初恋の子を殺させた、この異世界の国を俺は憎む!

石の森は近所です

9話、二人の行動3

  冒険者ギルドの受付に辿り着いた岬達、一行はというと……。


 「おい!この狼の依頼を達成したんで、確認してくれ!」


エレンが受付の若い女性に依頼達成を報告していた。


エレンの後ろに岬。その後ろにマサトともう一人の青年が立っている。


 「狼の巣、の討伐依頼ですね。確認させて頂きます」


 エレンが魔石をカウンターに置き――。
それを何か紙を見ながらブツブツ言いながら確認している。たんに色見本と大きさの確認なのだが、この受付の女性はまだ受け付けに付いて間もなく、慣れて居ないだけであった。


 「確かに狼の巣にいる狼の魔石ですね。この魔石は買い取りで宜しいでしょうか?」
「あぁ、それで頼む」
 「畏まりました、買い取り価格は1個銀貨2枚と成っておりますので、5個で銀貨10枚、討伐達成で銀貨5枚。合わせて銀貨15枚となります」


 そう言って、受付嬢はカウンターの上に銀色の硬貨を置いた。


エレンはそれを無造作に掴み取り2枚を岬に渡した。


「細かくしたら入門料を貰うからね」


岬もそれを受け取り、首肯する。


 「さぁ、終わったみたいだしいつもの店でいいかな?」


金色の髪を肩まで伸ばした、背の高い翡翠の瞳の青年が尋ねる。


 「あたしはそれでいいよ、あそこのビールは美味いからね!」
「俺もそこでいい。酒は飲めないがあそこのチキンが美味いからな」


エレンとマサトも賛成していた様なので岬も同意の首肯をした。


 ギルドから歩いて5分位の大通りから少し入った所にその店はあった。
店に入り、壁に書かれているメニューを見るエレン達。
岬も見てみるが――さっぱり分らなかった。


 「じゃ、あたしはビールとダックの串焼きとサラダを」
「俺は、チキンのタレ焼きとレモンのジュースを」
「僕はいつものでいいや」


 みんなの視線が岬に集まる――。


「あんたは勇者と同じ物にしときな。味覚が似ている様だしね」


きっとゲテモノ鍋を食べ無かったマサキと同類に思われたのだろう。


 「じゃ、僕の紹介がまだだったね。」


金髪の長身の男が笑顔でそう言う。


 「僕は、アルドバーン王国の第一王子でフォルスター・アルドバーンだ。皆は気楽にバーンと呼んでいるからそう呼んで……」


 途中で岬が喋れない事に気づいた王子はすまない。
――と、申し訳無さそうに謝った。


岬は自分の今、居る国がアルドバーンなのだと記憶した。


 料理が運ばれてきて異世界で2度目の食事を味わう。
――ゲテモノ鍋を料理に入れればだが。


 マサトの食べ方を見様見真似で参考にしてチキンのタレ焼きを食べた。
美味しい……この世界にも照り焼きがあるのね。
そんな感想を持ちつつも、まともな料理に思わず頬張った。


「口に合ったようで何よりだよ――」


エレンが横で笑いながら語りかけて来る。


 「エレンがあの料理を無理に食わせたからじゃないのか?」
「失敬だね、食わなきゃ死ぬよ!って言っただけだよ」
「いや、それ脅しているから!」


マサトとエレンの会話を楽しみながら岬は食事を進めていると……。


 「それでこれからどうするんだい?」
 エレンに声をかけられた。
どうすると言われても……岬にはまったく当てが無い。
岬に出来るのはただ、首を横に振る事だけだった。
もどかしい……そんな感情が瞳に薄っすらと涙を作り出す。


「おいおい、エレン。困っているじゃないか?」


バーンが気を使ってくれる。


 「行く当てが無いならしばらく王城にでも泊まったら?」
「マサキ、簡単に言うが……マサキが泊まれるのは勇者だからだ」
一般の民を泊める事は出来ない。と言われた。


「でもその子、多分俺と同じだぜ?」


皆、一様に岬の方を驚いて見る。
岬も何で分ったのか?と自分でも驚いていたが……。


 「その子の髪は金髪で、目の色もエメラルドブルーだけど――輪郭とか鼻筋とか、今着ているの制服だろ?多分。うん、間違いない。日本人だ」


 岬の夏服は上がブラウス、下はグレーのチェックのスカートだ。
初めて見る人は日本人でも普通は気づかない。
何故?と思っていると……。


 「なんで分った!みたいな顔しているな。俺の趣味は全国高校生の制服図鑑で好みの制服を眺める事とアニメとラノベだからだ!」


 うわぁーと、一瞬引いた岬であったが――。
ばれたら仕方ない。素直に首肯した。
中高一貫校でこの制服を取り入れて少し前に話題になった。
だがこの制服を着るには、中学から入らなければいけない。
制服目当ての為だけに高校からは入れないのだ。


 「やっぱりな……俺の目に狂いは無い!」


他の二人は制服よりも日本人という事に驚いていた。


「うちの国はマサキの後は勇者召還を行っていないよ?」


 え?勇者って国で召還するものなの?
じゃぁ、私達がこの世界に来たのは……。
この国以外の国によるもの――。


難しい顔をして考え込んだ岬を他所にバーンの瞳は――。
計算高く岬を見つめていた。












 「オドリー、18名の女子生徒は勇者でも最弱の能力しか無いと申すか?」
 「はい、アヴューレ様。男子の方は2名とも力のある勇者ですが……。女子に関しては今回、一体のオークも倒しては居ないと聞き取りで判りました」


 ここはエルドラン王国の王城の一室、第一王女へ今回の勇者の報告を――。
諜報部のボスであり今回の主犯格であるオドリーがしている所である。


 「その様な事ある訳が無かろう!」
「はい、外で私共が逃げ出さない様に監視しておりましたので……」
 「逃げ出した者は居なかった。――ですが、私共も気づかない場所に隠れていたならば……すでに逃亡された恐れが御座います」
 「オドリー、女子への再度の聞き取りとあの近辺の村、街に伝令を出せ――
不審な者が来なかったか、虱潰しに探せ!
 ――――これだけ大量の勇者召還が周辺各国にばれたら……」


 この国は終わるぞ――と。


もう岬が隣の国の王子と関わった時点で手遅れではあるのだが……。


 青い顔をしたオドリーが取り急ぎ配下の者へと指示を出し。
周辺の村々から情報を取り寄せた。
その結果、伝令から齎された事実は王女を激怒させた。


「使える勇者をドルワージュの村周辺へ回せ!」


 その王女の指示で軍が動き出した……。
















 一方で秋人はと言えば――。
川から距離を取り、北東へ歩いていたのだが……。
水場の近くを街道が走っていない為、荒れた荒野を左手に――。
眺めながら進んでいた。


「これなら道を探してそこから東へ行った方が早かったかもな」
「クウゥーン」


 正直に言おう――。


道に迷っていると。


 ワニから慌てて逃げ出した為に、太陽が沈み出すまで――。
方角が分らなくなっていたのであった。
これならあの兵士に付いて行った方が良かったかな……。
そんな事も考えるが、それでは簡単に捕まっていただろう。
 捕まえられる者なら。
見渡すが、左は荒野。右手には川から水分を吸収した林。
しまいに動物すら出くわさず――。
秋人は退屈していた。


 「なぁ、シルバーはレベル上げたらどれ位強くなるんだろうな」
「クウゥーン?」


 以前読んだ、竜神の……で主人公のコータがクロより行われていた、
パワーレベリングを思い出して――。
ひょっとしたら、クロ式レベリングでシルバーも強く出来るのでは?
そんな事を考えていた。
試そうにも、魔獣はおろか、動物1匹すら見かけないのではあるが――。


 取り敢えず、この国の首謀者を倒す前に戦力は欲しい。
秋人はクロ式レベリングをシルバーに行う事に決めた。
そうと決めれば、魔獣の居そうな場所へ――。
方向を今まで進んでいた方角から左へ転換した。


 夕方まで歩いて、漸く前方に森が見えてくるが――。
陽が沈むのに森に入る馬鹿はおるまい。
秋人はお腹が減って居る中で無理をせず――。
森の手前で野宿の準備を始めた。
燃やす木や枯葉はすぐ近くにある。


 「ファイア」
すっかり練習して使いこなせる様になった炎の魔法を使い、火を点ける。


 「ウオーター」
目の前に浮かんでいる水玉から両手で水を掬い口に含む。


 「シルバーも飲むだろ?」
「クウゥーン!」
同じように水を出して飲ませてあげる。


「腹へったなぁ――」


 朝にパンをシルバーと分け合って食べてから何も口に入れてなかったのだ。
腹が空くのも当然である。


森の中から何かが動いてこちらに来る気配を感じたシルバーが身構える。


「ん、魔獣か?」


警戒している為、シルバーからの返事は来ない。


 次の瞬間、ゴブリンとオークの混成が15匹森の中から湧き出してきた。
秋人はシルバーが唸り出した時に既に氷魔法の発動態勢に入っていた――。


「アイスランス」


 秋人の肩の上には5本の槍が浮かぶ。
方向を定め、まずはオークの3体に指を向けると『ヒュッ』と言う、
風きり音と共に飛んで行きその3体の胴体に深く突き刺さった。
 秋人も無駄に道中歩いていた訳では無い。
出来るだけ汚れない様に――。
遠距離攻撃も覚えていた。
ゴブリン5体が近づいてきた……。


「ブリザード」


 秋人の周りに白い靄が沸いたと思った瞬間には――。
目の前に近づいてきたゴブリン5体を包み込む様にそれが降りかかった。
死んでは居ないが一瞬で体の筋肉の表面を固められ身動きが出来ない様だ。


「シルバー、行け!」
「クウオォォーン!」


 シルバーが秋人の肩から飛び降りた――。
そのまま身動き出来ないゴブリン目掛け駆けていき首に噛み付いた。
噛み付かれたゴブリンは、首から大量の緑色をした血液を辺りに振りまく。
シルバーは噛み付き血が出た瞬間に次の獲物へと飛び掛った。
一方で、後方で待機していたオーク5体が形勢が悪い事に苛立ち――。
棍棒を振り回しながら秋人目掛けて走り出す。
秋人はシルバーの戦いを横目で見ながら、


「アイスランス」


本日2度目の氷の槍を作り出すが、今度は10本だ!
駆け寄られる前に一気に倒す作戦なのだろう。


10mまで近づかれた時には秋人の指先はオークへ向けられ……。
『ヒュッ』先程と同じ様に……。
オークへと飛んで行った。


『ブモォォォー』


 氷の矢が突き刺さったオークが悲鳴を上げる。
その声は暗くなり始めた森へと響き渡る。
 その悲鳴を聞いた最後に残った普通のゴブリンより一回り大きなゴブリン達は、一目散に森の奥深くに走って逃げていった。


 秋人がシルバーを見ると、綺麗な銀色と白の毛を緑色に染め――。
まるでどうだ!とばかりに胸を張り戻ってきた――。


 どれだけ胸を張ってもまだ両手に乗れる大きさでしか無いのだが……。

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