この美少女達俺の妻らしいけど記憶に無いんだが⋯⋯

プチパン

三話 桜散る広場にて

 レイラは天に向かって右手を伸ばす。
 それは気高き騎士の様に美しく、綺麗に舞い散る桜さえも彼女の美貌へのアクセントでしかない。
 現に手を伸ばすと同時、まるで世界が彼女を祝福するかの様に春風が吹き、桜の花びらはより一層の舞い踊ったのだ。


「私、シャガルト学園、一年A組レイラ・ユートラシス、同じ⋯⋯く⋯⋯⋯⋯」


 がそこまで言うと口ごもり顔を染め出してしまう。


「なぁなぁ聞いてくれよ。別に俺は何も──」
「い、言い訳はいりません。そ、それより⋯⋯おおお名前を教えてくれませんか? じゃなくて、教えてください!」


 湊は唐突すぎて理解出来てないながらも、誤解を解こうとするが、聞く耳を持ってくれない。
 それにどうしてか、レイラと名乗った少女は突然気弱そうになったかと思えば直ぐに強気に戻ったりで、長らく知らない人との関わりが無かった湊を混乱させる。
 それはエルも同じ様で先ほどの鋭い雰囲気は微塵もなく、湊が制した腕を掴み左右を交互に見渡しては頭から生えるチャームポイントのアホ毛で器用にハテナマークを浮かべていた。


「あぁ⋯⋯己龍 湊きりゅう みなとだけど」


 湊が取り乱す内心を抑え冷静を装いそう答えると、「そ、そうかそうか」とレイラが再び右手を天に向かって突き出した。


「その前に場所を変えないか?」


 湊は慌てて静止をかけ、顎でレイラに周りを見るように促す。
 帰宅途中の生徒が多く通るこんな道でデュエルをしようものなら大迷惑だろう。


「あ⋯⋯はぃ⋯⋯」


 レイラは再び顔を真っ赤に染め身を縮めた。


            ◇


「私、シャガルト学園、一年A組レイラ・ユートラシス、同じくシャガルト学園、一年己龍 湊に勝負デュエルを申請する。創造神よ、我ら気高きアムラトに神のご加護を」


 先程の一本道から少しの所にある少しひらけた広場にレイラの先程より気持ち覇気が抜けた声が響き渡った。
 瞬間その手に青白く輝く光が宿り、湊の右手には炎の様に赤い光が光り出す。


(これがアムラトの灯火ともしび⋯⋯てか、さっきから目を泳がせて恥ずかしそうに⋯⋯あぁ、申請するのには相手の名前が必要、だけどあいつは知りもせず宣言しようとして⋯⋯それに今度は場所の変更でまた出来ずじまい⋯⋯意外と抜けてるのか?)


『可愛いのぉ。素直になるともっと可愛くなると思うんじゃがな。あと、あの娘が湊坊の最初の妻になる子じゃぞ』


 愛刀のその一言に湊は目を点にし固まってしまう。


「っ!? お、おい⋯⋯ティア⋯⋯今なんて⋯⋯?」
「どうしたのですか? 負けるのが怖いのでしたら降参しても構いませんよ」


 レイラは湊が反応しないのを自分を怖がっていると勘違いしたのか笑みを浮かべる、がそこでエルが掴んでいた手を離し前に出た。


「あのぉ⋯⋯レイラさん? よく分からないんですけど、別にエルは師匠に無理矢理連れて来られた可哀想な少女じゃないんです⋯⋯けど」
 エルは本気で何を言ってるのか分からない様子で首を傾げる。
 それに対し、レイラは目をぱちくり「へ? え? でも⋯⋯でも⋯⋯」と呟やくだけ。
 追い打ちをかける様に「あと私はあなたと同い年で今年からこの学園に通う生徒ですけど!」と、エルは子供っぽい事を指摘されたせいか、苛立ちを表現する様に最後に舌を出し「べぇー」とした。


(それが子供っぽいんだよ⋯⋯まったくこいつは⋯⋯)
 湊はエルの無自覚の天然にため息を一つ。


「あぁ、まぁ戦わないに越したことはないし⋯⋯て言ってもこれじゃ、辞められないよな」


 そう言って見渡すと、湊達の周りには多くのギャラリー生徒が集まり戦いが始まるのを今か今かと待っているのである。


「あの男の方は誰でしょうか? 男のアムラトなのに無名なんて珍しいですね」


 なんて声が後ろから聞こえ、湊は自分の失態を後悔する。


(どうしようか⋯⋯ティア)
『まぁ、ここで未来の妻と一戦交えておくのも一興、交えてみて実力を図るといい』
「だから結婚する気なんてさらっさら無いっての」


 湊は多くの眼差しの中、皮肉交じりにそう零す。


「で? 周りは勝手に盛り上がってるんだけど、戦うの?」


 湊が問うと、レイラも引くに引けない様で「も、もちろんです!」と首を縦に振った。


「まぁ、この学園の実力を知るいい機会だしな」
「あのぉ、師匠? こんなに目立っちゃっていいんですか?」
「あぁ、どうせ俺らの目標を叶えるためにはどうしたって目立っちまうしな。それにこの学園に入れた時点で、もうそんな必要はないさ」
「そ、そうなんですね! なら私ももう少し本気──」
「お前はダメだ」


 雷に打たれたかの様なリアクションをとるエル。


『湊坊、女子だからといって手加減せんようにな、どうやら彼女は中々の手練れらしい』
「あぁ、そうらしいな」
 湊はコクリと頷く。
 そんな事百も承知だ。


「あのレイラと戦おうだなんて大丈夫なのか?」
「いくら男と言えど⋯⋯でもニ対一なら⋯⋯」
 なんて声が先程から湊の耳に入ってくる。
 それでも湊は特にどうする訳でもなく固まっているエルに話しかけた。


「エル。仕方ないだろ? お前の能力は⋯⋯な? 後で好きなものやるからさ、とりあえず後ろ下がっててくれないか? まぁ、俺で叶えられる範囲でだけどな」


湊が硬直するエルにそう言い聞かせると、俯いたままだがエルのアホ毛はピクリと反応した。
そして数秒、ゆっくりと顔を上げると「本当ですか?」と疑う様な目つきで湊を見つめてくる。


「あぁ、創造神に誓って」
「はぁ⋯⋯分かりました!」


 途端上機嫌になるとアホ毛を振り乱し、走って安全な所へ移動。


「やっぱり貴方変態ですね」


 湊が見送り振り返るとレイラがゴミを見る様な目でこちらを見ていた。
 そこで気づく、自分の顔が緩んでいることに⋯⋯。


「いや、これは⋯⋯」
「言い訳はいりません、変態」


 さらに鋭い言葉の刃が湊を襲い内心泣きそうになるが、湊は先程から鳴り止まない「受けろ」コールの中、高く手を伸ばした。

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