幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について
番外2
男は考える。何故自分はこうなったのだろうか。今の境遇、今の生活、それだけではない、自分の中にある何か。何故自分はそんな物を……。
男の狩りは酷く順調に進んだ。傍から見れば自殺行為にしか見えないが、男には確かな勝算があった。ギルドを出て、街を出て、魔物を探してさ迷い歩く。ずるり、ずるりと足を引きずり、誰かを伴うことなく、よたよたと歩く姿は気狂いか、度を越した愚か者か。
しかし男はそのどちらでもない。ここには動いている魔物が居ない事も、息を殺して獲物を待つ魔物がどこにいるのかも、男には手に取るように分かっていたのだ。己の身が今のようになってしまった代わりに鋭敏になった感覚を用いることで男はそれを成しているのだ。
もちろん、普通に考えればこのようなことを出来るはずもない。五感のいずれかが機能を失った際にそれを補うように他の感覚が多少は強化されることはあっても今の男程ではない。これが、これこそが男の中に潜む何かであると男は確信していた。
男は凡庸な子供だった。何かが頭抜けていたわけでも、生まれが特別であった訳でもない。しかし、ある時子供は悟ったのだ。それがいつだったかは定かではない。
何かを得る為には、何かを失う。何かを失えば、何かを得る。
そして自分は他の誰かよりも、失う何かより得る何かが大きいのだ、と。
例えば努力。誰かが何かを身に付けるために行ったのと同じだけ努力を行えば、彼はほとんどの場合でより高い練度で習得することができた。対価を支払って物を買おうとすれば、他よりも質のよい物を偶然に手にすることが出来た。
そのことを自覚したからといっても彼は何か大きな事を為すつもりは無かった。所詮は寒村に住む一人の人間であり、特別な生まれでも、特別な師が居た訳でもない。先祖から受け継がれた『カタナ』という一風変わった形の剣を振り回し、そこらに住む弱い魔物を倒す程度で精一杯であった。
もちろん、それでも得られるものはあった。失えば得られると分かっているのだから、彼は努力し続けた。それが実を結ばないこともあったが、彼は己の人生はきっと満足の行く終わりを迎えるだろうと確信していた。長兄であった事から畑を継ぐことも許され、それを維持する能力もある。幼い頃から一緒で、結婚を望んだ女性とも婚姻にたどり着いた。これこそが己が得たものの集大成なのだと男は自信を持って言うことが出来た。
だが事件が起こった。
いつものように弱い魔物を退治するだけのはずだった。しかしその時村に現れたのは常よりも、いや、ともすれば本職の冒険者ですら手こずる程の強さを持った魔物だった。一撃一撃が致命的な力を持ち、立ち向かうのではなく村を捨てて逃げるのが取るべき行動であった。男とてそのつもりであったが、何が魔物の気を引いてしまったのか魔物は彼の最愛の人を獲物として狙ったのであった。
失いたくない。
「彼女から離れろおおおおおおおおおお!!!!!!」
勇ましく叫び声を上げながら彼女と魔物との間に立ちふさがり、今まさに彼女の命を刈り取らんとした爪を愛剣で受け流し、距離を取るために蹴りを食らわせる。踏み込み、剣を叩きつけ、持ち前の身軽さで反撃を躱し、少しずつ、少しずつ弱らせていく。しかしそんな綱渡りが長く続くはずも無く、あと一撃という場面で男は足に深手を負ってしまい、倒すことは出来たものの以前と同じ動きが出来なくなってしまった。
男は昏睡し、最愛の人の必死の看護もあり三日後にようやく目を覚ました。初めこそ男は村中からこぞって持て囃された。『お前こそが英雄だ』『村の誇りだ』と、知っている顔から知らない顔まで、誰もが彼を誉めそやした。
しかしそれも長くは続かない。魔物が村に現れる頻度は高くなく、それとて村人総出でかかれば彼抜きでも対処できないこともない。あの時現れた魔物が例外であっただけであり、それとていざとなれば犠牲を出しつつも逃げれば済む話である。残ったのは目と足の不自由な無駄飯喰らいの男一人。畑仕事が出来なくなった男を支える者は一人、また一人と減っていき、次第に疎まれ、ついには婚約すら解消されてしまった。
失わずに済んだはずだった。辛くも倒すことが出来たはずだった。幸せになるはずだった。
相手にも体面があったのか希少品である回復薬を渡されたものの、村を出ていくこととなった男にはどうでもよい話である。彼にとっての全てを失い得た物は、鋭敏になった四覚と腰に携えた愛剣と回復薬と、蓄えていた現金が少し。
どこで何を間違えてしまったのか。彼女を見捨てるべきだったのか。今あるこれは自分の全てよりも価値のある物なのか。
答えの出ない問いが頭の中をかき乱し、それでも体は次の獲物を求めてさ迷い歩く。目的も無くただ糧を得る為に狩りを続け、右足を引きずる。男が帰路に就いたのは十の獲物を狩り終えた時であった。
男の狩りは酷く順調に進んだ。傍から見れば自殺行為にしか見えないが、男には確かな勝算があった。ギルドを出て、街を出て、魔物を探してさ迷い歩く。ずるり、ずるりと足を引きずり、誰かを伴うことなく、よたよたと歩く姿は気狂いか、度を越した愚か者か。
しかし男はそのどちらでもない。ここには動いている魔物が居ない事も、息を殺して獲物を待つ魔物がどこにいるのかも、男には手に取るように分かっていたのだ。己の身が今のようになってしまった代わりに鋭敏になった感覚を用いることで男はそれを成しているのだ。
もちろん、普通に考えればこのようなことを出来るはずもない。五感のいずれかが機能を失った際にそれを補うように他の感覚が多少は強化されることはあっても今の男程ではない。これが、これこそが男の中に潜む何かであると男は確信していた。
男は凡庸な子供だった。何かが頭抜けていたわけでも、生まれが特別であった訳でもない。しかし、ある時子供は悟ったのだ。それがいつだったかは定かではない。
何かを得る為には、何かを失う。何かを失えば、何かを得る。
そして自分は他の誰かよりも、失う何かより得る何かが大きいのだ、と。
例えば努力。誰かが何かを身に付けるために行ったのと同じだけ努力を行えば、彼はほとんどの場合でより高い練度で習得することができた。対価を支払って物を買おうとすれば、他よりも質のよい物を偶然に手にすることが出来た。
そのことを自覚したからといっても彼は何か大きな事を為すつもりは無かった。所詮は寒村に住む一人の人間であり、特別な生まれでも、特別な師が居た訳でもない。先祖から受け継がれた『カタナ』という一風変わった形の剣を振り回し、そこらに住む弱い魔物を倒す程度で精一杯であった。
もちろん、それでも得られるものはあった。失えば得られると分かっているのだから、彼は努力し続けた。それが実を結ばないこともあったが、彼は己の人生はきっと満足の行く終わりを迎えるだろうと確信していた。長兄であった事から畑を継ぐことも許され、それを維持する能力もある。幼い頃から一緒で、結婚を望んだ女性とも婚姻にたどり着いた。これこそが己が得たものの集大成なのだと男は自信を持って言うことが出来た。
だが事件が起こった。
いつものように弱い魔物を退治するだけのはずだった。しかしその時村に現れたのは常よりも、いや、ともすれば本職の冒険者ですら手こずる程の強さを持った魔物だった。一撃一撃が致命的な力を持ち、立ち向かうのではなく村を捨てて逃げるのが取るべき行動であった。男とてそのつもりであったが、何が魔物の気を引いてしまったのか魔物は彼の最愛の人を獲物として狙ったのであった。
失いたくない。
「彼女から離れろおおおおおおおおおお!!!!!!」
勇ましく叫び声を上げながら彼女と魔物との間に立ちふさがり、今まさに彼女の命を刈り取らんとした爪を愛剣で受け流し、距離を取るために蹴りを食らわせる。踏み込み、剣を叩きつけ、持ち前の身軽さで反撃を躱し、少しずつ、少しずつ弱らせていく。しかしそんな綱渡りが長く続くはずも無く、あと一撃という場面で男は足に深手を負ってしまい、倒すことは出来たものの以前と同じ動きが出来なくなってしまった。
男は昏睡し、最愛の人の必死の看護もあり三日後にようやく目を覚ました。初めこそ男は村中からこぞって持て囃された。『お前こそが英雄だ』『村の誇りだ』と、知っている顔から知らない顔まで、誰もが彼を誉めそやした。
しかしそれも長くは続かない。魔物が村に現れる頻度は高くなく、それとて村人総出でかかれば彼抜きでも対処できないこともない。あの時現れた魔物が例外であっただけであり、それとていざとなれば犠牲を出しつつも逃げれば済む話である。残ったのは目と足の不自由な無駄飯喰らいの男一人。畑仕事が出来なくなった男を支える者は一人、また一人と減っていき、次第に疎まれ、ついには婚約すら解消されてしまった。
失わずに済んだはずだった。辛くも倒すことが出来たはずだった。幸せになるはずだった。
相手にも体面があったのか希少品である回復薬を渡されたものの、村を出ていくこととなった男にはどうでもよい話である。彼にとっての全てを失い得た物は、鋭敏になった四覚と腰に携えた愛剣と回復薬と、蓄えていた現金が少し。
どこで何を間違えてしまったのか。彼女を見捨てるべきだったのか。今あるこれは自分の全てよりも価値のある物なのか。
答えの出ない問いが頭の中をかき乱し、それでも体は次の獲物を求めてさ迷い歩く。目的も無くただ糧を得る為に狩りを続け、右足を引きずる。男が帰路に就いたのは十の獲物を狩り終えた時であった。
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