は、魔王?そんなのうちのブラコン妹の方が100倍危ないんだが

プチパン

6話 ふざけたマニュアル、ハクヤの願い

  1ページ開くと目次と作者メッセージが書いてあ
った。


《やぁ子供達よ、異世界はどんな感じだい? 不思議だろうワクワクするだろう楽しいだろう》


  と、そんな冒頭が書かれている。


「本当にふざけてるな⋯⋯これがあの父さんなのか⋯⋯さっさと日本に帰して欲しいよ」
「うんうん! めっちゃワクワクしてる! 」


  同時に言った二人は目を合わせ、これまた二人同時にそれぞれの意味でため息を吐くと、また読み始めた。


《ところでスマホは見つけたかな? 腰に付いているポーチの中に入っているはずなんだけど使い方は目次にある通り4ページを見てな》


 正直物凄く指示に従う気になれなかったのだが隣からキラキラした目線が降ってくるのだから仕方ない。
  4ページを開くとポーチの説明が書かれていた。


  内容は、このポーチは取り出したい物を頭に浮かべてポーチの中に手を入れるとそれが吸い寄せられて取れる事、容量は無限大である事、持ち主から一定以上の距離以上は離れる事が出来ず10分で戻ってくる事などが書かれていた。


  これでさっきの空中停止と戻ってきた理由も分かった。
 試しにスマホを想像させてポーチの中に手を入れてみると先ほどと同様なんとも言えない感覚何かが手に当たる感覚がある事に気付く。
 が感覚が心地良すぎて手を抜く事が出来ない。
    



「おおお兄ちゃん、戻ってきて! 」


  するとクレアが手を抜いてくれた為、ようやく意識を正常に戻す事が出来る。


 (これある意味一番恐ろしいんじゃないか?)


  そんな事思いつた本に目を戻すと一番下に《お父さんから一言》という枠が書いてあった。
     めくって見て分かったのだが全ページに書いてあるようだ。


《可愛い子供達の為に癒す機能もつけておいたぞ! 感謝するんだな! ハッハッハッハッハー》


  頭に大笑いしている父の顔が浮かぶ。
  本当に余計な機能である、毎回ポーチに手を入れるたびに意識持っていかれてたら冒険なんて出来るわけがない。
 確かにそう言われてみると、今朝拘束されたせいで少し痛んでいた手首足首の痛みが引いていることに気づく。


《ここで一度始めの作者メッセージに戻る》


「すごろくかよ」


  そんなツッコミを入れながらも1ページ目に戻った。


《ポーチの使い方は分かったかな? 何か質問があったら俺の電話番号に連絡してくれ、俺のだけは繋がるようにしてあるからな》


「あぁ、言いたい事たっくさんあるぜ」


 ハクヤは取り出したスマホに事前に登録されていた電話番号を見つけるとすぐさまに電話を掛ける。


 ピーッピーッピーッ何度かの発信音の後にガチャっと音がした。


「おい、なんて所に送りやがったんだ! 」


「⋯⋯⋯⋯ 」


 通話開始早々白夜が叫びを上げるが、電話から音は何も聞こえない。
 幾らかの機械音の後。「あぁ〜!」と苛立ちをぶつけつつ携帯を見てみる。
 画面には只今通話中と記されており、途切れていた。


 (こんな時になにやってるんだよ!)


 イライラしていると隣から楽しそうな声が聞こえてくる。
 まさかとその方向を見ると、クレアが楽しそうに電話をしていた。
  怒りを通り越して呆れ始めていた俺は妹に声をかけようとしてその内容に立ち止まる。


「お兄ちゃんが結婚しようて言ってきてさぁ! きゃぁーどうしよう!! いいんだよね? いいんだよね!? ⋯⋯⋯⋯きゃーやったぁ! お父さん大好き! 」


「は⋯⋯? 」


 こいつなんて事言ってくれてんだ⋯⋯?
 デタラメにも限度ってものがあるだろう⋯⋯。
 それに気になるのは、おいお父さん⋯⋯なんて答えやがった!?


「おい、ク、レ、ア、ちゃん⋯⋯ 何を話してるのかなぁ? 」


 最高の笑顔で話しかける。
 突然話しかけられた事とその雰囲気の重みを感じ取ってか少し跳ねて縮こまると、ロボットのように崩れかかった笑顔でこっちを振り返ってきた。


「んー? どうしたのかなぁ? 何のこと? お兄ちゃん⋯⋯?」


  目線が左右にブレまくり、動揺が全く隠せていない。


「何を聞いてるんのかな? あぁ聞こえなかったのかならもう一回だけ聞いてあげるね。 何を話しているのかな?」


 クレアの顔がどんどん青ざめていく。


「という事で結婚するから! 」


 瞬間、クレアはそう言うと電話を切ってしまった。
 その予想外の行動にあっけにとられ数十秒。


「は⋯⋯? お前なんて事宣言してんだ! 」
「ごめんなさい!  ごめんなさい! ついノリで口から出ちゃいました! 可愛い妹に免じて許して! 」


 手を合わせ、何度も頭を下げた後、開き直る様にしてぺろっと舌を出しウインクしてきたクレアに、デコピンをかましてやる。


「何がノリだよ! 最後のは違っただろ明らかに! いくらお前が可愛くても許せるかアホ! 」
「痛っ!? うぅぅー⋯⋯ん? 可愛い⋯⋯? お兄ちゃんが可愛いて言ってくれたよ今! 結婚したいって事だよね?! 」
「ふっざけんな! どこ切り取ってんだよ!  可愛い=結婚とか頭の中どんなピンク色なんだよ! 」
「ドリーム色だよ!!」
「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」」


 二人して大声で叫び、息を切らしているとなんだか周りが騒がしい事に気付く。


「あらあら、若い男女が昼間っから、ピンク色の甘ったるい話なんかしてるわよ」
「本当ねぇ懐かしいわねぇ」
「あいつらどこのバカップルだよ。 そんなの家でやれ」


 二人して周囲に視線を送ると、微笑ましいものを見るように見てきている人や、うざそうにしてる人などたくさん集まってきているのだ。


「始めっからこんな目立ってどうするんだよ⋯⋯。これじゃあ元の世界と何も変わってねぇじゃねぇか!」
「やっぱり私とお兄ちゃんの愛は別の世界でもどこに行っても変わらないってことなのね! 」


 そう言うと周りからは歓声が巻き起こる。


「は⋯⋯? 」


 なんで歓声が巻き起こったのか分からなかったが、ふと思い出す。


「あぁ、そうか。 この世界には兄妹での結婚も認められてるらしいんだったな⋯⋯」


 ハクヤが呆れてそんな事をぼやいていると、クレアは表彰されてるかのように笑顔を浮かべ周りにペコペコ頭を下げだす。


(笑顔本当に可愛いな⋯⋯ )


 ふと、そんな事を考えてる自分がいて首を左右に振る。
     ハクヤはこんなクレアをやめろやめろと言っておきながら、そのあまりにも可愛い顔や、美しい髪、ちょうど胸も出はじめてきた白い艶やかな肌、そして世界で一番自分を知っていて好きでいてくれているクレアの事が大事なのだと改めて気づかされる。
 もしかしたらそれ以上なのかもしれない⋯⋯。


(まぁ、だからって絶対あり得ないんだけどな )


「おい、クレアそろそろ目立ちすぎだ。また変な噂広まるだろ!」


    そう言ってクレアの手を握ると、全力で逃げだすように走りだす。


「は⋯⋯?」


    そして一瞬で景色が変わった風景に、今何が起きたのか理解できないでいた。
 否、理解は出来た。
 思いっきり走り出したハクヤは物凄い速度で一瞬にして始めの街の広場まで戻ってきてたのだ⋯⋯。ら


「確かここまで752.8メートルだったはずだ⋯⋯」


    そう、たった12.37秒でこの距離を走破したのである。


「いやいや、やっぱり俺たち何かおかしくないか?」
「⋯⋯⋯⋯」


    クレアに聞いたつもりが返事がない。見ると、目を閉じて動かなくなっていた。


「⋯⋯⋯⋯え? 嘘、だろ⋯⋯? おい、クレアしっかりしろ!」


    クレアの心臓に耳を近づける。
   柔らかい感触が頬に触れわほのかに甘い香りが鼻腔をくすぐり、自分の心臓の鼓動の方が大きく聞こえてしまう。
    心臓はというとちゃんと動いていてクレアは気絶しているようだった。
 それを確認すると少し惜しい気持ちを堪えながらも頭を離す。


「そりゃそうだよな いきなり掴まれてあんなスピードで走られたら誰でもそうなるよな。 てか普通首ポキってなって死ぬよな⋯⋯ 」


    そう考えると自分のした事の恐ろしさにゾッとして手が震えてくるのだった。




  とりあえず今日は近くの宿に泊まる事にした。
   お金はと言うとポーチの中に少しだけ入っており、見たことをない通貨なのに何故か読む事も理解する事も出来た。
 クレアをベットに寝かせると、今日の疲労感が一気に広がるのが分かる。
    自分の体をベットに投げ、今日起こった事を思い出していく。
  まだ明るさなら元の世界では三時程だろう。
 そんな真昼間にも関わらず、不思議でおかしな事の連続で3日分ほど疲れた気分だ。


    振り向いてクレアの寝顔を見る。
     やっぱり可愛い。


     絶対に妹を守ってみせる、もうあんな思いは充分なんだ。


「魔王だがなんだか知った事じゃない俺は、ただクレアと静かに暮らしたいだけなんだから」


     そう自分に言い聞かせると、更に疲れが押し寄せ波に飲まれる様にして、深い眠りに落ちるのだった。



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