竜神の加護を持つ少年

石の森は近所です

25.跡形も無い村

朝の美青年の馬車が野営場所を発ってからおおよそ1時間位は様子見で出発を遅らせた。


「そろそろ良かろう?朝の馬車が来た道からも人の気配は感じられぬぞ!」


 クロの気配察知に引っかからないならもう出発しても平気かな!?


「じゃ、そろそろ出発するからみんな一度馬車から降りて!」


 馬車に乗って今かいまかと待っていた女性陣がぞろぞろと降りてくる。
みんな降りた所で虚空魔法を発動させる。
さすがに昨日、成功しているだけあって一度で成功した。


クロが草原で障害物の少ない所まで移動して中型サイズに変化する。


「さぁ!いいぞ!」


クロの尻尾が階段の用になだらかな段差になっていてどうやら尻尾から乗り込めって事らしい……。


 俺達が乗り込むと最後にフロストがのそのそ乗り気が無さそうにしながら上ってきた。
やっぱり竜神様の背に乗るのに抵抗があるみたいだ。


足手まといにならないようにさっさと乗って!


と考えたらクロが頭を振り回してきて落とされた。
げふんげふん。


「おー痛てぇ……クロ、何だか最近冷たくない?頭ぶつけて死んだらどうすんだよ!」
「我の加護があるコータがあの程度で死ぬ訳がないじゃろう?」


 えっ?そうなの?
普通に痛いのだけど……。
加護の効果消失しているんじゃ?
多分、そんな事考えているとジロリって睨まれるんだよな。いつもなら!
あ、スルーしやがった。
クロの背中の上で、そんなどうでもいい事を考える。
獣人娘達に村の正確な位置なんかを聞いたりしていると――。


「今朝の馬車を追い抜いたぞ?この距離ではこちらを視認は出来ないだろうがな」


 そう説明された。
ざっと10分弱で追いついたのか。
やっぱり空の旅は便利だね!
次からも空路で移動すればラクチンだね!と言っていたら……。


「コータよ!頼るという事と、甘えを履き違えるなよ!」


キツイお言葉を頂きました。






「お兄様、急に空を見上げてどうなされました?」
「ん?ローラにはあれが見えなかったか?」
「えっ、普通の雲と青い空しか私には見えませんが……」
「竜だ――まさか平和なこの時勢に竜を見る事になるとは。嫌な予感がする」
「セバス!」
「はい、坊ちゃま」
「坊ちゃまは辞めろといつも言っているじゃないか!」
「はい、坊ちゃま……で?如何なさいましたでしょうか?」
「予定変更だ!西に向うぞ!」
「ホッホッホ、また急ですね。承知致しました、ゼブラ!予定変更です、この先を真っ直ぐ進めますよ」




昼を少し回った頃に、
オルゴナーラ山脈のあの湖から、
オワレスの街を結ぶ街道を通り過ぎた。


 「この街道から西にまっすぐ行けば村があるんだっけ?」
「そのはずです。この国の街道は基本何処にでも繋がる様に作られていて昨日泊まった野営場所を真っ直ぐ進むと、最初に左に折れる道があってそっちに行くとトーマズの街、左に折れずにさらに真っ直ぐ進むと十字交差の街道に出ます。右はオルゴナーラ山脈へ登る道で左に折れればオワレスの街です。その道なら冒険者の依頼で良く通った道なので、私詳しいですよ!」


それなら今交差していた道がその道か……。




 「その交差している道から村までどの位かかるの?」
「普通の馬車なら5時間位でしょうか?」
「みんな、後1時間もかからないで到着するよ!」


 ホロウもポチも久しぶりの村でちょっと嬉しそうだ。
もっともタマに会えるからだろうけどね!
だが道に沿って進んでも、村はどこにも見当らなかった。


 「おかしいですね、もうとっくに着いてもおかしく無い筈ですが……。
 ポチにホロウ、見落としたりしていませんよね?」
「自分の育った村の場所を、忘れる訳がないだに!」
「わたしも村からは出なかったのですが、村の位置だけは正確に覚えていますよ」
「さっき下にバオバブの木が生えていたけど、村からその木は近かった?」
「バオバブってどんな木だに?」


 えっと。どう説明すればいいんだ?


 「確か、木の上の方だけ枝が横に広がっていて根から広がっている枝までは丸坊主みないに枝が無い木だよ?!」
「その木は村の中央にあっ木だに!もう過ぎちゃっただに?」
「クロ、さっきのバオバブの木まで戻って!」
「了解した!だが何も無かったぞ?」


 どーいう事だ?いくら盗賊に燃やされても、
残っている焼け跡や家屋が一つはあってもいい筈なのに……。
少し戻るとその木はすぐに見えてきた。


「どういう事だに?何もないだに……」


そこは前から何も無かったかの様な草原になっていた……。




「取り敢えず、木の根元に降りてみよう!」


木の根元に下りてみんなで周囲を見渡すがいくら見渡しても無いものはないのだ……。


 「ポチ、本当にここで合っている?」
「あっているだに……」
「確かに、この木は村にあった木です」




 ポチもホロウもここが村があった場所だという。
どうなっている?狐につままれたようだ。
ポチもホロウも鼻をクンクンさせて周囲の残り香を探っている。


「ほう、これはしてやられたな……」


ピクシーサイズに変化していたクロが何かに気づいた様だ……。


「ここを掘ってみよ!どうやら取り壊した後で、ご丁寧に埋め直したようじゃぞ!」


 えっ?誰が?何の為に?
ポチが掘ると井戸の囲いのレンガが見えた。


「やっぱりここだに!」


 何だ?これ?何でこんな面倒な事する必要があるんだ?
クロが周囲を鶏の様に飛び回る。
なんだか可愛いのだけど、飛ぶ練習している雛みたいだ!
クロの姿が見えなくなったと思ったら、体当たりされた。
げふんげふん……。


「何すんだよ!」
「まだわからんのか?」


さすがに本気で睨まれたら……。


「ごめんなさい」
「わかればよいのだ!」


だから、ニヤニヤするの止めろって。
糞……。


「これは盗賊の仕業では無いぞ!残っている足跡が規則正しい。まるで訓練を受けた軍隊の様だぞ」


 へーそんな事まで分るのかよ?
クロとそんなやり取りをしていると、少し離れた場所で土を掘っていたポチがあっただに!
――と言って勢い良く掘り進めだした。


「何があったって?」


近づいて聞いてみると……。


「ここに村長さんのお屋敷があっただに!隠し部屋は地下だったから、きっとそこにタマが隠れているだに!」


いやいや、盗賊の襲撃があってからもう1月半は経っているでしょ。
それで生きていたらアンデットだって。


「タマ、さすがにそんな所にはもう居ないと思うんだけど……」


「でも探すだに!手紙とかあるかもだに!」


「ポチが字書けないのにタマは書けたの?」


「………………………………書けなかっただに」


一気に空気が暗くなった。


「まずはポチの言うようにみんなで手分けして掘ってみようではないか!」


 クロさん……女性には優しいんですね!このスケベがぁぁぁー!
お決まりの尻尾が飛んできた。
当然……KOされました。
辺りが暗くなった頃に、俺は気を取り戻した。
あ゛――まだ頭がジンジンする。
みんなは焚き火を囲んで紅茶を啜っていた。


「で何か分かったの?」
「それが……村長さんの家の辺りを隈なく掘り返したら、確かに地下室があったんですが……」


 落ち込んだ声でもアニメ声だと可愛いんだな!
新たな発見だ!
おっと。話、話しっと。


「空っぽだったに……」


だろうな……。
俺のステータスで生存確実なのだから、穴の中で死んでいる訳が無い!


 「で、他に分かった事は?」
「足跡が、それもかなりたくさん」
「それクロが言っていたやつ?」


 皆で合わせた様に首を振る……赤べこきたよ!これ!
クロがジロリと睨んできた……。
止めてよね!まだ頭ジンジンするんだから!


「盗賊に襲われた村って、いつもこんな風に埋める風習でもあるの?」


 みんなでそんな風習あるわけないでしょ!
ちょっと、怒気に充ちた声で言われた。
凹む。この世界の風習とか知らないんだからね!


「我が思うに……人殺しは殺した相手を埋めるよな?それは何故じゃ?」


 我ならブレスで消し炭すら残さんが……。
それ怖いから!
あれ?そういえば、盗賊の死体どこやった!?
塵か……?


「それは……当然証拠隠滅でしょ!よくニュースでやっていたじゃん!」
「これも同じだと我は思うぞ」


え?だって村だよ?村全体だよ?


 「余程大人数で行なったのだろうのぉ。この大勢の足跡で辻褄が合う。そしてそんな真似が出来るのは?」
「え、そりゃ……当然、人を動かす金と力のあるヤツ?」
「正解じゃな!」


なんだか伯爵かよ!名前なんだっけ?


「じゃぁオワルスター伯爵様が、これを指示したとクロ様は思われるのですね?」


きつく唇を結んでいるが犬歯だけは隠せてないっぽい。


 そーだ……終わりの星伯爵だ!
まさに名前負けして無くて良かったね!
ペテルギウスっていつ爆発するんだろ?
あ、この世界には無いのか。


「じゃ伯爵様の所にタマも居るって事だに?」


 ポチさんや、そんな悪党に様付けるなんてもったいない!
俺にも様付けてよ!
嘘です……。
鳥肌立つからしなくてもいいです。


「タマちゃんも生贄とか?」


 あっ……失言しちゃったみたいな顔して下向かないで、アルテッザ。
アルテッザも俺と、お仲間だね!
あれ?なんでアルテッザにはクロ尻尾無いんだよ!
贔屓だ!
差別だ!


「やかましいわ!」


え?何って顔してみんなでクロを凝視する。


「娘達の事では無いわ!騒がせてすまんな」


 あれ?優しい……。
やべ……また睨まれた。
口にチャックしないと。


 のそのそと俺の真後ろにフロストがやって来た……。
まさか……。
貴女もなんですか?
近づかれただけで気のせいか寒くなってきたんですが!
冷気出していませんよね?
氷の美女?
俺には竜の顔の良し悪し何て分りませんけど――。
ヒッ、冷たい息掛かっているから!
ひとまず話し進めよ……。


「じゃぁオワレスの街だっけ?そこに乗り込む?」
「駄目ですよ!お母さんが居るんですから!」


そう言えば、イアンのお母さんってオワレスに住んでいるんだっけ?


「じゃ、こっそりクロに頼んで様子を見てきてもらう?隙があれば、救出の方向で」
「それなら……良いですよ?ただし街を破壊しないで下さいね!」


じゃ決まりね。
クロ、オワレスの街近くまで乗せて行って。


「仕方ない、急用だしの……」
「じき夜だけど宵闇に隠れた方がやり易いでしょ?」
「それは我が黒いからとか言う、コータの馬鹿げた駄洒落とか言う奴では無いだろうな?」


すげークロ、すっかり現代日本に染まっているな。


「コータはその馬鹿げた思考を改めた方がよいぞ!後で自分の首をしめるだけじゃからのぉ」
「ほーい!」


 取り敢えず軽く答えとこう。
フロストの尻尾が、わき腹に直撃した……。
あれ?痛くない……手加減したのか?


ま、いっかぁ……。







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