竜神の加護を持つ少年

石の森は近所です

39.アルテッザの行方

一体、何がどうなってこうなった?
いくら探してもアルテッザが見つからない……。
朝の様子では、まだ1週間は安静にしないと、体に負担がかかって危険な状態なのに……。


俺は、泣きそうな顔をしながら必死に迎賓館中を探し回ったが見つからず、門を出てひたすら街中をも探し回ったが朝まで探してもアルテッザは見つからない。


眠気と疲れで、ふらふらに成りながら迎賓館に戻ると、同じ様に憔悴しきった娘達が待っていた。


「すみません、私達が目を離したばっかりに……」
「ごめんだに、こんなのおかしいだに!」
「私も匂いを辿ってみたのですが……途中で匂いが消えていて……すみません」


いつもは巫山戯て居る皆も、流石に堪えているみたいだ。


「俺も街中を、隈無く探したんだけど……手掛かりすら見つけられなかったんだから同じだよ」
「我はコータの反応ならすぐ分るんだが、個人の出している魔素で探すのは難しくてのぉ……へ……ら……」


最後、何か言っていたが――聞き取れなかった。やはりクロでも厳しい様だった。
王城開門の時間に合わせて、王子に会いに行き……談話室に通されしばらく待つと王子が慌ててやってきた。


「クロ様、コータ殿どう致しました?こんな朝早くに――しかもそんなに疲れきって?今日は明日に備えてゆっくり休むのではなかったのですか?」
「その筈だったんだけど……こっちにアルテッザは来てないかな?」


やばい……名前を出すだけで涙が出そうだ。


「えっ?アルテッザ君なら迎賓館で静養している筈じゃ?」


だよな……王族がアルテッザを連れて行く意味が無い。
俺が、オクトパス討伐を断わっていれば、話は別だが……。


「それが、昨日の夕食時に部屋に行ったら窓が開いていて――ベッドから忽然と消えていた」
「なんだいそれは……なんの冗談だい?失敬、冗談で言っていないのはコータ殿の顔を見れば分るね」


一瞬、カチンって来ちゃったじゃねぇか!
こっちがこれだけ困っているのに……。


「取り敢えず、城の騎士と街の治安維持を担当している警備にも連絡して聞いてみるよ」
「頼みます」


俺は、深々と頭を下げた。
いつもなら、こんな美男子に頭なんて下げたくも無いが……もう俺には打つ手が無かった。


「各隊からの連絡が来るまで、ここで紅茶でも飲んで休んでいてよ……」


君には、明日大仕事が控えているんだから……と言い残し部屋を退室していった。
明日?
あぁ、そういえばオクトパス討伐があったんだっけ?
すっかり頭から消えてたわ。
そんなもん、やってられるか!
アルテッザの所在を探すのが先決だろ!


俺は投げ遣りになっていた。
今回も、俺が目を離さなければ……いや、最初から王都に来なければこんな事には成らなかったのに……と。


本当に、何処行ったんだよ。
あの体で、立つ事だって出来ない筈なのに――尚更歩いて居なくなるなんて出来る筈が無いんだ。


「コータ落ち着け!」


落ち着いてなんて、居られる訳が無いじゃねーか!アルテッザが居なくなったんだぞ!なんで俺ばっかりこんな目に……あ゛うんだよ……う゛っ……。
もう涙を止められない。


両親を亡くし、住む場所を追われ、こっちに来ては戦いを強いられ……その挙句に……これかよ!


俺が何したっていうんだよ!
俺、何か悪い事したのかよ! 
そんなに俺が憎いのかよ! 
うわぁぁぁぁん……。


――なんか俺泣いてばかりじゃん。


しばらく泣いていた俺は、昨日の朝からの疲れもありソファーで寝てしまった。


ここは王都からカロエに向う街道……。


「それにしてもこの女、全く目を覚まさねぇな!こっちは楽でいいけどよ」
「それにしても、昨日金貨100枚貰って今度は移送するだけで金貨10枚。気前のいい貴族様はやっぱいいねぇ」
「中には力ずくで値切る、嫌な貴族も多いけどな!」
「あ゛ぁいたな……なんだっけ?この前お家取り潰しになった……」
「確か……お……「「「オワルスター伯爵だ!」」」
「王家にクーデターしようとしたんだってよ。間抜けな奴だったな」
「金払いは悪いし、せこいわ、小狡いわで……本当に嫌な奴だったからな!」
「「ちげーねぇ!」」


アルテッザを載せた馬車は、急ぎカロエに向っているようだった。




「コータ殿、お待たせしたね」


王子が部屋に戻ってきたのは、3時間くらい経過してからだった。
俺も、先程クロに起されて身だしなみを直した所だ。


「眼が赤いけど大丈夫かい?なんなら冷たいタオルでも用意させるけど?」
「いえ、お構いなく……」


くそ……泣いたの、ばればれかぁ。
せっかく身だしなみ整えたのに。
やっぱ目薬が無いと駄目だな。


「それで、何か分かりましたか?」
「残念だけど……王都の警備兵、守衛、騎士、軍の兵士すべてに聞いて回ったけど、アルテッザ君の行方に、心当たりのありそうな者は誰も居なかったよ。アルテッザ君が若い女性という事で人攫いの可能性も考えて――諜報員、衛兵に確認したけど……やはり誰も気づかなかった様だ」


なんだよ、それ……異世界にでも飛ばされたみたいじゃねぇか!
隣のクロを見るが、ただ首を振るだけだった。


「悪いんだけど……明日の討伐は……」


言いかけた所で、王子から口を挟まれた。


「コータ殿の現状は理解する。気持もわかるが――明日は予定通りやってもらうよ。こっちもそのつもりで、討伐の許可をコータ殿から貰って1週間関係各所へ、様々な手配をしてきたのでね。今更出来ませんとは言わせないよ」


この糞美男子!死ね!いっぺん死んで来い!
人をなんだと思っているんだ!
この国なんて、俺には興味ねぇんだよ!
俺にはアルテッザが、今は一番大切なんだ!


「コータよ、今回の依頼はコータが受けたものだ。男なら自分でした約束は、いかなる理由があっても守るものだ」


それなら俺は女でいいよ!―――― あ……いや、やっぱ、アルテッザとの子供出来なくなるから男でいいや。


「このたわけ!」


あはは……アルテッザが無事だって、信じているから先の事も考えられるんだけどね。これで一生会え無いなんてなったら――俺、どうなるか自分でも自信ないな。
そんなやり取りをクロ、王子としていた談話室にポチが、左手に何か白いものを持って飛び込んできた。


「コータさん、大変だに!」
「アルテッザに関係する事?」
「さっき浮浪者の少年が、迎賓館にこれを持ってきただに!」


はっ?浮浪者ってよく守衛が止めなかったな……手紙効果か?
何はともあれ……手紙とやらを見てやろうじゃねぇか!
――手紙には。


【女は預かった。助けたくば、王家の依頼を未来永劫断れ!討伐に参加したら分っているな?】


俺は呆気にとられた。
なんだよ!結局俺が、討伐決めてしまったから?
俺のせいかよ……。


「コータ殿、これは……いや、誰がなんの為に?」
「そんなの知るかよ!全部お前達のせいだったんじゃねぇか!」


王子も流石に苦笑いで……。


「コータ殿、今の発言は聴かなかった事にして置くよ。この国に居る以上はこの国の法律、秩序が遵守されるからね――。じゃなきゃこれだよ」


王子が、首に指先を当てて横に切る。


「まずは貸し1つだね!」


こんな時にニヤリとかしてるんじゃねーよ!


でもそれだと、どうしたらいい?
俺がオクトパス討伐に行ったらアルテッザは……。
あ゛ぁぁ頭の中ぐしゃぐしゃだ。


何か、見落としている事は無いか?
何か、引っ掛かる。
そもそも、なんで討伐したら駄目なんだ?
討伐されて困る奴なんていねぇだろ?


「なぁ王子様さ、何も俺達に隠してないよな?」
「勿論、隠し事は一切してない」


クロ、どうなんだ?発汗とかで判断出来たよな?


「王子は嘘を付いてはおらん」


かぁ振り出しか……じゃなんだ?


「王子様に心当りは?討伐されたら困る奴とかさ」
「そう言われてもね。この流れなら普通は王家の転覆を企む輩とかなんだけど――。この前君が倒しちゃったしね」


そうだったな……。
じゃ後は……船で外洋に出られて困る?
なんだ?それ……別に侵略しかける訳じゃ……。
はぁ?
侵略?


「なぁ王子様よ、他国に狙われているとかは無いのか?」
「君も、言葉を丁寧にしてみたり、乱暴にしてみたり忙しいね――。あぁそうそう、他国の侵略ね……まず陸地で繋がっている国が2つあるけど西の最西端にある、ブリッシュ王国はうちとは100年前以上前からの同盟国で、北北東にあるガルラード帝国は友好関係は無いけど――あの国ここ30年位ずっと災害続きでね、スタンピードとか洪水、冷夏の影響で飢饉とか……そんな理由で一応、軍事国家だけど、そんな侵略する力は無いと思うよ。」


「……………………」


「ちなみに、海を越えると南に海洋国家エジンバラがあるけど……。うちが船を購入して、造船の技術も購入した向こうにしてみればお得意様だよ?まず無いね。他にどんな国があるかは――外洋探索しないと僕も分らないね」


なんだ?それじゃ敵対国がゼロじゃねぇか。
じゃなんで、こんな手紙と届くんだ?


アルテッザの行方も、犯人の手掛かりも完全に手詰まりになった瞬間だった。





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