量産型ヤンデレが量産されました

スプマリ

出発

 え、ちょっと待って、は? へ? 昨日の今日だぞ? 何で三人は既に準備出来てるの? おかしいよね?


「み、皆は買うものとか何かないの? それにほら、夏休みの課題をどうするかとか全然決めてないじゃん」


 例の如く悪あがきを試みる。それに対して榛名は全てを包み込むような、出来の悪い教え子に優しく教えきかせるような慈愛に満ちた顔で俺に語り掛ける。


「私たちの分の水着はもう買ってあるから大丈夫だよ? 雄太くんの分も私たちが用意しておいたし、課題なんて後からでも大丈夫だよ」


 なんだろう、自分が凄い馬鹿になったような気がするのでその顔はやめて頂きたい。あとあれですか、やはり例の如く俺の意見を聞く前から旅行することは決まってたんですか。


 早くも逃げ場が無くなってしまったことに対してショックを受けていると二階から文美の声が聞こえてくる。


「お兄ちゃんの荷物の用意出来たよー」


 早い、早いよ君。さっきから黙ってると思ったら俺の荷造りしてたのかよ。というか何で文美が俺の荷物の準備してんだ。俺にしかわからない、かつ俺に必要なものがあるかもしれないじゃないか。


 心の中でツッコミを入れていると俺の荷物と思わしきバッグを抱えて文美が二階から降りてくる。


「はい、お兄ちゃん」


 俺の前までやってきた文美はそう言ってバッグを渡してきた。なんだか褒めてほしそうな顔をしている。頭をなでろと言うのか。俺の逃げ場を無くしたお前を褒めろと言うのか。




「ありがとな、文美」
「えへへー、お兄ちゃんのためだからなんてことないよー」


 文美の頭をなでなでしながら礼を言う俺。


 ええ褒めますよ撫でますよ悪いですか。こんなに露骨にアピールされてそれに答えないとか無理に決まってるじゃないですか。これで要求に答えなかったら寂しげな顔とかされるんだぞ、きっと。ヘタレな俺にそんなこと出来るわけないじゃないですか。




「それじゃあちょっと早いけど出発しようか」


 俺が心の中で弁明をしていると田中が俺にそう言った。気が付けば田中と榛名も既に荷物を持っている。文美の荷物と思わしきものも足元にあった。あんたたちほんとに準備するのが早いのね。


「でも文華ねえがまだなんじゃないか?」
「お姉さんならもう準備出来てると思うよ。多分外にいるんじゃないかな?」


 俺が口にした疑問に対して榛名がそう答える。まっさかー。そんな昨日の今日で……、っていやいや、そんなまさか。


 確認を行うために玄関へと向かう。なんだか知らんが胃が痛い。ドアノブが嫌に重い。だがそれらは気のせいにしか過ぎないのだろうか、玄関はあっさりと開いてしまう。
















 第一印象は黒くて大きい、だった。
 その図体は非常に大きく、多くの荷物を載せても全く問題ないことがよくわかる。
 人によってはある意味でお馴染みとも言えるような車種であり、特定の用途においては定番の車と言えよう。
 今回のように多人数で旅行を行うような時にはこれ以上ない程に適切な車であることはわかるのだが……。






















「なんでハイエ○スなんだよ!!」




 叫ばずにはいられなかった。




 運転席から顔を出している馬鹿の悪意を感じる。マジでこれに乗っていくんですか。

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