ダークフォビア  ~世界終焉奇譚

氷雨ユータ

死を繋ぐ者 三限目~イジナ 

 カイワがナガくなりそうだったからサキにイドウしたら、ホウソウシツにユウドウされた。それからノウナイでカイシのアイズがナッたから、センテをトッてワタシはイドウした。ギリークにウゴかれるとメンドウくさい。コウシャでヒビいたアシオトから、ギリークはニカイのショクインシツ、リアはオナじカイのオンガクシツ。
―――感性起動リスタート
 開始早々、見られる訳にはいかなかったから、窓の下に隠れるように移動。素早く階段を駆け下りて一階まで降りてから、窓の鍵……ついでに中庭への扉を全て閉める。それから保険室の入り口に相手を拘束する魔術を張り巡らせて、開けられる限り全ての教室の扉を開けてから、二階で鍵を掛けて回っているギリークの隙を突いて三階へ移動。魔術道具準備室と図書室に同じ罠を仕掛けたら、後は適当に隠れるだけだ。意味もなく歩き回りながら何処を隠れ場所にするか考えたが、この教室の数だとあまり意味が無い事に気付いて、手近な放送室へ。扉に手を当てると、扉は砂のように脆く崩れ去った。
 放送室には奥行きがあり、またあまり知られていないが、体が小さければ奥の資材の裏に隠れる事が出来る。そこに隠れていれば、扉が壊れている事から既に何処かへ行ったと考えて、まず人は来ない。他にも隠れ場所があるから、こんな所を探すよりは他の場所を探す。自分と同じように最初から位置を把握しているのなら話は別だが、同じ芸当が出来るようには思えない。事実、ギリークには出来ない事が判明している。リアは分からないが、聞こえてくる足音が一つなのを考慮すると、そしてそれがギリークである事を踏まえると、彼女にも出来ないと考えて良い。でなければ、真っ先にこちらへと駆け寄ってくる筈だ。それなのに潜伏という行動を取るとは……お蔭で彼女の位置が分からない。ギリークはやたらアクティブなのでとても分かりやすいが、リアは何処に。
 屋上……最もあり得ない。隠れるような奴は大胆としか言いようがない。ギリークが駆け上っていったが、一体何を読んで上ったのか。余裕があるから探したかったとか……考えられる合理的な行動があるとすれば、これくらいか。
 三階……可能性は大いにあるが、足音が聞こえないのとギリークと遭遇しないのはおかしい。
 二階……鍵が掛かっているので、直ぐに移動しているだろう。
 一階……まだ何とも。
 これ以上は事態が進展しない事には考える事も無いので、イジナは暫く思考を放棄。誰かが罠を踏むのを期待して、虚空に意識を手放した―――直後、何者かが罠に引っかかったようだ。音の方向からして魔術道具準備室。放送室を飛び出して窓を見遣ると、中庭には誰の姿も見えなかった。
 しかし分かっている。彼には透明化の魔術が使える事を。姿が見えないという事は逆説的に彼の存在を証明しているようなモノなので、中庭に落ちたのは彼だという事が分かる。どうせ彼の事だからバレていないとでも思っているのだろうが、バレバレだ。元々こうする為に一階の窓に鍵を掛けたのだが、想像以上に上手くいってしまった(罠は飽くまで動きを縛る為に仕掛けたモノで、自らの手で叩き落すつもりだった)。
 これで彼は実質封じ込めに成功したとして、後はリアだけか。今の音には流石の彼女も潜伏を解いて何事かを確認しに来たはずだが、窓越しに見て三階で見当たらないので、二階か一階か。こちらから一階に降りればギリークに先制攻撃を取られるので、リアとしても降りたくない筈(ギリークが一階の窓を叩き割らないのは位置を知られない為であり、それは偏に先制攻撃をする為である。こちらから一階へ降りてしまえば、彼の位置を知っているにも拘らず先制攻撃をさせる事になるので、わざわざ叩き落した意味が無い)。という事は二階か。中庭から見えないように階段を降りて二階へ移動。手当たり次第に扉を開けてみるが、ギリークが鍵を掛けた事が分かるだけで、リアが居ると思えるような証拠は見つからない。
「ち~に~ねむ~る~」
 気を抜くと、どうしてか口ずさんでしまうこの歌。しかし思考が行き詰まった時に歌うと、不思議な事に突破口を教えてくれる。
「ひ~かり~のー…………」
 フィーは自分が教えたと言ったが、この歌はそれよりも前から知っている気がする。何だ……一体何だろう。思い出せない。思い出そうと思っても、何かが邪魔をする。この闘いが終わったら彼に聞いてやるとしよう。一番になった報酬という事で。
 先程はリアの位置が分からないと言ったが、彼女の位置を割り出す為に難しい事は何も必要なかった。要するに、選択肢を狭めてしまえばいいのだ。どういう事かというと、こういう事。
 イジナは隠れる事をやめて、堂々と鍵のかかった扉に手を掛けた。この時の光景は中庭に居る彼にもきっと見えているだろう。が、手出しをしようとは思わない筈だ。
 何せイジナの手が触れた扉の先は、須らく爆破されているのだから。
 鍵が掛かっていようといまいと関係ない。内側を丸ごと焼き払ってしまえばどんな作戦も無意味だ。教室だろうが特別教室だろうが変わらない。自分が罠を仕掛けた部屋以外を焼き尽くせば、未だ位置の割れていない彼女はそこに隠れようと移動する筈。仮に爆破した後の部屋に隠れようと思ったって、扉は全て吹き飛ばしているから隠匿性に欠けている事に気付いて直ぐに位置を変える筈だ。しかし彼女が柔軟な思考の持ち主だったのなら、隠匿性に欠けていても裏を掻いて隠れようとするだろうから、念の為全ての教室に罠を設置。『触れた個所を強度に関係なく分解する』罠を置いておけば、仮に踏んだ際は足裏を分解してくれるので大いに役立つ。
 何だ、久しぶりの呼び出しでどうせこんな事になるだろうと思って、持ってきた罠が大活躍では無いか。その本体が紙片なので威力は知れているが、足止めには十分。足裏が分解されてまともで居られる人間は居ない。
 念入りに破壊している為、全ての教室を破壊するのには三十分もかかった。しかもこの階だけ。とても非効率的である。
「ね~む~れ~」
 続いて何の手も加えられていない三階へ移動。例によって部屋を爆破し、逃げ場所を確実に絞っていく。今まで破壊した部屋の中で丸焦げになった人間が見つからないので、リアはまだ仕留めていないという事になる。何処だ、一体何処に居る。一階であればギリークが攻撃するだろうから、この三階教室の何処か。
 音楽室。居ない。
 魔術道具準備室。居ない。
 記録室。居ない。
 図書室。居ない。
 五・六年生の教室。居ない。
 特殊実験室。居ない。
 残りの教室は校長室と歴史保管室だ。この二つのどちらかにリアは居る。居る筈だ。居ないのなら屋上という事になるが、それはそれで構わない。教室を爆破して回っている途中、余りそうな罠は全て階段にばら撒いてきた。この二つの内のどちらかに居ないのならそれで詰み。屋上にすら居ないのなら確実に自分が予め罠を仕掛けた場所に行ったので、そちらを見に行けばいいだけ。
 余計な駆け引きなんぞ必要ない。あらゆる事に惑わされず片端から隠れ場所を崩していけば、どんなに隠れ方が上手くたって容易に見つけられるのだ。幸いにも、校長室と保管室は隣り合っている。両手を伸ばせば届く距離なので、イジナは大きく両手を伸ばし、二つの扉に手を触れた―――



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