猫神様のおかげで俺と妹は、結婚できました!

プチパン

二話  完璧美少女の妹の弱点は、なんと可愛らしい事に猫なのです

「は⋯⋯? あ⋯⋯」


 そこで左手に猫の尻尾の様なものを持ってた事を思い出す。
 いや、いやまさかね⋯⋯え⋯⋯冗談だろ? 何が起きてるんだよ。
 そう、左に持っている尻尾は冷奈のお尻のあたりから伸びているのだ。
 手を離すと、冷奈は真っ赤な顔で輝夜をにらみながら起き上がる。
 コスプレ? な訳ないよな⋯⋯意味が分からない、生えてきたとか? まさかね。


「な、なぁ冷奈⋯⋯それなんだ?」


「それってなんですか?」


 冷奈は顔をそらし両手で胸を隠す様にして、そう答えた。
 自然とその年相応、いやそれ以上に育った緩やかな膨らみのあるそれに目が吸い寄せられて⋯⋯さっきあの胸柔らかく⋯⋯だから、今はそんな事考えてる場合じゃないんだって!
 俺はぶんぶんと顔を左右に振って雑念を消し去る。


「いやそれ偽物なのかって事」


「⋯⋯⋯⋯輝夜? 私の胸が偽物で盛ってる、と言う事ですか⋯⋯?」


 冷奈のオーラが途端にドス黒いものに変わり、綺麗な黒髪は逆立ってさえ見える気がしてくる。
 なんか、物凄い勘違いを⋯⋯そんな事言うわけないだろ、妹に「お前の胸偽物だろ」なんて事平気で言える兄が居たら是非会ってみたいね、そしてうちの妹様と対面して欲しいものだ。
 そんなくだらない事を考えつつ、俺は必死に弁解を試みる。


「いやいや違うから! そんな事この際どうでも良いから! その冷奈が付けてる尻尾の事だって」


「どうでもいい⋯⋯ですか。 まぁ良いです、それより何言ってるんですか? 私がそんな意味の分からない物付けてるわけないじゃないですか」


 なんか更に圧が強くなった気がしたが何故だろう。


「いやいくら恥ずかしいからって、付けてないと言い張るんだったら、触って教えてやろうか?」




「別に嘘なんてついてません! 勝手にすればいいじゃないですか、私そんなコスプレ趣味無いですし、そんな道具持ってませんし、ありえないん──」


 断固として俺の発言を認める気は無いのね。
 まぁ、いきなり「尻尾生えてるよー」なんて事言われても信じれるわけないんだけど。


「後悔すんなよ、冷奈」


「だからそんな物は──」


 俺は冷奈が何か言い切る前に尻尾を優しく持って冷奈の目の前に持って行こうとして──。


「きゃっ!!」


 え? 悲鳴? やっぱりほ、本物⋯⋯?
 それよりその悲鳴可愛い過ぎるんだけど⋯⋯。
 妹から生えていた尻尾が本物だという驚愕な事実が発覚するも、普段では、いや生まれてこのかた聞いたことのない冷奈の可愛すぎる声に心臓が急速に鼓動を早めてしまう。


「え、なん⋯⋯で⋯⋯?きゃっ、ちょっと⋯⋯も、もうや、やめて」


 途端に普段俺に対して冷めきった様な表情を崩さない妹の顔が恥ずかしさからか、頬が紅に染まっていく。
 なんだよその可愛さは!? チ、チート⋯⋯。


「いや、俺最初に忠告したじゃないか⋯⋯」


 それより、感覚はあるようだし、温かいしやっぱり本物⋯⋯。
 どうして冷奈に? しかもこれって猫の尻尾? だろ?


「きゃっ、そ、そんな優しく⋯⋯て、調子に乗らないでください!」


「ぐっ、痛って!」


尻尾を撫でながら、そんな事を考えてた俺は、冷奈に突然溝打ちみぞうちをもらい悶絶する結果となった。
 危ねぇ⋯⋯いや、ただでさえ見た目が可愛い妹だぞ? それに尻尾って⋯⋯可愛過ぎるんだよ! 久しぶりに冷奈とまともに話せてるんだぜ? まぁ、冷奈にとっては迷惑なんだろうけどな。
 冷奈は数回深呼吸をして息を整えると、先程よりも更に殺気のある笑顔をみせてくる。


「輝夜?」


「はいぃ! し、死刑だけは、勘弁してください!」


「し、死刑? 輝夜ちょっと聞いていい? 私そんな事する妹だと思われてるんですか?」


 ま、まぁ本当に殺しはしないと思うけど⋯⋯いや、するか? なんか考えれば考えるほど本気で殺られそうな気が⋯⋯。
 いやいや、妹じゃなくても、こいつと結婚なんて無理だろ⋯⋯てか、まずこいつに釣り合う奴なんてそうそう──。
「はぁ、なんでこうなってしまったんでしょうか⋯⋯」


「え、なんて?」


「いや、なんでもないです。変態兄への不満と怒りを乗せた普通の独り言です」


「それは普通じゃないからな!? 絶対ズレてるからな?」


 なんでそんな驚いた顔してんだよ⋯⋯こっちが驚いてるよ! 本当にこいつ俺の前と人前で変わるよなぁ!


「まぁ、それより、本当に私から尻尾が生えてるんですね⋯⋯私には見えないですけど⋯⋯」


 まぁ、たしかに普通ありえないよな⋯⋯一体何が起きてるんだよ、世界の終わりでも近づいてんのか?」


「まぁ、ここにあるから、触ってみてくれないか?」


「それよりなんで私は見えなくて輝夜は見えるんですか? 変態だからですか? 変態じゃない私には見る事が出来ないんですか?」


 お前なぁ⋯⋯質問ぜめで俺を殺そうとしてるの? それと俺は変態じゃねぇよ。


「いや、多分俺がさっき触れたから、かな。あと、一つ言わせてもらうけど変態じゃないからな?」


 冷奈は、はぁとため息を吐くと、指示された様に尻尾のある位置に手を持って行き、それに触れる。


「ほ、本当ですね⋯⋯何かあります」


 冷奈は目を白黒させ、自分から生えてる尻尾を優しく握っている。
 あれ? 絶対びびると思ったんだけどな⋯⋯。


「なぁ、冷奈、それ何の尻尾か分かるか?」


「いえ、わかりません⋯⋯犬、でしょうか」


 やっぱり見えてない、どうしたら⋯⋯冷奈としても見えてた方が良いよな。


「いや、違う。うーん⋯⋯ならもう少し強く握ってくれないか?」


「え? はい」


「まだ見えない?」


「見えません」


「なら、どんどん強くして行ってくれ、出来ればもう片方の手で俺にも同じぐらいの強さで握ってもらえると助かる」


 俺がそう言うと、冷奈は無言で頷き俺の腕を握った。
 冷奈に手を出したのだが、冷奈は手を伸ばし手をスルーし、腕を握ろうとしてそれすらも一瞬躊躇した事に今更ながら胸を痛めてしまう。
 そして、どんどん握る力が強くなっていく。


「あ⋯⋯え、これって⋯⋯⋯⋯ね、ねね猫ぉ?!」


 あ、ようやく見えたか⋯⋯握力でいうと2キロぐらいかな。
 それより、まだ冷奈は猫が苦手なんだな。
 猫の尻尾と気づき、耳を両手で塞いで小さく丸まって震えている冷奈を見て、笑ってしまう。


 何でも出来て、可愛くてそれでもって優しくて、まぁ、俺以外になんだが、そんな完璧な冷奈の弱点が実は猫だなんて、可愛すぎないか? 
 て、そんな事考えてる場合じゃないか、いつも完璧な妹の取り乱すところを見て、昔を思い出し、妹に対して失礼ながらもほっこりとした気分になってしまう。


「冷奈落ち着いて、本物の猫じゃないから、あくまで尻尾だぞ」


「で、でも⋯⋯う、動いてるし、猫はどうしても⋯⋯! な、何で私がこんな目に⋯⋯なんでなんで⋯⋯良い子にしてたのに⋯⋯」


 冷奈は目に涙を浮かべ肩を震わせる。
 明らかに取り乱し、ブツブツと何かを言い始める。


「いやいや考え方を変えるんだ! それは本物の猫の尻尾なんじゃなくて、コスプレ用の尻尾の進化版なんだって、あくまで偽物そう捉えるんだ」


 理屈もクソもないことを駄目元に言ってみる。


「猫の尻尾じゃない⋯⋯? ⋯⋯お兄ちゃんが⋯⋯そう言うなら⋯⋯。た、たしかに、本物の猫の尻尾じゃないけど」


 突然の外敵に混乱しまくっている冷奈は、途中聞こえなかったのだが、どうやら納得してくれたらしく少し落ち着きを取り戻し、耳から手を離した。


 いや、これ多分本物だよねと思った事は伏せておこう。



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