幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

15話目 新しい仕事

 シャルと抱き合って一晩共に寝たが、彼女の体は心地よい温かさでなんとも癖になりそうであった。いや、変な意味じゃないぞ? 家族でもないのに一緒に寝ることが不健全であったとしても俺は現在彼女の保護者であり師匠であるのだから彼女の不安を取り除いて心身ともに健やかに成長するよう如何なることをもせねばらぬのだからこの程度のことを一々気にするわけにもいかない。QED、証明終了。俺は無罪だ。


 目の前にいるシャルの様子を窺うが、とても深い眠りについているようでちょっとやそっとでは起きそうにない。奴隷から解放されたことで恩を感じている俺に対する申し訳なさとか、今尚親と会えないことへのストレスとか、慣れない環境での疲れとかそういうのが重なったのもあって今回みたいなことになってしまったのかもしれない。


 それが昨日、一応とはいえ一部解消されたことでゆっくり眠れているのだろう。


 簡単に言えば俺だけと一緒に居たことで息が詰まってしまったんだろうなあ。ん? そうならないためにドラ助をペット枠に押し込んだはずだが? おっかしいなあ? あんにゃろう、やっぱり役立たずじゃないか。


 心の中でドラ助の株がストップ安になったところで俺は台所へと向かうが、創造魔法で食材を用意するだけにとどめておく。とある事を考えているためシャル抜きで食事の準備をするわけにはいかないのだ。


 シャルが起きてくるまで暇なので、各種調味料のストックや今まで使ったことのない調理器具などを創造魔法で作成しておく。やることがなくなったのでシュ○ルストレミングの缶詰とブレア氏の午前シリ○ズを用意すべきか迷っているあたりでシャルが起きてきた。俺が過ちを犯す前に起きてきてよかったな。


「あの……」


 いつもなら『お手伝いさせてください!』と言ってくるのだが、昨日カミングアウトしたせいか今日はそうしてこない。


「今日からちょっとやってもらいたいことがあるから、手伝ってくれ」
「は、はい……」


 彼女は申し訳なさそうに俯きがちに返事をする。俺に気を使われたと思っているのだろう。


「そんな顔するなって! やってもらいたいことがあるって言ったろ? そのために料理の仕方をシャルに覚えて貰わなきゃならねえんだ」
「わ、わかりました。一生懸命覚えます!」


 そう、彼女に新しくやってもらうことを成功させるには調理技能が必須なのである。昨日までは『あれをやって』などの指示をするだけであったが、本日は『何を目的としているから』『どういう作業をする』のかまで教えて本格的に調理法を仕込む。


 急激な変化に戸惑いながらもシャルは宣言通り一生懸命に覚えようとしてくれた。ただ、色々と詰め込みすぎたせいか最後の方では彼女は目を回しそうになっていた。


 ……今度からはメモを渡しておこう。


 ともかく朝食は無事出来上がり、食材さえ揃っていればシャル一人でも用意することができるはずだ。だが本命はそれではない。食事が終わるや否や俺は口を開く。


「シャル! お前には昼食の準備をしてもらう!」
「え?! も、もうですか?!」


 まだ昼食の時間まで何時間とあるのだから当然のことながらシャルは驚いた反応を示す。


「そう、やってもらいたいことはこの森で食材を集めてきてもらうことだ! そして集めた食材でシャルに料理を作ってもらう!」
「で、でも食べ物は師匠が魔法で……」


 うむ、やはりそこがシャルの中で引っかかっていたんだな。シャルは魔法が使えるようになったが創造魔法が使える程ではない。必然的にシャル一人では料理を行うことが出来ず、俺に頼りっぱなしになってしまう。


「シャル、この森の食い物は滅茶苦茶不味い」
「え?」
「でもな、もしかしたら俺が魔法を使えなくなってこの森の物を食わなくちゃいけなくなるかもしれない。だがな、それがわかってても俺はこの森の食い物なんて食いたくないんだ」




 俺が何を言いたいのかよくわからないのだろう、シャルはポカンとしている。


「そしてな、食いたくもない食べ物なんて探したくもない。そこでシャルの出番だ」
「わ、私の?」
「そう! シャルは家の手伝いで食べ物を集めてたんだろ? だからこの森でも食べ物を集めて、俺に美味しいと思わせてくれ!」
「で、でも森には魔物が……」
「大丈夫だ。俺が魔法で作った生き物を護衛につける。ここいらの魔物なんて一発でやっつけられるぞ。あ、毒があるかは俺が確かめるから気にしないでくれ」


 シャルが化け物に襲われないよう化け物どもに命令を出せとドラ助に言っておいたが、あんな奴一切信用ならん。力 is パワー。何事も暴力で解決するのが一番だ。


「集めた不味い食べ物を美味しく料理して俺に食わせる。それがシャルの仕事だ」


 シャルに言い聞かせるために、シャルの目を見ながらそう言って締める。シャルは数秒ほど俯いた後に俺の顔をバッと見上げる。


「わかりました。行ってきます!」 


 決心してくれたようで何よりだ。シャルの気が変わらない内に俺は液体状の魔法生物を作り出す。普段は形だけでなく大きさや質量まで変えてブレスレット状になっているが、防衛を優先する時は全身を覆うラバースーツのようにもなり、攻撃時には大人程の大きさになって俺並の剣術を扱うという超優れものであり、質量保存やその他色々な物理的法則に完全に喧嘩を売っている一品だ。


 俺からそいつを受け取ったシャルは時間が惜しいとばかりに森に駆けていく。


「料理する時間も考えて戻ってくるんだぞー!」
「わかりましたー!」


 一生懸命になりすぎてに戻ってくるのを忘れなければいいのだが。

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