幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

53話目 不用心な出発

「嬢ちゃん、あんた本当に護衛も無しに出発するのかい」


 ぞろぞろとみんなを連れて街の出口へと向かうと、まだ交代の時間になっていないためかまたしてもあの衛兵が対応をします。店員さんたち同様、護衛を一人も連れていない私を心配した彼は私に忠告しますが、逃げながら守るならばともかく単純に守るだけならば例え山賊や、それに類する人が襲ってきたとしても大丈夫だと思います。


 こくりと頷く私を見て、彼は一度頭を振って私に耳打ちをします。


「あのな、よくわかってないみたいだから言っておくが、お前を襲う可能性があるのは山賊だけじゃなくて連れてるエルフもだからな?」


 皆に聞こえないよう小声でそう言われ、私は小さく『あっ』と声を漏らしまい、それを聞いた彼に『はあ』と深々とため息を吐かれてしまいました。確かに彼らからすれば私はエルフではなく人間であり、しかも護衛を連れていないので、いくら非力なエルフとはいえ何十人でかかれば私一人をどうにかして逃げ出すのは簡単に思えるでしょう。


 今は流されるまま私について行っているとはいえ、そのことに気付くのは時間の問題でしょう。私もエルフなのだと分かればそういった事態を防げると思えますが、人目がある場所で変装を解くわけにはいきません。


 彼の言葉を聞いて却って早く外に行かなくてはと考え、外に出る許可を出してくれるよう彼を急かします。先程の私の様子を見て街に護衛を雇いに行くものだと思っていたのか、彼は驚いた様子を見せますが最終的には、渋々ですが、許可を出してくれました。


「本当に、本当に気を付けろよ?」


 見送りをする彼の最後の言葉もやはり忠告の言葉でした。いらない心労をかけてしまったことを申し訳なく思ってしまい、彼に一度頭を下げてから私はエルフのみんなと出発します。


 早くこの場を離れて人目の無い場所へ行かなければなりません。恐らくどこかで私のことを見ている人たちを追い払わなくてはなりませんし、お父さんとお母さんに、打ち明けることも出来ないから。






 そうしてシャルたちが街を出た頃、その後を追うように人知れず街から抜け出す集団が居た。彼らの身なりはお世辞にも良いとは言えず、人相もそれに見合ったものである。人は見かけによらないという言葉も存在するが、その言葉は彼らには当てはまらなかった。


 冒険者としての活動の傍らに人攫いをするのではなく、最早人攫いのカモフラージュのために冒険者として活動をする彼らはこの街にやってきた極上の獲物に目を付けていたのだ。世間知らずで身なりが良く、エルフ並の容姿を持ち護衛が一人もおらず、そして金とエルフまで一緒に手に入るという彼らからすればカモがネギを背負ったどころではない美味しい獲物だ。


「よし、てめえら今度こそあの女を見失うんじゃねえぞ」


 彼らの先頭……、ではなく集団の真ん中から一人の男が指示を飛ばし、その言葉に周りの男たちは短く『へい』とだけ答えて追跡を続けた。普段であればもう少し喧しくしているのだが、一度目にあの女を狙った時こちらの存在を気取られたのか、宝飾店から出るなり見張りをまかれてしまったためにやや慎重になっているのだ。


「あの時は何でか路地裏で見失っちまったが、今度は逃がさねえぜ」


 獲物があの女一人ならばまた見失う可能性もあったかもしれない。しかし今あの女は無数の獲物を連れている。普段であれば効率のためにエルフを奪う策を立てているのだが、今回の獲物はエルフですら中々お目にかかれない程の女であるため、どうやって確実に捕まえるか、どう可愛がってやるか、それらに考えを巡らせながら男は獲物の後を追うのであった。


 男にとって都合の良いことに獲物達はどんどんと人気のない場所へと向かっていった。何故このような場所を進むのか、この先にはいったい何があるのか、不思議に思った男は部下に確認を取るが向かう先には街らしきものは確認されておらず、あったとしても寂れた村があるだけだとわかっただけであった。罠かと疑いもしたが辺りには特に何も見当たらず、逆に今襲わなければ本当に罠に誘い込まれるかもしれないと考えた男は部下たちに襲撃の合図を出すことにした。


「いくぞ野郎ども! 一人たりとも逃がすんじゃねえぞ!」


 『応!』という野太い声と共に男たちは駆け出す。部隊を半々に分けて一方が囮となり、もう一方が先回りして挟み撃ちを行うという単純な策であるが、この手段で男は幾度となく成果を挙げていたため、今回も成功するものと信じて疑っていなかった。

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