初恋の子を殺させた、この異世界の国を俺は憎む!

石の森は近所です

25話、エルドラン王国の最後

オークと先輩二人を討伐した秋人達は、そのまま鎧武者達を引き連れて、
エルドラン王国へと向け馬車を走らせた。
アオイは秋人達を見送りながら、足元で転がっている山田を見下ろしていた。
「あんさんもあないな国に踊らされとった口なんやろうね」


山田を見下す視線は冷たい。だが、男の勇者が少ないと言う事はそれだけ今後の、ヤマト皇国を守る上で……正確にはアオイが子を成す上で必要になってくる。秋人はアオイの好みでは無いが、子作りするだけなら……だがアオイは頭の中からその可能性を排除する。王女であるアオイ自身の生まれにも関係するが、そんな不道徳な事を心では納得出来ないのである。


それに環との関係を考えれば、あの二人にはこのままこの国に残って貰った方がいい。
そう考え、この山田の使い道を考えていたのだが――。
そこへ妙な一行がやって来た。




「あちゃーもう終わっちゃってるぜ?」
「だから、急ぎましょうと言ったじゃないですか!」
「お前さん達、本当に仲が悪いんだな!あの制服図鑑のせいなのか?」
「わらわはいい加減、腹が減ったぞ」


アオイと山田に気づいた岬が、声を掛ける。


「あのぉ……」
「なんでっしゃろ」
「そこに倒れている人、私と同じ学校の人だと思うんですが……」


アオイは訝しげに岬を見るが――どう見ても岬は日本人の外見をしていない。それとも日本には金髪にエメラルドブルーの瞳の女性もいるのか?
アオイが首を傾げていると、岬と日本人と思われる男の話し声が聞こえてきた。
「そこに転がってる日本人は秋人じゃないんだろ?」
「ええ。秋人君では無いですし――多分、先輩だと思いますよ」
「もしかして秋人って奴はもう死んだとか?」
「そんな筈は……」
「あんさん方、秋人はんを知っておるんどすか?」
「秋人君の同級生なんです!秋人君を知っているんですか?」


流石にアオイもこの二人が日本人だと認識出来た。何せ秋人を知っているのだから……。


「秋人はんなら、環はんと一緒にエルドランの王城へ他の生徒さんを助けに向いはったよ」
「有難う御座います」


そう言って岬達は馬車に乗り、秋人達を追ってエルドランの方向へ走り去っていった。


「なんや、まだ無事やった勇者さんがおるんやないの……」


アオイの視線は正人の方を見つめていた。もしかして正人がタイプなのか?


「さっきの黒髪に青の瞳の綺麗な人誰だったんでしょうね?」
「さぁ、先輩だっけ?倒れてた人。あの人を保護していた様だったから悪い人じゃないんじゃないかな?」
「まだ先へ行くのか?あたしはエルドランには行った事がねーんだぞ!」
「おい、いい加減に飯にしないのか?」


若干1名だけ3人とは別の事しか頭にないのであったが……。
岬達の馬は確実に秋人達の後を走っていったのである。
















「アヴューレ様、申し訳ありません。勇者2名とオーク32匹全て、ヤマト国境で展開していた、ヤマトの王女とみられる一行により全滅致しました」


目の前で跪いているオドリーの報告を苛立たしげに見下ろしていたアヴューレ王女は、この先の展望が予想できずに、頭を抱えていた。


「まさかあれだけの戦力を集めて、半日も持たず全滅するとは……」
「何処にあの様な力があるのか……私奴も自分の目を疑って御座います」
「それでオドリー、そなたはこれからどうしたら良いと考えておるのじゃ?」
「はっ、残る手段は――あの雌豚達を使い防衛するしか手は無いと……」
「あんなオークの苗床共が役に立つと考えるのですか?」
「はっ、あれでも勇者候補で御座いますれば……」
「手が無いならば、致し方ないでしょうね」
「では、早速隷属の腕輪を残っている苗床へ取り付けさせましょう」


こうして――ほとんど瀕死の状態の女子生徒達の腕に隷属の腕輪を取り付けさせたのである。








「そろそろ見えてきたかな?」
「あの岡の向こうがエルドラン王都で御座います」


秋人達に付き添っている部隊には、ミカゲもおり、馬車の御車席から対面に移動し秋人達へと説明をしていた。
尚、馬車を操っているのは物々しい格好の鎧武者であった。


「まさか。オーク達と先輩達があんなに弱かったなんて思わなかったな」
「それは秋人様と環様がそれだけお強く成られたからで御座います」
「ダンジョンでの、特訓の成果があったと言うものね!」


これから最終決戦だと言うのに……暢気な事である。


それから間もなく、エルドラン王都へと到着したが――秋人達を待ち受けて居たかの様に厳重な警戒が敷かれていた。


市壁の上には大勢の弓兵が待機しており、それぞれ弓を構えていた。


「これより先は、我がエルドラン王都である。如何なる狼藉も許さず、何人も通しはしない!」


門の上から指揮官と思われる男が伝えてくるが……。


「あいつら自分達がやってきた事分ってるんだよな?」
「まったくだわね。やるだけやって、やられる側になったら狼藉?なにそれ?おいしいの?そんな感じだわね」


やる側ならやられる覚悟もしとけ!といった所だろうか。


秋人も環も馬車から降りて、それぞれ自分にハイガードの結界を纏わり付けている。いくら勇者でも矢がまともに当れば当然――怪我をするのである。


「じゃ、さっさと王城を落として生徒達を助けましょうか!」
「だな!」
「クウゥーン!」


アルドバーン王国へオークが攻撃を仕掛けた様に、秋人達が市壁の上にいる兵達へそれぞれ魔法攻撃を放った。
『インフェルノ』『ラーヴァフォール』二人の得意魔法である。
当然、市壁の上にいた兵達は一斉に燃え上がり死んでいく。
市壁の上は真っ赤に燃え上がり、これが夜ならきっと綺麗だっただろう。
真っ赤に燃えた人が、熱さから逃げようと市壁から飛び落ちて死んでいく。


「こりゃ思った以上に悲惨な光景だな」
「そ、そうね……」


3週間前まで普通の学生だった二人には、まさに地獄の光景であった。
自分達が放った魔法なのに……。
他人事か!


その威力は、市壁だけに留まらず……鉄で出来た門すら溶かしていく。
流石に、溶けて赤く熱せられている門から人が飛び出してくる事は無い。


市壁の魔法攻撃を食らっていない兵達も黙って見ていた訳では無い。
それぞれが持つ弓を一斉に秋人と環へと放つのだが――結界に守られている二人の手前で加速の付いた矢は止まり、ことごとくが地面へ落ちていく。
打つ手が無い弓兵は秋人達から魔法を打たれる前に、散り散りになって逃げていった。


秋人達は、しばらくその様子を眺めていたが、そろそろ潮時とばかりに――
『アイスストリーム』『ブリザード』今度は氷魔法で熱せられた市壁と門を一気に冷やした。
すると――『どばぁぁぁぁぁーーーん』
大音響の爆発音と共に水蒸気爆発が起こった。
これは秋人が、以前読んでいたネット小説に書いてあった魔法の使い方なのだが――。
見事に目論み通りの結果になる。
吹き飛んだ市壁、門の周囲にはもはや瓦礫しか残っていない。
その瓦礫の中を秋人達は進んでいった。








「アヴューレ王女、敵は既に市壁と門を破壊、市内へと入り込まれました」
「いったい、兵達は何をやっているのです!どんな手を使っても構いません。進軍を阻止するのです」
「それが――軍では無いのです」


アヴューレはヤマト皇国軍による進軍だと思い込んでいた為に起きた誤解なのだが、一瞬この伝令は何を言っている?と頭を傾げたのだが。
続いたオドリーの言葉で唇を噛んだ。


「アヴューレ様、敵は2名のみで御座います。その2名は我が国が召還した勇者のアキトという名の者と城から逃げ出した五十鈴殿であると視認致しました」


何故?我が国が召還した勇者が我が国に歯向かうのだ?アヴューレは混乱していた。隷属の腕輪を全員に付けさせたのでは無いのか?と――。だが、秋人は初日に逃げ出した勇者で、環も隷属の腕輪を付ける価値の無い苗床の印象しか残っていなかったので……なぜその者達がわらわに歯向かう?と混乱したのであった。


「アキトとやらに隷属の腕輪が付いていないのはわかるが、五十鈴に付いてないのは何故だ?」
「はっ、当初の計画ではオークに妊娠させられた生徒のみを苗床にする計画でしたので……」
「オドリーの失態ですね」
「……………………」


オドリーも流石に、アヴューレに背く意見を言える筈も無く、押し黙ってしまった。
全てはアヴューレの指示で行ったものなのだが……。


アヴューレの元を退出し急ぎ、地下牢へと急ぐ。何とかしてあの二人を止めなければ……。
先程、隷属の腕輪を付けまだ妊娠はしているが、生きている生徒8人を牢から出して秋人達に対しての人質にしようと考えたのである。


牢屋の前まで来ると、もはや同じ人だったのかさえ不思議に思える女達が居た。髪は乱れ、脂ぎり、体のあちこちには黒い痣が付き。顔もオークに殴られたのだろうか?もはや連れられて来た時の面影すら残しては居なかった。
だが、腕には確実に隷属の腕輪を装着してある。
オドリーは牢屋の鍵を外し、女達へと命令した。


「何者かが、お前達を殺そうとやって来た!それを阻止するのだ!」

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