は、魔王?そんなのうちのブラコン妹の方が100倍危ないんだが

プチパン

8話 いやいやたかがスライムだよね!? でも逃げるが勝ちだ!

「お兄ちゃん早く早くー!」
「はいはい分かってるって、小学生かよお前は」


 そう言ってピクニックに行くかの様に、鼻歌交じりに歩くクレアに微笑を浮かべてやる。
 今現在、ハクヤ達兄妹は先程いた町、ベギールというらしい、それの近くにある森林に来ているのだ。
 期待に満ちたその目で、周りをあっちこっちと見ていたクレアが顔を向け、チッチッチッと指を左右に振ってくる。


「違うよ、お兄ちゃん」
「いや、大きな小学生にしか見えないぞ、体は大人頭脳は子供ってか?」
「うぅぅぅ⋯⋯バカじゃない! 現に学校でも成績は必ず10位以内だったし、料理も出来るし、あれもこれも⋯⋯完璧! もうお嫁さんになる準備は出来てるよ! そう、私は大人の女なんだよ! お兄ちゃん❤︎ 」


 こんな感じでダメそうな妹でも、実際にある程度の事はそつなくこなせるのだから、ハクヤはぐぅの音も出せず、代わりにボソッと呟いた。


「お兄ちゃん好きの妹が大人でたまるかよ」
「お兄ちゃんそれも間違ってるよ⋯⋯⋯⋯ 」


 クレアは妙にカッコつけた様な仕草で反論してきて、ハクヤはその自信ありげな態度にゴクリッと唾を飲み込んだ。


「⋯⋯どこ⋯⋯が? 」


 本当はブラコンなどでは無く、ハクヤの事も好きではないと言う事だろうか。
 実はとうの昔にブラコンなんて病は治っており、無理にキャラを保っていたとでも⋯⋯。
 それなら悲願が叶って嬉しい⋯⋯。
 はずなのにどこか寂しい様な大事な何かが無くなるようなそんな気がして、モヤモヤしてくる。
 そんなハクヤの調子を知ってか知らずか、張り詰めた様な顔をしていたクレアが突然、まるで聖母の様な笑顔を浮かべた。


「そーれーわーねぇ⋯⋯!私はお兄ちゃんの事好きなんじゃなくて、だーい好きって事だよ❤︎ 」


 クレアは上目遣いで甘えるようでか弱く可愛らしい声で言ってくる。
 その優しげと包容力のある笑顔で、そんな事言われ何も感じないわけがなかった。
 世の男どもは即KOだろう、それは兄であり妹としてそういう感情を持ってはいけないと内心に言い続けているハクヤも同じだった。


「くふっ⋯⋯ 」


 自分の顔がどんどん熱を帯びてくるのが分かる。


「わーい!  お兄ちゃんが照れてるぅ! 」
「う、うるせぇよ! こんな話してる場合じゃないだろ! 」
「えー? そうかなぁ⋯⋯? だって私達のスキルめちゃくちゃ強いんだよ? 」
「いや確かにな⋯⋯でもまだ何にも分かってないだろ」
「そう言うのは、戦闘途中でキュピーンとくるもんなんだよ! まぁとりあえずもう少し進もうよ! 」
「はぁー⋯⋯はいはい」


 ハクヤはこうなってしまった事の顛末にため息をついた。
 ハクヤ達は、二時間前までステータス確認をし終わり参考書でステータスについての説明を見ていた。
 しかし、ステータスの各種ポイントについてはある程度書かれたのだが、肝心の俺たちの意味不明なスキルについての説明はと言うと、ハクヤ達の持つそのスキルはオリジナルスキルというものらしく、
《稀にその個人が持っているスキルで大体同じスキルは存在せず強力な能力の物が多い》
とだけしか書かれていなかったのだ。


 自分達のスキルがどの様なスキルなのかが知る事が出来ず首を傾けていると、クレアが突然ある提案をしたのだ。
 その提案というのが「実践してみれば分かるよ!」と言うものだった。
 特にすることも決まっていなかった事から、初期装備として持っていた通貨を使いハクヤは短刀、クレアは杖の初期の武器を購入し、早々に街を飛び出したわけだ。
 本当にどれだけ無防なのだろうか⋯⋯ハクヤはあの時クレアを止めていれば、と思わずにはいられなかった。


「でもモンスターとか全然いないね⋯⋯スマホにはここら辺ではラビットバットや、スレイムとかが出るって書いてあったのにね」
「そうだなぁ参考書によるとこの国は別名始まりの国とも言われているらしいし、魔王軍からの侵略もない、本当にレベルの低い冒険者が集まっていてそれ以外は普通に農業や店を出したりして暮らしている平和な国らしいしな。そこら辺の雑魚モンスターなんて刈りつくされたんじゃないのか?」


 モンスターについてはスマホに新しく追加されていたアプリに記されていたのだが、ラビットバットはウサギとコウモリの特性を合わせ持っていてウサギからコウモリの羽が生えたような生物。
  スレイムはハクヤ達の世界で言うスライムと同じものらしかった。


「なんか異世界ファンタジーって感じじゃないよねぇ平和すぎるって言うか本当に魔王軍からの侵略でピンチなのかな⋯⋯? 」
「そうだなぁ、国の人達もみんな元気で優しい人たちばっかりだったしな」


「うん! 優しかったよね! なんてったって私達がふうfっ── 」
「言わないでいいから! あれは明らかに昨日のお前のせいだからな!」


 クレアが言い終わる前に口を押さえ、遮った。


 先ほども言った通り、国を出る前に冒険に最低必要なものを購入していたのだが、道具屋のお姉さんが昨日のやり取りを見ていたらしく、ニヤニヤと顔を歪めながらいつ結婚したかだの若すぎないかだのいろいろ聞いて来たのだ。


 そこまで思い出しハクヤはため息を吐く。
 本当にひどく疲れた⋯⋯異世界二日目でこんな事になろうとは先など考えたくもない。


 何故そこまで疲れる結果になったのかというと、そこには予想通りクレアが大いに関わってくる。
 あろうかとか、ありもしない嘘情報をねつ造して語り始めたのだ。
 おかげでさらにお姉さんはさらに興味津々になり二人で盛り上がっていた。


 もちろん、ハクヤも止めようとはしたのだ。
 でも時すでに遅し、今更全部嘘ですよ、とも言える訳がなく、いや言ったのだが⋯⋯。


「またまたぁ照れ屋さんの夫なんですねぇ可愛いですね、ちゃんと守ってあげてくださいね」


 と軽く流されクレアに兄を守ってやれ宣言をする始末に終わってしまったのだ。
 まぁそんな事もあってか、代金をかなり安くしてもらったのだが⋯⋯。
 下を向くと、再びため息が出てしまう。


「もう照れちゃってぇ❤︎ 」
「だから照れてねぇよ! ありもしない事をよくもあんなにすらすらと⋯⋯」


「そりゃぁそんなの簡単だよ! なんたって生まれてこれまで一にお兄ちゃん、ニにお兄ちゃん 、三、四にお兄ちゃんで、五もお兄ちゃんで生きて来たんだから! ねつ造なんて朝飯前だよ! もっと過激なのをねつ造したいくらいだよ」


 胸を張るクレア、自然と揺れる胸に顔を逸らしつつ、わざとらしく反論する。


「お前やっぱり怖いな!? それだけはやめてくれ」
「しかもねつ造じゃないですよ」
「は⋯⋯?」
「私達のこれからの未来予知です! 」
「はぁー⋯⋯はいはい」


カサカサッ


 そんな会話を大きな声で言い合っていたから、集まって来たのか近くの茂みで何かが動く音がした。
 あまりにもクレアが平常運転すぎた為、ここが異世界でモンスターがにいることを失念してしまっていたのだ。
 ハクヤは背筋がゾクリと震えるのを感じクレアを背に隠す。


「おい、クレア! 何かいるぞ⋯⋯」


 周りに聞こえないよう小さな声をかけると、クレアも気づいていた様子で頷く。


カサカサッ⋯⋯カサカサッ⋯⋯⋯⋯


 どうやら一匹ではないらしい、前方様々な方向から音が聞こえてくる。
 モンスターなのはまず間違えないだろう。
 群れを作るモンスターだろうか、少し厄介そうだ。


 そんな事を考えていると、ふとその音の正体の一匹が姿を現した。
 スライムだった。
 見た目は自分達の世界のスライムとほとんど変わらない。
 少し違うところがあるとすればドラキュラのように長い歯が口の左右から生えている事ぐらいだ。


「なぁクレア。、言っても相手はスライムだ。 ゲームでもお馴染みの超ザコキャラなんだしビビるなよ」


俺が微笑を浮かべてクレアに話しかける。


「びびるわけないじゃん、こんな敵相手はスライム。 
    私達ラブラブ新婚夫婦の敵じゃないよ! 」


「だから捏造してんじゃねぇよアホクレア!」


 正直相手がスライムで良かった。
 心底そう思い、肩から力が抜け微笑を浮かべた。
 数秒後そう思った自分達を鼻で笑いたくなるような事が起きる。
 はじめ1体だったスライムだったのだが、それと同じスライムが四方八方から、どんどん姿を現し始めたのだ。


「おいおい⋯⋯ 嘘だろ⋯⋯」
「お、お兄ちゃん⋯⋯これ⋯⋯どうする⋯⋯? 」


 その数はゆうに100を超えていた。
 辺り一面がフニフニと動く青色の球体で覆い尽くされ心底気持ち悪い。
  汗をダラダラと流しつつ思い出す、モンスター情報で下に小さな群れで行動するって書いてあった⋯⋯ような気がする⋯⋯。
 ハクヤは人形のようにぎこちない動きでクレアを向き、クレアも同じようで目があった。
 そして二人して叫ぶのだ。


「「これのどこが小さな群れ?!」」



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