竜神の加護を持つ少年

石の森は近所です

38.消えたアルテッザ

「それでは予定通り、と言う事で本当にいいのかい?」
「はい、クロとも話しましたし今回のオクトパス討伐の場所等を考えましても、僕一人の方が良いと判断しました」


王城へ戻って早々アルテッザを迎賓館に運び寝かせ、
他の娘達もアルテッザの看病を理由に置いてきた。


オクトパスの生息している場所が、陸上ならまだしも今回は海上だ。
流石に娘達が海中に沈んだら、俺にもクロにも恐らく助ける事は出来ない。
俺なら攻撃を食らっても、死なないし海に投げ出されても――。
気を失う事はまず無いだろう。


クロの尻尾並みの攻撃が来ない限りは……。うん大丈夫!


竜神の攻撃に対抗出来るのは今回に限っては、ポントスとかいう神だけだ。


今朝、Aランクの竜を3体、一人で倒して俺のレベルも上がってるはずだ。
きっとやれる!


「僕としては、コータ殿に加勢して上げたいんだけど、父の病状を考えるとね……」


流石に王が病床にいる今、その継承者の王子に万一があっては国の存亡に関わる。
まぁこれは別にいい。
王子の勇者候補の力を、俺は知らないから、足手纏いになられたら困る。


「僕が王家から受けた依頼ですから、僕が責任を持って討伐するのが筋でしょ?」
「そう言って貰えると、こっちも助かるよ」
「それで……明後日の段取りを伺ってもいいですか?」
「作戦だね?こちらから用意出来るのは小型漁船1隻だけ。本当は普通の帆船を用意したかったんだけどね、お恥ずかしい話、先のオクトパス襲撃で新鋭船のテストを兼ねていたんで、船大工が数人犠牲になってね」


他の街から大工を集めている最中で、現行の船大工だけだと3月は掛かるらしかった。


「そういう事情なら仕方ないですよ。こちらはある物だけでやるしか無いんですから」
「それでオクトパスの出没ポイントはいつも決っているんで、今回も同じ場所だと仮定して話すね。王都から南西にあるカロエという貿易をする為に新たに建設された街があるんだけど……。そこの港から船に乗ってもらって南に進むと通常の帆船で2時間、今回は小船だから3、4時間は掛かると思うけど……そこに岩礁がまばらに集まっている場所があるんだが、そこが出没ポイントになる」
「そこの岩礁を避けて遠回りして行くとかは、考えなかったの?」


「当然考えたさ、最初にカロエを造る前から色々調査したんだけど、海が東と南にあるのに東は断崖絶壁の岩場に囲まれていて港を作るのに問題があって頓挫して――。南は元々オルタナの街があるから当初、第一候補に挙がっていたんだけれども、いざ海上の海路を調べると……湾から出たら、さんご礁で周りが囲まれててとても船を通せる場所が無かったんだ」


それで、他の場所も調べた結果、外洋に出られる船を出せる最低深度が確保出来るのが今のカロエの港だけだったと……。
流石に、この時代に埋め立てとかそんな技術は無いから――その一つの道だけになるのも頷ける。


「カロエからの航路も、岩礁だらけで通る場所が決っているんだけどね」


流石に王子も苦笑いだ。
気持もわかる。
遠洋貿易をしようと思ったら周りが岩だらけで、唯一船を通せる場所が1つだけでは……まさに針の穴を通すって言葉がぴったりだ。
でも、これは外からの侵略に対して絶対の防御壁にもなる。
こっちが船を出せないなら、向こうも出せない筈だしね!


「それじゃ、その岩礁に囲まれた唯一の航路でオクトパスを倒せば依頼完了ですね。そのオクトパスは1匹だけですか?」


あ……俺、変な事聞いちゃった?これフラグに成らないよね?


「うーん、流石に何隻もの船で外洋に出た訳じゃないから分らないけど……襲われた時は1匹だけだったと――。かろうじて生還した船員からの聞き取りでは報告されているね」


ならいけるかな?岩礁を足場に出来れば最高なんだけど……。


「それでその小型の漁船は誰が操船するんです?」
「コータ殿には申し訳ないが、外洋のポイントまでは漁師が送ってくれるけど現場についたら、漁師は小船で戻る事になる」


討伐にまでは、付きあい切れないと漁師に断られたそうだ……当然だよね。
下手に攻撃食らったら、死ぬのは確定だもん。


「一応、漁師が退避する時には錨を下ろしていくそうだから、そのまま流される事は無いよ。ただ……船が攻撃で沈む可能性が濃厚だけど」


やっぱり岩礁を飛び回って。そんな感じの戦い方が良いかな。


「帰りは、空から監視してるクロが迎えに来てくれるって事でいいのかな?」
「うむ、我とて鬼では無い!泳いで帰って来いなどとは言わぬわ!」


いや、クロさんだからこそでしょ?
この竜神さん、スパルタンじゃん!
朝のだって、絶対MPKだったし……。


いやぁ、俺ってネチネチ覚えちゃってる様な、しつこい性格だったなんて今気づいたよ!
出立は、明後日の早朝に決った。
え?南西の町カロエまでの道中は?
そんなのクロに乗って、一っ飛びに決ってるでしょ!
どうせ娘達は、アルテッザの看病で迎賓館に逗留だし。
俺、一人だったら馬車なんて使わないよ?
出し入れとか、フロストの餌とか俺が自分でやらないといけないじゃん!


俺とクロは、王子との会話を終え。
タマちゃんを連れて迎賓館に帰ってきていた。
帰ってみると、アルテッザ以外のメンバーで晩御飯の最中だった。
ってかさ……普通待ってるよね?
俺だけなら、納得はしないまでもいいとして。
タマちゃんだっているんだし……。


「にゃんかみんにゃでおいしいものくってるにゃ!」
「あーおかえりタマ!おねぇちゃんは会いたかっただに!」


会いたかったのに、自分の食欲優先ですか!
これ獣人の本能なの?


「あ……おかえりなさい……」


ちょ……露骨に目逸らす位後ろめたいなら待ってればいいじゃん!イアン。


「お腹空いたんで、先に食べていましたよ」


何、口に油べったり付けちゃって。
ぺろりと舐め取っている時に見える犬歯が怖い。
あれに噛まれたら痛そう……俺、無敵だったわ。


「アルテッザは……まだ目が覚めない?」
「さっき、少しだけ目を覚ましただに!でも、すぐまた寝ちゃっただに!」


じゃ食事は食べてないのか……起して食べさせた方がいいのかな?
軽く起して目覚めたら聞いてみよ……。
熟睡していたら、そのまま寝かせて置けばいいか……。


アルテッザの寝室に向かった。
寝室に入ると窓が開いていて――ベッドに寝ている筈のアルテッザは居なかった。
あれ?トイレにでも行ったのかな?
近くのトイレに様子を見に行くが……誰も居ない。
俺は、流石に慌てて、迎賓館中を探し回るが何処にも居なかった。
食堂に行って、皆にも手伝ってもらったが――やはりアルテッザは見つからなかった。










――――ここは街の寂れた酒場――――


3人の汚れた旅装に身を包んだ男達が高笑いを上げながら祝杯を挙げていた。
「いやぁ、今回の依頼を最初聞いた時は死んだな……と思ったんだが。行ってみれば、呆気なかったな」
「あぁ、まったくだ。依頼では誰でもいいって話だったからな」
「人の気配がしない窓から侵入したら、まさかお目当てが寝ているんだからな!」


こんな仕事で金貨100枚とは……。


「これだから「「この商売は止められねぇ!!!」」」


そう言って再度ジョッキをぶつけ合う男達であった。






――――ここは某国大使館――――


古竜一行が滞在しているって言うから、高額報酬を支払ったのに……。
古竜も、コータとかいう若造も王城にいたとは……。
だが、古竜なんてもの本当にいるのか?
本当に居れば、我が国家も消滅の危機だが――どうせピクシードラゴンを手なづけた若造を、王家が過剰評価しているだけだろう!
何せ、ピクシードラゴンを紋章にしとる位だからな。
だが、万一もありえる。打てる手は、全て打っておいて損は無い筈。


スラム街を寝床にしている、裏で人身売買や誘拐を受け持つ組織を高額で雇ったが……ちと払い過ぎたな。
ただ寝ているだけの娘を浚うなど、何とも楽な仕事じゃないか!
だが、これで古竜一行は依頼を断ってくるだろう。
万一にもオクトパスを討伐されたら、今までの苦労が水の泡だ。
この寝たきりの娘は、人質として国に連れ帰ればよかろう。
見目は悪く無さそうだし……帰国後の楽しみが出来たな。


がぁはは!と高笑いをあげながら大使館の自室でワインを傾けるのであった。

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