出来ずに倒れる。頭を大きく打った。強い衝撃に、意識が飛びそうになる。
 こんなところで意識を失いでもしたら、間違いなく死ぬ。だから、なんとか耐え、息を大きく吸う。
 頭を押さえて立ち上がると、悪魔は思っていたよりずっとすぐ傍に居た。


(あ……)


 この状況。私はこれ以上逃げられないし、逃げても敵は周りに沢山居る。
 もう、今度こそ駄目……。私が目をキュッと瞑ると……。


「ご主人さまに、手を出さないで?」
「このお方は、私達のリーナ様です!」
(ミア、ティア……!)


 私の大好きな使い魔が、庇うように立ちはだかる。
 ミアとティアを見るなり、悪魔二人は、顔を青くして後ずさった。
 その瞬間、私を追ってきた悪魔二人の言葉が分かるようになる。


「まさか、お二人は……」
「もう遅いよ?」
「ミア様と、ティア様?」
「もっと早く気づいていればよかったのにね?」


 強い風が吹き荒れる。こんな強い、魔力の波動……? 一体、どんな……。
 片目を開けてみると、悪魔は尻尾を巻いて逃げて行くところだった。
 少しして。風も収まり、二人が来てくれた事に安心すると、さっき、ミア様、ティア様と呼ばれていた事を思い出した。
 けれど、これって、聞いても大丈夫、なの、かな?


「ご主人さま、覚えてる? ミア達、それ、分かっちゃうんだけど」
(あ……)
「まあ、隠していなくてはいけない、と言う訳ではないのですけれどね」


 言う必要がなかったので、と言いながら、ティアは人差し指をくるくるとまわした。
 ティアの頭の上が光り、白金で出来た真っ白のティアラが現れた。


「悪魔の世界でも、上下関係はありましてね。私達は実力主義なので、力によって左右されます」
「ミア達は基準をこえてるから、ちょっと良い『くらい』を持ってるんだ」
「後でくらいについても説明しますね、でも、とりあえずは良いでしょう。とにかく……」


 ミアも人差し指をくるくるとまわして、白いティアラを出現させた。


「ミア達、こっちでは結構恐れられてるんだよ」


 ニヤリと笑い。ミアは、小さな牙を光らせた。

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