天才科学者の異世界生活~だからヒモだっていったじゃん!~

石の森は近所です

第17話、処刑なんて許さない!

最後の晩餐の後、俺は眠ることが出来なかった。
明日、処刑される事が決っていてそれでも眠れる神経なんてある訳が無い。
俺は、暗い部屋の中で壁のシミの数を数えていた。
ここに入れられた奴等って、どんな心境でこのシミを見ていたんだろう。
本当にどうでもいい事だが、何もしないよりはずっと良かった。
科学技術とは言っても、この世界の様に魔法が使える世界で何が出来る?


風魔法で飛行船?
魔物の皮を使って馬車のサスペンション?
火魔法の魔石を使えば蒸気機関だって作れた。
船も作れるな――。


他国が召還した勇者が作った電球も銅と鉄とワイヤーとレモンを使って電池を作れば後はガラスのコップを利用して作れたな。
でもレモンの酸だけでは精々が短時間明かりを付ける事が出来るだけか……。


後はなんだ?楽に井戸を汲み上げるのも井戸に蓋をして井戸の底にホースの代用品を落として井戸の中を火魔法で温めれば、圧力で水を押し出すシステムも作れる様な気がする。


ここのガラスは透明ではないから、海のある国から砂を集めさせれば透明化の実験も出来た。
鉄を溶かせるなら、砂で型を作って簡単な機械も旋盤装置だって作れる。
薬品を使ったものはどうだろう?
流石にこの世界で何が取れるか分っていないから何とも言えないか……。
塩酸が作れれば、より高い電圧の電池も簡単に作れるんだけど。


紙は作ったこと無いから分らないな。
木を水でふやかして蒸すんだっけ?
ちょっと無理か……。


飛行機なんか風魔法の応用でいくらでも作れるだろう……。
飛行船なんて超簡単だし。


糞……あの王、何が空は竜とワイバーンと鳥類の領域だよ。


馬鹿らしい。


そんなどうでもいい事を考えていると朝になっていた様だ……。


俺の体は今、木の台に括り付けられ6人の騎士によって久しぶりの地上へ運ばれていた。
勇者の力を警戒して、魔法無効化の鎖と厳重に手足を拘束されたみたいだ。


久しぶりの地上は眩しい。
こんなに朝日が眩しく感じたのは初めてかも?


騎士達に担がれた俺の体は馬車に乗せられた。


『ガタガタ』と乗り心地の悪い馬車は城門を出て、王都の中を走っているようだ。
俺の視界には、馬車の幌しか見られない。
周囲が騒がしくなってくる。
なんだってこんな朝早くに起きて騒いでいるんだ?
何かお祭りでもあるのか?


そう思っていた時期が、俺にもありました。


まさか。


俺の処刑に大勢の都民が集まっているなど――。
思いもよらなかったのだから。


馬車が広場に到着すると――。
民衆が一気に沸きあがった。


「偽勇者なんて死んでしまえぇ~!」
「少女を殺した外道がぁ~!地獄に落ちろ!」
「俺達の納めた税をかえせ!」
「殺せ!」
「コロセ!」
「ころせ!」
「苦しめてころせ!」


何でしょうか?
こんなに恨まれる様な事は、した覚えがないのだけれど……。


ただ日頃のストレスを解消しに集まっているのは、周囲の空気から感じられた。


女達の黄色い歓声。


男共の怒号。


中には、馬車に石を投げつける者までいた。


俺、魔法が使えても結界魔法なんて持ってないから、石だけで今なら殺されそうだね。




銅鑼の音が3回鳴った。


俺の体は、木に張り付けにされたまま運ばれる。


石が投げつけられ、俺の顔にも当る。
いくらレベルを上げても、防御に特化している訳では無いから、当然血も出れば怪我もする。


「ぐっ――お前らふざけんなよ!」
「ふざけてんのは、てめぇ~だ!偽勇者!」


騎士は鎧を着ている為、怪我はしていないが……。


俺は、当った箇所が痣になっていたり、切れたりしている。
ギロチンの立っている場所まで来ると、流石に石を投げつける民衆は居なくなった。恐らく、王族や貴族が近くに居る為に、行儀よくしているのだろう。


俺は、腫れた瞼を開いて観衆を睨みつける。
身動きの取れない小僧に睨みつけられて臆する人は居ない。
むしろ、馬鹿にしたように含み笑いを漏らしている。








「では、これより勇者であるキラ殿の処刑を執り行う!」


 俺の体は、魔法の鎖で雁字搦めに縛りつけられ――うつ伏せに寝かされている。


 首は、首の形に凹んだひんやりとした木の型の上に乗せられ――。
 体の自由は利かず、目の玉だけが自由に動かせた。


 目線を上げると、その先には娯楽に植えた大衆達の罵声とニヤケ顔。


 左を向けば、貴族達が口に扇子を当て、目が笑っているのが見受けられる。


 右を見れば、王様と、俺を召還した王女が悲しそうな顔で見つめている。


 俺の首の上には、紐で落下するのを抑えられているギロチンが……。


はぁ~日本では超優秀な科学者の俺が、何でこんな目に――。


 残してきた妹の桜は元気かなぁ~。
あいつなら、俺が居なくても平気だろうけどな。


 俺が、寝かされている壇上に続く階段を、上がってくる騎士の鎧の擦れる音が聞こえる。


 『シャカン、シャカン――』


この音が静かになった時が、俺がこの世界とお別れする時だ。


そして……。


 音が消え。


 大衆の罵声も静かになる。


 騎士が、鞘から剣を抜く音だけがはっきりと聞こえた。


 『シャーン』


 静寂の中に、金属の甲高い音だけが響き渡る……。


 目の前の大衆が、息を飲み込んだのが気配だけで分った。


 騎士が息を飲み込んで、腹に力を入れ踏ん張る。


 騎士は、振り上げた剣を、ギロチンの落下を抑えていた縄に向け――。






 一気に振り下ろした。
















振り下ろされた剣は確かに縄を切った。
だが……。






















『どがーーーーーーん』












俺の頭の上を、猛烈な速度で何かが飛行していきギロチンの刃を吹き飛ばした。






















『どおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉん』








音が遅れてやってくる。








「おっせぇ~~~~~~よ!さぁくらぁ~~~!」






周囲は静まり返っている。


それはそうだろう。


騎士が振り下ろした剣は確かに縄を切った。だが、次の瞬間に何かがギロチンに当たり――200kgはあるかと思われる刃を遥か後ろへと吹き飛ばしたのだから。


刃の飛んで行った所からは、濛々と煙が立ち込め、処刑場を隠さんとばかりに舞っていた。


刃が飛んで行った逆の方向、正体不明の飛行物体が飛んできた方向には――。


得体の知れない銀色の巨大な箱が宙に浮いていて、その箱の上部には太さ30cmはあろうかと思われる筒が付いており、処刑場へ向けられていた。


昔の戦艦大和の砲が46cmだった事から、この砲が如何に強力なものかは現代の日本人なら理解できよう。


箱に付けられているスピーカーから音声が発せられる。


「その人を処刑したらあんた達全員、塵に変えるわよ!分ったらその人を釈放しなさい。抵抗すれば今度は威力をあげて王城に攻撃するわ!」


王族も、貴族も、民衆も何が起きたのか理解できずにいる。


俺は、先程発射されたレールガンが体の上を掠った時に、微かに切れた魔法の鎖を体を捩って外す。


だが、まだ両手両足の枷は付いたままだ。


しばらく双方睨みあいが続いた。


実際に睨んでいたのは桜だけだったのだが……。


王族は、空に浮かんだ巨大なコントレーラーに視線が釘付けで身動き一つ、声すらも発する事が出来ない。


他の貴族たちも同様であった。


俺は、剣を振り下ろした騎士に命令する。


「おい!早くこの拘束を解かないと、今度は王城を破壊するってさ」


この騎士も俺と同様に目の前を音速を超える鉄の塊が通過したのだ。


声も出せず、固まってしまっている。


「おい!」


何度か声を掛けやっと俺に気が付いた。


「何度も言わせるな!この手と足の枷をすぐ外せ。さもないと、お前ら全員死ぬぞ」


俺1人だけがそんな事を言っているのならば、妄言と捉えられたかもしれない。だが――宙に浮いている不思議な物体からも再度命令されたのだ……。


「何度も言わせないで!早くその人を釈放しなさい。10秒以内に外さないと王城を攻撃します」


「10」


「9」


「8」


「7」


「6」


ここで国王が、騎士へ命令した。
「何をしておる!早く枷を外せ!」
「5」


「4」
「はっ!」
「3」


「2」
「陛下!時間内には無理です!」
「1」


「0」


『どおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉん』


最大火力のレールガンは王城の中央に着弾!


中央にあった螺旋階段を粉々に吹き飛ばし巨大な穴が出来た。


「早くしなさい! 次は王城の尖塔を撃つわよ!」


「何をやっておる!お前は城を壊したいのか!」


国王陛下が苛立ち、騎士へ怒号を飛ばした。


レールガンの砲が動き尖塔に照準を向けている。


「10」


「9」
やっと俺の手の枷が外れた。
「8」


「7」


「6」


「5」


「4」


「3」
「何をモタモタやっておるのだ!」
騎士の顔色が青くなっている。
「2」
「すみません。後5秒あれば――」
「1」


「0」




『どおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉん』


今度も忠告通り、尖塔を木っ端微塵に破壊した。


「これ以上、破壊させるな!他の騎士も勇者殿の釈放に手を貸せ!」


「次は何処がいいかしら?あの白い建物なんかいいかしらね!」


桜が次に指定したのは――王宮であった。


「10」
「早くするのだ!」
「9」


「8」
「もう少しです!」
「7」


「6」


「5」


「4」


「3」
「外れましたぁ~~~!」
「2」


「1」
「おい!外したぞ~~~!」
「0」


俺は拘束が解かれたので、神足通を使って一気に空を飛びコントレーラーSAKIへと向かう。
『どおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉん』


俺の足元を音速の8倍の速さの弾頭が飛んで行った。


振り向けば――予告通りに王宮が木っ端微塵に吹き飛び。数秒後には威容を誇った王城は塵と埃にまみれ姿が見えなくなった。


「桜おせ~よ!それとお前やりすぎだ!」
「おにぃ~元気そうだね~とても死にそうだった人には見えないよ」
「どの顔を見て言ってくれているんですかねぇ~この腫れた顔を見ろよ!」
「それより、凄いねぇ~ケースも何も持たないで宙に浮いてるよ?おにぃ」
「この世界には魔法があるからな!」
「じゃぁ~もう薬は見つかったの?」
「いや、それはまだだけど……」
「1月も何をやっていた訳?」
「えっと、生きるのに精一杯でした」
「こっちは、おにぃが付けている信号を探知して、この世界に移動するのに寝ずに開発したっていうのに……」
「発信機って何の事だ?」
「あれ?言ってなかったっけ?おにぃのその腕時計――」
「そんなもん前は付いてなかったぞ」
「うん。異世界らしき場所から最近頻繁に技術者の居る場所に、変な波動を観測したんでもしや――と思って講義の前に付けといたの!」
「お前のせいか!」
「だってこの方が手っ取り早いでしょ?」


あたし偉いでしょ!と言って俺と同じショートボブの髪をかきあげる桜。
「お陰で、命拾いしたけどさ――」
「所で、薬のありそうな場所の目処は付いているの?」
「ああ。それは付いている。ダンジョン都市だ!」
「へ~ダンジョンね!面白そうじゃない!」




宙に浮いている俺達の下を――1000は軽く越える魔物が通り過ぎる。
はっ?これスタンピードって奴か!
何で今頃……。


すると――。


「お兄ちゃん、無事だったんだ?」
「エルミューラ!」
「誰?この子?」
「俺が面倒を見ている子だよ……」
「お兄ちゃんが2人居る……」
「おにぃって幼女趣味だったんだね!」
「お兄ちゃん、もう王城へは戻らなくていいの?」
「流石に此処まで破壊したら戻れないだろう!」
「じゃ~3人でダンジョンにでもいこっか?」
「エルはいいけど――あなたはいったい……」
「あたしは鷺宮 桜!おにぃをお兄ちゃんって呼ぶなら、あたしはお姉ちゃんって呼んでくれればいいわよ!」
「わかった。お姉ちゃん」
「くぅ~~~聞いた?おにぃ。おねえちゃんだって!」
「あ……うん。聞こえてるよ」
「妹が出来るっていいわね!」
「104歳年上の妹だけどな――」
「へっ?」
「さぁ~~大騒ぎになっちゃったし、そろそろ行こうか!」
「「いざダンジョン都市へ!」」
「いくのだわ!」






第1部  完



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