ダークフォビア  ~世界終焉奇譚

氷雨ユータ

一芝居 前編

 パパは大丈夫だと言っていたけれど、私はそうは思わない。だって、パパは最強って訳じゃ無いもの。私と出会った時も、たしか瀕死だったし、今回はもしかしなくても、死んでしまう可能性の方が高い。しかしながら自分達に出来る事は、パパに言われた通り、『赤ずきん』を守る事だけ。だったらパパが死んでしまった場合の事を考えても、私達は言いつけを守らないといけない。
「シルビア。赤ずきんを連れて地下の方に隠れといて」
「え、それはいいけど……リアは?」
「私はパパを信じて帰りを待つわ。もしパパが間に合わなかったら、シュタイン・クロイツは私がどうにかする。とにかくシルビアはその子を渡さない様にね。パパの調教が終わるまでは、生かさないと」
 その『どうにか』は今の所何も思いついていないが、たとえ嘘でもどうにか出来ると言えばどうにか出来る。思い込みが重要なのだ。妙に察しの良いシルビアは不安そうな表情を浮かべているが、どうかそんな表情は浮かべないでほしい。まるで自分が何も出来ずに殺されてしまいそうでは無いか。
「ほら、早く隠れて。私の予想だけど、もうすぐこっちに来るから。これは命令だから、道具だったら従ってね?」
 こういう時に、道具とその使い手という立場は頼りになる。シルビアは友人ではなく、道具。そう思い込めば、こちらも多少気が楽になるし、彼女も言う事を聞かざるを得なくなる。
 さあ……最強の騎士団がどんな顔晒してこっちに来るのか、楽しみね。






「あのボロ家に……? 構わないが、あそこに娘が居るとは考えづらいんだが」
「いやいやあ、『天運』たるルーサー君が居るなら、何処を探しても娘ちゃんは見つかると思うよお? それにほらあ、あんな可愛い娘ちゃんが誰かに引き取られる訳が無い。だって美人だし、もし俺が男であの子を見つけちゃったら、即孕ませちゃうもんねえ」
「もし、等と仮定しているが、お前はどう足掻いても男なんだよなあ」
「細かい話は抜き抜き! とにかく、それくらいは娘ちゃんでも分かってるはず。だ、か、ら。隠れるとしたらああいう無人の家の可能性が高いでしょう? ねえ?」
「……まあ、言い分は一理あるな。当てもないし、行っちまうのはありかと言えばありか」
 仮に人が居たとしても、そいつはきっと不法滞在者。容赦なく切り捨てても文句は言われない。あからさますぎる気もするが、やはり選択肢は狭めておいて損は無いか。
「ふむ。ではお前が行ってくれ。俺は他の場所を探す」
「おおおおおう? おおおうぃえけじゃねいじゃきう? 本気で言ってくれちゃってるのかあいッ!」
 女性を見つけたら即犯す、とまで言っていた人物にその場所を割り当てる行為がどれだけ狂っているのかは、ヒース本人も自覚していたようだ。いや、自覚していたなら直せと言いたいが。それ以前に言語として成立していない言葉で驚嘆するのは直してほしい。
「どうせ何も居ない。この町で大騒ぎされても困るし、お前はそっちを探せ」
「―――本気で、ヤッちゃうよお? いいのお?」
 止めてほしいのか欲しくないのか。ヒースと付き合う際はその境界を見極めなければ苦しかったりする。ルーサーは渋面を浮かべながら考え込むが、やがて妥協したように身を翻した。
「もし何か居たのであれば好きにしろ。騎士としての身の程も、無辜の民で無ければ弁える必要はない。眼姦だろうが出産ショーだろうが輪姦だろうが達磨だろうが好きにするが良い。どうせ何も居ないだろうが」
「ははあ、ようやくルーサー君も分かっちゃった系ですかッ! さあ一緒に唱えようか。可愛いは正義! 美人は摂理! 不細工は―――」
「いや、遠慮させてくれ。そして俺は分かっちゃってない系だから一緒にするな」
「分かっちゃってない事が分かっちゃった系?」
「言語が崩壊するからやめろ。それじゃあな」
 ルーサーは一歩でも早く、汚らわしさの塊のようなヒースから離れるべく、駆け足で町の南側へと移動していった。十字に伸びている道の構造上、あちらからでもこっちの様子が見えるが、念の為の監視といった所か。
「全く、信用されないねえ」
 以前の街でやらかしたあれを引き摺っている可能性は無きにしも非ず。確かに自分も今にして思えばやり過ぎたとは思うが……仕方ない。思わず欲情してしまったのだから。
 ヒースはゆっくりとした動作でボロ家へと向かって、女性の臭いをかぎ取る。女性は居る? 居ない? 直前に自慰でもしてくれれば感じやすいのだが、生憎とそこまでのメスではないようで―――居る事は居る。というか、最初からずっと気付いていた。ヒースが気付いていなかったのは幸運と言えるだろう。もしもあの時に『あそこに女の子居るよ』等と宣った日には、ヒースに美味しい所を盗られて終わっていた。
「まあ、清い女の子を俺ナシでは居られない雌に調教するのも、楽しみの一つだし? いやあ幸運幸運」
 独り言を常に漏らすような暗い性格では無いが、考えるだけで涎が出てくるモノだから仕方ない。鎧越しなので分からないが、自分の下半身も最高潮に興奮している。この臭いは最高だ。中に居るのは相当な美人。超一級品だ。近づけば近づく程、それは確信に近づいている。家の中から聞こえる息遣い、汗の量。全てが素晴らしい。こんな上質な臭いは嗅いだことが無い。
 何としても自分のモノにして、そして好き放題に犯してやりたい。泣き喚こうが何だろうが無理やり犯し倒して、自分の形をしっかりと覚え込ませたい。犯している最中に死なれても困るので、今度からは治癒魔術もかけながら……いや、それだったら処女膜を何度でも再生させて―――
 問題があるとすれば、この臭いの正体が目的である『娘』の可能性だ。もしもそうだった場合、この全身から溢れ出るリピドーは全て無に帰してしまう。だが、それも……限りなく低い事は分かっている。
 何せ我が主の娘はこんな血に塗れた臭いではない。例えるならば、主の娘は黄金の果実、この臭いは……雑草に紛れて咲く花が如し。
 ヒースは立て付けの悪い扉をこじ開けて、眼前の少女にニッコリと微笑んだ。
「お嬢ちゃん、見~つけた♪」





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