初恋の子を殺させた、この異世界の国を俺は憎む!

石の森は近所です

6話、逃走3

 「ようこそ、ドルワージュの村へ」


 秋人を村へ入れてくれたガーナッシュ隊長が礼儀正しく腰を折り村を指し示して言った。


 「この度は、本当に有難う御座います。お陰で野宿せずに済みます」


 さすがに知らない土地で2日目も野宿では秋人も堪えただろう。


 「まぁ困った時は、お互い様だからな」


 がはははと豪快に笑いながらガーナッシュが秋人の背中をドスドス叩く――。


 「それにしても随分大きな村なんですね、驚きました」


 多少はお世辞も混ぜたつもりだったが、返ってきた答えは予想と違った。


 「そうだろう!ここはこの国で一番の大穀倉地帯の村だ」
「さっきの門番の方にも伺いました」
 「そうか!あいつはヤザレスと言って今年から門番になったばかりでな――」


  ヤザレスは元々他の村の出だったが、5年前に村人が大勢死んだ為に、
 村の住人を補充する名目でこの村にやってきたらしい。
  当初は農民としてやってきたが、力量を買われて今年門番になった様だ。


 「所で小僧の名前をまだ聞いていなかったな」


「あっ、申遅れました。アキトと申します」
 「珍しい服を着ているがどこから来た?」
「はい、ここよりずっと東にある村からやってきました」


 ここより東には恐らく王都がある。その付近からと言えば誤魔化せる?


「王都の方に村ねぇーあんま聞いた事が無いが、俺が知らないだけか――」
「この国も意外と大きいですからね」
 「まぁそれもそうだな!」


  何とか誤魔化せた。
 じゃぁこれから家に案内するから着いて来いと言われ従った。
  大きな木造の家屋で部屋数も多そうだ。
 適当に座って、と言われ椅子に腰掛けるが、濡れたズボンが冷たい。


「あー気が利かなくて済まんな、今暖炉に火を入れるから待っていな」
 暖炉に火を入れ暖炉に備え付けの竈で鍋の用意をしてくれている。
「奥さんとか居ないんですか?」
 「あぁ、5年前に死んじまった」
「それじゃ――」
 「うむ、モンスターが村を襲った時にな……」


  何か悪い事を聞いた気がして素直に謝る。


「すみません。変な事聞いてしまって」
 「知らなかったんだ、仕方が無いさ。それより早く服を乾かしな」


  暖炉の前に余っている椅子を置いてくれたのでそこに服をかけた。
 服を脱いだら着替えが無い為に、自分のお古だと言って服を貸してくれた。


 「ところでその狐か?それはアキトの召還獣か?」
「いえ、森からずっとくっ付いて来たので仲間みたいなものです」
 「それは珍しいな、普通は森に住む魔獣は人に懐かないんだが」
「これは魔獣なんですか?獣じゃなくて……」
 「それは恐らくはシルバーウルフ、狐に見えるが狼の魔獣だな」
「それは知りませんでした」


 どうりでエキノコックスが発症しない訳だ。狐ならどうだったか知らないが。


 「そのシルバーウルフの親はどうしたんだ?」
「俺が発見した時には既に死んでいたので……」
 「なら大丈夫か……何、もし親が生きていたら取返しに来るからさ」


 魔獣総出で来られたらたまったものじゃないとガーナッシュは語ってくれた。


「親が死んでいる所で見つけてそれからずっと付いて来たんで……」
 「まぁ、懐いてるならいいが、普通はBランク相当の魔獣だからな」


  気をつけろと言われた。
 その後、ガーナッシュからこの辺の地理と、魔石買取の話しを聞いて、
  食事をご馳走になって就寝した。
  この異世界で初めてのベッドだが、昔ガーナッシュが使っていたもので、
 亡くなった奥さんの使っていたベッドを今は自分で使っていると言っていた。


「まだ形見とかあるだけいいよな……。俺にもこのハンカチがあるけど」
「クウゥーン」


  そういって広げたハンカチにはまだ岬の血が付いたままだ。
 ハンカチを広げていたらシルバーがクンクン臭いを嗅ぎだしたので仕舞った。
  流石に形見を食われたらたまらない。
 明け方近くに、物音がしたと思って秋人は目を覚ましたが直ぐに静かになったのでそのまま眠りに付く。
  だが、それが行けなかった。
 起きた時には秋人は牢屋の中に居た。
  訳が分らずに近くで椅子に座っている牢屋の番人に尋ねた。


「おい!なんで起きたらこんな所に入れられているんだ!」
「俺は何も悪い事はした記憶が無いんだけど……」
 「…………………………………………」


  なんだよ!シカトかよ!
 しばらくすると牢屋の入り口が開く音がして白髪の老人とガーナッシュが、
  一緒に入ってきた。


「なぁ、ガーナッシュさん。これはいったい――」
 「アキトと言ったな!取り敢えず悪人かどうかは、これから調べる」


  秋人の発言を途中で遮られそんな事を言われた。
 あれ?俺何かまずい事したか?
  考えて見るがわからない。
 するとガーナッシュが、


 「昨日、アキトは王都の方の村から来たと言ったな?」
「それが?」
 「残念だが、王都の向こうには村は無い」


 はぁ?普通は王都って言っても近くに村くらいあるだろうよ!


 「この国の王は絶対的に支配しないと気が済まない性格でな、この村の村壁を見ても分るように服従している村は待遇がいいが、そうでない村には――」


  王都近郊の村は過去服従しなかった為に取り壊され今は街しか無いだと。
 そんな事知るか!
  木の牢屋なんて壊せそうだけど……世話になってそれじゃ――。
 はぁ、どうするかな。
  面倒な事になったな……。






  まったくもう!どこまで歩けば街とか村とかあるのよぉ!


   ひたすら西に歩いているのだが、学校があった荒野どころか林しか見えない。
 岬も流石にお腹は空くし、歩き疲れも出てきてで困っていた。
  見渡す限り、林、林、林。
 いつ先程の狼が現れるかも分らないのに――。


   しまいには秋人の時の様な水場すら近くに無かった。
 このままじゃ。餓死しちゃうんじゃ?
 そう心配になってきた頃に目の前の林からガサガサ音が聞こえた――。
 思わず身構える岬。
 掌大の石を投げつける準備をして音の発生源が出てくるのを待つ。
  より音が大きくなっていよいよ、という所で林から女が出てきた。


「珍しいな、こんな所で同姓の冒険者?じゃ無いみたいだな」


  岬は少しだけ用心しながら様子を窺っている。


「そんな身構えなくても取って食ったりはしないよ!」


  岬は身振りだけで意思を伝えようとする。


「まさか、口が利けないのかい?」


  岬が首肯すると、何故か笑われた。


「いや、すまん、すまん、こんな所に一人でいる女が口が利けないとか――」


   どんな冗談かと思ったら本当かい!と言ってまた大笑いされた。
 ちょっと酷くない?
  私だってね、好きでこうなった訳じゃ無いんだから!


「まぁいいさ。あたしはエレンだ!一応C級の冒険者だ!」


  エレンの話ではギルドの依頼でこの辺りの狼を討伐に来ていたらしい。


「しかしなんでこんな所に、あっ。ごめん、口が利けないんだったね」


   軽く謝りながら、武器も持たずにこんな場所に入るとは無謀だな。
 そう言われたが、岬からすれば仕方が無かったのだ。
  文句なら神様に言って欲しい。
   そうだ!これなら話せるだろう?と言われ地面に棒で何やら書いているが。
 まったく読めません。
 岬にとってはこの異世界で初めて見た文字だ。
  読めなくても仕方が無い。


「これも駄目かい!あんたいったい何処の国から来たんだか?」


   エレンも困ってしまっていた。
 そこで岬のお腹が盛大に鳴った。
  目が点になるエレン。


「あひゃひゃひゃ、どれだけ腹減ってんだよ!」


   大爆笑された。
 そんな大笑いしなくてもいいじゃない!このガサツ女!
 そう、エレンは女なのに男の様な話し方、豪快な笑い方といい……。
  まさに、一言で説明すれば、ガサツなのであった。


「ほら、食べな!」


   今、岬の目の前には大きな鍋と大きな木のお椀が置いてあった。
 何これ!食べていいのは分ったけど、中身が……あれ?何の足?
 なんか、虫がいっぱい入っているし、あの足、私の記憶が確かなら、蛙?
   ひえぇぇぇぇーさすがに、無理です。
 しばらくお椀とにらめっこしていたら、エレンが――。


「なんだい?まさか食わず嫌いかい?」


 そう言って椀を岬の手から奪い取って自らガツガツ食べだした。


「ほら?食えるだろう?」


   いやいや、食えるとか食えないとか、そんな問題!?
 まだ渋っていると、怒り出した。
「どこのお嬢様か知らねぇけどよ、食わないと死ぬんだぞ!」
  死ぬ?
 また死ぬ?
  もう死にたくない
 もう一度秋人君に会う為に
  目の前に再度置かれたお椀を掴み、岬は食べだした。
 味は……目を瞑っていれば食べられない事も無い。


「そうだ!食わないと死ぬからな!ちゃんと食え!」


  そう言って鍋にスプーンを突っ込んで豪快に食べだした。



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