幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

27話目 世話焼きな店主

 当てにしていたジルが情報収集もせずに酒を飲んでばかりであったので、結局今日の情報収集は失敗に終わってしまった。デイビスの放った一撃で完全に伸びてしまったジルをその辺に放置し、代わって二人が喧噪に参加する。


 ジルの連れということもあり、酒場に集っていた冒険者達も彼らを何ら抵抗なく受け入れ、夜遅くまで飲めや歌えやの大騒ぎをするのであった。


 夜も更け、そろそろお開きとなる頃にデイビスはまだ宿を取っていないことを思い出す。この時間にまだ受け付けている宿屋はあるのかと悩んでいると、酒場の主人があっさりと解決策を示した。


「ウチは宿屋もやっててな。まだ二階には十分空き部屋があるが、泊まっていくか?」


 この提案にデイビスは一も二もなく飛びついた。聞けば自分達と同じように無計画に飲む冒険者や、飲みすぎてそのまま寝てしまう冒険者が多いため、彼らを泊めたり放り込んだりするために宿屋も兼任するようになったのだという。


 その話を聞かされたデイビスは、冒険者は若いのもベテランもやることは同じか、と苦笑しつつライオルと共にジルを個室へと放り込むのであった。


 その翌日、平素よりも飲みすぎた彼は二日酔いにうなされつつも情報収集すべくいつもより早めに起床した。


 ガンガンと痛みを訴える頭を押さえつつ最低限の身だしなみを整え、一階の酒場へと向かうがジルはともかくライオルの姿も見えなかった。どうやら飲みすぎてしまったのは自分だけでは無く、ライオルも同じだったようだ。


 デイビスは店主以外いない酒場を見渡すとカウンターへと突っ伏し、水を注文する。昨日の馬鹿騒ぎや今のデイビスの様子から二日酔いしていることは明らかであり、店主はすぐに水をデイビスへと渡した。


「お客さん、見ない顔だけどどうしてこの村へ来たんだい?」


 店主は朝食の準備をしながらデイビスにそう問いかけた。こんな辺鄙な開拓村に来る人間の目的はそう多くない。この村へ来る商人の護衛、何らかの荷物の配達依頼、そして自殺志願者・・・・・


 冒険者を名乗るジルの連れであることからデイビスとライオルもまた冒険者であることは想像に難くなく、そして冒険者がこの村へ来る理由は最後のものであることが一番多い。


「ああ、魔物の森にちょっとばかり用事があってな」


 今はその情報収集をしてるんだよ、とデイビスは続けたが、店主は顔をしかめてしまう。この村へ来た冒険者の大半はこの酒場で飲み食いする。それは、希望に満ちた明日を願ってであったり、大仕事を前に緊張を紛らわすためであったり、死ぬ前に目一杯楽しむためであったり。理由は様々だが多くの冒険者がこの店で夜を明かし、そしてその多くが森から帰ることは無かった。


 そんな冒険者達を見届けてきた店主は、この目の前の無謀な自殺志願者を思いとどまらせるべく忠告する。


「なあ、あんた。悪いことは言わねえから、魔物の森に行くのは止めておけ。アンタがどれだけ腕に自信があるのかは知らねえが、今まで誰もあの森の中で魔物を狩るのに成功したことがねえ。見たところ装備も立派なもんだったし、どっか別の所で稼いだ方がいい」


 いかつい見かけによらず世話焼きな店主に、デイビスは何とも申し訳ない気分になりつつこの村に来た目的を詳しく説明した。


「ああ、違う違う。俺たちは魔物を狩るのが目的じゃねえんだ。最近、あの森に男が住んでるって噂を聞いてね。そいつを確かめに来たんだよ」


 手をひらひらとさせながらデイビスはそう語り、その言葉を聞いた店主の表情の険が薄まる。それからデイビスはジルがこの店で碌に情報収集していなかったことを思い出すと、噂について店主に尋ねた。


「なあ、おやっさん。その噂の男のことで何か知ってることは無いか?」


 デイビスの問いに店主はすぐには答えない。何かを言うべきか言わざるべきか悩んでいるようでもあり、その反応を見てデイビスは脈があると考えた。


「本当に何でもいいんだ。俺たちゃ噂の男について何の手がかりもねえからさ、どんな些細なことでも構わねえんだ」


 『この通りだ』と言って頭を下げるデイビスに店主はとうとう折れ、『関係あるかはわかんねえぞ』と前置きをした上でデイビスに話し始めた。






 ありゃあ大体3年くらい前だったな。なーんにもねぇこの村の近くに血まみれの男が倒れてたんだよ。それも魔物の森の近くなんて場所で倒れてやがったから、俺ぁそいつはもうくたばってるもんだと思ったんだ。


 だが、まあ、せめて埋葬くらいはしてやろうと思ってあいつに近づいたんだが、驚いたことにそいつぁまだ生きてやがったんだ。よくよく見てみりゃ服は破れてても怪我はしてなかった。


 それで、そのまま死なれるのも寝覚めが悪りぃからここの二階に放り込んでやったんだよ。放り込んでからしばらくしたらそいつが目を覚ましてな、何であんな所に倒れてたんだ、とか、装備も着けないで何で魔物の森なんかの近くに居たのか聞いたわけだ。


 そしたらあいつは『わからない』『気が付いたら森の中に居た』とか抜かしやがってな。訳がわからねえのはこっちだったぜ。筋肉も全然ついてねえ、背もそんなに高くねえ、しかも着ていたのはただの服だけだ。そんなんで森に放り込まれて生き延びられる訳がねえ。


 だから俺ぁ『馬鹿な事言ってねえでさっさとほんとの事を話せ』っつったんだよ。それでもそいつぁ『わからない』『ほんとなんだ』の一点張りでな。


 俺もいい加減イライラしてきて怒鳴りつけてやろうかと思ったら、あいつの腹が鳴ってな。一応、ここは飯も出してるから飯を出してやったんだよ。『金が無い』なんて言ってやがったから『だったらここで働け』っつってな。


 ……何だよその目は。何か言いてえのかよ。
 ……チッ。続けるぞ。


 まあ、あいつはよく働いたよ。料理もそれなりに出来たし、掃除も真面目にやってた。頭の方も中々良くてな、金の計算を間違えたことはほとんど無かった。


 だから、何てぇか、俺もいい歳だ。将来こいつに店を任せるのもいいかもしれねえって思ってたんだ。だが、ある日あいつぁどうやって手に入れたのか分からねえが良い装備を着けてな、『あの森に行く』っつったんだ。


 俺ぁ止めたよ。『馬鹿な真似は止せ』ってな。けどちっとも聞きやしなかった。


 ……あいつは結局帰ってこなかったよ。


 この噂を聞いた時にな、ふとあいつの顔が浮かんだんだよ。あんなひょろひょろが生きてる訳がねえってのに。


 話はこれで終わりだ。言っただろ? 関係あるかわかんねえぞ、って。あん? あいつの見た目? そうだな、真黒な髪と歳の割にガキくせぇ見た目だったな。あいつは『俺は二十二だ』なんて言ってたが、どう見ても十八が良いところだったな。もし生きてりゃ、ようやくそいつが言ってた歳くらいに見えてるんじゃねえか?


 ……なあ、あんた。もしも、もしもの話だ。魔物の森の中であいつを見つけたら……、いや、あいつの遺体でも何でもいいから見つかったら弔ってやってくれねえか。この話を聞かせた礼だとでも思ってな。


 ……止めだ止めだ! もう飯が出来たんだからさっさと食え! パンとスープくらいしかねえが量だけはあるからよ! ついでにあんたの連れの二人もたたき起こして来い! 何回も別々に来られちゃいい迷惑ってもんだ!

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