幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

106話目 到着

 それから数日かかって俺達はようやく目的の村に到着した。初日こそ都合良く森を発見できたので野営中とは思えない程豪勢な食事を行えたものの、その日以降は丁度良く森を発見する事が出来ずにいたためモソモソとした保存食をむことになり、その味に慣れない俺とシャルは渋い顔をせずにはいられなかった。


「いや、これくらいが普通だからな?」


 俺達の反応を見て苦笑しつつライザがそう諭す。初日の態度からすれば『これくらいが普通だから我慢しろ』くらいは言ってきそうなものだが、シャルの料理を食べたが故の反応だろう。普通の冒険者であればシャルがやってみせたように食材を調達することなど出来ないし、仮に出来たとしてもそれで作られるのはただ火を通したり煮込んで塩で味付けをしたスープくらいのはずだ。


 その他にも『ついでだから』という事でテントを使わないで寝床を設営する方法もライザから教わる事となった。枝や草を使って雨風を防ぐシェルターを作るのだが、どういった枝が適しているだとか場所の選び方、敵から見つかりにくくする偽装法や虫よけのやり方等も教わり、快適とまでは言えないが我慢は出来る程度の物を作る事が出来た。


「何だ?! 何で泣いているんだ?!」
「色々あったんだ。色々と……」
「そ、そうか……」


 そうやって寝床を作り上げた時、俺は無意識の内に涙を流していたのをライザから指摘された。何処かを怪我しただとか目にゴミが入ったからというわけではない。あの街を飛び出して魔の森に入った時の事を思い出したのだ。


 使いこなせない魔法にろくすっぽ振れもしない武器、それらを手に魔の森に住もうとしたのだが、どうやって寝床を確保するかで非常に苦心した。そこまで深く考える事無く森に突撃したため初日は偶然見つけた洞窟を寝床にしたのだが激痛と共に目を覚ます事となった。暗かったためよく見えなかったが、恐らくは寝ているところをキラーウルフにでも襲われたのだろう。下半身を食われながら振り回され、何度も壁に叩きつけられた。


 その次の日は何とか身を隠そうと漫画等を参考にして木の上で寝る事も考えたのだが、あまりにも足場が不安定だったためどうやっても寝ている内に落下すると考えて、結局はその木の根元に極力深い穴を掘って身を隠して就寝することになった。そして息苦しさと共に目を覚ますと自身の首が蛇のような何かに絞められていることに気付いた。


 それからもヤケクソになり木の上で自分を木に括り付けて寝ればキラーバットが諦めるまで首を切り落とされ続ける事になり、家を魔法で作ればいいということに気付いて作れば巨大な化け物の体当たりで木っ端微塵に粉砕されて轢き殺され、回復中に糞猿共に見つかって寄ってたかって玩具にされる羽目になった。


 もしもあの時この野営法を知っていればいくらかはあの苦労も軽減されたのだろうか、という思いが頭を過り自然と涙が溢れてきたというわけだ。知識を知る事は出来ても知恵を知識魔法で知る事は出来ないので、あの時の俺が知る手段は無い上にあいつらの危険度を考えれば焼け石に水もいいところだが、それでも考えずにはいられなかった。




「村についたけど、誰も居ないね」


 さて、件の村に到着したはいいがシャルの言う通り村はひどく閑散としていた。もしや目的地と間違えて廃村にでも来てしまったのかと思ったが、ライザに確認を取るとここで間違いはないという。そこで気配を探ってみたところ、確かにここは廃村などではなく人間らしき生き物の気配が建物の中にあることが確認できた。


「とりあえずでかい家を訪ねるぞ」
「了解した」


 俺の方針を聞いたリーディアが返事をする。シャルはコクリと頷いていたがライザは後ろから見ているだけで特に何か口を挟むつもりは無いようだ。言葉通り最寄りの目につく家の扉へと向かうが、なんのことはない。一番気配が多い場所がそこであるだけだったりする。


「すいませーん、依頼を受けた冒険者ですけどー!」


 扉をやや乱暴にドンドンと叩きながらそう呼びかけるが返事は無い。『あれ? おかしいな?』と思いつつ再度呼びかけながら扉を叩くが、やはり反応は無い。確かに気配はあるのだが……。シャルもまた気配が読めるため彼女に意見を求めてそちらを向くが、彼女にもよくわからないのか首を捻って申し訳なさそうな顔をするばかりだ。


 仕方がないので他の場所を訪ねようと思い扉に背を向けたその時、家の中からドタドタと騒がしい音が響くとバタンと大きな音を立てて扉が開かれた。

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