幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

89話目 職人技って凄いよね

 カウンターの陰からひょっこりと現れたアイラそっくりなドワーフの女性、彼女がどれ程アイラに似ていたかというと背格好から顔つきまでほとんど同じであり、声が若干違う事と彼女が俺達を知らない様子でなければまず間違いなくアイラと見間違えていただろう。


「ああ、アイラさんの妹さん? 武器屋でここを勧められたんでちょっと眺めてたんだ」
「あたいが母ちゃんの妹なんて変な事言う兄ちゃんだなー。お客さんなら父ちゃん呼んでくるよ」


 そう言って彼女……、いや、女の子は店の奥に向けて『父ちゃーん! お客さんだよー!』と体つきに似合わぬ大きさの声量で父親、恐らくはこの店の主人である人物に呼びかける。


 というか娘って嘘やろ……。見た目完全にアイラさんと同じやん……。


 ドワーフの神秘に触れて戦慄していると店の奥の方からドスドスと重たい足音が響いてくる。そして女の子とは似ても似つかない髭面の巨漢が姿を現す。非常に小柄な女性のドワーフと違い男性のドワーフは大体横に大きく身長は百六十センチ程なのだが、今現れたドワーフはそれよりも更に一回りは大きい。彼がガンダスだろうか……、てか俺よりもでかくね?


 ガンダスはシャルには目もくれずに俺の方をジロリと睨むとずかずかと近寄ってくる。ちょっと想像してもらいたいのだが、口髭を蓄えた山賊のような巨漢が険しい顔つきでこちらに勢いよく近づいてくるのだ。さっき別の店で怒鳴られて耐性が付いていなければ反射的に戦闘態勢になるところであった。


 彼は無言で俺の手をむんずと掴み取ると、元から険しかった目を更に細めて俺の手のひらを睨むようにしている。いや、あの、何か喋ってよ。


「アン、七番と九十一番だ」
「わかった!」


 その顔つきにピッタリな重機を思わせる低い声で女の子に指示を出し、アンと呼ばれたさっきの女の子は店の奥に引っ込んでしまう。あの、喋ってって思ったのはそういう事じゃないんですけど。


 彼はようやく俺の手を放すと俺の後ろにいるシャルの方を見やる。おっと、彼女にも同じような事をしようって言うならちょっと口を挟ませてもらうぜ。


「彼女にも武器はいるか」
「あ、ああ、いや、今回は俺のだけでいい」


 流石に女性に対して同じような扱いはしないのか、俺に対してとは違い一旦質問をしてきた。俺の答えを聞いたガンダスは『そうか』とだけ呟くとカウンターの方から椅子を三つ取り出してそのうちの一つにどっかりと座り込む。残りの二つは俺達に座れということなのだろうか……。彼の顔色を窺いながらおっかなびっくり椅子に座るが彼は特に何も言わないし表情も変化させない。


 ガンダスは何も言わず、俺もどう話しかけてよいのか分からないため互いに無言のまま時が過ぎる。隣に寄り添うシャルに唯一の癒しを感じながらアンが向こうから戻ってくるのを待つが、彼女が戻ってくるまでの数分が異常に長く感じられた。


「父ちゃん、持ってきたよ!」


 アンが二本の剣を掲げながら元気よくそう言い、ガンダスはそれを片手で受け取るともう一方の手で彼女の頭を乱雑に撫でた。傍からすると地面に押さえつけようとしているようにも見えるが、当のアンが『にひひ』と笑っているので問題は無いのだろう。


 そして彼はこちらに向き直ると二本の剣の内の一本をこちらに差し出すと『比べてみろ』とだけ言った。とりあえずそれを受け取った俺はその柄を握って心の中で感嘆する。恐らくこの剣は握りやすさ等を調べるための試用品なのだろう。刃は潰れていて武器としては使えないが、柄自体はしっかりとしており、俺が使っている武器よりも数段は握りやすい。


 彼がアンに出した指示からすると九十以上もあるそれらから、しかもただ俺の手を見ただけでここまで的確に選び出せるとは、この夫婦は化け物か。柄を握っているだけなのに段々とテンションの上がってきた俺はガンダスの方をちらりと見る。俺が何を聞きたいのか彼も分かっているのだろう、俺が何かを言う前に彼は店の外の方を顎でしゃくった。


 それを見た俺は居ても立っても居られずに店の外に出て幾度か剣を振り回す。刃は潰れていても重さはしっかりとあるので実際の使い心地と然程変わりはないはずだ。そして俺は剣を振り回してその使いやすさに喜びながら、一方で己の至らなさを恥じていた。


 俺は今まで強力な武器や防具を作ってはいたが、それで追い求めていたのは只管に威力だけだった。刃はより鋭く、槌はより重く、自分のイメージが強まる度にそれは成されたが、使いやすさ、つまり柄に目が向いた事は一度も無かった。


 今握りこんでいるこれであれば、例えなまくらであっても名剣に近づくだろう。それをもしも俺の武器に取り付けることが出来れば……!


 一通り振り回して満足した俺は店内に戻るとすかさずガンダスがもう一方の剣を差し出す。彼が何かを言う前に俺はそれを受け取り、先程と同じように使い心地を確かめる。ハッキリとした差は感じられないがやや異なる使用感があり、恐らくこれは好みの問題だろう。


「どっちだ」


 店内で待っていたガンダスにそう問われた俺は少しだけ悩んでから最初に試した方を指さす。好みの問題である以上、どちらを選んでも満足は出来そうである。それならば俺に感動を与えてくれた方を選んでみよう。これを使う度にこの気持ちを思い出せそうで、それは素敵な事だろうから。


 毛むくじゃらで表情の読めないガンダスだが、晴れ晴れとした俺の顔を見て満足げに笑っているように見えた。

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