幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について
133話目 探し物は
「はぅ!」
寝込んでいたリーディアが奇声と共にがばりと起き上がる。あまりにも酷い魘されかたをしていたので相当な悪夢を見ていたに違いない。現に先程拭ってやったばかりの彼女の額は既に汗でびっしょりと濡れている。
「リーディア、大丈夫? もう少し安静にしてていいんだよ?」
「シャ、シャル殿……」
シャルが優しく労りの声をかけているが、彼女の方を見ているリーディアの目は虚ろで焦点も合っていないように見える。ただ反射的に見やっただけに違いあるまい。
今日は一日ゆっくりするよう言おうとしたその時、彼女は突如ハッとしたかと思うと慌ただしく部屋の中を見渡し、その視線がある一点――壁に立てかけている、俺が再再度作ってやった剣――に向いた瞬間、彼女はベッドから飛び出し剣をその胸に掻き抱いた。
「うぅ……ふぐぅ……良かった……! 良かった……!」
「お、おい、どうしたんだ」
涙をボロボロと流しながら『良かった』と繰り返すその姿は明らかに尋常の物ではない。俺は狼狽えながら彼女に声をかけた。
「いや、みっともない姿を見せて申し訳ない。酷い、とても酷い悪夢を見てしまってな……。私の剣が何かとても……、うっ、す、すまない、思い出そうとするだけでも吐き気がするような、そんな悍ましい悪夢を見てしまったんだ。いや、だが私の剣がこうして無事で良かった……」
「お、おう、その、悪夢ってのはそんな酷かったのか」
「ああ、酷いなんてものじゃなかった。それだけは言える。しかしもう大丈夫だ。剣はここにある。何も問題は無い」
そう語る彼女は曇りの無い笑顔を、とびっきりの笑顔をしていたが、その瞳は濁りに濁り切っている。
「し、師匠、もしかして……」
「何もいうなシャル。何も無かった。それで良いんだ」
皆まで言うな、とシャルを押しとどめる。どうして辛い現実から己の心を守るために全てを夢と思い込む彼女に現実を突きつけられようか。どうして聖母のような慈愛に満ちた顔で剣を撫でる彼女に『その剣は三本目だよ』と滅びの言葉を言えようか。わが剣は滅びぬ。何度でもよみがえるさ。
結局、その日彼女は夕飯の時間になるまでその姿勢を崩すことは無く、夕飯を食いに来た甚六はいつも通りバクバクと飯をその腹の中に収めていくのであった。確かに夕飯は抜きにしていないので別に問題は無いのだが、あまりに図々しすぎるだろう。果たしてコイツはどうやれば心が壊れるのか、と食べながらずっと頭を悩ませていた俺は間違っていないはずだ。
寝込んでいたリーディアが奇声と共にがばりと起き上がる。あまりにも酷い魘されかたをしていたので相当な悪夢を見ていたに違いない。現に先程拭ってやったばかりの彼女の額は既に汗でびっしょりと濡れている。
「リーディア、大丈夫? もう少し安静にしてていいんだよ?」
「シャ、シャル殿……」
シャルが優しく労りの声をかけているが、彼女の方を見ているリーディアの目は虚ろで焦点も合っていないように見える。ただ反射的に見やっただけに違いあるまい。
今日は一日ゆっくりするよう言おうとしたその時、彼女は突如ハッとしたかと思うと慌ただしく部屋の中を見渡し、その視線がある一点――壁に立てかけている、俺が再再度作ってやった剣――に向いた瞬間、彼女はベッドから飛び出し剣をその胸に掻き抱いた。
「うぅ……ふぐぅ……良かった……! 良かった……!」
「お、おい、どうしたんだ」
涙をボロボロと流しながら『良かった』と繰り返すその姿は明らかに尋常の物ではない。俺は狼狽えながら彼女に声をかけた。
「いや、みっともない姿を見せて申し訳ない。酷い、とても酷い悪夢を見てしまってな……。私の剣が何かとても……、うっ、す、すまない、思い出そうとするだけでも吐き気がするような、そんな悍ましい悪夢を見てしまったんだ。いや、だが私の剣がこうして無事で良かった……」
「お、おう、その、悪夢ってのはそんな酷かったのか」
「ああ、酷いなんてものじゃなかった。それだけは言える。しかしもう大丈夫だ。剣はここにある。何も問題は無い」
そう語る彼女は曇りの無い笑顔を、とびっきりの笑顔をしていたが、その瞳は濁りに濁り切っている。
「し、師匠、もしかして……」
「何もいうなシャル。何も無かった。それで良いんだ」
皆まで言うな、とシャルを押しとどめる。どうして辛い現実から己の心を守るために全てを夢と思い込む彼女に現実を突きつけられようか。どうして聖母のような慈愛に満ちた顔で剣を撫でる彼女に『その剣は三本目だよ』と滅びの言葉を言えようか。わが剣は滅びぬ。何度でもよみがえるさ。
結局、その日彼女は夕飯の時間になるまでその姿勢を崩すことは無く、夕飯を食いに来た甚六はいつも通りバクバクと飯をその腹の中に収めていくのであった。確かに夕飯は抜きにしていないので別に問題は無いのだが、あまりに図々しすぎるだろう。果たしてコイツはどうやれば心が壊れるのか、と食べながらずっと頭を悩ませていた俺は間違っていないはずだ。
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