幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

85話目 壁をよこせ

 そうして一悶着ありながらも俺達三人は何とか門の中に入ることが出来た。元々身元という意味ではこの上なく保証された人物であるリーディアがこれといった審査を受ける必要があるはずもなく、加えて文字通り核弾頭よりも危険な俺の機嫌をこれ以上損ねないためにも最優先で処理が行われた。


 それにより益々俺達三人は奇異の目で見られることになるのだが、どっちにしても視線は強まりそうなので大人しく入門することとした。機嫌とか居心地の悪さというか、そういう意味ではガイウスはやらかしてしまっているので普段の俺であれば『これは何か謝罪をしてもらわなければ割に合わないよなあ』とでも軽口を叩くところだが、それをしてしまうとガイウスが本気で失神しかねないので彼らと別れるまで俺は無言を貫いた。


「えーっとリョウ殿、それでは私は父上に直接話を聞きにいくので先にこの宿に向かってくれ」
「わかった。方向はこっちでいいんだな?」


 ガチガチに緊張している兵士達を伴って大通りに着くなりリーディアが単身で城に向かう旨を告げる。まあ元々そういう予定だったので特に何かを言うことも無くそのまま別れる。最初は城に宿泊する事を彼女は提案してきたのだが、見知らぬメイドやら護衛やらが付きまとうことになりそうなので遠慮させてもらった。


「久しぶりに二人きりですね、師匠」
「ああ、そうだな」


 宿に向けて歩き始めるとシャルはそう言いながら俺の左腕に抱き付いてくる。彼女の笑顔に一瞬だけ色っぽさが混じり、俺の胸が思わず高鳴って言葉に詰まってしまい、ただそれだけを何とか絞り出した。


 とはいえここのところ毎夜俺の部屋で二人きりになっているのでは……。


「ししょー、そういう事じゃ無いんだけどー」


 そんな無粋な考えが表情に出てしまったのか、さっきまでのご機嫌な笑顔はどこへやら、彼女は頬を膨らませてむくれてしまい、ツーンとそっぽを向いてしまった。それでも俺の腕からは離れないあたりがいじらしい。『ごめんごめん』と謝りながら空いてる右手で彼女の頭を撫でてご機嫌を取ろうとするが、彼女はこちらに頭を預けてはきたものの相変わらずそっぽを向いたままであった。


 仕方ないと苦笑して改めて宿に向けて歩こうとしたその時、ふと我に返って一連のやり取りを振り返ると馬鹿馬鹿しい程にバカップルのそれであった事に気付き思わず赤面してしまう。慌てて周りを見渡すと、微笑ましい物を見守るような生暖かい視線をこちらに向けている人がちらほらと見受けられた。


 その事に気付いた俺は急いで目的地に移動しようとするが、ぎゅっと抱え込まれた俺の左腕がそれを許さない。彼女はこの状況に気付いているのかいないのか、その足取りはむしろゆったりとした余裕のあるものであるため素早く移動することが出来ない。ここで彼女を振り払ったり引っ張ったりするのが流石にアウトなのはいくら俺でも分かるので、宿に到着するまでのやや長い道程を、意思に反してゆっくりとした足取りで赤面しながら歩いて行くのであった。






 やっとの思いで宿に到着した俺は部屋を取ると逃げ込むように部屋に入った。唯一の収穫はシャルの機嫌が元に戻った事だろうか。正直に言って彼女と俺の歩き方は非常に目立つものであり、機嫌の戻った彼女の可愛らしさも相まって余計に人目を集めることになった。『よう嬢ちゃん、そんな男は放っておいて云々』といったイベントを回避するために妨害の魔法を使う事は忘れなかったが、それならば注目を逸らす魔法でも使えばよかったという事に気付くのが部屋に入ってからというのは何故なのだろうか……。


 彼女は宿に到着したにも拘わらず俺から離れようとしなかったので仕方なくベッドに座り、リーディアと合流するまでの予定をシャルと相談する。


「それならドラ助へのお土産を買いに行ってもいい?」


 ああでもないこうでもないと話し合い……、正確にはまともな案を出せなかった俺が彼女の案を聞くだけだったのだが、最終的にはまずお土産を買いに行くことになった。とりあえずどんな店がいいかリクエストが無いか彼女に聞いてみたところ、まずは装飾品やらを見に行くことになった。


 まあ無いとは思うが、万が一にも奴隷エルフを扱っている店に当たらないよう知識魔法を使って有望そうな店の情報を集める。その結果ドワーフ達が様々な店を出している地帯があることがわかり、問題も無さそうなので観光も兼ねてそこまでシャルと一緒に歩いて行くのであった。


 あ、今度は魔法を使い忘れなかったよ。

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