幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

2話目 千年後の日常風景

 この世界に来た当初のことを思い出すために閉じていた目を開く。何度思い出しても非常に不愉快な……、正確に言えば非常に恥ずかしい出来事である。


 何も知らない、戦ったことなど一度もない日本人にしてみれば、そりゃああの化け物、キラーウルフに対抗することなんて出来るわけがないのはわかっている。


 だがそれでも、だ。


 この世界でほとんど最強と言ってもいいような状態となった今の自分からすれば、鎧袖一触出来る雑魚と言っても差しさわりの無い生物に殺されかけ、無様にも失禁させられたというのは非常に恥ずかしい。それはもう死ぬほど恥ずかしい。


 あのガキを殴るという決意が薄まらないために、日課として朝食前に初日のことを思い出すようにしてはいるが、ここ百年程は決意を新たにするよりも羞恥に悶える割合の方が多くなってしまった。


 だってさ、あの時こそ『ぜってーぶん殴ってやる』って思ってたけどさ、魔法も使えるようになって、剣だろうが斧だろうがあらゆる武器を極めてしまった上に寿命が消えてしまったんだぜ? 日本にいた時より余程いい暮らししてるから恨み辛みもそりゃ消えるよ。


 けど何かしら目標がなければ無限に生きるなんてやってられない。だから君に恨みは無いが一発殴らせてくれ、というわけだ。




 それにしても、今日であれから丁度千年か……。色々あったなあ……。


 異世界に来たことを理解した直後に三体のキラーウルフに食われてミンチにされたり、魔法を自在に作れると知って魔法を使おうとしたら魔力が足りずに体が弾け飛んだり、魔力を効率よく鍛えるために体をわざと弾け飛ばしたり、近接戦闘能力を鍛えようとしてみじん切りになったり。


 ミンチになってばっかじゃねーか。まあその甲斐もあって十年くらいで世界最強になれたわけだが。








 今俺はどこに住んでいるのかというと、異世界に来た時に居た森の中に家を作って住んでいる。ちなみにキラーウルフは駆逐した。生態系の崩壊? 知らんなあ。


 この森は外の奴らからは『魔の森』だとか『帰らずの森』だとか呼ばれている。まあ国ごとに呼び方が違うから正式名称は知らないが。


 キラーウルフやドラゴン、その他様々な化け物がうようよいることから『魔物の森』と呼ばれていたことが『魔の森』の由来である。


 じゃあ森に入ったら誰も帰ってこないから『帰らずの森』と呼ばれるようになったかというとそれは違う。


 この森は確かに危険だが利益も大きい。ドラゴンはもちろん、キラーウルフやその他様々な化け物からは有用な素材が取れる。その素材欲しさに無謀にもこの森に突貫してくる者が後を絶たないくらいだ。そしてその素材をため込んだ俺はどの国からも魅力的に映るらしい。


 いやー、最初はビックリしたよ。突然デブが偉そうにやってきて『この森が我が国の支配下になれることに感謝して税を払え』だの『無断で住んでるから罰金払え』だの『断るなら奴隷にするぞ』だの言ってきたんだもん。


 普通の客だと思ったからわざわざ化け物を遠ざけてこの家に来やすくしてやったというのに失礼すぎるだろ。余りにもムカついたから皿ハゲになるように毛根が死ぬ呪いをかけてやった上でそいつの国に転移させてやった。


 そしたら何を思ったか、その国が軍を送り込んできたから残らず返り討ちにしてやった。そういうやりとりを何度か繰り返している内に『(送った軍が)帰らずの森』と呼ばれるようになり、ついでにどの国にも属していない土地として扱われるようになったという訳だ。


 しかし喉元過ぎればなんとやら、百年も経てば俺の恐ろしさを忘れるらしく、この森を自国の支配下に置こうとして性懲りもなく軍を送り込んでくる。まあ俺の良い暇つぶしにもなっているし、『もうそんな時期か』とある種の風物詩として楽しんでいるから俺にとって問題は無い。






 さて、朝食の準備をするか。


 今の俺の生活を支えている魔法は主に二つある。一つ目は創造魔法クラフトだ。効果はそのままズバリ、思い描いたものを無から作り出すというもの。作りたい物の構造やら何やらをきちんと知っていて、相応しい素材を用意すれば消費する魔力は減らせるが……、基本的には魔力量でゴリ押ししている。


 だって魔王すら封印出来る虫取り網とか魔王の動きすら封じる洗濯バサミがどういう構造してるとか何で作られてるとかわかるわけないもん。わかりたくもない。


 ただ朝食を用意するためには明らかにオーバースペックな魔法を用いて食材を用意する。料理をそのまま出さないのはきちんと料理した方がおいしいから……、ではなく単なる趣味。料理すらしないとなるとやることが本当に訓練しかなくなるんだもん。暇すぎるわそんなの。


 そんなこんなでテキパキと朝食を用意してさっさと食べ始める。


 どれだけ料理が苦手であっても千年近く料理をしていれば、加えて創造魔法なんぞ使って最高の食材を用意すれば、それなりには美味いものが出来上がるため、味に満足しながらたらたらと一時間かけて朝食を終えた。








 朝食を終えて少し経った頃に庭へと行き、ここで二つの魔法を併用する。一つ目は先ほどの創造魔法、もう一つは俺の生活を支える二つ目の魔法、知識魔法ググレカスだ。え? 名前が変だって? わかりやすいからいいんだよ!


 知識魔法もまたそのままズバリな効果をしている。使用すれば知りたい知識が簡単に得られる。元々は鑑定魔法のつもりで作成したのだが……、何をどう間違ったのか対象の物体の情報を得るのではなく、知りたい情報を得る魔法になった。


 何がどう違うの? と思われるかもしれないが、対象から直接情報を得るのではなく、世界の全てが記録されているというアカシックレコードから情報を得るようなものと考えてもらいたい。


 更に砕いて言うならば、普通の魔法を作るつもりが何だか色々とヤバい魔法が出来上がってしまったということだ。


 初めて使った時はビックリしたよ。使った瞬間に魔力不足で体が弾け飛んだんだもん。近くにいた人も死ぬほどビックリしてたよ。目の前で人が弾け飛んだ上にその肉塊が集まって人に戻ったんだから当然ともいえるけど。


 使った人だけじゃなくて近くにいた人にとっても色々とヤバい魔法だったということだね。




 さて、創造魔法と知識魔法を合わせて何をするのかというと戦闘訓練だ。知識魔法を使って体格に合わせた最適な体の動かし方、武器の効果的な使い方等の知識を引っ張り出して、それを基に自動で動く人形を作り出す。そして武器を二つ作ってしまえば簡単に戦闘訓練が出来るというわけだ。


 いやはや、細切れになっても問題無いからと手加減無しで作ったが、最初の頃は何度細切れにされたことか。


 それじゃ、準備もできたし訓練開始としますかね。

コメント

  • べりあすた

    知識魔法は笑ったw

    2
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