幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

99話目 冒険者

 『保存食なら別に机はいらないからな……』というリーディアの証言通り食事をとるための机すら存在しなかったため、亜空間から机を取り出して先程兵士に渡した物と同じ銘菓を開ける。机を取り出す魔法にも、銘菓に対しても二人は特に驚いた様子は無く、ただ純粋にどういった味がするのだろうかと目を輝かせるばかりだ。


 二人がこういった反応を示すのは俺の特異性に慣れたからであることは明白であり、そして彼女らが俺に慣れたのと同じように俺も彼女らの反応に慣れてしまっていたのだろう。これからは極力意図せずに目立つことがないように気を付けよう……。


「それで、明日からはどうする?」


 本心を言えばこのまま家に帰ってしまいたいが、ドラ助のお土産の件もあるので渋々だがどうにか帝国で時間を潰す方向で行くしかあるまい。一先ず今日はこのままリーディアの部屋でダラダラと時間を潰すとしても、まだ二、三日は時間を潰さなくてはならないのでこの話題を避けることはできない。


「街にどこか有名な場所とか無いの?」
「生憎この街で有名なのはこの城ぐらいしか知らなくてな……」


 しかしこんな具合であるので観光名所巡りは期待できない。さりとてどこかの飲食店で時間を潰すのは衛生的に難があるし、洋服屋は俺が暇になりそうなので言い出さないでおこう。だが二人とも洋服屋について言及しないので彼女らも別段興味は無いのだろう。


 リーディアは……、うん、まあいいとして、シャルは興味は無いのだろうか。


 そう愚にもつかない事を考えていると突然リーディアが『そうだ!』と言って立ち上がった。


「冒険者として働いてみるのはどうだろうか?!」


 彼女としては会心の閃きだったのだろうが、その言葉を聞いた俺とシャルの反応は芳しくない。俺なんか思わず凄い嫌そうな顔をしてしまったし、シャルですら眉間に皺を寄せてしまっている。


「あの、小さい頃は冒険者に憧れていたからなってみたいと思ったのだが、駄目、だろうか……?」


 俺達が乗り気でない事を察したのかリーディアの勢いは瞬く間に萎んでしまい、終いには消え入りそうな声になった。そんな彼女の姿を見ては酷く罪悪感を煽られてしまう。そもそも俺もシャルも人攫いをやるような冒険者達を忌み嫌っているだけであり、冒険者という職業自体を嫌っているわけではない。暇潰しに働くというのも変な話だが……、他に建設的な意見があるわけでもないし、彼女の意見を飲んでしまって良いだろう。


 そう思い一度シャルの方を見て彼女の意見を伺ってみるが、彼女は仕方ないとばかりに苦笑を返す。すぐに察してくれたりこちらの我儘を聞いてくれたりとほんと俺にはもったいないな……。とはいえ誰かに渡すつもりは無いが。


「まあ、いいんじゃないか? 別に不都合も無いし」


 俺がそう答えるとリーディアはその表情を一転させて喜色を浮かべ、嬉々として明日はどんな依頼を受けるかを検討し始める。そんな彼女を微笑ましく見ていると『そういえばリーディア用の装備は作ってなかったな』と思い至る。今からでも作るべきか、ついでにガンダスに防具屋でも紹介してもらって防具の調整でもしてもらうべきか、ああでも確実に騒がれるからそれはやめておいた方がいいな……。


 俺はそんな風なことを悩んでいたのが悪かったのだろう。この城に入った時からずっとマークしていた気配が不穏な動きをしている事に早期に気付くことが出来ず、そして気付いた時には遅すぎた。


「リーディア、入るぞ」


 一言断りを入れているものの返事を待つことなく扉を開けてボロスは部屋に入ってきた。いや、この国で一番偉いんだし、リーディアに連れられているのが俺やシャルではないという事になっているから何も言わないけどさ、ならなんでこっちに来たんだよこいつ。


「父上! 何故ここに?」


 リーディアもこの事は聞いていなかったのか疑問の声をあげる。それに対してボロスは片手を上げるだけで特に返事を返さない。そしてそのまま俺とシャルの方を見やり……。


「来ているのならば挨拶くらいはしてくれても構わんだろうに。なあ、森の魔法使いよ」


 あのさ、そんなあっさりと見破られると立つ瀬が無いんですけど。

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